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※先に、小説「CYAN〜白金色の約束〜」のプロローグを読むとより楽しめます。

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その花が咲くことができるのは一晩だけ。
美しい満月の夜、雨上がりの砂漠の真ん中で、闇に映える白い花を見つけた。

ーその花を摘むことは許されないー

心の何処かでそんな声がきこえる。
でも、あまりの美しさに僕はソレを摘んでしまったのだ。
摘み取った花弁から水滴が落ちる。
まるで、涙を流しているかのように…

ーーーーーー

その日、僕はそんな夢を見た。
ここはシアンと僕が旅をしている途中に泊まったポケモンセンターの一室。
明け方、夢見心地が悪くて飛び起きるようにボールから出てしまう。
ふと横を見ると、シアンがベッドの上でまだ寝息を立てていた。
彼女を眺めながら僕は思い出す…

…むかし、人と愛し合うポケモンがいた。
前にブルーが読んでいた、遠い地方で書かれた本。
それで、僕は知ってしまったのだ。
人とポケモンが…結婚していた時代があったと。

僕の種族名はゲッコウガ。
主人からは「ケロちゃん」と呼ばれている。
主人の名前は「シアン」
シアンの両親は海洋学者で、航海の途中に死んでしまった。
その二人の形見が僕だったと、前にオーキド博士が言っていた。
だから、僕は産まれた時からずっとシアンと一緒に暮らしていた。
シアンは僕の母親のような存在の人間だ。

ケロマツだった頃の僕は四六時中シアンの腕の中にいた。
周りのもの全てが怖かったんだ。
強くなる決心をしたのは、シアンが僕のために初めて傷ついた時だった。
僕はポケモン。技を使って相手と戦える。
だから僕が彼女を守らないといけないと、その時に思った。
それからは、シアンの友達の力を借りてたくさん修行をした。
臆病な僕にも特技ができた。
僕は他のポケモンよりも速く動くことができる。
それを活かして戦えるようになった。

僕が強くなるにつれて、シアンも逞しくなっていった。
僕がゲコガシラに進化する頃には、前とは別人のように変わっていた。
その頃、シアンと僕は母と子という関係から戦いのパートナーになっていた。
シアンが指示するように動くと、相手との戦いで勝つことが増えてきた。

ある時、シアンが僕を「宝物」と言ってくれた。
産まれた時からずっと大好きだと。
強敵から僕を庇いながら言ってくれた、その優しい言葉に応えようとするうちに、僕はゲッコウガへ進化することができた。
感じたことのない膨大なエネルギーが僕の身体を駆け巡る。
それが力となって、その敵を倒すことができたんだ。

シアンが僕の頬にキスをしてくれた。
ありがとう、と何度もお礼も言われた。
ケロマツの頃から変わらないシアンの仕草なのに、何故か今はドキドキする。
…僕はどうしてしまったのだろうか。
ふと、ゲッコウガになった自分の姿を部屋の鏡で確認する。

(ぼく、こんな姿になったんだ…)

カッコいい、だなんて自分自身に思うのはおかしいかも知れない。
でもこの姿になってから、周りの景色が今までとはまるで違うんだ。

(あの頃とは違う…世界が大きく見える…)

そして、目の前で眠る少女が小さく見える…
あんなに大きな手で僕を抱き上げてくれたのに…
僕はシアンの白金色の髪の毛を一房手に取った。
それは、サラリと指の間潜り抜ける。
儚い夢のように…

ー…臨時ニュースです！
天体観測研究所からの速報…！ー

その時、突然映し出されたTVに何事かと視線を移す。

ー緊急事態！隕石接近中！衝突まで残り２４時間…！ー

(…なんだ？どういうことだ？)

人間の言葉は理解できる。
でも、そのキャスターの口から出てくる難しい言葉の羅列は、僕の脳内になかなか入って来なかった。

「ん…ケロちゃん…？なぁに？
起きてるの…？」

騒々しい音に安眠を阻害された、寝ぼけ眼のシアンがベッドからむくりと起き上がった。
僕がTVに注目していたのを確認すると、シアンも不思議そうにそれを覗き込んだ。

「テレビになにが…？」

次に流れたキャスターの言葉に、シアンは青ざめ、訳が分からないと戸惑う。
…その朝は、いつもの穏やかな目覚めではなかったようだ…

続く