空の見えない街中で!
五冊目 懐かしさと僕 完結しました
著 : 李亜
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ぐるりと周りを見回す。グラエナとサメハダー、それとレベルの低そうなオタチやガーディ、ルリリなどがランクを覆い囲む。相手が静かに待っているということは、やっぱりすばやさはこちらが優っているのだろう。
小手調べはせずに行った方がいいよな。
「ランク、グラスミキサーで辺りを掻き混ぜろ!!」
「ジャァーロ!」
グラスミキサー、きゅうしょに当たりやすいくさタイプのわざだ。
指示を受けてランクが頭を下にする姿勢で回転を始める。種や草が湧き出て、近くのものを圧倒する。ランクは器用で、このわざに慣れてから、わざを出しながらいきなり移動したときはびっくりした。疾風が辺りを凪ぐ。
ここで漸く(ようやく)モニターが映し出された。バトルの時にはモニターが出現して、相手のデータが映し出される。正式にバトル可能な地域では直ぐに見えるようになるのだが、なにせここは我が家の前。住宅地なのだ。出現に時間がかかる。
みずタイプのポケモンは一蹴出来たようだ。イズミと呼ばれた女性は、顔をしかめてサメハダーを戻す。ただ、やっぱりほのおタイプはあまりダメージを受けていない。そちらで倒れたのはレベルの低いポケモンだけだ。大方、きちんと付き合ってもいないのだろう。・・・勿論、ホムラ、だったかな?彼のグラエナも体力半分程で堪えていた。
「くぅ・・・っ。アオギリ様、申し訳ありません・・・」
「仕方ねえ。相手がくさタイプじゃきついぜ」
「ふふふ・・・。そちらは軟弱ですね、いやあ滑稽、滑稽」
「ちょっとてめえは黙ってろ」
・・・・・・・・・仲、悪いなあ。もう少し見た目だけでも仲良くしなよ、大人なんだし。
「こっちの番だぜえ!!グラエナ、かみつくだ!」
「・・・・・・・・・」
寡黙なのか、無言で襲いかかってくる。「攻撃は全部避ける努力をしろ」がモットーのうちは何も言わずとも回避しようとしてくれる。・・・まあ、大体当たってしまうけど。かみつかれて体力が少し減る。他のポケモンもひのこやかみつくを繰り出してきて、レベルの差があれどじわじわと体力が削られていくのが見える。
少しして、攻撃が止んだ。相手全員の攻撃が終わったのだろう。
「ランク、どくどくをグラエナに見舞え!」
「ジャアロォ!」
ごぽごぽっと吹き出るもうどくに晒され、もうどく状態になるグラエナ。
「ウヒョヒョー!!やっるじゃねえか!!グラエナ、やつあたり!」
「グゥラァアアアアアアア!!!!」
主人への不満を一身に受けるランク。・・・・・・・・・・・・・・・・・・。うっわ!?すごい減った!!?そうか、無口だったのは自らが認めていない主人への反発だったのかな?むしろこのわざを真顔で扱えるホムラの神経も誉め称えたい。体力のグラフは緑から黄色に変わって、ランクの顔に疲れが浮かぶ。また周りも襲いかかってくる。
・・・・・・・・・どうしよう、かな。
はっきり言って、切り札がない訳じゃあない。
でも、これで当たらなかったら・・・。
いや、駄目だ。こういうこと考えるのはいけない。
いけるいける。ランクなら。
二年のブランクがあるよ?
そんなことでめげない。
倒せなかったら?
そんなわけない!!
ランク、疲れるよ?
・・・それは悪いと思っているよ。
本当?本当に?ねえ、本当になの?
ああああああああああもうどうしろって_______!!
ごぽっ。
「・・・!」
!
グラエナがどくでダメージを受ける音で、はっとする。ああ、もうなんだってここで後悔し始めてるんだろう。出さなければこんな思いしなくてよかったのに、と思いかけた自分に嫌気が差す。
わかっているんだ。ここでの最善策はあれだけって。それしかないって。僕にはその勇気が無いことだって。
誰か、僕に勇気をくれないかな・・・。
「ジャロゥ、ジャロ〜!」
すりすりと、すべすべの肌を僕の頬に押しつけてくる。じっと見つめられて思わず目を逸らす。
まだ、目を見られないのか?まだ、過去に囚われているんだ。
今は今。過去は過去。
意を決して、ランクの紅い瞳に自分の顔を映した。
2014.8.5 20:59:55 公開
2014.8.7 17:30:27 修正
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