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ポケモン昔話〜第二章 ケロマツの王子様〜

著編者 : 絢音

[4]王子、姫と出逢う

著 : 絢音

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 ありえない現実に暫し呆然と景色を眺めていた僕だったが、人間の脳というのはよく出来ているようで無理矢理にでも答えを導き出そうとするらしい。僕は今見ているものは全て『夢』だという結論に至った。
「ははは……なんかすごい夢だな。でも夢の中なのに自由に動けるなんて……こういうの明晰夢って言うんだっけ」
 気を紛らわそうと大きな独り言を零していると、ポンポンと何かが跳ねる音が聞こえた。咄嗟に振り返るも時既に遅し、突然の大きな衝撃が僕の背中を襲った。抗う間もなく僕は池に突き落とされる。沈んでいく僕の視界の上を綺麗な金色の刺繍の入った鞠が泳いでいくのが見えた。どうやらあれが僕を池に突き落とした犯人らしい。僕は幾分泳ぎやすくなった体でそれを追いかけ水面上に浮かび上がった。
 水にぷかぷかと浮かぶ鞠を捕まえたと同時に、また背後から今度は軽やかな駆け足が聞こえた。たぶんこの鞠を蹴飛ばした張本人だろう、そう予想した僕はその面を拝んでやろうと水の中に身を潜ませる。
 息を切らして現れたのは綺麗なドレスを着た女の子だった。僕と同じか少し下の年だろうか、幼いがとても可愛らしい顔をしている。大きな瞳を潤ませて、長いウェーブのかかった金髪が乱れるのを気にも止めず必死に何か――たぶん僕が今持っている鞠――を探している。
 僕はどうしようもなく彼女に声をかけてみたくなった。どんな声音でどういう風に話すのか気になったのもあるし、ただ単に彼女と関わってみたかった。僕は手にある鞠を掲げ彼女に声をかける。
「君が探しているのはこれかい?」
「えっ!? 誰? どこにいるの?」
 僕の呼びかけに反応するも彼女はきょろきょろと周りを見渡すだけで、池の中の僕の存在に気づいてくれない。それが気にくわなかった僕は少し意地悪がしたくなった。
「おーい、どこを探してるの、こっちだよ」
 ポンポンと鞠を手の中で跳ねさせてみせると漸く彼女は僕を見た。そしてはっと息を飲み驚いた顔になる。
「ぽ、ポケモンが喋ってる!?」
 それを聞いて僕も今更ながら不思議に思った。しかし僕はすぐにその疑問の答えを思いつく。
「僕は元人間だからね、人の言葉も話せるんだ」
 根拠のないこじつけだが、そもそもこれは夢だしそういう設定でもおかしくない。そう考えた僕は自信満々にその答えを教えてあげた。彼女は少し訝しげだったけど、そんなことより、と僕の手の中の鞠を指差した。
「その鞠、私のなんだけど。返してちょうだい」
 人に鞠をぶつけておいて苛立たしげな命令口調にもむかついたけど、何より僕の事を「そんなこと」とあたかもどうでもいいように扱われたのがますます気にくわなかった。人の言葉を喋るケロマツだぞ? もう少しくらい興味持ってもいいんじゃないのか? むしゃくしゃした僕は彼女を困らせてやりたくてわざと鞠を遠ざけてみた。
「僕は被害者なんだけどなー。ぶつけられた鞠をわざわざ拾ってあげたのになー。僕みたいな被害者がまた出ないようにこれは処分すべきだね?」
「なっ! ケロマツの分際で、そんなことするなんて! 私はこの土地を治めるエシダム家のお姫様なのよ!」
 エシダム家と言えば、僕の父が治めるディレイア国の中でも有力な貴族だ。たしか僕と同じくらいの年のご令嬢もいて、婚約者リストに入っていた気がする。まあ、僕には婚約する意志がまだなかったからちゃんと見てなくて顔とか名前までは知らないけど……でも夢の中でもそういう設定はちゃんとしているあたり、僕にもちゃんと王子としての意識がなんだかんだあるんだと思った。ならば、と僕は王子らしく振舞ってみる。
「じゃあ鞠をぶつけたお詫びとして君の城にでも招待してもらおうか? 『ディレイア国の王子』としてね」
「はぁ? 何言ってんの? 貴方みたいなケロマツが王子様な訳ないでしょ! いいから早く返して!」
 予想通りのお姫様の反応に僕は面白くなってきた。そしてさらに意地悪をしてその反応を見たくなる。
「ならここまで取りに来てみなよ」
 そう言って僕は池の中央に向かって泳ぎ出す。すると彼女は悔しそうに下唇を噛み締め、拳を震わせた。来た時よりも更に潤む瞳に気づいて僕は優越感と共にちょっとだけ罪悪感を感じ始めた。もしかしてこのままだと泣き始めちゃうかも? 意地悪したのは僕だけど泣かしたい訳じゃない。どうしたものかと焦燥に駆られ始めた時、彼女が涙が零れるのを必死に堪えて僕をきっと睨みつけた。その顔さえ可愛いくてドキッとしてしまう。
「何が望みなの? 一つだけ何でも聞いてあげるから、その鞠を返して」
 彼女の真剣な眼差しに射抜かれた僕は暫し固まってしまっていた。そんなにこの鞠が大事なのか……なんだか悪い事をしてしまった。それでも彼女にもっと近づきたくて僕は彼女を困らせるであろう自分の願いを口にする。
「じゃあ僕を君の城に連れて行って」
 彼女は僕の真意を探るように僕をじっと見つめていた。眉間に寄ったしわが跡になるんじゃないかというくらいに深くなる。とてつもなく長く感じた沈黙は彼女の簡潔な言葉で破られた。
「……分かったわ」
「え? 本当に?」
 期待はしてたけど、まさか本当に了承が出るとは思っていなくて、いや、もっと渋るかと思っていたのにこんなに簡単に許可が出た事に驚いてしまう。僕の驚嘆に彼女は面倒そうに手を差し出す。
「えぇ、だから早く返してちょうだい」
 その返事に有頂天になった僕は何も疑いもせずに彼女の下まで泳いで行き鞠を両手で掲げてみせた。献上された鞠は乱暴に僕の手から取り上げられ、彼女の腕の中に収まる。彼女は鞠を大切そうに胸に抱え込み、ほっとため息を吐いた。初めて見せた柔らかい彼女の笑みに僕の視線は思わず釘付けになってしまう。あぁ、そんな顔もするんだ。他にはどんな顔を持ってるの、もっと僕に見せて――その笑顔に触れようと伸ばしかけた手だったけど、それはすぐに行方を失った。
 鞠を受け取った彼女は僕に目もくれず背を向け足早にその場を立ち去ったのだ。どういうつもりだ? 僕を城に連れて行ってくれるんじゃなかったのか? 意図が飲み込めない僕は暫く呆然としていた。彼女の姿が見えなくなったあたりで漸く気づく――どうやら僕は騙されたようだ。
 そう気づくや否や僕は彼女の後を追って慣れない四肢で走り出した。どうしようもない屈辱と憤りと、一抹の切なさを抱えながら。

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2015.12.19  21:04:11    公開


■  コメント (2)

※ 色の付いたコメントは、作者自身によるものです。

>>夢猫ちゃん
お久しぶりです。ていうかコメントだいぶ遅くなってしまって申し訳ない!年末年始って忙しいよね、とかいう言い訳をしてみる。いや、本当にごめんなさい。こんなやつですが今年もよろしくしてくださいm(_ _)m

今回は王子様目線なので、正直話飛躍しちゃってるよなぁとは思いつつ無理やり進めていきます笑 ルーディに関しては外伝として書こうかなとか考えてます。
現時点でいろいろ矛盾が生じてしまってますが(王子はあくまで夢だと思ってるし、お姫様はケロマツ話してるのに大して驚いてないし)どう回収していきましょうかね…というかできるのですかね…不安しかない((((;゚Д゚))))
たしかにお姫様にとっては何よりも鞠が大事なので、面倒な喋るケロマツとか相手してられないんですね笑 ルーンもなんか今回の話ではすごい傲慢な感じになっちゃってますね…キャラ安定しない(´・ω・`)まあ物語としては王子にはもう少し頑張ってもらわないといけないんで追いつかせますよ笑
毎度褒めていただき恐縮です、本当に(*゚▽゚*)実は男の子目線で非常に書きづらくていつになく読みづらいのではないかと心配なのでそう言ってもらえると本当に励みになります!
最近、書くどころか読む時間もないので遅くなってしまうと思うけどいずれ必ず読むので夢猫ちゃんも更新頑張ってね!
それではコメントありがとう♪

16.2.7  11:32  -  絢音  (absoul)

 絢ちゃん、お久しぶりっ!更新おつですっ!最近やたら人のノベルにコメントする癖に自分の話を一切進められてないむにゃです!

 え、えぇっ!?ルーディがなんかするのかと思っていたら、まさかの王子がケロマツになっちゃったって!?ドユコト?
 あ、でも、これで題名の通り、「ケロマツの王子様」になったね^^*
 そして、王子の夢(?)の中で出て来た声の主こそ、あの…!?

 って、姫さんひでぇな!まぁ、もし私が姫だったら、面倒くさいしその手を使ったとは思うんだけどね((
 うーむ…。王子が王子であることに間違いはないんだけど、傍から見るとただのケロマツ(喋ってる時点で既に「ただの」ケロマツではないんだけどね)だしなぁ…。信じてもらえないのはしょうがないと思います!王子!
 なんとか彼女に追い付けると良いね。ただ、その後どうするのかは彼次第だけど(笑)
 
 相変わらず絢ちゃんの文章は簡潔かつ丁寧で、読んでて楽しいですっ!忙しい毎日だと思うけど、続きも楽しみに待ってますよっ!!

 でわ☆(私も一話だけ…一話だけ更新したので、良けれb((蹴) 
 

15.12.20  18:06  -  不明(削除済)  (YK1122)

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