ポケモン昔話〜第二章 ケロマツの王子様〜
[1]王子、悲しみに暮れる
著 : 絢音
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僕は自分の『王子様』という立場が嫌いだ。それだけで周りの対応は表面的で、笑っているのに冷たくて、つまらない物になる。みんなみんな、自分の為に将来の王である僕に気に入られようと媚(こび)へつらう。そんな奴らの顔を見る度に僕は嫌になって吐き気がした。僕は自然と部屋から出る事が少なくなり、周りからは『引きこもりの駄目王子』と呼ばれるようになった。自分がどう呼ばれようが、そんなことはどうでもいい。寧ろ「あんな奴、王に相応しくない」と罵倒される方が気分が楽だった。一番嫌なのは、わざわざ部屋まで来て慰めのつもりなのか、鬱陶しいくらいに僕に声をかけてくる奴らだ。心の中では他の奴らと同じように馬鹿にしてるくせに、表面上だけの心配してるふりなんて見なくても吐き気がする。僕の人間不信は募るばかりだった。
そんな僕の唯一の心の友は、昔誕生日に父上から頂いた一匹のケロマツだった。彼女は誰よりも、きっと両親よりも僕の事を理解してくれている。ポケモンにニックネームを付けるなんて柄じゃなかったけど、大切な友達に僕は自分の『ルーン・ディレイア』という名前をもじって『ルーディ』という名前を付けた。
今日もルーディと部屋の中で特に何をするわけでもなくゆっくりしていた。一人分にしては大きなベッドに寝転がる僕の目の前にピョコンとルーディが跳ねて来る。僕の顔を覗きこもうと顔を傾げたルーディを抱き上げベッドの上をゴロゴロ転がると、ルーディはとても驚いた顔をする。それが面白くて声を出して笑っていると、突然物凄い勢いで扉が開かれた。
「王子!!!!!」
尋常じゃない執事長の剣幕に僕は咄嗟に起き上がった。その勢いで腕の中のルーディもピョコンと床へ逃げる。
「王様が……父上様が……倒れられました……!」
「っ!!」
そのままの剣幕で言葉を紡ぐ執事長に僕は掴みかからんとするように迫る。しかし出た言葉はこれだけだった。
「……父上の所へっ……!」
両親の寝室へ連れていかれた僕の心は相変わらず落ち着かなかった。一応、今は落ち着いて眠っています、と医者に言われたけどそれでも心配なのには変わりない。このまま目が覚めなかったら……そんな不安が頭を過ぎる。
「父上……」
そっと呼びかけその手に触れるが反応はない。泣きそうになるのをぐっと堪らえる僕を見かねてか、母上が寄り添い僕の両肩に手を置いた。いつもと変わらず優しげな声に心のざわつきも少し落ち着く。
「大丈夫ですよ。お父上は少しお疲れのようです。寝かして差し上げましょう」
そのまま退室を促され、その日は自室に戻ってその後はいつも通りの日常を送った――心はここにあらずだったけど。
そしてそれが父上の姿を見た最期の日となった。
翌日、僕が目覚めた時にはもう既に冷たくなっていた。真夜中のうちに状態が急変し、手の施しようもなかったそうだ。後で聞いた話によると前々から体調は良くなかったようで、何かと無理をしていたらしい。それにちっとも気づけなかった僕も僕だし、教えてくれなかった父上も父上だ。他の人達は知らないが、少なくとも僕にとっては一昨日まで普通に生活していた人が突然亡くなった事が理解できなくて、受け入れられなくて、父上の死に顔さえ見る事はできなかった。恐ろしかったんだ――それを見たら全てを認めてしまうしかなくなってしまうから。葬式もそこそこに僕は自分の部屋に逃げ込んだ。
そして、時間の流れも忘れるくらい思い出に浸っては泣くを繰り返した。時には実は全て夢でこの部屋を出たらいつも通り小言を言ってくる父上が居るんだという妄想さえ湧き出た。鬱陶しかったその小言さえも今では懐かしく、もうあの声音であの口調で聞くことは無いのだと思うとまた涙が流れた。
涙が枯れるまで泣いて、枯れてからも悲しみに暮れて、いっそ狂ってしまった方が楽だと思った僕だったけど、それでも正気を保てていたのはルーディが傍に居てくれたからだった。何を言うわけでもなく(そもそも言葉は通じない)、ずっと寄り添ってくれていた。僕の涙が枯れたら代わりに鳴いてくれた。いつまでめそめそしているのだと責めるわけでもなく、お気の毒にと慰めるわけでもないその姿に僕の心は救われた。彼女はきっと僕の代わりに泣いてくれたのだ。どれくらいの時間が経ったか分からなかったけど、漸く気持ちが落ち着いてきた僕はやっと次の一歩を踏み出そうと自分の部屋の扉を開けたんだ――迫り来る無情過ぎる酷な現実など知りもせず。
2015.5.27 10:14:03 公開
2015.5.31 12:56:29 修正
■ コメント (2)
※ 色の付いたコメントは、作者自身によるものです。
15.5.31 12:45 - 絢音 (absoul) |
絢ちゃん、更新おつです!むにゃです!(マカロン美味しかったな〜← 今回は、何だか泣けて感動したな。(日本語どこいった 王子様って、偉そうにふんぞり返ってるイメージが強かったりするけど、ルーン君は(合ってる…?)そんな立場が嫌いなんだね…。確かに、その気持ちは分かるよ、うん。なんか、孤独感感じるよね、よくは分からないけどね(汗) お父さん(王様)も亡くなって、辛いだろうなぁ…。 そんな王子ルーンの唯一の理解者は、今作の要となるであろうケロマツの「ルーディ」。ルーンは、これからルーディと共にどんな展開へと足を踏み入れるのかな…? 楽しみに末永くお待ちして参りますよ〜っ。 でわ☆ 15.5.30 12:52 - 不明(削除済) (YK1122) |
いつもコメントありがとう!励みになります(^▽^)o
私もマカロン食べたかったなー←(笑)
初っ端から暗くなっちゃってどうしよう!って思ってたんだけど、大丈夫かな?最初からクライマックス感が否めない(笑)
ルーン君で合ってるよ!こいつもこいつで暗いから全体的に物語が暗いね!どうしよう!(笑)ルーン王子は甘やかされて育ったというよりは、次期王様という事で真面目に育てられたという設定。なので精神的に大人なんですね(?)その分周りの事とかも冷静に判断しすぎちゃって、現実見すぎちゃってなんかすれちゃったんですよ。周りに同世代の友達がいなかったというのも手伝って、引きこもりになったわけですね(なんかテキトーでごめんね笑)まあ、このあたりは裏設定だから知ってても知らなくてもどっちでもいい(笑)あ、でもこれがきっかけになるのかな(おっとネタバレか)
夢猫ちゃん!貴方って人は見てますね…そうです、ルーディは今回の重要人物です。でも本編ではあまり活躍しない疑惑が…(笑)まあそのあたりも含めて楽しみにしてもらえると嬉しいな♪
それじゃコメントありがとう!できるかぎり早く更新できるよう頑張るね!それでは失礼(*゚▽゚)ノシ