その色が奏でるストーリー.
22 color. rainbow -fifth melody-
著 : 仁
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「フィアっ!?」
ケアルが振り向く。が、炎に遮られていてその姿は見えなかった。トトだけが、穴を掘るを使ってこのフィールドに入ってこれたのだ。
「ちっ……またそういうタイプかよ」
ウィンにとっては苦手なタイプばかりで、うんざりしたような顔をする。それに、地面タイプということは今の攻撃は全く効いていなかったわけだ。あまり喜ばしいものではなかった。
「えっと、よくわからないけど……“じしん”!」
あたふたとした、紛れもないフィアの声。それを聞き、ケアルはカイを掴んでハクリューに飛び乗った。
「ローク、飛んで!」
ロークがひょいっと手足と頭を殻にの中に引っ込ませ、噴射口から水流を地面に向けて発射すると勢いよく飛び上がった。ハクリューもふわりと空へ浮き上がる。
トトの巻き起こした地震がウィンとマフィを襲った。
「くそっ……!」
「きゃあっ!」
地震が収まったその時には、花畑を囲っていた炎も消え去っていた。
「な、なかなか大胆なお嬢さんだな……!」
ウィンが肘をついて体勢を持ち上げる。桜色の少女がそこに居た。
「……」
カイとケアル、ハクリューとロークが降り立つ。フィアは顔を上げて、微笑んだ。
「おそいよっ」
息が上がり、汚れた二人と、疲れて傷付いている二匹。目の前には、昼に家を訪ねてきた二人。あと、もう一つ。
あの、お花畑。
真っ白だったお花畑が。
もう夜でよく見えないけど、それでもわかる。焦げて散ってしまった花、水浸しになって苦しそうな花、踏み潰されて萎れた花。
あの目を瞠るような、綺麗で真っ白な花畑は、もうそこにはなかった。
フィアは俯いた。悲しくて、悲しくて、泣きそうだった。
「あなた……さっきの……?」
マフィがフィアに話しかける。フィアは顔を上げなかった。
「……出ていって」
声が震えていた。怒りに、じゃなくて、喉につかえた涙のせいで。
「……もう、来ないで……」
すとん、とフィアはその場に崩れた。両手で顔を覆い、涙を拭う。ひっ、と嗚咽が漏れる。
「ララは……いないよ……。あたし達も捜してる……。会ったばかりだから何も知らない、から……出ていって……」
マフィは戦闘体勢を崩すと、どうするの、とウィンを見た。ウィンはフィアに少しだけ動揺する。
「でも、俺は帰るわけには……ん? なんだこのノイズ ……ベルクか?」
そう言うと、ふいとウィンは後ろを向いた。何もないところに向かって話しているようだ。マフィもその話を聞いている。
「何やってるの、あの人達……」
「……なんだろ」
その二人の様子を、カイとケアルが訝しげに見つめる。
「なにい!? こっちは必死こいて捜してたってのに……なんだ、無駄足かよ……」
「そういうことは、もっと早く言ってくださいよー!」
「ああ、悪かったよ。だからもう、早く帰ってきてララの相手をしてあげてよ」
耳に当てていた左手を下ろし、ベルクは後ろを振り返る。
ソファに横になって、ララが静かに寝息を立てていた。
「じゃ……、仕方ないわね」
「……わかった。帰るよ」
じゃな、と手を振ると、ウィンとマフィは丘を下りていき、いなくなった。
「どうしたんだろ」
突然身を引いた二人に、カイが不思議そうに消えた方向を見つめる。しばらくぼーっとした後、あっ、と気付いて急いでロークとハクリューの手当てを始めた。
「フィア……」
ケアルが声を掛ける。地面で手をきゅっと結び、フィアは落としていた目線をゆっくりと上げる。しかし――痛々しく荒れた花畑が、元のように戻っていることはなかった。
「……フィアに会いたいわっ」
ララが言う。
そこは真っ白で、壁もソファも全部白く統一されていた。机は透明だったが、床も白いためそれもやっぱり白く見えた。
「僕じゃ駄目かい?」
ベルクがいつもの微笑を浮かべ、ララに紅茶を勧める。
「ううん、そうじゃないの。ベルクは私の初めてのお友達だけど、フィアもお友達なのよ〜」
真っ白な空間。ただ、初めて来た時と違うのは、ここは箱ではなくて部屋だということ。ここには、家具も出口もあった。
「お家に帰らなきゃ心配させちゃうし、私もうそろそろ帰るわね〜」
「いいのかい」
ソファから立ち上がり、部屋の扉のない出口に向かうララに、ベルクが問いかける。出口の壁に手を掛けて、ララは振り返った。
「え、どうして?」
いつもの閉じたままの瞳で、ベルクに聞き返す。
ベルクはテーブルの上に置かれた紅茶を口に運び、ララのほうは見ないまま言った。
「また、恐い夢を見てしまうよ」
その言葉に、ララは動きを止める。体が僅かに震える。
「イヤ……思い出させないで……」
「夜になるたびに、恐怖が君を支配するだろうね」
「やめてっ……お願い……!」
「思い出してみてごらん、君の見た地獄を……」
「いやああああああっ!!」
ララは必死に両手で耳を塞ぎ、そこに崩れ落ちた。息が切れて、うまく呼吸ができない。汗があとから流れる。目に涙を溜め、顔は恐怖に歪む。
ベルクがソファから立ち上がり、ララの傍へと歩いていった。
「……ねぇ、ベルク……。私、こんな夢見たくない……」
「そうだね」
ベルクの表情は変わらない。
「……貴方なら、私がもうこんな夢を見ないようにすることができるの……?」
ララは体を捻ると、顔をベルクに向けた。そこにあったのは、柔らかい笑み――。
「ああ、もちろん」
ベルクは優しく頷いた。
ララがいない家に泊まるわけにはいかなかったため、フィア達は村長の家に泊めてもらった。
この村で、三度目の朝。
フィアが目覚めると、もう村長と奥さんは起きていた。さすが、お年寄りは朝が早くて羨ましい。
ふと、昨日の光景を思い出した。あの真っ白な花畑は、もう戻らない。戻ったとしても、それはずっと先の話だった。その頃には、もうフィアはここにはいないのだ。
ララに、見せてあげたかった。
一緒に見て、お花の冠を作ってあげたかった。
絶対、似合うと思ったのに……。
もし昨日、あのお花畑があんなことになっていなければ、夕焼けに浮かぶ真っ白な花は凄く綺麗だっただろう。そしてララがいれば、一緒に見に行けただろう。
でも、もうどっちも叶わない。
どうして?
ララ、何処へ行っちゃったの……?
フィアは布団から起き上がった。それを畳んで、はじに寄せる。隣のケアルとカイはまだ眠っていた。
「おはようございます……」
「ああ、おはよう。よく眠れたかい」
はい、とフィアは小さく呟く。もう朝食は取り終わっているようだ。台所で奥さんが食器をカチャカチャと洗っていた。
「……あの、村長さん……」
「ん?」
フィアはちょっと息を吸い込むと、ふは、と小さく息をついた。
「ララが……狙われてるって、あたし達は疑わないんですか……?」
そのフィアの問いかけに、村長はふっ、と微笑んだ。
「ララ自身が連れてきた友達だ。疑う必要はないさ」
「……そう、ですか。よかった」
村長さんが優しく笑うと、目元のしわがもっと増えた。フィアも、にこっと笑う。
フィア達の寝室から声が聞こえた。カイとケアルが起きたようだ。
「あの、もう一つ……聞きたいんです、けど……」
フィアはつかえつかえに、緊張した声で言った。一呼吸置くと、一度口を開きかけて躊躇う。また息を置いて、あの、と聞こえるか聞こえないかほどの小さな声を溢した。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「……ララのこと、教えてください。」
狙われる心当たりがあるからこそ、村長はフィアに警告をした。その心当たりというものを知りたい。それが、ララのいなくなった理由にも繋がるなら。
不治の病がありました。
どんな医者にかかっても、その病気は治すことができません。
原因は不明です。
ただ、そのひとは、
まるでそれが使命であるかのように、
まるでそれが運命であるかのように、
安らかに眠り続けるのです。
この世に生を見出だした瞬間、そのひとは終わりを告げるのです。
死ぬまで、目覚めることはありません――。
それが――――ララ・ホワイトだった。
22 color. rainbow -fifth melody-
2013.1.2 22:33:00 公開
2013.1.2 22:45:22 修正
■ コメント (1)
※ 色の付いたコメントは、作者自身によるものです。
13.1.3 16:56 - 仁 (1z0i3n1) |
といっても、この話は三年前からずっとストックしていたものなのですが・・
ずっと中途半端なところで停滞させてしまったと思っていて、やっとこさ更新できたと思ったら、遅すぎましたね、わかってます。
今まで読んでくださっていた方々、本当にありがとうございました。
また気付いてくれるかはわからないけど、色奏もポケ譚と同様、マイペースにスローペースに進んでゆきます。
今までに何度もちらつかせていましたが、完結までの道筋はあるし、逸話や番外編など書きたいこともいっぱいだし、なにより作者が色奏大好きなんです!!
それがどこかの誰かに伝わればいいなと願っております。
はい。しんみりムードはこのあたりにしておいてですね!
ちょっとララについて裏補足というか、裏謝罪をば!
ララの正体、キャラ募集ページなどを見ていれば知ってる人もいるとは思いますが、当時設定として西条流月さまにいただいたララの設定を、ここで少し変えさせていただいております!
多少の変動はあると事前に説明はしておいたのですが、実はこの話はキャラ募集する前から書こうと思っていたのです。そこにちょうどよく流月さんがドンピシャ設定のララを投下していただきまして、仁が狂喜乱舞だったのは言うまでもありませんが!
ひとつだけ譲れないところがあったのです。流月さんはもう気付いているかもしれませんが、ほんと申し訳ありません!
これ以上言うとねたばれに繋がるので、この話が終わってから改めて土下座しようと思います!!突っ走りますねすみません!!ララかわいいですうう!!(悶絶
姿を現し始めた敵っぽいあいつも早くいっぱい出してあげたいです!
あいつは一体何者なのか、書き進めないことには仁にもよくつかめません・・!
では、これからも色奏をよろしくお願いします!
またお会いしましょう(^^)