その色が奏でるストーリー.
19 color. rainbow -second melody-
著 : 仁
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どこまでも拡がってゆくような錯覚に陥るような白は、もうそこにはなかった。今そこにあるのは、優しげな土器色。
ベルクは、何処へ行ったのかな。
シーツを歪ませながら、私は身体を起こした。そこは、決して綺麗とはいえない、むしろ小汚なくて狭い部屋だったが、とても居心地がよかった。まるで、昔からずっと私はここに居たかのように。
――あれ?
ふと、違和感を覚える。
なら私は、今まで何処に居たのかしら?
部屋の入口から物音がした。私はまだその疑問に囚われていて、窓の外を見上げたまま気にしなかった。やがて、ギイィ と扉が開ききった音がした。人の声が聞こえて、私は振り返った。
「――おはようございます〜」
そこに居た見知らぬ老人に、私はにこやかに挨拶をした。老人は、驚愕した表情で私を見ている――。
その“村長さん”は私の名前を教えてくれた。
私は、その名前を知っていた。
それは、白。また対照的に、黒。
光に消えてしまいそうな真っ白なセーターと白いズボンを着て、闇に溶けてしまいそうな漆黒の髪が映えて、彼女はずっと笑っている。そのためか、そうでないのか――出会って数十分、彼女の目が開いたところは一回も見れない。
その、真っ白で真っ黒な女性の名前は――
「ララ・ホワイトかぁ、じゃあララって呼ぶね! よろしくーっ」
村に着くと、カイがものすごく暇そうに入口に立っていた。ロークが頭上をひらひらと横切る蝶々と戯れている横で、カイはぶすっとした表情で、ざりざりと音を立ててひたすら地面に足でらくがきをしながらフィア達を待っていたのだ。
ララと握手した手を離すと、カイはフィアとケアルに向き直る。
「遅いよーっ! 僕ずっと待ってたのに!」
「ご、ごめんね……」
手をぱたぱたと振って抗議するカイを、ハクリューがまあまあと宥める。正直のところ、ちょっと忘れてた。そんなやりとりを、ララが楽しそうに眺めている。
わあぎゃあと半泣きになりながら訴えるカイの隣から、ララがあのー と声を掛けると、その表情のままララは口を開いた。
「トトちゃん、あっち行っちゃったわよー?」
「えっ?」
ララの指差す方を振り向くと、トトがのそのそと村の徘徊を始めていた。
「ああ! トト、離れちゃ駄目だってばっ!」
今にも民家の合間に消えそうなトトは、フィアの呼び掛けも気にせず走り出した。フィアも慌てトトを追って駆け出す。
頑張って〜、とフィアに手を振ると、ララはくるりと振り返った。
「じゃあ、あなたたちは家に来るわね〜?」
「え、でもフィアが……」
「平気よぅ、ちっちゃい村だものっ」
カイとケアルの背を押し、ララは鼻歌を歌いながら上機嫌に二人を攫っていった。
「今日で二日目ですねー」
パステルブルーの髪の少女が、白いソファの背もたれからぴょこんと顔を出した。そこには、くるくると癖のついた白銀の髪を指で弄る、ベルクが座っていた。
「そうだね」
空返事のようにそれだけ言い、ベルクはソファの目の前の机から、コップに少量だけ残っていたオレンジュースを飲み干した。
「……マフィ、暇ならチェスの相手してくれないかな。僕も退屈でさ」
パステルブルーの少女、マフィはむっという表情をしてベルクから目を反らした。
「あたし、チェスできません。ウィンに頼んでくださいっ」
「俺がどうかした?」
白い部屋に、一人の男性が入ってきた。フードの縁にふわふわとした素材のついた赤いジャケットを羽織り、髪は金髪。
ウィンは、ベルクの向かいにある白いソファに腰掛けた。
「“ララちゃん”のとこには行かねーの?」
足を組み、ベルクに尋ねる。
「そうそれ! あたしは遠回しにそれを言おうとしてたんですっ。あとちょっとしかないじゃないですかー!」
ベルクは、空のコップを持ってすっ と立ち上がると、静かにウィンの来た方向へ歩いていった。
「何故かな……今、ちょっと行きたい気分じゃなくてね。でも、別に慌てることもないだろう?」
カラン、とコップを揺らして氷を鳴らす。面白そうにもう一度氷を鳴らすと、突然コップが炎に包まれる。ベルクの掌から生まれたそれはほんの一瞬燃え上がると、消えた。中の氷はすっかり溶け、水と化している。しかし、コップには焦げひとつ見当たらない。
ベルクはクスクスと笑い、もう氷の鳴らないコップをもう一度揺らした。ちゃぷんと音を立て、低い波ができる。
「……そうだ。君達に行ってもらおうかな」
ベルクは、ことりとコップを元の机に置く。
「まだ五日もあるんだ。手に入れるには充分すぎるさ」
「つっかまえたっ!」
倒れ込んでトトをしっかりと捕まえる。捕まったトトはさして抵抗することもなく、きょとんと目をぱちくりさせた。
よいしょっ、と起き上がると、服や髪に白いものがついているのに気がついた。
「なんだろ……」
服についたひとつを優しく手でつまみ上げてみる。柔らかくて、微かな良い香りを漂わせていた。
「……あっ」
眼前に広がる、真っ白な花畑。
気づかなかった、というのもおかしな話だが、トトを追い掛けるのに夢中で、いつの間にか足を踏み入れていたようだ。
フィアの腕から解放されたトトは、今度は大人しく、その白い花の香りをひくひくと嗅ぐ。フィアは手元にあった一輪をぷつ と摘むと、目を瞑ってその香りを感じた。優しい香りがした。
白い花びらが舞い上がる。
風が攫ってゆく。
風と純白の狭間で、トトが嬉しそうに駆けている。
幸せな気持ちだった。スウに、見せてあげたい。心から思った。
フィアはまた数輪摘むと、茎を器用に結んでいった。それが、輪を描いてゆく。
お花の冠、スウにたくさん作ってあげたなぁ。そしたら、花が可哀想だろって、怒られたっけ。でも、すっごく似合ってたな。可愛かったな……。
繰る手が止まる。出来上がった真っ白な冠。一輪よりも確かな香りを纏い、この花畑の一部分を切り抜いたような白さは、柔らかくて儚かった。
「トト、帰ろう?」
舞う花びらの中をトトがこちらに駆けてくる。冠を被せてあげると、フィアはもと来た道を歩き出した。
「おかえりなさいフィア〜〜!」
ドアが開いたと思った途端、ララが抱きついてきた。
「ひゃっ!?」
柔らかい衝撃にバランスを崩すも、なんとか持ちこたえた。
ララはぱっ と手を放すと、とたとたと中へ消えていった。
「……入って、いいのかな……」
カイもケアルもララも見当たらなくて途方に暮れていると、ちょうど通りかかった村長がフィアに声を掛けてきた。驚いたことに、村長はフィアの名前を知っていて、すぐにララの家を教えてくれた。こんなに小さい村だと、情報は数分もあれば隅々まで行き届いてしまうのだろう。少し面食らいながらララの家を訪れると、今度は突然ララが抱きついてきたというわけだ。
しどろもどろとしていると、中から聞き慣れた声が聞こえてきた。
「わー! ケアルやめてー!」
続けて ばさぁ、という音。
「なんで砂糖なんか入れるのばかー!」
「……あっ、塩と間違えちゃった」
「カレーには塩も砂糖も入れないよ!!」
今の音からすると、一袋をひっくり返したのだろう。ケアルはうっかり屋さんだなあ、と思いながら、フィアは中へ入っていった。
ちょっと違う意味で甘いカレーと、近所の人達のたくさんのお裾分け。地味だけど暖かい、土器色の優しさは、この上なく心地よくて。
ちなみに夕御飯のあとも、ララは五回くらいフィアに抱きついた。
こんなに賑やかで、優しくて、楽しかったことはあったっけ。思い出せない。思い出なんてないのかもしれない。
でも今、この気持ちいっぱいの幸せがここに在って、私はここに居て。
これが毎日だったらいい。
フィア達は、ずっと傍にいてくれないかな。
ベルクは、何処にいるのかな。
――悪夢を見た。
それは、文字通りの“煉獄”、苦痛と恐怖だけが渦巻く、“地獄”。
それは、私ではない誰かだった。
だけど、それは――紛れもなく、私だった――。
19 color. rainbow -second melody-
2009.7.9 00:55:28 公開
2009.7.9 23:48:25 修正
■ コメント (5)
※ 色の付いたコメントは、作者自身によるものです。
09.7.11 23:52 - 仁 (1z0i3n1) |
こんばんはドルフィノさん!><** 返信遅くてごめんなさ・・・!いいわけはぶろぐんでしてきましたすんなってはなしですが><)) 仁は!ドルフィノさんの冒頭の!はうっで悶 え た!!Σ><)ノシばんばんばんばんばんばn(おだまり きっとカイがかわいいのはドルフィノさんがかわいいからだ(お だ ま り☆ あわわドルフィノさんのうつうつ大丈夫でしたかっ・・・!ほんと、力になれずごめんなさ・・・orz なのにすっとんできてくださったとかほんとに嬉しいですもうほんとあいしてまsと叫んでいいですかもう!!><**こめ0状態とかもうわあああああノシ><)ノシ 仁の更新でドルフィノさんのうつが治るならいくらでも更新しますよー!!><** も、カイはおれんだ!とか叫んでる仁ですが(( ドルフィノさんのあの神の如く神のカイを12 colorの挿絵にさせていただきました!え、これ許可下りたってことですよね、もう仁の耳は閉店しましたがなにか(( はわわこうふんっとかたのしみっとか言っていただけて嬉しい限りというかあれ、地面がもうあんなに遠く・・( ではありがとうございましたー!!><** 09.7.11 23:38 - 仁 (1z0i3n1) |
やってきました、人様のキャラ募集にキャラを投稿しては半端ない設定とキャラを置いて行く人間です いや、ララもそうだけどドルフィノさんの所にもキャラ投稿しましたしね(二人も しかも連載作品二つの方に一人ずつ そして、設定がコメ欄に収まりきらなかったとかね(自重しろって! いろいろ自分の作った設定が使われていて、私自身もこれからどうなるか楽しみにしています 仁さん、凄過ぎます 伏線だらけで次回が楽しみです 特に煉獄の下りで悶えてました テスト死んだけどこれ読んで復活出来ました それでは 09.7.9 20:15 - 不明(削除済) (rutuki) |
はうっ( だめだカイ可愛すぐる…! 仁さんクオリティがテラクラスすぐる…! はい、少し前まで鬱々してたくせに仁さんの小説が更新されれば鬱とか自重とか聞きませんのノリですっ飛んで来やがる伝説的なすとk(前置き長いから閉店w うはあ色奏更新だって! 夜に早速読みましたぜ師匠!もちコメ0でΣd(ちなみに初めて← えwwカイ可愛いのですがwwww拗ねて足で地面に絵を描くカイとか想像したらまじに可愛過ぎて思わず抱きたいという変態← これが僕が投稿したキャラとか嘘ですよね。思い切り仁さんのオリキャラですよね( しかも無断描き板でカイが活躍すると聞いてテンションが一時的に大変なことになってたようなんですが← 当時の記憶が全く無いという(嘘です しかもあのカイの絵を色奏の挿絵にしてくださるという奇跡報告でええええええ((空耳ですw もう煮るなり焼くなり仁さんの好きにしてください…! なんだか伏線だらけで興奮してますww((;^^))← 次回楽しみにしてますので…よし早く俺も更新だ! 09.7.9 16:24 - 不明(削除済) (Mariner) |
rainbow編続く! どこまで続くかはおたのしみ! ・・・に、してくださると仁がよろこぶ。 最近の仁は特によろこぶ。 精神不安定だからね!( にしてもいちまん文字って短い気がしてきた今日この頃。 書いてたら展開がなかなか進まなくて・・・つなぎっぽい話で一話使っちゃったりした。 今まではいちまんって長いなーとおもってたので色奏は6000〜7000くらいで書いてたのですがもういいやってぞのうち自重しなくなります。 スクロールバーちっさくなるけど改行多いだけだからね! もっとスピード感がほしい。でも表現とかもたくさんいれたい。 どっちも解消するにはどうすればいいのか模索中です><)) とまっいろいろ書いてみたりしたけどね! あとがきっていうか!本文触れてないしね! いや書きたいことあるけどぬたばれそうだから自重しましたんですよ! ではーっ><** 09.7.9 01:23 - 仁 (1z0i3n1) |
ほんとに流月さんのキャラ設定は素敵すぎます・・・!!
どうやって話を組み立てていくのか考えるのが楽しすぎる!!
神かあぁぁあああぁあ((ry
自重はおいしくないのでいいと思いますよってかむしろそれでいこうそうしようΣd((
いただいた設定はなるべく多くできれば全部使おうとこころがけてる仁なので・・・!
ただ譲れないところとかもあったりするのでいかされないことも・・・ある、ので・・・!ご了承くださ・・・!><))
えへへでも楽しみと言って下さって仁幸せすぎるわしやわせすぎますふへへへ(変仁
Σすごあわば仁を舞い躍らせる気ですかああわわもったいないおほめのことばありがとうございますわあああああああしねるーーー!!><**((
にしても伏線とわかってくださってよかったです・・・!><))
脳内で話が進行しまくってて展開が突然とか矛盾だとかあったらどうしようと思ってたので・・・!
も、理解力がネ申すぎる・・・!!
仁が、よろこびの小躍りを・・・捧げる・・・!(せんでよし
りぼっ(
あわわこれで復活してくださったとかうれしすぎるんですがうわあ流月さんわあありがとうございます仁も撃沈したんだぜ!!^^←
ではっありがとうございました!!><**