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dummy

その色が奏でるストーリー.

著編者 : 

10 color. forget-me-not

著 : 

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 スウじゃなかった。


 そう簡単に会えるわけない。
 わかってた。



 雷鳴が轟いた。

 もうすぐ雨が振る。





「王子、危険です! お下がりください!」
 ルリはフローゼルの前から退こうとしなかった。
「それは魔獣です! 南東のあの木を倒したのもきっとその魔獣ですよ!」
「恐がってる!!」
 ルリが言い返す。
「魔獣だからって殺すことないだろ! こいつにだって痛みはある! 傷つけられるのが恐いのは魔獣だって同じだ!!」
 ルリの言葉に、人々は一瞬口をつぐむが、またざわめきはじめる。
「しかし王子、だからといって魔獣を野放しにするのですか?」
「その魔獣は城を破壊しようとしていました」
「魔獣は凶暴です。これは正当防衛です!」
「殺さないまでも、痛い目にあわせなければまた現れます!」
「いえ、殺したほうが私達のためです! そもそもこの町には滅多に魔獣は近づかないのですから!」
「そうです、そこを退いてください!」
 民衆の反論に、またルリが反論する。
「いやだ! なんでそれしか考えられないんだよ!!」
「では王子、他にどんな方法があるというのですか!」
 そんな中、フィアだけがぽつねんと立ち尽くしていた。周りの声も、耳に入らなかった。


 わかってたよ。

 でも。

 虚しくて…。


 誰かが人ごみを掻き分けて入ってくる。
「………」
 何も言わず。
 上空にいたコハクが、それに気づいた。



「攻撃するなよ! オレが絶対許さないからな!」
 頑として動こうとしないルリに、民衆はどうすることもできなかった。


 そこへ、一人少年が前へ進み出た。

 その肌は、褐色だった。

 フィアの目に、その後ろ姿が映った。








「甘い―――よな」
 衝撃がフローゼルを貫いた。



 それは、少年の手から放たれた
 紫苑の波動。





「なっ…何すんだよ!!」
 フローゼルは城壁に叩きつけられ、その破片がぱらぱらと落ちる。
 フローゼルに駆け寄ろうとするルリに、少年は静かに手を振りかざした。



ストン



「うっ…」
 ルリはその場に倒れる。
「ち…くしょ…」

 少年は無表情のまま、ルリを紫苑の目で見下ろす。





 フィアは身を乗り出した。
「スウっ!!」

「君! 王子に何をするんだ!!」
 フィアの声は怒声に掻き消された。さっきの言い争いよりも激しい言葉が飛び交う。
 しかし、少年は眉ひとつ動かさず、黙ってそれを聞いているだけだった。
「スウ!! あたしだよ! ずっと探してたんだよ! ねえっ!!」
 どれだけ大声を上げても、それらは人々の罵声に呑み込まれるだけだった。
 少年はフィアと目線を合わせない。
「みんなっストップっ!」
 竜から降りたコハクが民衆の前に降り立った。
「見えなかった? フローゼルが“かまいたち”を王子さまに放とうとしてたとこ! 悪口言われる筋合いないよね!」
 コハクが少年を振り返る。
「じゃあなんでルリ王子を気絶させる必要があった!?」
「それはっ…ね! なんか理由があるよね!」
 コハクは助け船を求めるが、少年は小さくため息をついただけだった。
「俺は旅人だぜ? ここの王子だなんて関係ねえよ」
「ふぇっ、そなの?」
「なんだとっ…」
 少年はまた怒声を張り上げようとする人々には目もくれず言った。
「いいのかよ、こいつ王子なんだろ? ずっと地面にころがしてて」
「…っ、王子!」
 人々がルリに駆け寄る。その押しよせる波にフィアが流される。
「きゃっ…待って、スウ! スウ!!」
 流れに逆らい、フィアは少年を追いかける。が、なかなか前に進めない。
 少年は黙ったまま雑然とする人々の間を縫っていく。
「ねえっ…聞こえないの!? スウ…! あたしっ…」
 そんなフィアをよそに、少年は人ごみを抜け、振り返ることなく足を踏み出す。
「あたし…あたしっ………まだ、返事してないよ…」
 最後の言葉は小さくて、自分にも聞き取れなかった。
 だけど、



 少年の足が止まった。



「スウっ…!」
 フィアは、少年に向けて手をいっぱいに伸ばした。
 しかし、それは空を掻いただけだった。
 少年はまた歩き出す。
 ゆっくりと。

「待ってっ―――」
 少年は振り返らなかった。ただ―――








 少年の後ろ手に伸ばされた手が、触れた。



 いっぱいに伸ばしたフィアの手が、それに包まれた。





 それは、いつものように

 あたしよりも温かくて。

 すごく暖かくて。





 やっぱり、それはいつものように

 冷たい。


 そういえば前に

 いっぱいいっぱい暖炉で温めたのに

 やっぱり俺のほうが温かくて

 がっかりしてた。

 まったく

 まぬけだなあ


 でも

 ぬくもりが心地よくて。


 放したくなくて…





 放してほしくないよ…





 少年の手が、少女の手から離れた。
「スウ待って!! あたしっ」
「スウ…?」
 少年はやはり振り向かず、少しだけ空を仰いだ。
 黒髪と一緒に、赤いリボンが揺れる。

「俺はそんな名前じゃねえぞ」

 広場に敷き詰められたタイルの間から、一輪の勿忘草が生えていた。



   forget me not―――――



 少年は、灰色と紫苑に消えた。

 やっとフィアは人ごみを抜け出し、その方向へ走るが、少年はどこにも見当たらない。
「違うよ…あなたの名前は…スウだよ…!」
 フィアは町中を駆け巡る。
 いない
 いないよ
 どこにいるの?
 どこにいっちゃったの?


 ―――…スウ


 ぽろぽろと瞳から涙が伝う。



 少女の泣き叫ぶ声が、灰色の空に響いた。





 うわああああああぁぁぁ……………!








 あたしは泣き虫です。










「…ルリくんは…」
「大丈夫だよ。ぜんぜん!」
「…よかった」
 ラピス城の壁のない廊下に、二人。
 雨が降りだした。雷も鳴っている。
「はじめまして。フィア、だよね。ボクはコハク! よろしく! あと、…またね」
 差し出された右手にフィアも右手を差し出し、握手をする。
「うん…ありがと、うっ!?」
 コハクがぶんぶんと、握手した手を上下に揺らした。フィアに笑いかける。
「…こんな夜に出なくてもいいのに」
「…いいの」
「雨も降ってるよ?」
「…うん」
「ざーざーだよ?」
「…そうだね」
「雷も鳴ってるよ?」
「…今、すぐに行きたくて…」
 ルリは城でぐっすりと眠っている。
「うん。止めたりはしないけどね」
 コハクが竜に乗る。それにフィアも続き、手を伸ばす。
 暗闇で、鼠色の雲を勿忘草色が包み込んでいる。



「…行こっか、トト。」
 もう一度。










     10 color. forget-me-not

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2008.12.28  17:39:01    公開


■  コメント (9)

※ 色の付いたコメントは、作者自身によるものです。

Σちょ、後半ッ!!!?;;;
こんにちはドルフィノさん!!
スウはへたれという話じゃないでしょうか(論点違;
いっしょに崖の上から叫びますか!!!!うおおおお(ryなにがしたい
コハクとフィア・・さいごにオマケのように(殴
出会いましたがそこがまた切なさをかもしだしてるとかしないとか(

だっ団子さんにくいついていただけるとはっ・・・!
よくわかりましたねその通りですよエスパーですか!!(ここだけの話いにには“エスパー”に若干トラウマが(知るか

そしてちょ、後半!!??
紙!!!?あのぺらいやつはテスト中もお絵かきできて万能(ry
ってそんな話じゃなくて危うく失神するとぴっ・・・(噛み!?
あの時はなんだか調子よかった気もしますがいにはO型の鑑なので会話の99%は擬態語なので!!(今朝兄に言われたw(そして関係ない
調子よくなきゃ私の絵なんてへろりですが!!
というかあの絵はいったい誰が描いたのですか!!(ちょ

うぱあああではよっよいお年をーーーー(逃亡

08.12.29  17:09  -    (1z0i3n1)

ふわわこんにちは煉杜さんっ!!
切なさが伝わっていただけて仁は舞い上がったままかえってきません(だれだ
ちょ、煉杜さん!すばらっとかつぼぼっとかししししょっ・・・!とか!もう仁がかえってこれないじゃないですか!!うれしさが制御できないじゃないですか!!(もーわけわからんとりあえずしねばいい

スランプですか><
わかりますよ・・あのっ・・・あの!!むきゃーーー!!(なにがいいたい
文才をわけていただきたいのはこっちのほうですよ師匠―――!!(
終始煉杜さんの行動を観察してればいいのでしょうか(なにきもいストーカー

ちょ・・・!!
読めてよかったって・・・!!
もう仁をどうするつもりなんですか!!!!!!!やばい大気圏こえるっ・・・!!!

ではではっよいお年を!!><**

08.12.29  16:48  -    (1z0i3n1)

様!!!??
ここここんにちはヨゾラさんいにに様付けしたら後悔しますよ!!!><**かわりに仁がヨゾラさんを様付けしますヨゾラ様!!!そして師匠!(こんな弟子いらんわ
むしろ私に文力わけていただきたいです師匠師匠ししょーーーう!!(うるさいだまれそしてこんなやついらねえ

だいすっ・・・ふわあああそう言っていただけて嬉しいです!!><))仁はそんなヨゾラ様がだいすき(変人はスルーしましょう。
ふぇえ!あのスッポンが(
褒めていただけるとは思っても(
素てっ(
あっと(
ちょくちょ(
ちょっ大歓迎ですから号泣しますから!!(え

や、てかもうすでに号泣しておりますが(ちょ
では><**
よいお年を!!

08.12.29  16:45  -    (1z0i3n1)

切ない…そして哀しい!!
スウ…どうして、どうして何だぁぁー!(と、叫んでみる←うるさい

フィアとコハクちゃんと出会った!良かった良かった(何がだ

壁から団子三兄弟が覗いてるみたいなシチュ、分かりますw
下からフィア、コハク、ルリの順番ですな!?(順番とかどうでもいい


最近更新早いですね…!

あと、BBSのその守護の絵見て来ました。


Σプ ロ い ー ー ー ー !(うるせぇ

仁さん!貴方はアレですか!?神ってヤツですか!?
俺じゃとても勝てない…でも、何かアレ的な血が騒ぐ…!あれか!美術部(元)としての血か!俺も頑張らんと!(プロでもないのに血とか何しかも絵は勝負するもんじゃないとか言ってたの何処の誰だよ


失礼しました。しかし!あの絵は神でした!

08.12.28  20:21  -  不明(削除済)  (Mariner)

せつねぇえ・・・・!!

狽ヘっ・・・あ、いや・・・失礼しました^^;;;

今晩は仁さんww
うああ・・・やっぱり仁さん素晴らしいですっ^^w
切ないのがまた・・・!
ツボにっ・・・!!

師匠・・・!!
その文才僕にちょtt((自重しろbyシン
こんな話書けるなんて羨ましいですね・・・!
絶賛スランプ中ですよ僕orz

いやぁ・・・^^
年末に仁さんの小説読めてよかったですww

フィアがスウにちゃんと逢えるといいですね・・・!
ちゃんと会話できることを願ってますよっノシ

08.12.28  19:41  -  れんと  (nasumiso)

仁様!こんばんは〜!読みました!
前々からコメしようと思いつつ、結局出遅れたヨゾラです。

フィアちゃんが大好きです。((ちょま、いきなり変体
表紙絵も素敵ですし!師匠はやっぱりすごいですね
文力分けてください((((黙れ変体
あっという間に読んでしまいました。
これから、またちょくちょくきます。(((こんでいい

え…勝手に師匠とかいってるって?それはスルーd(((うっさいだまれ
コスモ「まったく、ヨゾラのアホにはあきれるほかねーよ」
↑小説とはまったく口調が違うコスモ(変人)
コスモ「カッコの中余計だ!」

ではでは、突然に乱文失礼しました〜

08.12.28  19:19  -  不明(削除済)  (5656303)

Σきゃーーーーーー!!
こんにちわ西条流月さん!!
さっ先を越されましたあああ・・・←><**うっ嬉しいんですけど!!

せっせつない!いには切ない感じがだいすきなんですけど・・それが伝わっていただけて嬉しいです!!!><**

ちなみに勿忘草を英語で言うとforget-me-notなんですよ
西条流月さんの言ったとおり花言葉まんまなんですね!
ちなみに仁は花言葉はしりませんでした←

うわわ私も二人の行き着く先はどうなるか気になってきました・・(作者のくせに
物語の奥底まで入ってきてくれる西条流月さまに感服しておりますふぁぁいにです!!><***

ではではっ

08.12.28  18:10  -    (1z0i3n1)

書き収めだあああっ!
とか言いつつこの状態だったらもう一話くらい更新できるかも・・・あ、期待はしないよーにおねがいしますorz←

今回は珍しっく一回も時間も場所も越えませんでした!(やふーい!←?
だからといって読みやすくなったわけでもありませんが(

はっ・・・!
書きたい放題ここに解説的なものを書いてたら面白みがなくなるのではっ・・・!?
と、気付いたいに。

よし、これからは控えます!(決意!
なのでいろいろつっこんでくれたらいにが喜びます(やっぱり書きたいのかい

ではではみなさま良いお年をっっ!!><**
キャラ募集のほうもよろしくお願いしますっ

08.12.28  17:54  -    (1z0i3n1)

切ないですね
スウはどこに向かうのでしょうかね?
『あたしを忘れないで』とは勿忘草の花言葉ですね
それを英訳すると題名の奴になるんですよね?
それがどちらの気持ちなのかそれとも二人ともが抱く気持ちなのかそこがまた切なくなります
暗い雨の中を進むフィアの先に希望があればいいと切に願っています

08.12.28  17:49  -  不明(削除済)  (rutuki)

 
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