その色が奏でるストーリー.
8 color. amber
著 : 仁
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その色は、あたしのよく知っている色。
その色は、あたしの探していた色。
その色は―――――。
昼の晴れ渡った空はもうなかった。今や空の大半を雲が占め、夕焼けはその切れ目から遠慮がちに顔を覗かせている。フィアの足にいつもくっついている影も、薄くおぼろげになっている。
男はさっきから、どうやって黒真珠をルリに怪しまれることなく手に入れるかを考えていた。
もちろんルリにはそのことが手に取るようにわかっていた。ルリは後ろから男を睨みながら、小さくこぼした。
「…殺させてたまるかよ…おまえみたいな金目当ての奴なんかに」
キョロキョロとスウを探していたフィアは、ルリのその言葉を聞いてやっと理解した。
あの人は、神獣を捕獲する気なんてないんだ。最初から、殺して売る気なんだ…。
それをわかった上で、ルリくんは頼んだんだ。
「なに?」
無意識にルリを見つめていたフィアに、ルリが気付いた。
「え、あ…ううん。なんでもないよ」
あたしは恐がりで弱いから、すぐに迷ってしまう。だから、ルリくんはすごいなあ…って思う。
フィアが何気なく曇り空を見上げていると、ルリが口を開いた。
「コハクって奴がいるんだ」
フィアは視線をルリに向けた。ルリは足元を見つめている。
「空を飛ぶ古代獣を連れた女の子なんだけどさ。暴れてる神獣をあっと言う間に鎮めちゃうし、魔獣の撃退も朝飯前だし、それに…いつも笑ってる。とにかく強いんだ」
ルリは真剣に、でも嬉しそうに話す。
「オレもあいつみたいになれたらなって思うんだけど、全然うまくいかないんだよな」
夕陽が沈み、辺りが暗くなってゆく。住宅の隙間にかすかに残っていた薄桜色も、紫苑に変わっていった。その時だった。
南東、紫苑が光った。
グレンピア郊外、そこには背の高い4本の木が立ち並んでいた。そこにプテラが舞い降りる。
「とーちゃくっ」
背中から飛び降りた少女は、着地に失敗してつんのめったシオンを見て笑い声を上げる。
「あのなっ…! これは決して俺のせいでなく…!」
シオンはその態勢のまま少女を見上げ、口元をひきつらせる。
「えへへごめんね。どうすればいいかわかんなくてそのままやっちゃった」
「お前な…」
身体を起こすシオンの前にしゃがみこみ、少女は笑った。
「ボクはコハクだよっ」
その少女、コハクは立ち上がり、プテラに小走りで駆け寄った。
「こっちはプテラのめぐむ! “竜”って書いて“めぐむ”って読むんだよ。かっこいいでしょ!」
すると今度は4本の木のうち一番手前の木に、コハクは登りはじめた。
「キミはー?」
「え、俺は…スウ」
反射的にそう名乗ってしまった。はっ と気がつき、シオンは慌てて手を振る。
「う? 酢?」
「じゃ、なくて! 俺はシオン!」
コハクは、三十メートルほどもある木を登っていく。
「シオンかあー。女の子みたいな名前だな」
「おまえこそ自分のことボクっ、て!?」
突然、また竜がシオンの背中を掴んだ。
「うわわわっ」
竜はシオンを木のてっぺんに降ろすと、その木の梢に留まった。あとから来たコハクが、バランスが取れずに枝にしがみつくシオンを見て笑う。
「曇ってるね。夕焼けがキレイな時間帯なのになあ」
残念そうに呟くコハク。町の向こうに沈む夕陽は、雲に隠れて見えなかった。雲が灰色がかった桜色に染まっている。
シオンは少しだけ、フィアを思い出した。
大きな音がした。暗くて遠いからよく見えないけど、木が次々と倒れていくのが見える。
…あの色は―――。
フィアはその方角へ駆け出した。
間違っていてもよかった。これだけは、迷いたくないから。
トトがフィアのあとを追う。
「オレもっ…」
ルリも追おうとするが、すぐに思いとどまった。
「どうぞ、私に構わず行ってください」
にやにやと笑いながら、男が丁寧におじぎをする。ルリは拳を固めた。
「おっちゃん、早く終わらそう!」
あんなことは初めてだ。オレだって放っておくことはできない。でも、今しか救えないものが目の前にあるんだ。
ルリは、フィアと反対方向に走り出した。
薄い雲に包まれた夕焼けは、それはそれで綺麗だった。もうすぐ夕陽が沈む。
「なんでシオンはあんなところで倒れてたの?」
コハクが足をぷらぷらさせながら尋ねる。
「…わかんね」
「わかんないの?」
竜が、グォー とあくびをした。
「…俺が知りてーよ」
なんだったんだ、あれは。
巨大なエネルギーを、胸にドスンと打ち込まれたような感覚。
あの時のことを思い返すだけで、胸がざわざわして気持ち悪い。
夕陽が沈んだ。光の面影がどんどん薄れてゆく。
トクン…
「ぅ…」
光が消えてゆく。
桜が…紫苑に変わる…。
ドクン…
胸がズキズキする。胸を押さえた。
頭が痛い。頭を押さえた。
「…どうしたの?」
―――――ドクン!
紫苑。
あの色は、紫苑。
あたしのよく知っている色。
スウなの…?
日の沈んだ町を、フィアは光に向かって駆け抜ける。
「着きましたよ」
ぶすっ としたまま、男が言った。メリアー通り三番地。依頼書の通り、そこでブーピッグが暴れて店を破壊していた。
男は持っていたモンスターボールを高く投げた。
「エレキブル、召喚!」
不思議な躍りをしながらとび跳ねるブーピッグに、エレキブルが突進していく。念力で瓦礫を飛ばすブーピッグを、エレキブルが雷パンチで瓦礫ごと殴り飛ばす。
「手加減しろよ! 依頼は捕獲だろ!?」
「そうですねえ!!」
イライラしながら男は空返事をした。
また躍り出したブーピッグの黒真珠が不気味に光った。すると、エレキブルの様子がおかしくなり、フラフラと躍りはじめた。
「な、なにやってんだエレキブル!」
しかしエレキブルは躍りをやめようとしない。
「操られてんのか! 王子、こいつは厄介ですよ! これは討伐する他ありませんな!!」
「はあ!? 何言ってんだよ!」
ルリは駆け出し、エレキブルの脇を通り過ぎてブーピッグの前に立ちはだかった。
「なっ…! 王子! 危険です! あなたの身に何かあったら私が…」
「うるさいなッ!!」
ルリはブーピッグに向き直る。
「なぁ、俺の声が聞こえるか? どうしたんだよ、話してみろよ!」
ブーピッグは暴れ続ける。ルリは奥歯を噛み締めた。
「聞いてやるから! ちゃんとおまえの言葉もわかるんだ! オレの話を聞いてくれよ!」
「王子!!」
男が叫んだ。黒真珠に操られたエレキブルが、ルリに拳を振り下ろそうとしている。
ちくしょうっ…! どうすれば届くんだ、オレの声は―――!
「“ちょうおんぱ”っ!」
どこからかブーピッグに放たれた超音波が、マジックコートによって跳ね返り、エレキブルを捉えた。混乱したエレキブルの狙いは外れ、そのままバランスを崩し、倒れる。
「うわっ!」
ルリは横に倒れ込んだ。視界に琥珀色が映った。
「コハク!?」
古代獣に乗ったその少女は、ひとつに束ねた琥珀色の髪をはためかせる。
「おじさん! 危ないから早くエレキブルしまって!」
「うぇ!? でもよ…」
「早くしろっ!!」
その声に圧され、男はエレキブルをモンスターボールに戻した。
「めぐむ、“ほえる”!」
「ギャォウウウッ!!」
プテラの大音量が響き渡る。ブーピッグは驚いて、町の外へ逃げ去っていった。
「…近寄るな…」
「ふぇ? ねえ、大丈夫…?」
「コハク、頼むから!!」
力いっぱい、シオンはコハクを押した。
紫苑の光がその木を包んだ。
凄まじいエネルギーがせめぎあう。
「いぁ…ッ!!」
目の前が霞む。
力が溢れる。
力に呑み込まれる―――!
右手に凝縮された紫苑のエネルギーが、立ち並ぶ大木を貫いた。
大音響をあげて、木々が倒れる。
「…シオン…?」
コハクは竜の背中から、呆然とその光景を見つめていた。
8 color. amber
2008.12.25 05:06:06 公開
■ コメント (5)
※ 色の付いたコメントは、作者自身によるものです。
08.12.27 05:23 - 仁 (1z0i3n1) |
こんばんは西条流月です スウとの再会が出来るか気になります これからの展開が気になる状態だったりしていたり グレンピア編終わったらどういう展開になるんでしょうかね 『竜』と書いて『めぐむ』と読むのにはビックリだったり 早く次のが読みたくなるほど楽しみですね これからも更新頑張ってください 08.12.26 23:20 - 不明(削除済) (rutuki) |
こんにちはドルフィノさん!! あうあお久しぶりで申し訳ないです・・・!!><))) !!こはくこくはく!!(なにがいいたい ふわあああコハク好きっていっていただいたのはじめてで感激の汗を流しまくってるじんです!!(ただし目から ・・・・・・・・・・・・・・(・ω・;; ふ、フラグなんかじゃーあ、ありませ・・・んよ・・・??(((( ぽっポケ譚についてはノォォコメントで!!><;だってだってだって!!! は、でもヒスイは出すつもりですよっ((あっさりいい めぐむは・・辞書で調べたらほんとに出てきたんですよ!でもやっぱりまぎらわしいすみませえええええ!!!orzzzzz...... シオンぶったおれ大会ww(なにがいいたい ふぉぉわっ私のためにドルフィノさん盛り上げてくださるとな・・・!?はあああいにスランプふっかあああああつっっ!!!(うおおおおおお!!!((いにがうるさいだまれ(すみません きゃーーーーーー!!(((((((;;><ノノノ すっっ・・・スランプ中にすべてのお楽しみがなくなってるじゃありませんか!!(ぐすん ドルフィノさん誕生日おめでとうございますです!!(おせえ めりめりくりすますです!! ちなみにいにの誕生日ははろうぃんなのです(しるかい 08.12.25 17:09 - 仁 (1z0i3n1) |
仁さんお久です! うはあ!来ました!コハク登場! この時を待っていた!コハク大好きです(大胆告白 このままならヒ…モゴモゴ(強制終了) 「強い」という設定はそのままだけど、原作と違って「よく笑う」なんですなぁ!!そっちのコハクもいいですね。 …はっ。もしやこれは原作でのフラグを表しているのでは!?(それはない 「竜」と書いて「めぐむ」なのか…覚えとこう( そんで、ス…じゃなかった。シオーン!! 何があったんだ!?(;゚Д ゚) 仁さんスランプだったんですか!?それは一大事!!我々がなんとしても盛り上げなければ!(うるさくするなよ すいません。クリスマス特別企画やりましたがもう終わってしまいました。ついでに言うと昨日は僕の誕生日です(もう遅いそしてしつこく宣伝しすぎ という訳でまた来ます。では! 08.12.25 08:11 - 不明(削除済) (Mariner) |
うわああながらくお待たせしましたっ・・・!! めりいいくりすますです!!(よみにく ここ数日絶賛スランプ中でした!!><** ←? スランプって酷いですね・・ 書きたいことはわかってるのに文にならないというっ・・・!! 絵も描けないし小説も読めないしっ!いつのまにかみなさんの小説が進みまくっててかなり焦ってます( しかもストレス発散にサイクリングに行ったのに疲れただけでした。´з` クリスマスだし番外編とか書きたいなあとか思ったのですが無理でした← 気付いたの今日だしスランプだし・・((うわぁぁん どーしてもいにさんの番外編が読みたいなあという人がいたらお正月とか書きましょうか(えらそうになにをいっとるしねばいい グレンピア編今年中に終わらせるつもりです!><* きっと終わる!しんじてる!!( というかポケモンの名前があってるかどうかが心配ないに← 08.12.25 05:24 - 仁 (1z0i3n1) |
むおおやっぱり“めぐむ”ってヘンですね!!
漢字の辞書で出てきたんですけど、それ以外ではまったく出ないw
でも仁はけっこう気に入ってます♪
でも入力するときはやっぱり“りゅう”から変換してます><ちくしょうっ
グレンピア編までが第一部みたいな感じな感じ・・(だったりいい
といっても第一部とかないですけどね!←
ちなみに今年中にあと2話更新します!つまり10話目でグレンピア編完結です!!
やったぜぴったりなんだぜ!!((
というか西条流月さんうわあああああ((((((*><ノノ(なんだこいつばか?
気になる展開だとかどうなるんでしょうかだとか早く次のが読みたくなるほど楽しみですねだとかうにゃあああああああぐはあ((うるさいしね
いにを舞い上がらせるのがなんでそんなに上手なのですか!!
朝だから誰も見てないから全力で躍りますよ!!ワッショイワッショイ(やめれ
更新頑張りますともふぉおおお!!