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短編企画「続」

著編者 : 不明(削除済) + 全てのライター

酢豚とピカチュウとドラゴン退治

著 : 不明(削除済)

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 東に行こうと思った。
 そう決意した彼はピカチュウ。ごく普通の、これと言って特徴のない、なさ過ぎてむしろ特徴的なピカチュウであった。そんな彼にも一つ特徴がある。名前だ。彼はパイナポーという名前だった。だからと言ってパイナップルが好きなわけではない。むしろ嫌いだ。名前のせいでいじめられたし。つーかなに、あれ。パインアップルて。どこがアップルなんだよ。見た目も、とげとげなのか丸いのかはっきりしろよ。味も甘いんだか酸っぱいんだか微妙だし。
 何より許せないのは、酢豚に入っていること。
 なんで入ってんだあれ、おいしくないし。香りつけ? 肉を軟らかくする? なら客に出す前に抜けよ。出汁が偉そうに具材ぶってんなよ。と、彼は思う。
 ああもう、だめだ。引っ越そう。酢豚にパイナップル入ってないところへ。
 そういうわけで、冒頭へつながるのである。



 彼はもともとあまり荷物を持っていなかったので、荷造りはすぐに済んだ。決断後三十分である。荷物は大きなバッグとミシンだけ。あとポストに入ってた学習塾のダイレクトメールも持っていこう。
 彼は首都グレイテスを出て、ウェストハイグレードを目指す。イーストではない。ウェストだ。ちなみに西にはサウスグレードがある。
 ウェストハイグレードはやや砂漠の街である。なぜそこに行けばパイナップルが入っていないと思ったのかは永遠の謎。彼も知らない。
 バッグを持ち、ミシンを引きずり、ダイレクトメールを読みながらパイナポーは歩いていく。
 パイナップルで引っ越すやつなんて、おれ以外いないだろうな、と思いながら。
「へー、今申し込むとこの塾入会金ただなんだー」



 二日後。ウェストハイグレードは目前だ。
「ええ!? 何もないの!? 話的にやばくね?」
 パイナポーが二日ぶりに喋った。まあひとり旅だから当然である。
「ここは怒れるドラゴンとか出てきてさ、お姫様とか助ける流れじゃないの」
「ぐおー! 俺様は怒れるドラゴンだー!」
「うわあああああ本当に出てきたー!!」
 突然眼前に現れたドラゴンにパイナポーは腰を抜かした。
「許して! すいません! これで勘弁を!」
「あ、別に怒ってないっすよ」
「え、今怒れるドラゴンって」
「あれはノリです」
「あ、そう」
 意外と友好的なドラゴンにパイナポーは安心する。彼は“クリムガン”のようだ。赤い顔に青いからだがユーモラスである。
「どうしたのドラゴン君。何かあったの?」
 パイナポーが尋ねると、クリムガンは困った顔をした。
「実は俺、学校に行ったことが無いんです。それで字が読めなくて。就職難で、仕事なくて、いらいらしてお姫様さらっちゃいました」
「……」
 パイナポーが理解するのにだいぶかかった。つまりこいつ、誘拐犯。でもいいやつっぽい。
「……君は、どうしたいんだい」
「字が読めるようになりたいです。あと仕事も」
「なるほど! じゃあこの学習塾のパンフレットをあげよう!」
「……この野郎! 俺は字が読めないんだっつっただろー!!」
 クリムガンが怒りだした。逆鱗に触れてしまったようである。逆鱗ってもともと龍から生まれた言葉なんだって。
「うわあああすいません! 許して!」
「あ、はい」
 クリムガンはあっさり許してくれた。やっぱりいいやつである。パイナポーはお礼に彼に代わって塾に申し込みの電話をかけることにする。なぜ電話があったのかは不明。
「もしもーし。申し込みです。あ、オッケー。あざーっしたー」
 あっさりとオーケーされた。住所も訊かれなかった。
 これで君も字が読めるようになるよ、とパイナポーが言うと、クリムガンはとても喜んだ。そして誘拐したお姫様を置いて去って行った。
 うわあお姫様いたんだ、と思いながら一応パイナポーは話しかけてみる。種族は“マラカッチ”のようだ。
「こんにちは」
「ワタクシは姫ですのよ。パッセールといいますのよ。でもパセリは嫌いなの。だから引っ越すの」
 おんなじ理由で引っ越すやつ、いたんだなあ、と思いつつ、パイナポーは頷いて彼女のマシンガントークに耳を傾ける。一時間が過ぎた。
「……要するに、パッセール王女はパセリで鉤針編みに挑みたいんですね?」
「いいえ、ちがうわ。パセリでピーマンをおいしく食べる方法を探し、失敗し、レース編みにチャレンジし、その後、パセリで鉤針編みをしたいの」
「……はあ。じゃあこのミシンをあげますよ。じゃ」
 いい加減付き合うのに疲れ、彼はミシンを押し付けて立ち去った。二人の間に恋が芽生えるとかは無かった。
「ちょっと! 鉤針編みにミシンいらないでしょ!」
「鉤針編み機能ついてるんで」
「……あ、本当」



 パイナポーはようやくウェストハイグレードにたどり着いた。
 ウェストハイグレードはやや砂漠がちな町で、水がコップ一杯千円もする。なのにオレンジジュースは百円である。パイナップルジュースも。なんでだよ。
 パイナポーは手近な店に入る。「しゃいまっせー」店員の声がする。彼は席につき、期待に胸を膨らませつつ酢豚を注文した。十五秒後、酢豚が運ばれてきた。彼はわくわくしながら皿を覗き込む。
「……入ってるじゃねーか」
 入っていた。ばっちり入っていた。あんの中に堂々とパイナップルが居座っていた。
 嗚呼、なんということだ。はるばる二日、パイナップルの入っていない酢豚だけを求めて歩いてきたというのに。酢豚にはパイナップルが入っている。それは動かしようもなく。まるで運命のように。
 彼は悟った。酢豚には、どうあがこうと、パイナップルが入っているのだと。――彼は倒れた。その時、メニューが目に入った。
『酢豚のパイナップルは抜くことが出来ます』――。
 彼の目から、涙がこぼれた。彼は勝ったのだった。何かに。



 この後も、話はまだある。砂金を掘ったり、パイナップル栽培してみたり、イタリアンはじめたり、色々あるのだが、酢豚のパイナップルの話はこれで終わりである。



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2013.2.28  21:33:53    公開
2013.2.28  21:49:05    修正


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