短編企画「続」
キミを想うよ
著 : 不明(削除済)
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東に行こうと思った。
はっきりとした理由も目的も俺にはある。
俺は、アイツのためにも東に行かなければならない。
東の最果てにはアイツと俺が出会った場所があって、アイツを一目見たとき俺は、なんて綺麗なんだろうか、と思った。
それからの俺の行動は早くて、アイツをゲットするために何度も東の最果てに通った。
俺は毎日傷だらけになりながら通って、服から出ているところにはいたるところに絆創膏や包帯が巻かれていった。もう、肌色が見えないぐらいびっちりだったのではなかろうか。
毎日毎日、飯も食うのも眠るのも忘れて、本当にそんぐらい夢中になって通って、モンスターボールも持てない歳だった俺は馬鹿だから気がつけなかった。
そんなことを毎日繰り返していたんじゃ、小さい俺の体はあっという間に弱って簡単に壊れてしまうことに。
そして俺はブッ倒れたんだ、アイツの目の前で。
――――ああ、コイツはなんて愚かなんだろう、と思ったよ。
ボクを気に入ったらしいこいつは、毎日ウットウシイぐらいにボクのところに来やがったんだ。
そして毎日の習慣、開口一番。――――オレと勝負してオレのもんになりやがれっ!
襲いかかってきたかと思えば、気がつけばカンケーナイことをたくさん、それはもうたくさん話して、話すだけ話したら帰っていくんだ。メイワク極まりない。
それがいつからか始まって、暫く続いたときに、ふっと気がついた。
コイツの体がだんだん、日に日に細くなっていることに。
訝しんで目を凝らして見ていれば、思ったとおりボクの目の前でキレーに倒れてみせた。
この、大馬鹿もん。
呟いた声はあたりに反響したね。
ここで死なれちゃボクの後味がわるいんだ。
仕様がないからボクは辺りからエイヨウのたくさんありそうなものと水をかき集めた。
そうすればやることはすっかり無くなってしまったから、ボクはどっかりとコイツの隣に腰をおろしたんだ。
俺は目を覚ましてびっくりした。それはもう、腰を抜かすほど。
なんたって隣にアイツが寝そべっていたんだから。
今までは馬鹿にされてか一切触らせてももらえなかったのに、どういった風の吹き回しなのだろう、恐る恐る触れてみても何もされなかった。逆を言えば、触っても見向きすらされなかったんだが。
それでも俺は最高に嬉しくなったんだ。アイツに、やっと触れたんだって。
俺はもっと触りたくなって立ち上がろうと体を起こした。だが忘れていた。
グラッときて、そのまま地面に倒れてしまった。
すると音で気がついたアイツが目を開けて視線を後ろにやったんだ。
俺もつられて見てみれば、そらあもう美味しそうな木の実の山があった。
よだれが垂れそうになりながらも食べていいのか分からずにアイツを見たら、食え、と言われているようだった。
俺はそん時はもう夢中で食べた。それぐらい腹が減っていた。
裏を返せば、そこまで腹が空くまで気がつかずにアイツの元に通い続けていたってことだ。
そしてあん時の馬鹿な俺じゃ分からなくて、後で思い返して気がついたことがあった。はっきりは分からないが、この木の実はアイツが全部用意してくれたものなんじゃないかって。
それを知ってしまうと、感動のあまり涙が出た。アイツがいる前なのに。俺、情けねえな。情けなくて、ごめんな。こんなに、何年も経ったあとで気がつくなんて。
それからは、ボクとコイツは何故か当たり前のように一緒にいるようになっていった。
どこがどう間違って、どうしてこうなった。
まあ、コイツの気持ちに比例してか、ボクもあながちマンザラではなかったらしいね。
ウットウシイが退屈にはならないコイツについて行こうと決めた時から、ボクは一度も後悔をしたことはなかったんだ。
それからコイツが他の存在【ポケモン】を持てる歳になって、仲間も増えていって、ボクはいつもあることを思うようになった。
ずるいとは分かっている。ボクは普通の子とはイッセンを画す。それでもあの時は、コイツと二人きりの世界だったのに。分かっているんだよ、本当は。君の内情なんて、とっくのとうに分かっていたんだ。でもね、コイツはボクをちっとも使ってくれないのです。
――――ねえ、どうしたらボクだけを見てくれるんですか?
――――どうしていたら、スベテが変わっていたんですか。
出会ってから何年か経って、旅に出たいと打ち明けた俺に、なんとアイツはついてきてくれて、俺はそのことが信じられなかった。
そうしてワクワクの胸躍る冒険が始まって、俺とアイツは苦労しながらも道程を楽しんだ。
いろんなことがあって、いつの間にか腰につけたモンスターボールが五個になっていて、俺の旅は本当に楽しいものだった。
ジムリーダーに挑んで、負けて、負けて、やっと勝って、そうやって全国のバッチを集めて、俺たちの友情は深まっていった。
アイツは特別だから、そうそうは使わなかったし、使えなかった。
それでも、アイツだけはモンスターボールに入れなかった。
アイツは、絶対に縛られてはいけない存在だと、頭のどこかで考えていた。
いつも近くにいて、いつでも触ってあげられて、ずっと俺は繋がっていられるんだと、思ったんだ。
でも、勘違いだったんだな。
ボクはキミにモンスターボールには入れてもらえなかった。
ボクは大嫌いなモンスターボールにでも、コイツに入れて欲しかったんだ。ボクは、不安定な存在に変わりなかったから。
でもコイツは、どんなに願っても入れてくれなかった。
バトルにも、出してくれなかった。
どうしてボクはみんなと違うの? コイツにとってボクは、ただの『特別』なだけの存在にしか過ぎなかったのだろうか。
ボクは普通の子と違って、コイツに伝えることができる。でも、言わなかった。だからコイツはボクとカイワできることを知らない。
ボクはそれでよかった。コイツがいつか、ボクに気がついてくれると信じていたから。
ボクは、我慢できたんだ。
俺は、アイツが何でも俺の全てを見透かしている、と感じていた。いや、信じ込んでいた。
でもな、甘かったんだ。それは幻想だったと、さらに何年も経った後で気がついたんだ。
でも、気がついたときにはもう遅かったよ。アイツは。
いつも一緒にいて、当たり前に一緒に旅をして、思い出が積もっていった。
当たり前が、当たり前というはかない幻に、ぬくぬくと無知の俺は浸かりすぎてしまった。
もう、今目の前を、頭の中を無数に駆け巡っている思い出の走馬灯に触れても、何も帰ってこないんだと、実感してしまったんだよ。
ボクはコイツに、たった一言をもらいたかった。
そのたった一言があれば、ボクはとても幸せになれたんだ。
たくさん我慢することがあっても、ボクは幸せを噛み締めることができたんだ。
モンスターボールに入れてもらえなくても、バトルで戦わせてくれなくても、ボクははっきりと感じて、コイツに微笑むことができたのだろう。幸せなのだよ、と。
でもね、それでもボクは笑うことができるよ。
どんなに仲間が増えても、確かにそばにいてくれたから。
いつも撫でてくれたから。幸せだよって。
ごめん、ごめんなあ。
もうどれだけ泣いたって思い出には立ち返れない。
もっと早くに俺が気がついてやれれば、何かがきっと変わっていたのかもしれない。
ほんとうに、頼りなくて気が回らなくて、いつまでも馬鹿でさ。
たった一言だって言ってやったことが無かっただなんて。
撫でて抱きしめる前に、言わなければいけないことだったのに。
小さい頃は当たり前のように口にしていたのに。なんで、いつから言えなくなっていたのだろうか。
今から言っても、アイツに届くのだろうか。
大丈夫、知っているよ。
キミはボクを誰よりも愛してくれた。キミが誰よりもボクを好きでいてくれているって。
ボクはもう、キミに体を撫でてもらうことも、キミをボクの温かさで包むこともできないけれど、ボクも言いたかったんだよ。
キミが、大好きです。ウットウシイキミが、大好きです。
キミとの毎日はとても楽しくて、思い出にするのがもったいないくらい、輝いていたんです。
もっと、一緒にいたかったです。
特別なはずのボクが、ずっと最果てで一人で生きてきたはずのボクが、キミよりも先にそばにいられなくなってしまったのでしょうか。
コトバに出すだけでは足りないくらいに、キミを、ずっと愛していました。
だから、泣き虫なキミよ、泣かないでください。
泣いて泣いて、あの時と同じくらい泣いて、痩せて。
でも、たくさんの木の実を用意してくれるアイツは、もう隣にはいない。
こんなに心がぽっかりとしたことはあっただろうか。
でも、泣いてばかりはいられない。
アイツにきっと心配をかけてしまうだろうから。
今だから言えます。成長してからずっと言えなかった言葉を。
もう遅くとも、自己満足でも、アイツに伝えたい。
キミが、大好きでした。
俺の唯一は、ほかの誰でもない、キミだけなんだよ。
情けなくて頼りないトレーナーで本当に、本当にごめんなさい。
ボクがキミのそばから離れたら、キミはどうするのだろう。
キミは、きっとああするのだろう。
手に取るように分かるよ。
ずっとそばにいたんだからね。
でももう、駄目みたいです。
あたりが真っ暗で、何も見えません。
キミといつも見ていたはずの気分屋な空でさえ、真っ黒に染まっています。
最後にもういちど、伝えさせてください。
愛しいキミよ、ずっと、これからも大好きです。
ボクはきっと、生まれ変わってキミのそばにまた行くかもしれません。
その時はまた、キミのそばにいさせてください。
俺は、東に行こうと思う。
東には、全ての始まりが詰まった場所があるから。
そこにキミを連れて行って、たくさんの鮮やかな花で埋めようか。
そして、冷たい土の下にいるキミが寂しくないように、毎日話をしに来ようか。
きっとキミは土を盛り上げて、太陽を目指して伸びて、いつか可憐に咲くのだろうね。
その花に毎日水をやって、仲間と囲んでまた話をしようか。
話の最後に、俺はキミに言おうと思う。
キミはとても綺麗だよ、と。
また、キミに会えるといいね。
もしも会えたなら、キミにまた俺は猛烈にぶつかっていくのだろう。
うんざりしても、最後にはちゃんとそばにきてくれるのだろう?
そうしたら、言えなくなっていた言葉をキミを撫でながら毎日言おうか。
キミはちょっとだけ古臭い一面もあったから、こう言うのもいいかもしれない。
月が綺麗だね、と。
いつまでも、キミを想うよ。
2013.2.27 22:16:58 公開
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