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短編企画「続」

著編者 : 不明(削除済) + 全てのライター

“サネ”の物語

著 : リルト

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 東に行こうと思った。

 そこに行けばきっと会えるから。そこに行けばきっと見つけられるから。
 だから、東に行こう。だから、あの場所へ行こう。
 そうすればきっと、また――。



 *   *   *



 海底の遺跡は楽園の入り口。
 海底の遺跡は王の霊廟。
 海底の楽園には宝あり。
 王祀(まつ)る所に真実は眠り。
 
 海底の神殿に“サネ”の守り人あり。



 *   *   *



 少女は「それ」の前ではたりと足を止めた。
 まじまじと見下ろす。うめき声がしたから尋ねた。

「で、こんなところで何してんの、あんた」
「行き倒れてるんですう……」

 そりゃないだろう。という答えだった。



 *   *   *  



「……ぶはああ! 生き返りました!」
「……あっそ」

 並べた料理をそれはもう幸福そうな顔でたいらげる、その青年を観察する。髪は多分黒い。目が夜空みたいな黒だからそうだと思う。……なにせあちこち汚れていて、本当に黒だかわかりゃしないのだ、この男は。同じく薄汚れた旅装束、背中に背負っていたバッグの中に入っていたのは寝袋着替え一式懐中電灯予備の電池小型の酸素ボンベ簡易コンロお金少々。どうして食料がない。モンスターボールももっていなかったから、トレーナーじゃあないよねー……どうして旅なんかしてるんだか、こんなどんくさそうな人が……。

 うさんくさそうな態度は隠せない。だって、朝も早くから砂浜で寝転がって、何をしているのかと聞けば「行き倒れている」ときた。怪しさ全開である。
 ……そうとわかっていて食事出す自分も相っ当お人よしだけど……しょうがないじゃない、と少女は心中に独白する。食べ物もってなかったんだから。

「本当においしかったです、助かりました! ああ、あのままだと霧の中で死んじゃうことになってましたよ……。あなたは命の恩人――」

 目つきがどんどん胡乱になっていくのが自分でわかった。

「そこまで。あんた、どうしてこんなところで行き倒れていたのよ」

 まずった。ちょっとそう思った。その青年、ぱあっと顔を輝かせたのだ。

「聞いてくれますか! ああ、それがとんでもない話でして、霧の奴にもてあそばれたのです、僕は!」

 の一文から始まった話を統合すると、つまり。

「大した装備もなくて14番道路に入って、遭難して、三日さまよった、と……」
「やだなー、それは省略しすぎですよー。その三日の間に様々な艱難辛苦(かんなんしんく)がっ」
「よーするにあんたが大馬鹿だったってだけの話でしょ」

 この男の人、頭のねじ一本とんでんじゃなかろうな。振付がすさまじい中身のない話を聞かされた少女は怒る気力も果ててうなだれた。イッシュ地方が誇る(ほこれないけど)霧の名所をこんな軽装備で……。
 話を聞いたら川に落ちたり階段から落ちたり草むらに入っちゃってポケモンに追い回されたり。そりゃ薄汚れもするわ。同情はできないけど。

「あの、それで、ちょっとお尋ねしたいんですけど―」
「何?」

 もー早めにおっぱらおう。そう考えていた少女は、男の言葉にひそかに目を見張った。

「このへんの海に遺跡があると聞いたんですが、どのへんかわかりますか?」
「さあ、あたしは知らないわ」

 ちょっと間が開いて緊張する。てのひらの汗を意識した時。

「そうですかー。残念だなー」

 間延びした声がして、ほうっと息を吐き出した。不意打ちでこられると心臓に悪いっ。
 どくどくする心臓の鼓動が聞こえないように顔を上げる。できるだけ自然体を装って尋ねる。

「そんなところになんの用があるのよ。あそこはただの迷路よ?」
「はあ。らしいですねー」
「遺跡の探検家とか?」
「はあ。みたいなもんです」
「……単なるモノ好き」
「はあ。そうですねー」

 少女はばんっと机をたたいた。

「煮え切らないわね! 何にも答えてないじゃない!」

 男は――腹立たしいが、絶対に認めたくないが! ――にこりと、きれいに笑った。

 そして一言。

「答えたくないんですよ」

 絶句すること三秒。言葉はスパーンと飛び出した。

「それが助けてあげた人への態度!?」

 自分でもどうにかしたいと自覚しているのだが、自分の気は全く長くない。沸点まで達するのは容易だった。
 怒鳴った自分に青年は困ったようだった。

「あー、それ持ち出されたらなー……一飯の恩かあ。う〜ん……じゃあ、最初の質問にだけ」

 ピ、と指を立てる青年に、つい身を乗り出して。

「会いたいやつがいるんです」
「え?」
「この星のどっかにはいるはずなんですけどなかなか会えない。だから、探しているんです」
「……探している……?」
「ええ。……さってとー、忌々しい霧も晴れたことだし! ご飯、本当にありがとうございました!」

 真剣な表情から一転、へらへら笑って頭を下げるそのギャップについていけなかった。自分はとっさに「どういたしまして」と答えてしまう。我に返った時は遅く、その男は「それじゃ!」と家から飛び出していた。まるで、逃げるような速さで――。

「……本当に、逃げた?」

 まさか。まさかまさか、そんな、あの男。

 そういえば、酸素ボンベが荷物の中にあった!

「神殿の秘宝を狙う、泥棒!?」



 *   *   *



 太陽の昇る方に行こう、と思った。

 昇ってきた太陽をかすめるようにして、光の塊は消えていった。呆然と見送ることしかできなかった自分。
 追う資格もない、そう思っていたけれど。

 ……だって、どうしようもないんだ。
 ……もう一度、もう一度だけでいい。

 どうしてか、答えがもらえたら笑って見送るから。

 だから、太陽の昇る方へ。



 *   *   *



「うーん、悪いことしちゃったかな」

 海底の楽園には宝の守り人。こういう場所にありふれた言い伝えだろうと思っていたら、町から少し離れたところに建つ家を見つけて、ついでにそこで意識が途切れてしまって。
 拾われたから、ついでにと思って鎌をかけたら当たりだった。

 小型のボンベをくわえ、一息に海底を目指す。ちょうど真下にある、周囲と比べて不自然なでっぱり。いくつもの遺跡を回るうちに見分け方もそれなりにわかってきた。しかも海の中にあるというのに、この人工物はそうとは思えないほど保存状態がいい。入り口を見つけて、中に入り込む。

 嘘は言っていない。何一つ。

 けれど、だからいいのだというわけではないことは、わかっていた。







 どうやら謎があるらしい遺跡の解除方法を見つけたのは三十分ほどたってから。それまでに数度、海面に上がって酸素を補給している。一つ目の仕掛けを解き、二つ目の仕掛けを解き。
 三つ目の仕掛けを解いたとき、明かりが見えた。

「……ぶはっ」

 細々とした明かりに向かって上がっていくと、空気に満ちた空間に出た。酸素が残り少なくなっていたボンベをはずし、周囲を見回して。

 ふっと、わらった。

「……やっぱり先回りしていたね、“サネ”さん」



 *   *   *



「どうして、その名前」

 驚異的な速さで奥の間までたどりついた青年を見る。ざばりと水から上がる、その傍(かたわ)らにはやはりポケモンの姿は見えない。自分の傍らにいるアバゴーラに視線をやって、彼はあれ、と頓狂(とんきょう)な声を上げた。

「アバゴーラじゃないか。……あー、ひょっとして、それも含めて“海底神殿”?」
「あたしの質問に答えなさい!」

 できるだけ威厳を込めて叫ぶが、青年はひるむ様子もなく肩をすくめた。……そんな役回りが苦手なこと、自分でもわかってる!

「海底の楽園を守る、サネって名前の守り人の話は結構有名ですよー。ずーっと同じ名前だから、ひょっとしたらそんな名前の一族かもしれないけど。交渉ですが、そこ、どいてくれませんか?」
「どくわけないでしょ」

 知っていたのか、とうさんくささのわけがようやく分かった気がした。そりゃうさんくさいわ、知っていて何も知らないふりをしていたのだから!

 アバゴーラも臨戦態勢を取る。弱ったなあ、と、これだけは変わらずとぼけた声が小さく響いた。

「僕はただ、探しているだけなんですって」
「あたしはそれをさせないためにここにいるのよ!」

 アバゴーラ! と呼ぶと、アバゴーラは青年を拘束するために動き始める。走り寄るアバゴーラを、じっと見つめて。

「……使いたくなかったんだけどなあ」

 そんな言葉とともに、電池が放り投げられた。
 どうするつもりだとためらう。電池ってそれだけで感電させたりできるものだっけ? その間に電池は地面に落ちて――。

 白煙を四方八方にばらまいた。

「!? なにこれ!?」
「ご心配なく―、ただの催眠ガスです。僕はポケモンもってないんで、せこかろうがどんな手でも使わせてもらいます―」

 間延びした声が、承服できない内容を告げる。なんですってえ!?

「卑怯よっ、こんなの……真正面から、かかって……きな……」

 ああまずい、と思った時にはろれつが回らなくなっていて。

 暗転。



 *   *   *



 重いものが落ちる音が二回して数分後。真っ白だった煙は徐々に薄らぎ、その効力をなくし始めた。

 酸素ボンベを口にくわえ、ひそかに壁の近くへ避難していた青年はその様子を見て動き始める。使った催眠ガスは空気に触れて数分で効き目がなくなる、というものだ。いつもは遺跡をすみかとするポケモンなどに使っているのだが、人間にも効く。しかし。

「一飯の恩をこんな形で返すなんて……。ほんと、ごめんなさい」

 すうすうと眠っている少女に手を合わせ、ぺこりと頭を下げる。気休めだけど、自分にとっては一飯の恩より自分の願いの方が大事なのだ。

 ひょい、と頭を上げ、そして彼女が背にしていた方を見る。石組みの部屋の中、入り口の真正面にある台座。はやる思いでそこまで足を進めて。

「……ああ」

 ついた吐息は、感嘆ではなく、失望だった。

 台座から一歩引く。そこにあったのは彼が捜していたものではなく、ずいぶん古いものだと思われる王冠だった。色褪(あ)せぬ黄金の細工の中、いくつかの宝石が燦然(さんぜん)と光を放っている、好事家(こうずか)が見たら唾を飲んでほしがるに違いないものだ。歴史的な価値も含めれば、いくらの値が付くかわからない――。

 けれど、彼はそんなものには興味がないのである。

 あきらめきれない様子でぐるりと周囲を見回し、さらに壁などを調べる。しかし一つ見つけた仕掛けは外に出るためのもの、もう一つは絶滅したと考えられていたプロトーガ、アバゴーラたちがいる場所への移動装置で、部屋としてはここが正真正銘最後であった。隅々まで調べ、彼は渋々、ここに探していたものがないことを認めた。

「ここが、東の果てだったんだけどなあ……」

 思わずつぶやく、その言葉に反応するようにサネが「う……ん」と体を揺らした。青年は「おっと」とあわてて部屋から出る方の仕掛けへと近づく。

「神殿を騒がせてごめんね、守り人の一族。僕の捜しているものはここにはなかったみたいなんです。お互いのためにも、二度と会わないといい、ですねっ!」

 言葉の最後で力を込め、仕掛けを作動させる。青年の姿は壁の向こうに消えた。

 そして、目覚めたサネが慌てふためいて確認した台座には何食わぬ顔で輝く王冠が残っており。彼女はアバゴーラと疑問でいっぱいの顔を見合わせた。

「……なにしに来たの、あの男?」

 さあ。とばかりにアバゴーラが鳴いた。



 *   *   *



 それと同じころ。サザナミタウンからこっそり離れる青年の姿があった。
 草むらから十分離れ、彼は空を仰ぐ。なびく真白な雲に、理不尽なほど何もかもを奪っていなくなった姿を思い出す。

「……白耀(はくよう)。絶対、探し出す」

 その名をそっとつぶやいて。青年はあてどなく歩き始めた。



 *   *   *



 ただ探究していた青年の前に現れたのは真実の白。
 探求しつづけた青年の前から消えたのも真実の白。

 いなくなったのが君なら、もう僕に資格がない、のかもしれないけれど。







 ……会いたいんだ。
 ……どうしても、真実が知りたいんだ。







 だから、探そう。
 だから、もう一度。







 君が消えた太陽の先へ。







 探しに、行こう――……。









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2013.2.26  17:44:31    公開
2013.3.2  19:37:32    修正


■  コメント (1)

※ 色の付いたコメントは、作者自身によるものです。

 こんにちは。
 企画の話は聞いていたのですが、全貌がはっきりするまでは書かないようにしよう、と待っていたリルトです。
 この話だけじゃ納得できないので、もう一話書こうかな、書けるかな、忙しいしなーと葛藤中のリルトです。期待しないでください、ほんとに。

 というわけで、題名決定二分後に題名を変えた「“サネ”の物語」です。もとは「探究するもの」のはずでした。でもこの話、キーワードが「サネ」なので、そっちにするかとあっさり改名。ひどい作者です。
 さて、タネばらし(決して打ち間違いじゃありません)しますと、「サネ」は「真」「実」「守」どれにも共通した読み方です。いやあ、この読み方があってよかったです、ほんと。
 というわけで、これは「真実」と「守り人」の物語。……微妙に盛り上がりに欠けます、という文句は謹んで拝聴しましょう。

 「空白」のときのように設定がたくさん、というわけではないので、背景は皆様のご想像にお任せできます。どうぞいろいろ想像してくださいな♪

 それでは最後になりましたが、この短編企画を主催なされる森羅さん。スレ主の坑さん。このような機会を設けていただき、感謝を。……お疲れ様でした、はまだ言えませんね、頑張ってくださいませ。
 そしてそのほか、このあと企画に加わるであろう方々、今この話を読んでくださったあなたに、お礼を申し上げます。

 それでは、また♪

13.2.26  17:58  -  リルト  (lilt)

 
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