短編企画「続」
ひまわりと、夢。
著 : 不明(削除済)
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東に行こうと思った。
「でも東ってどっち?」
「は!?そこから!?」
***
『お母さん、あのねっ!私ね、大きくなったら…旅に出たいの!』
『そうなの、なら一人でいろんなことが出来るようにならなきゃね?』
『うん!頑張るよ!』
久々に見た昔のころ夢は、私がまだ小さくていろんな夢を母に語っていた。いろいろな夢を。パンを作る人になりたい、船にのって海を渡りたい、小説を書く人になりたい…。将来の夢について語っている私を見て、母はにこにこ笑っていた。
その語った多くの夢をなにひとつ叶える事なく、私は今ベッドの上に座っている。
さっきの夢は、母に語った最後の夢だった。あの夢の話をした後、私は夢について母に語ることはなくなった。だって、その後におきた事故が、私から夢を希望を全部消してしまった。
私の足は、もう動くことは無い。
「どうしたの?ぼーっとして」
がちゃりと扉を開けて部屋に入ってきた母が言った。
「小さかったときの夢を見たの。久しぶりに見たなぁ…」
そう言った私の顔色をを窺うように、母はちらりとこちらを見た。そして、目線をそらして朝食の用意をしながら、
「もうすぐ誕生日ね、なにか欲しいものはある?」
と尋ねた。
「そうだなぁ…。このあいだもらった本も読み終えちゃったし…、パズルも出来上がったし…、なにがいいかなぁ」
そうだ、あれをもらおう。
「ねぇ、お母さん。私、あれが欲しい」
「あれ?」
「そう、あれーーー」
***
誕生日の日、私の手元にはひとつのモンスターボールがあった。
「なかは…?」
「開けてからのおたのしみ、ね?」
と言って、母はにっこりと笑った。
「開けていい?」
「気に言ってくれるといいんだけど」
と言って、私の反応をうかがっていた。
ボタンを押してボールを開けると中から茶色いもふもふとした生き物が出てきた。出てきた茶色いもふもふは、ふるふると体を振るわせてきょろきょろとあたりを見回した。
「よぉ。ご主人さん?」
振り返り、こちらをみた茶色いもふもふはかわいい見た目から想像できない言葉遣いでそう言った。
「ご主人、?」
かわいい、見た目はかわいい。でも、
「あ?ご主人は、お前じゃないのか?こっちか?」
と言って母の方を見た。
……口が悪い!
「口…悪くない?」
「かわいい見た目なのにって?」
睨むようにちゃいろいもふもふがいった。
「…見た目関係なく、口が悪いよ」
「ふんっ」
この口の悪い茶色いもふもふ、いや、イーブイがうちの家に来てから、私の部屋は草花に溢れていた。外に出られない私に気を使ってなのか、朝から外に出て、草花を取ってきては、自慢げに見せてくる。
「おい!今日はこんなの見つけたぞ!」
口にくわえて持って来たのは、大きなひまわりだった。
「どこからとってきたの…?」
「もらったんだよ」
「綺麗だね」
「そうだろ!その周りにはすげーいっぱいこんなひまわりあったんだがらな!!」
自慢げに話すイーブイは、ひまわりを私の近くに置き、ベッドに乗り上げた。
「ほんと綺麗だね」
「だろ!?ほんとに綺麗だったんだ!いっぱい!花があって!」
「…いいなぁ」
とひまわりを見ながらほぼ無意識につぶやいていた。
「!!!じゃあ行こうぜ!明日!」
そのつぶやきを聞いたイーブイが、食いついた。
「行けないよ、私は歩けないもん」
「そんなのどーにかしろよ!歩けなくても動くだろ!」
といってイーブイは私の足をばしばしと叩いた。
「……動かないよ。感覚も無いの」
そう私が言うと、イーブイはぴたりと動きを止めた。
「……動けないのかよ」
「動けないね」
「歩けないのか?」
「足で歩くことはできないの」
「……あの、風景…見せられないのか?」
「写真でなら見れるよ」
「……もういい!!」
イーブイはベッドから飛び下りて部屋から出て行ってしまった。
「ま、って…!!」
そう言っても、イーブイは止まってくれることなくて、部屋に一人取り残されてしまった。
いつもなら、イーブイが取ってきた草花を、私が持っている図鑑で調べて……。
「……今日はひまわり…なんだよ」
太陽の花なんだよ…。夏に、咲くんだよ。
………今の季節は?
……ひまわりが咲くにはまだ早い、よね?
「……あれ、?これ、作り物…?」
持ってきてくれたひまわりに触ってみれば、プラスチックの感触。いつもは、作り物なんかじゃないのに?なんで?
そうやって考えてるうちに、がちゃりと部屋の扉が開いて、すよすよ寝てるイーブイを抱えた母が入ってきた。そのイーブイを私の膝の上にのせると、イーブイがいつもどこに行っていたか、話してくれた。
毎日通っていたのは、花屋さんだったこと。そこで花の話を聞いて、花屋の人がたまにくれる花を私にもってきていたこと。もらえなかったときは、帰りに野草をとってきていたこと。外に出て行かない私をなんとか外に連れ出そうと、外の世界は素晴らしいと伝えようとしていたのかもしれない。
足が動かないと知らなかったから。私が外が嫌いですでないと思ったんだ、きっと。
「口は悪いのに、優しいんだね」
そうつぶやいて、イーブイを撫でた。ふるりと震えてまたすよすよと寝息をたてて、寝ている。
「お母さん。私ね……」
***
夏が近づき、だんだん蒸し暑くなってきた。
あれから一ヶ月が経った。しかし、変わらずイーブイは私に草花を持ってくる。
今日は、ひまわり。一ヶ月前と違うのは、作り物ではないということ。
「ねぇ、どこでとってきたの?これ」
「は?とってきたんじゃねぇよ!もらったんだって!それに、どこか言ったところで、行けないんだろ」
拗ねたようにそう言うと、いつものようにズルズルと植物図鑑を持ってきた。
それを受けとり、開きながら、
「近くならね、行けないこともないよ」
「…は!?歩けるのか!?」
「違うよ。車椅子、練習したの」
「…ってことは?」
「外に、出れるよ」
そう言うと、イーブイはぴょこぴょこと飛び跳ねて
「やった!今度花屋に行こう!きれいなひまわりが!いっぱいあるんだ!」
と言った。るんるんとするイーブイを撫でながら、私はまた話始めた。
「後ね、車椅子に慣れていたら、旅に出たいの」
「旅?」
「そう、旅…というかプチ旅行?」
そう、小さいときに母に話した夢の一つ。
「へー、そんなことしたかったのかー」
「そして、その旅の本を書くの!」
「そんなことしたかったんだな」
意外だとでもいうように、イーブイがつぶやいた。
「一つ一つ、叶えていけたらいいかなって…」
そう言うと、イーブイはにこにこわらって、
「仕方ないから、全部俺が一緒に叶えてやるよ!」
と、私に飛びついてきた。
「そのかわり、俺の夢も叶えろよ!」
「もちろん、明日、お花屋さんにいこっか」
「おう!いい花屋見つけたんだ!いい匂いなんだぜ!」
***
それから、一年がたって。二度目の夏。
私は遠出できるくらい、体力もつけたし車椅子の練習もした。
お医者さんから、二三日ならいいと許可も出た。
まずは、どこに行こうかな。
東に行こうと思った。
「でも東ってどっち?」
「は!?そこから!?」
これは、私とイーブイの夢を叶える旅が、始まったときの話。
2013.3.19 23:51:14 公開
■ コメント (2)
※ 色の付いたコメントは、作者自身によるものです。
この「続」が永遠に続くように 16.6.18 13:38 - ユリ (ゲスト) |
久々に本腰を入れて短編を書かせてもらいました!!一回書いて見たかったんです。がっつりしたポケモンとの絆の話。ぎりぎりですが、間に合って良かったです。楽しく書かせていただきました!企画者様たちに感謝!! 13.3.19 23:53 - 不明(削除済) (saku564) |