短編企画「続」
警官とピジョン
著 : siki64
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東に行こうと思った。
蒸し暑い日々が続く8月上旬のタマムシシティ、この日もヒートアイランド現象と異常な位までの猛暑でこの町は朝から気温が高かった。9時を過ぎた現在の気温は28度、朝から熱中症で倒れる人やバトルの前に暑さでやられたポケモンたちが運ばれていった。おまけに一部地区で断水や停電が起こり病院やポケモンセンターはもちろん警察消防もお手上げ状態だった。
そんな中、ここ中央区公民体育館前派出所の警官小野寺アキラ(25歳)巡査長は制帽を団扇代わりにしながら一冊の本を読んでいた。この部屋の中も暑く扇風機は停電のため止まっていた。彼の額からは汗が滴り落ちていた、だがそんなことは彼は気にしていなかった。本に夢中になっていた。
「何だこりゃ?」
不意に彼が話した。
「どうしたんっすか先輩?」
彼の後輩清水が話しかけた。
「どうしたもねえよ、こいつを見てくれよ。」
「本?先輩のですか。」
「今朝派出所の前に落ちてたんだ。」
小野寺が出した本は黒い革のブックカバーで覆われてしおりが挟んであった。大きさと厚さはラノベサイズだった。
清水は少し本の中を見た、中は短編小説集だった。色々な話がありポケモンが主体だったりトレーナー目線の話などレパートリーは様々だった。
「へぇ〜なかなか面白いですね。色々あって。」
「問題は18ページから先だよ先」
「18ページ?・・1818・・・・あれ?」
見ると18ページから先がなかった。真っ白な白紙だった。それより前は確かに文章が書かれている。しかしなぜか白紙のページが圧倒的に多かった。
「あれれ〜おっかしいぞ〜ページが真っ白。」
「だろ、なんでか知らんが白紙なんだよ18より先が。途中まではあるのになぁ・・・・。」
「・・・・・・・わかりました!」
清水が閃いた。
「ダイナミック落丁!」
「出荷の時点できずくだろう。」
すかさず小野寺が突っ込みを入れる
「アウチ・・・・じゃあスタイリッシュ落・・・」
「変わってねーよ。まあどの道大切にしてるっぽいし持ち主が来るまで預かっておけ。俺はパトロールに行ってくる。」
Yシャツの袖で汗をぬぐい小野寺は制帽をかぶった。
「・・・・はい。」
しょんぼりと清水は返事をした。
外に出ると強い日差しが照りつけた。
「か〜、糞あちい!」
思わず太陽をにらみつけた。表に止めてあった自転車のストッパー外すと体育館前にあるイチョウの木まで押して行った。木は青々と茂っていた。
「お〜いピジョン!出でこ〜い、パトロール行くぞ〜。」
木に向かって叫ぶと一羽のピジョンが下りてきた。そのまま自転車の後ろに降りた。
「んじゃ、行くか。」
後ろにピジョンを乗せたまま自転車を漕ぎ始めた、今日は東地区担当だ。
小野寺が出てからしばらくしてクラブの子供たちが体育館に入って行った。停電はまだ続いているのに熱心なことだ、そう思いながら清水は見ていた。ふとさっきの本のタイトルが気になり調べてみた、ブックカバーを外すとそこにはこう書いてあった。
『続』
「あの〜・・・・。」
「ん?」
入口に少女がいた。13〜15歳位だった。
「どうしましたか?」
「その本・・・私の・・」
「え・・・ああ、ごめんごめん。はいどうぞ。」
あわててカバーを戻すと少女に本を渡した。
「・・・・ありがとう・・ございます・・・」
「いいって仕事だし、そうだ!ちょっと書類書いてほしいし飲み物持ってくるから待ってて。」
席を立つと奥の方へ入っていった。
「カメール、悪いが外に水まいといてくれねーか?悪いな。」
台所にいた清水の相棒カメールはチョンと小さく敬礼すると表に出て行った。
冷蔵庫に入れてあった麦茶を出した、氷で冷やしておいたがだいぶ生ぬるくなっていた。コップに注ぎ半分溶けかかった氷を入れると少女のいる方に持って行った。
「おまた〜、・・・ってあれ?」
そこに少女の姿はなかった。表からはカメールの水の撒く音と子供たちのはしゃぐ声が聞こえた。表に出てカメールに聞いた。
「カメール、ここにいた子は?」
カメールは首を振った
「あれぇ?」
陽炎のごとく消えた少女に清水は首をかしげた。
「ふざけやがって!!バトルだバトル!」
「ああ上等だ!ぶっ潰してやる!」
「まあまあ二人とも落ち着いて・・・・」
「「おまわりは引っこんでろ!!」」
東地区にパトロールにでた小野寺はさっそく路上での喧嘩の処理に追われていた。内容は不良二人組によるもので肩がぶつかっただけの些細なものだった。
「まあ二人とも落ち着いてまずは話ましょ・・。」
「おいテメエ、謝るっちゅう言葉をしらんのか?あぁ?」
「それはこっちのセリフだ。」
聞いちゃいない
二人ともモンスターボールを取り出して勝負する気満々である。
熱い日が続く中イラついてるのはわかるが、わざわざ道のど真ん中しかも人目のある所で揉め事は起こしてほしくない。余計熱くなる。
「あの〜すみません路上のポケモンバトルは禁止されていますし人目もありますのでまずは落ち着いてください。」
小野寺は説得を続けたがあまり効果はなかった。
「うるせぇ!いけ、フシギソウやっちまえ!」
「いけ!ダグトリオ。」
ついにバトルが始まってしまった。指示を出すと二体は次々と技を出し攻撃していった。
「おいこら!今すぐ止めなさい、おい!やめろっつって・・」
フシギソウの方のトレーナーを抑えるとフシギソウが小野寺に向かって、「はっぱカッター」を繰り出した。見事に命中し小野寺は吹っ飛ばされた。街路樹に思いっきり頭をぶつけかなりのダメージを受けた。頭を抱え込んで倒れてる小野寺にむかてピジョンが心配して飛んできた。
(情けねえな・・・俺・・)
心の中でそう思った。
昼を過ぎた午後1時、日差しは一層強くなり気温もピークを迎えていた。顔の右頬にバンドエイドを張り顔面擦り傷だらけの小野寺は商店街の歩道を自転車にピジョンを乗せてトボトボと歩いていた。あの後、近くの交番の警官や本署からの応援で何とかおさまった。(二人は器物損害と公務執行妨害で連行された。)今の彼の心にはどうしようもないモヤモヤがあった。
18のとき、父にあこがれ警察学校に入った。タマムシ大学にも入れる学力があったのにもったいないと周りからは言われた。入学後も成績は射撃以外はトップだった。20のときに中央区公民館前派出所に配属、以降お巡りさんとして日々を過ごしてきた。パートナーのピジョンとは3年前に出会った。派出所前のイチョウの木に住み着いたピジョンになんとなくボールを投げたらゲットしてしまいそれからずっと彼のそばにいた。警官になる前から付き合っていた同人誌作家のミコとも最近同居し始め結婚の話も持ち上がっていた。
憧れで入った警察、最初のころは熱中し真面目だった。だが今は昔あった憧れは無くなってしまった。ただ毎日を何となく過ごすだけでしかなくなった。思い切って巡査長に昇進したが給料もあまり上がらず面倒事が増えるばかりである。今日もダサい所を市民に見せてしまった。たぶん苦情も来るだろう、そしたらまた上からお怒りが・・・・。
「(警官・・・辞めようかな・・・・)」
赤信号を待っていながら心の中でつぶやいた。
「アキラ兄ちゃん!」
「え!?」
不意に声をかけられ驚き声をかけられた方を見ると同じマンションの隣の部屋の子サダオがいた。息を切らしていた。
「どうした?そんなにあわてて」
「姉ちゃんが・・ミコ姉ちゃんが!」
「あいつがどうしたって?」
「川に・・橋から・・落っこちた!」
「嘘ぉ!!」
ナンテコッタイ
「しかも頭から勢い良く」
どうしてそうなった
「ど、どどどどこの川!?」
「土手沿いの深い川」
「よし、すぐ行く。」
自転車をターンさせるとサダオを置いてきぼりにし一目散に川に向かった。さっきまでのモヤは無くなっていた。
夕方、日は西へと傾きタマムシシティは夕日に染まっていた。人通りが少なかった商店街には夕食の準備に主婦が集まっていた。その中を奇妙な二人組と一体のポケモンが自転車に乗って走っていた。一人は顔面傷だらけの警官で制服は汚れ頭にピジョンがチョコンと乗っかている。もう一人は女性で警官と同じ年頃、同じく服は汚れていた。周りの人はそんな光景をクスクスと笑っていた。
自転車をこぎながら小野寺はミコに話しかけた。
「よく頭から突っ込んで生きていたな、ってか500円くらい落っことしたからって川にダイブするか普通。」
「だって大切な原稿用紙代だし・・夏コミもうすぐだし・・」
「500円ぐらい貸すのに。」
「先月、一万借りたし借りたまんまだし。」
「おまえなぁ・・(別にいいのに)」
ミコが少し拗ねてしまいしばらく無言が続いた。
「・・・・ねえ・・・」
ミコが話しかけてきた。
「なんだ・・」
「・・今日はありがとう・・・・」
「いいよ、仕事だし警官だし。」
「かっこよかったよ、本当に。」
「・・・・・・・・」
夕日のように顔が真っ赤になっていた。
いったんミコを家に連れてき派出所に戻ることにした。
「今日は早く帰る。」
そう伝えた
6時ごろ派出所に戻った、あたりはもう暗い。入口には清水が帰りを心配して待っていた。
「先輩、大丈夫ですか。何か色々あったらしいですけど・・・」
「大丈夫大丈夫、それより俺今日はあがるわ。奥で着替えてくる。」
「あの先輩あの〜今朝の本のこと・・・」
「いいよ、明日報告してくれ」
「えぇ〜・・そんな〜」
しばらくすると着替えた小野寺が出てきた。原付のカギを指で回しながら少しご機嫌で出てきた。
「そういえばなんで今日は早いんですか?」
清水が聞くと答えた。
「たまには早く帰って、嫁さんと一緒にいたいからな。お前も彼女居るんだろ?」
「え?ええ、まあ・・・」
「大切にしろよ。」
「??」
こんなこと言うキャラだったけ。と清水は思った。
「あと清水。」
「はい?」
「警官って悪い仕事じゃないな」
「・・・ですね。」
二人とも笑みをこぼしていた。
「そんじゃ、お疲れ。」
「おやすみなさい。」
清水は敬礼した。
原付のエンジンを回すとピジョンがすっと飛んできて後ろに座った。
「そんじゃ、帰るか!」
小野寺の長い一日は終わった。
翌日
「先輩、この書類お願いします。」
「ん、わかった」
朝早くから仕事が始まっていた。
「あ、そういえば先輩。あの本の持ち主見つかりましたよ。」
「へぇ〜どんな人。」
「えっと、確か15歳くらいの女の子でしたね。でも少し目を離したらいなくなっててあの本を大切にしてる理由は聞けませんでした。」
「いなくなった?」
「ええ、もうパッと・・・」
そんな話をしていると電話が鳴った。近くにいた小野寺がでた。
「はいこちら公民館前、・・・・はい・・・はい・・・・・・了解、すぐ行きます。」
「どうしました?」
「二丁目で空き巣らしい。ちょっと行ってくる。」
席を立つと外に出で自転車を取りいつものようにピジョンを呼んだ。
「お〜いピジョン!」
今日はすぐに降りてきた。
「清水、任せたぞ。」
「わかりました。」
小野寺が出て行ったあと清水は表に立っていた。すると
「お巡りさん・・・」
昨日の子がいつの間にかいた
「あぁ、昨日の!急に居なくなって心配したよ。」
「・・・・これ・・・・」
「え?」
昨日の本を少女は差し出した。
「読んでみて・・18ページ・・・・」
言われたどおり18ページを開いた。そこに昨日までにはなかった文章が書かれていた。清水は少し不気味になった。
「その本はね・・少しづつ話が増えてくの・・・・終わりなく・・永遠に・・」
「え?・・・あ、あれ?あれれ!?」
気がつくと本も少女も消えていた。思わず自分の頬をつねった。しかし痛い、現実である。
「何だったんだ・・・あの子・・あの本、それにあの話どっかで・・」
新しく追加された話、まるでどこかの警官のある一日とそっくりだった。
今日もタマムシシティは暑い。 〜完〜
作者より
約一年間失踪して復活も兼ね今回の企画に参加させていただきました。いかがだったでしょうか。所詮語学力の無い人間が小説書くとこうなってしまいます。他の作者様に比べればまだまだですが、また少しづつ頑張っていきたいと思います。誤字などがありましたらご指摘お願いします。
最後になりましたがここまで読んでくださった読者の皆様と素敵な企画を立ち上げててくださった森羅さん、本当に感謝しています。ありがとうございました。
siki64
2013.3.18 12:17:21 公開
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