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短編企画「続」

著編者 : 不明(削除済) + 全てのライター

ある日のイツ子

著 : 不明(削除済)

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 東に行こうと思った。
 よくあるサイズのコピー紙の、ちょうど真ん中に印刷された一行をもう一度見つめる。ついでに声に出して読んでみた。
「東に来い」
 コピー紙にあったのは、この四文字だけだった。ご丁寧に中央揃えにしてあるから、紙のサイズにしては小さな文字が余計に目立つ。例えばこれが紙全体を支配するくらい大きな文字であったり、妙に洒落たフォントやカラーで書かれてあったりしたら、イツ子も気にしなかっただろう。しかし黒字の明朝体である。なんの変哲もないからこそ、丸めて捨ててしまうわけにはいかなかった。
 イツ子はこの紙を、玄関で手にした。今朝、洗面所へ向かう途中、玄関扉に上手い具合に挟まっているのが目に入ったのだ。イツ子はサンヨウシティの東の際に建てられたアパートで一人暮らしをしている中年前の女である。入居して数年が経つが、近所付き合いはないに等しい。だからこういったメッセージを遣す人物に心当たりはないし、いたずらである可能性もあまり考えられなかった。
「東に来い」
 再度、次は部屋の東側に寄って、まだその方角に太陽がある窓の外を眺めて呟いた。東に来い。玄関で件の紙を広げてから、朝食の用意をしている最中、食後のコーヒーの合間にも。――あんまり何度も読んでいるものだから、昨日も同じように口にした気さえする。窓外には降り注ぐ陽射しの中で手招きをする緑葉が見えた。

 サンヨウシティはその所属するイッシュ地方の中でもごく東に位置する町である。他に東の町というとサザナミタウンやセイガイハシティがあるが、それらはサンヨウシティからは北に見えるため、コピー紙のいう東には当てはまらないだろう。イツ子はたっぷりと悩んだふりをして、町の東に広がる夢の跡地と呼ばれる土地へ足を運ぶことにした。とりあえず顎に手を添えて思考を巡らせる仕草はしてみたものの、サンヨウシティから東といえば、そこしかないのだ。紙の文字を読む前からすでにそうと決まっていたかのように、イツ子の考えは至極直線なものだった。
 昨夜のうちに耳を落としておいたパン、冷蔵庫から出したばかりのハムやチーズ、それから数種類のジャムで昼食用のサンドウィッチを作った。本当は赤茄子や胡瓜なんかもスライスして挟む予定だったが、イツ子の気が急いたために除外された。
 手作りのサンドウィッチと買い置きのジュースや菓子類をバスケットに入れて、まるでピクニックにでも行くような気分でイツ子は家を出た。ツバの広い帽子にゆったりとした薄手のワンピース――ところどころに花の刺繍入りだ。頭の隅のほうに浮かんだもうちょっと自分の歳を考えるべきだったかしらという言葉は黙殺。もともと近い場所にある夢の跡地には、ほんの数分で到着した。

 イツ子がサンヨウシティに住むことを決めた以前から廃工場だったそこは、未だに姿を変えられた形跡がない。ところどころに残った施設の外壁や階段なんかは、重機を持ち込めば三日もしないうちに更地の状態にできるだろうと建設に疎いイツ子でも分かった。しかし何年も放置されたその場所は、今では野生のポケモンの棲み処となっている。子供たちの遊び場でもあった。
 ドラム缶を並べて秘密基地のようなものを造っていたり、むき出しになった階段を上り下りしていたり、建物の陰でポケモンバトルをしていたり。工場跡地はちょっとした公園のように賑わっていた。
 サンヨウシティの西にはポケモンを象った樹木や清涼感を思わせる水路を設えた公園がある。その中央には噴水もあり、ほったらかしの工場の埋め合わせであるかのように入念な手入れがされているが、子供たちはそちらには見向きもしない。繊細なトピアリーよりも瓦礫の山のほうがおもちゃになるのだ。とうの昔に子供の時代を終えたイツ子だって、後者のほうが楽しそうにみえた。
 ドラム缶、コンクリートの床、廃工場の階段、草の上。イツ子は座る場所をどこにしようかと今度はしっかり考えて、できるだけ町に近く、かつ子供たちの邪魔にならないよう、ひんやりとしたコンクリートの床に腰を下ろした。

 東に来い。何度も読み返して諳んじるどころか文字の位置や大きさまでも簡単に思い浮かべられるほどだというのに、イツ子はちょくちょく確認する。もしかしたら「東へ来い」だったかもしれない、と完全に覚えきった四文字の子細を疑ってみたりして、だんだんと紙の皺も気になってきた。
 いつ誰が通っても分かるように、紙の印刷された面を表にしてペットボトルの重石を置いた。それからイツ子は昼食にした。手製のサンドウィッチはパンの耳を切る以外に手間はかけなかったが、美味しく食べられた。コピー紙のこともあるが、屋外で食事をすることが久しいせいだとイツ子は思う。心地良い風と子供たちの声、飛んでくる葉や草花のにおい。どれも特別なものではないけれど、一人暮らしの部屋に籠もっていては得られないものばかりだわ。イツ子はしみじみとそれらを味わいながら、紙コップに注いだジュースを呷った。
 匿って。かくまって。
 最初それは、廃工場で遊ぶ子供たちの声だと思った。けれどもイツ子が紙コップ――風に飛ばされないようにジュースを注いである――を置いたとき、先方に桜餅のような生き物が浮いているのが見えた。夢の跡地に生息しているムンナだと、ポケモンに詳しくないイツ子にも分かった。桜餅は何かを訴えるような目で、イツ子を見つめていた。
 もしかしたら匿ってという声はムンナのものかもしれない。重力を無視してふわふわしているような生き物なら、そう口にするのも別におかしいことじゃないわね。そう思ったイツ子はサンドウィッチを消費してゆとりのできたバスケットにムンナを入れてやった。ムンナは、バスケットを空にすれば二匹は詰められそうなくらいのサイズだった。紙コップや菓子類を隅に寄せてムンナを入れてやったとき、ムンナの身体の花柄が自分のワンピースの刺繍によく似ていることに気がついた。ポケモンとおそろいなんて、仲間だと勘違いされたのかしら。イツ子は苦笑した。

 しばらくすると、草むらで屯していた子供たちがやってきた。例のコピー紙を見ても何も問わなかったので、イツ子も何も言わなかった。予想通りというか、子供たちはムンナを手に入れたいらしく、イツ子に見なかったかと訊いた。とりあえずは匿っているつもりだったので、彼らには嘘を吐いた。ムンナ? どうだったかしら、分からないわ。
 それからイツ子は余っていた紙コップを提供して、ジュースと菓子を彼らと共に食した。もちろんバスケットから取り出すときには、ムンナの存在がばれないよう慎重になった。
 イツ子は自己紹介をしなかったため、おばさんと呼ばれた。おばさん、紙コップもう一つ。おばさん、キャップこっちに投げて。おばさん、このお菓子開けてもいい? おばさん、おばさん、おばさん。一日でこんなにおばさんと呼ばれるのは初めてで、一気に歳を重ねたような気がした。当然、子供たちと談笑するのも初めてだった。彼らの秘密基地の話――そう易々と他人に話しては秘密でもなんでもなかろうに、とイツ子は思う――や、夢の跡地に生息するポケモンたちのこと、お勧めのジュースや菓子のこと。話しているうちに新しくやってくる子供もいれば、途中で帰ったり遊びにいったりする子供もいた。飲み食いする物もじきになくなり、それでもイツ子の周りは小一時間、賑やかなままだった。
 ようやく落ち着き、空になったペットボトルや紙コップ、菓子のゴミをバスケットに片づけようとしたとき、ムンナがいなくなっていたことに気づいた。隙を見て逃げたのだろう。お礼ぐらい言っていけばいいのに。
 そういえば、と思う。子供たちと話している間、コピー紙のことを忘れていた。重石にしていたペットボトルを持ち上げたりしたので、失くしてしまう前にバスケットの下に移動させておいたのだ。東に来い。文字は見えるようにしてあったが、気づいていたのかいなかったのか、子供たちは誰一人として話題に出さなかった。
 ちょっと不思議に思ったり興味を持ったりして、訊いてくれたらよかったのに。それとも彼らにはあまり面白くなかったのかしら。こんなに魅力的にできているのに。

 イツ子の前に、男が立っていた。イツ子は座ったままだったので身長差は分からないが、背の高い、廃工場にはそぐわないスーツ姿の男だった。歳はイツ子と同じか少し下。ぼんやりとしていて顔はよく見えなかったが、イツ子の好みに当てはまっていたと思う。
 待っていてくれたんだね、男の口がそう言った。
 胸がときめいていた。気がした。東に来い。コピー紙でそう呼び出したのは、彼のようである。男はイツ子に微笑み、戸惑いを隠しながらイツ子も返す。そうして互いに何か楽しい時間を過ごし――夢だった。
 目が覚めると、景色は夕闇の色をしていた。昨晩遅くまで起きていたイツ子は、長く眠ってしまったようだ。子供たちはみんな帰ったのか、辺りは閑散としている。元より薄暗い廃工場は、すでに濃い陰を伸ばしてあらゆるものを呑み込もうとしていた。
 呼び出しておいて、結局誰も来なかったじゃない。失礼しちゃうわ。イツ子は声に出してみる。
「失礼しちゃうわ」
 言ってから、その声が本当にそう思っているように聴こえて、イツ子はばかばかしくなった。はじめから分かっていたのだ。夢に出てきたような男も、他の誰だって、待っていてくれたんだね、なんて言いながら現れはしない。
 ばかばかしい。失礼しちゃうわなんて言葉を口にしたことも、一日中ずっと心を躍らせていたことも、こんな辺鄙な場所で待っていたことも、朝から何度も紙の文字を読み返していたことも、――自分に宛ててあんなコピー紙を作ったことも。

 さらにばかばかしかったのは、自分が少し泣きそうだったこと。イツ子の中の何かが、あと二回か三回くらい涙を押し出そうとしていたら、嗚咽していたかもしれない。バスケットの中の、使用済みの紙コップや食べ散らかした菓子のゴミなんかを入れた袋に、コピー紙も丸めて詰め込んだ。
 それはほとんど思いつきだった。イツ子はあまり他人と話すことのない職場に勤めており、近所付き合いはなく帰宅しても一人。ポケモンにも興味がなく、本当に一人きりの世界で、ふと考えたのだ。誰かが自分を呼び出してくれたらいいのに。
 サンヨウシティにはスポーツ観戦のできる施設も、映画を見られるシアターもなかった。ポケモンを学ぶトレーナーズスクールは大人でも参加できるし、ヨガや楽器の教室だってあったけれども、それらはすでに生徒間でコミュニティが作られているはずで、イツ子には自らその中に入っていける自信がなかった。イツ子はごく受身な人間だったため、夢中になれるものを見つけられなかったのだ。
 誰かが自分を呼び出してくれたら、というのはイツ子の中で水風船のように急激に膨らんでいった。誰かが自分を呼び出してくれたら、それはどんな呼び出しなのだろう。頭の中でいろいろ――こんなふうに誘われたら素敵だわ、あんなふうに言われたら嬉しいわ――と考えて、玄関扉に挟まる手紙の情景が浮かんだ。それを手にした自分は誰からだろうと考えて、けれどもそこに着くまで差出人は分からなくて。そんなふうに夢想しているうちに、自分なりに魅力的な呼び出し状を作り始めていた。それが、あのコピー紙だった。

 はじめは冗談のつもりだった。だから東といっても何かを指しているわけではなかったし、言うまでもなく夢の跡地を訪れたいと思っていたわけでもなかった。しかし印刷して自分で考えた文章を口にしてみると、もしかしたら呼び出しに応じれば誰かが待っていてくれるかもしれないという錯覚を起こして――やはり冗談ではあったものの――夜のうちに玄関扉に挟んでおいた。翌日、呼び出しのことを思い出した自分がこのままのノリでちょっとだけ外に出るかもしれない、そう思って、そのときに食べる分のサンドウィッチの準備も少しだけした。目が覚めたらばかばかしいと思うかもしれない。それでもよかった。
 イツ子は記憶が飛んでいたわけでもないし、演技性人格障害でもなければボケてもいない。だから、今朝コピー紙を知らない顔して手にしたのも、誰からだろうと考えてみたのも、ただの冗談だった。例えば誰かに訊かれるようなことがあったら、ちょっとした自作自演であることを明かそうと思っていた。嘘を言って、待ち人が来るのを期待している女というものを演じるのも楽しいかもしれない、とも考えていた。
 理不尽にも、あの子供たちを憎らしいと思った。ちょっと訊ねてくれるだけでよかったのに、何も言ってこないんだもの。なんだか本当に寂しい気がしてくるじゃないの。憫笑したのち、イツ子はどうしようもない寂寞の心を溜息で曇らせて、もうここにいる必要はないと立ち上がった。

 イツ子の前に、男が立っていた。西日で顔はよく見えず、けれどもその上背のあるスーツ姿には見覚えがあった。夢の中で出会った男に違いなかった。
「……やだ」
 漏らしたその声はイツ子のものだったが、イツ子自身、どういう意味で呟いたのか覚えていなかった。寂しすぎて幻覚を起こしてしまう自分に対する嫌気かもしれないし、店頭で具合のいい生鮮食品を手にしたときに零す感嘆に似たようなものにも聴こえた。
 イツ子が戸惑っていると、男は文字通り煙になって消えてしまった。夕陽に照らされて赤みを帯びた春の花のような色をしたその煙の中からは、いつか見た桜餅とよく似た生き物が現れた。確か、ムシャーナという。
 ごめんなさい、お嫌でしたか。夢の中で楽しそうにしていらしたので、この子のときのお礼にと思いまして、その。
 昼間に聴いた、匿ってというのと同じ声がした。それから、大きな桜餅の陰から小さな桜餅――あのときのムンナが顔を出した。
 ムシャーナはムンナを逃がした礼に、イツ子が見ていた夢の中の映像を作りだしたのだと言う。宙に浮いたり言葉を伝えたりすることができるのなら、人の夢をどうこうできるのもおかしくはないとイツ子は思う。子供たちからも、夢を操るポケモンがいると聞いていた。
「いえ、こちらこそごめんなさい。そういう意味の嫌ではないの。ありがとう。でも、もういいわ」
 できるだけ淡々としているふうを装って言う。けれども意識しすぎたせいで、早口になってしまった。ムシャーナとムンナは互いに顔を見合わせる。
 あなたのような方がここにおいでになるのは珍しいですね? 何かあったのですか?
 詮索するのは失礼だと承知の上で、といった話し方だった。人間よりも人間のできたポケモンだと、イツ子はぷかぷかと浮遊するムシャーナを評価する。
 今まで誰かに話したくて堪らなかったイツ子は、しかしもうすっかりその気が失せてしまっていた。一人の女の身の上話なんて、たまったもんじゃないだろう。
「なんにも。そう、なんにもなかったの」
 その言葉のあまりの悲愴ぶりに一番驚いていたのは、口にしたイツ子自身だった。

 あの、ここへはまた来られますか?
 ムシャーナは沈黙の中で、殊更遠慮がちにそう訊いた。我に返ったイツ子は、少しの間逡巡に口を閉じていたが、悩むほどのことでもなかったと気づいて返した。
「もう来ないわ」
 図らずもそっけなく言ってしまい、ムシャーナの表情は翳ったように見えた。イツ子は慌てて取り繕うように言葉を探す。
「なあに、また来てほしかったの? どうして?」
 努めて明るく発した言葉は、けれども非常に不自然なひきつり笑いと共に歪んだように思えた。しかしムシャーナはそれに気にしたようなそぶりは見せず、おもむろに語り始める。
 このように人間の言葉を使うのは、実はポケモンの中でも稀だと言われているのですが――
 そう話すムシャーナに、ああやっぱり普通ではないのねとイツ子は口を挟まずに心の中で呟く。ムシャーナは自身の能力を、テレパシーと言った。しかしムシャーナのテレパシーは不完全なもので、自分の言葉は伝えられても他人の言葉は伝わらないらしい。イツ子はそれを都合のいい電話みたいだと思った。こちらからはかけられるけれど、相手からはかかってこない。ずるいものね、と試しに投げかけてみたが、やはりムシャーナはイツ子の心の声には気づかない様子だった。
 ムシャーナの話は続く。その一方通行のテレパシーを使って、ムシャーナがまだムシャーナでないとき――ムシャーナはムンナが進化した姿である――に、不用意に子供たちを驚かしていたのだという。そのせいで、夢の跡地には喋るムンナがいるという噂が広まってしまった。子供たちは未だにそのムンナを探して、廃工場中のムンナを追いかけまわしているという。
「あの子たちは特別なムンナを探していると言っていたけれど、喋るムンナ――あなたのことだったのね」
 ムシャーナは自分のせいで関係のないムンナが追われているということに、心を痛めているようだった。だったらあなたが出ていって子供たちに説明すればいいじゃないの、喋るムンナは進化したのでムンナを追いかけるのはやめてください、って。イツ子はそう言ったが、ムシャーナはどういうわけか、子供たちにはテレパシーが効かなくなってしまったのだと話した。とことん都合のいい――この場合は悪いのかもしれない――電話なのね、とイツ子は思ったが、話したくても話せない気持ちは分かるような気がした。

「つまり、あなたの代わりに子供たちに話してほしい、そういうことね?」
 ……はい、その、お願いできますか?
 ムシャーナとの会話で夕陽はとうに沈んでしまっていた。自分と同じで、ムシャーナも誰かに話し込みたかったのだろうとイツ子は思う。若干の橙色が残る夜空の下、すでに二つの黒くて丸いものとしか見えないムシャーナとムンナを見つめる。長い時間、話してもらったのだからと、承知しようと口を開きかけたとき、ムシャーナがさらに言葉を発した。
 ぜひ、お友達にお話しください。でないとこの子たち――ムンナたちはわけもわからないままに、追われ続ける身となってしまいます。
「友達?」
 イツ子は久しく耳にしなかった単語に聞き返す。
 お友達、ではないのですか? とても親しげにお話したり、一緒にお菓子を召し上がっていたりしているようにみえたのですが、えっと。
 えっと。イツ子もつられて口にする。そうか、そうよね。イツ子は思う。あんなふうにお菓子やジュースを食べたり飲んだりして、いろんな話をするのが友達なのよね。
 ムシャーナに気づかされて、イツ子は一気に救われた気分になった。孤独な気持ちがそうさせたばかばかしい自作自演で自身の寂しさが決定的になったとばかり思い込んでいたが、実はそうではなかったのだ。歳は離れているが、子供たちと仲良くなれたことは紛れもない成果である。それは今日一日だけのことではないはずで、またここに訪れればいつだって盛り上がることができる。子供たちにとっては近所のおばさんでしかないかもしれないけれど、イツ子はもう、町で一人の寂しい女ではなくなっていたのだ。
「分かったわ、あの子たちに話してみる。だって、お友達ですものね。――もちろん、あなただってお友達よ。もうこんなにお話しているんだもの」
 イツ子は微笑んだ。すっかり暗くなった中で、ムシャーナが一瞬驚いたような顔をして、それから照れたような笑みを返してきた、そんな気がした。

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2013.3.7  20:50:30    公開
2013.3.18  17:46:33    修正


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