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短編企画「続」

著編者 : 不明(削除済) + 全てのライター

最果てで待つ『魔王』

著 : 不明(削除済)

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 ――東に行こうと思った。
 そう思って一体どれだけの月日が経ったんだろう。
 私は極寒の洞窟を抜けて、龍を祀る人々が住まう町に辿り着いた。

 季節は冬、半端な覚悟のトレーナーを拒絶する洞窟を抜けた先は一面の雪景色。
 この町はドラゴンポケモンが生息してる事で有名だけど、外がこうも寒いと寒さが苦手なドラゴンポケモンは生息地と言われてる洞窟の奥に引き篭もって出てこない。
 町の名物がお休みしているから、町の人々もとても静か。町にある音は雪を踏みしめ、雪を掻き分ける音ばかり。

「嬢ちゃん、こんな時期に来るなんて珍しいねえ。大抵のトレーナーは雪が降ってない間に来るもんだけど、よっぽど急いでるのかい?」

 雪下ろしをしていた元気なおばさんが、珍しい物を見る目で私を見てくる。別に驚く事じゃない。
 この時期に旅人なんて滅多にいない。トレーナーだとしても、普通は雪解けから初雪までの間に来るという事は私も知っている。
 だけど私は東を目指す、だから冬でもお構いなし。

「はい、行きたいところがあるから急いでるんです。それに……」
「……ああ、それもそうだねえ。大体2週間くらい前にエンジュシティが酷い事になったと言うし、そりゃいつまでものんびりはしてられないわよねえ」
「それだけじゃないぞ、3週間前はアサギシティ、つい1週間ほど前はいかりのみずうみの辺りが大変な事になったんだ。コガネシティやキキョウシティでも起きたって言うし、そりゃ嬢ちゃんも逃げ出すさ」

 いつの間にか、別の所からやって来たガタイのいいお兄さん(もう『おじさん』に近いような気もするけど)が話に入ってきた。おばさんと一緒で、雪下ろしを途中で止めてそうだけど。
 でも私はそれを歓迎する。2人で話をするよりは3人の方がいい。

「ポケモンの凶暴化事件……恐ろしいわねえ」
「全くだよ、ここ2.3ヶ月ほどで何人死んだやら。ここはまだ安全みたいだけどよ、正直言って安心は出来ないぜ……早く原因の『魔王』とやらが見つからねーかな」

 『ポケモンの凶暴化』――それは最近になって突然起き始めた事件。人を積極的に襲わないはずのポケモンが、突然凶暴化して人を無差別に襲い始める事件。
 『魔王』――それは誰が言い始めたのか定かじゃないけど、凶暴化事件の原因を指す言葉。一説にはサイキッカーの一種だとも言われてる。
 もっとも、原因が何なのかは全く分からないっていつもニュースで言われてるけど。
 でも、ポケモンを凶暴な『モンスター』に変えてしまうそれは確かにファンタジーの『魔王』と言って良いと思う。だから一気にこの言葉が広まった訳だし。

「やれやれ、せっかくの旅人だと言うに湿っぽい話してどうするんじゃ」

 今度はスキーストックを杖代わりに使うおじいちゃんまでやって来た。
 静かだった町が、少しずつ騒がしくなってきたのかも知れない。

「時にお嬢ちゃん、『魔王』から逃げるためだけにここに来たんじゃないんじゃろう? やっぱり『ぽけもんとれぇなぁ』らしく、『ぽけもんじむ』に挑みに来たのかのう?」
「……いえ、少し休んだ後シロガネやまへ行こうと思ってるんです」

 みんな一斉にびっくりする。
 だって、あんな所へ行こうと考える人なんて、ジム戦なんて考える必要も無いほどの凄腕しかいないのだから。



 ***



 周りにあるのは冷たい闇と戦慄の吹雪と絶望の叫び、そして荒れ狂う龍の力。
 やっぱりここも『魔王』の餌食になった。

「畜生、畜生! 『お前』のせいで女房と子供が死んだんだ!」

 その声は昼に私と話をしたあのお兄さんの声。
 お兄さんの姿が月の光とポケモンが吐き出す炎に照らされた時、服に赤黒い染みが付いてるのが見えた。

「まさか龍神様まで……なんて事だい!」

 最初に会ったおばさんは雪の上にへたり込んで動けない。だって、目の前にはこの町の人に向かって“しんそく”で襲い掛かってるドラゴンポケモンがいるんだもの。
 真っ赤に血走った目で獲物を睨みつけて、大きな翼でこの吹雪の中を飛び回って、強靭な爪で人も家も、町に詰まった思い出や想いも何もかも引き裂いていくカイリューが。

 ジムのトレーナーやドラゴンポケモンの棲家を守る一族の人が必死で立ち向かってるけど、ミニリュウやハクリューにすら圧されてる。
 本当ならこんな事はないんだろうけど……

「『魔王』め……ついにこの里まで毒牙に掛けるとは、何と罰当たりな事をするんじゃ!」

 ――今この場で、私に何が出来るのだろう。
 ――『魔王』さえいなくなれば、こんな事はもう起きなくなるのだろうか。
 視界の隅であのおばさんが、ハクリューの放った“かみなり”に撃たれるのを見ながら、私は呆然と考えていた。



 *** ***



 ――東に行こうと思った。
 それは、アイツが東へ行ったらしいから。

 元を辿れば1年ほど前、15歳というタイミングで、幼馴染の関係である俺とアイツはホウエン地方のミシロタウンからポケモントレーナーとして旅に出た。
 俺は(自分で言うのもアレだが)地元じゃそれなりに名の通った才能あるトレーナー。だからトントン拍子にジムを攻略して行った。
 だけどアイツは俺の更に上を行く。俺がバッジを7個手に入れた頃にはアイツはもうチャンピオン、言わばゴールに着いてやがる。

 そして俺は何とかアイツに追いつこうと必死で努力して、遂にポケモンリーグの地に辿り着いた。
 ……そこで俺を待っていたのは、辛うじて機能を残す程度にボロボロになったポケモンリーグ本部の建物と、「東の方で待ってる、チャンピオンの座が欲しかったら追いかけてきて」というメッセージだけだったがな。



 ***



「……やっぱり一足遅かった、って事かよ」

 目の前の惨状を目にして俺は呟く。
 フスベシティは猛吹雪の被害に遭ったのか辺り一面の銀世界、そこまではいい。
 問題を順に挙げていくと、まずは所々にスクラップや廃材・瓦礫が散らばってる事。次はあちこちから嘆きと呻きが聞こえてくる事。最後に瓦礫の類のいくつかは、ペンキや錆の色とは思えない赤色がこびり付いている事。
 どう見ても虐殺が起きたり戦火に晒された町です、本当に、本当にありがとうございました。

「おお……こんな時に旅人とは」

 大体70度くらい折れ曲がったスキーストックを杖代わりにしたじーさんが俺に声を掛ける。
 いや、そもそも杖に使うものじゃないし、使いづらいだろソレ。

「何か大変な時に来ちゃって悪いな、と言うか酷いなコレ」
「うむ……つい2日ほど前の事じゃ、噂の『魔王』とやらにやられてのう」

 やっぱり『魔王』か。予想付いてたと言うか、それ以外に無いと言うか。
 しかし、だとするとこれは完全に俺のミス。チョウジタウンで悠長にのんびりしている場合じゃなかった。
 今までに訪れた町も大抵が『魔王』の襲撃後だったせいで、荒らされた町並みや死臭の類はもう何度も経験しているが、完全に慣れた訳じゃない。
 むしろ完全に慣れてしまって何も感じないようになったら、それは人間として終わりだろうし、社会としても終わりだろうってのはさすがの俺にも分かる。

「チッ、色々と見てきたけどここは特に酷いな。やっぱりドラゴンポケモンにこっ酷くやられたって事かよ」
「その通りじゃ、まさか龍神様まで狂わされるとは思っていなくてのう、『じむりぃだぁ』も操られた竜神様に……代替わりしたばかりでまだまだ若いというのに」

 ジムリーダーまで死んだってのか。
 この調子だと働き手はほとんどやられただろうし、町としての機能を取り戻すまでにどれだけ掛かるやら。
 ……っと、そんな事より俺は俺の目的を果たさないと。

「ところでこんな時に悪いけどよ、こんな娘を知らないか?」

 町が滅茶苦茶でそれどころじゃないってのは分かってる。だけどせめてこの程度は許してくれても良いだろう。
 それにぶっちゃけ、このじーさんの手を取った所で作業効率のロスにはならねーだろうし。
 だから俺は写真を見せて尋ね人の聞き込みを始める。

「…………おお、このお嬢ちゃんなら見覚えあるぞ、確か『魔王』が来る少し前にここに来たぞい」
「っ、本当か! 今どの辺にいるか、手がかりを知ってないか!?」
「な、何じゃ急に、もしかしてお主の……と言うのはともかくじゃ、このお嬢ちゃんならシロガネやまに行くとは言ってたぞ。しかしのう、『魔王』に襲われてからは姿を見てないんじゃよ……」

 明らかに声のトーンが下がっていくじーさん。
 まあ、周りがこうなってちゃ「もしかしたら死んだかも……」って思うのも当然か。

 だが、俺はアイツが生きてるという確信がある。アイツはこんな事じゃ絶対に死にはしない。
 この程度で死ぬようなヤツが、俺より先にチャンピオンになれる訳がない。

 そして、やっと俺はアイツの後姿を捉えた、そんな感じがした。
 今までに俺が手に入れれた情報は曖昧な情報だったり、ハッキリとした情報も「○○の町へ行く」と言った感じの情報ばかりだった。町なんて、あくまで中間地点以上の意味は無い。
 今回は違う、目的地が町ではなく明確な地名。それも、ある意味では終着点とも言える地名。



 そうと分かれば即出発……と言いたい所だが、俺はもう一度町を見渡してみる。
 凶暴化したポケモンによって荒らされた町は見るも無残な姿で、ポケモンセンターですら原形を留めていない。
 この調子だと暖を取るのにも一苦労するだろうし、もしかするとポケモンによる直接的な被害だけじゃなく、寒気から身を守れないせいで凍傷になったり、最悪凍死した人もいるかも知れない。

「……なあじーさん、俺にも何か出来る事はねーか?」

 俺には目的がある。アイツを追いかけるという目的が。
 だが、目の前の惨状を目の当たりにして、見て見ぬ振りを出来るほど冷たい人間でもないのが俺だ。



 *** ***



 ――フスベシティを発って2日、フスベシティに着いてからの時間で言えば5日。
 町の復旧のためにロスした時間を埋め合わせるべく急いだおかげで、予想していたよりも早くここまで辿り着く事が出来た。
 とは言え、ポケモン凶暴化の波がこの山にも(もっと言えば、ポケモンセンターのある5合目に着いた時点でワカバタウンやトキワシティにも)及んでいたせいで、登っている間にかなり消耗してしまったが。

 ポケモンバトルの極みに近づいた人間しか入る事を許されない地、シロガネやま。
 一応、監視の目を掻い潜れる能力さえあれば誰でも入山出来るが、そうなると今度は山で何があっても完全に自己責任。実際、この山を登っている最中にも哀れな白骨死体がいくつか転がっているのを見る事になった。

 そして俺はついに山を登る洞窟から抜け出し、ついにシロガネやまの山頂に辿り着いた。
 山頂は凄まじい吹雪が吹き荒れていて、時間が夜明け前という事も合わさって数メートル先の視界も確保出来ない。



 ――俺はここに来て、入山管理の人から聞いた話を思い出す。
 曰く、間違いなくアイツはこの山に入って行ったと。こんな時期に、アイツぐらいの年頃の女の子が入っていくのは珍しいと。
 そして、悲しみと覚悟を背負った目であったと。



 ――俺はここに来て、アイツの強さを思い出す。
 人は稀にではあるものの、超能力と呼べる力を持って産まれる事がある。
 例を挙げればポケモンと言葉無しで対話する能力であったり、傷ついたポケモンに触れる事無くその傷を癒す能力であったり、自らの生命エネルギーを少し分け与える事で、それをポケモンの力とする能力であったり。

 ではアイツの強さは何だったのか。
 俺の記憶する限り、アイツは運動神経はドン臭いし、判断力は結構鈍いし、おまけに性格はかなり気弱。正直言ってポケモンバトルに向いているか否かで言えばノーだったと思う。
 ポケモントレーナーになった理由も、俺に置いて行かれたくないからとか何とかって言う消極的な理由だと聞いた。
 ……今になって思えば、俺はとんでもない鈍感糞野郎だが。 
 それはともかく、どう見てもトレーナーには向いていないはずのアイツはポケモンの闘争心を呼び覚ます能力を持っていた。ポケモンの心の枷を解き放つ事で、本来ならば有り得ない最大の力を発揮させる能力を。
 それによってアイツのポケモンは他を圧倒する力を得た。故に驚異的なスピードでチャンピオンの座に上り詰めた。
 置いて行かれたのはアイツじゃなく俺だった。





 吹雪が、止んでいく。
 東の遥か彼方、地平線に夜明けを告げる太陽がその姿を現す。

 ――視界が、開けていく。

「……やっと、やっと追いついた」
「……遅かったね。私、待ってたんだよ?」

 山頂には先客、それは俺が追い求めていたアイツ。

「遅れて悪いな、だけど俺は何だかんだで困ってる人を放っておけねーんだ」
「そっか、それもそうだったよね。じゃあ少し遅れちゃうのも仕方ないか」

「だけどね、私はもう限界なんだ……私がいると周りの人がみんな不幸になる。少し前までは自分で「そんな事ない」って言い聞かせてたけど、それももう限界」

「世の中みんな『魔王』を呪う、それは仕方の無い事。だけど……私はどうすればいいの?」

 人は稀に超能力と呼べる力を持って産まれる事がある。
 しかしその力は人間にとって有益な物であるとは限らないと聞く。有益であるように見えても、実は有害であるというケースもあると言う。
 あるいは、元々は問題の無い力だったとしても、周囲の環境によって有害性を持った力に変異・暴走してしまう事があるとも。

 そして、アイツの持つ力は暴走している。
 自分で抑える事は出来ず、効果範囲は時が経つにつれて拡大されていき、心の枷を解き放つどころか理性を完全に失わせ発狂させてしまう……それが、今のアイツが持つ力。

「私がこの地を選んだのは、ここなら誰にも邪魔されずに、誰の事も気にする事無くバトルが出来るから。そして、私があなたと2人っきりでいられるから」

「だけどここに来るまでの間に、ここを選んだ理由が少し変わっちゃった。もう私は疲れちゃったの」

 涙声で喋るアイツに対して俺は何も言えない。
 何しろ、俺は選択を間違えてしまったから。

 ――思えば、俺がアイツと本気で向き合ったのは何ヶ月ぶりだろう?
 俺に置いて行かれたくないなんて言ってたアイツが1人で行ってしまったのは、俺がアイツと向き合わなかったからなんだろうか。
 自分の目の前にある夢を追い求めるばかりで、隣すら見れていなかったからなんだろうか。
 だからアイツは、俺の気を引こうと1人で行ってしまったんだろうか。
 1人じゃ重圧に耐えれないくせに。案の定、耐えられずに壊れてしまったくせに。

 ――だとすると、俺はやっぱりどうしようもない鈍感糞野郎だ。

「……終わらせるぞ、このチャンピオン戦で」
「……うん、これが最初で最期の本気のバトルだね」

 腰のベルトにあるのは6つのモンスターボール。それは俺の相棒達。
 俺に出来る事は、あちこちで起こっている悲劇をせめてこの手で終わらせる事。
 アイツを壊してしまったケジメを付ける事。



 ――さあ行こう、魔王討伐だ。





――――――――――――――――――――――――――――――――



3/11 こっそりと加筆……
3/17 前回の加筆時に、過去に修正済みの箇所が元に戻っていたため再修正

という訳で、久々に書き上げた作品です。
元々は別の作品に使う案としてあった物を即興で短編仕様に変えて、即興で書き上げたのがこの作品。
即興だけあってクオリティは……まあ、見ての通りです。
時間掛けたからと言って良い物が出来るとも言えませんが。

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2013.3.1  01:38:30    公開
2013.3.20  19:56:12    修正


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