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ひとりぼっちのグレイシア

著編者 : せせらぎ

第三話 十年ぶりの訪問客

著 : せせらぎ

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ミントは走った。
急な山の下り坂を一気に駆け抜けていく。
次々と目の前に繰り出す木々をすれすれによけてはいるが、
当たったらひどい事になりそうだ。
だけど、そんなことに構ってはいられない。
刻々と暗くなってゆく赤い空。
「いそげ、いそぐんだ ミント!」

ついに山をくだりきり、浜辺にでた。
ミントはそのまま海をめがけて一直線にとんでいった。
そして 目の前にせまってきた海に向かって 口かられいとうビームをはなった。
海水は 塩分による凝固点降下で 凍りにくいものなのだが
ミントのれいとうビームは おかまいなしに固めていった。
ミントは目の前の海を凍らせながら 氷の道を小走りに進んでいく。
夕日が水平線にはいりはじめた。
「あああ! 間にあってくれ!!」

やっとさっき何かが浮いている辺りまできたが、その姿が見えない。
ここに来るまでに またいくらか流されてしまったのだろう。
ミントは前足を海につっこみ、海流の方向を感じとろうとした。
それから左の方へ また氷の道をつくりながらむかった。
夕日は落ちてしまい、あたりは急速に暗くなりだしていた。

そのとき視界に それはあらわれた。
ミントは海に飛び込み、そこまで泳いでいった。
リーフィアだった。わずかに顔が水上にでていた。
生きているかどうかを調べている時間はない。
ミントは氷の道までリーフィアを泳ぎながら引っ張っていき、上におしあげた。
次にミントもあがって、リーフィアを背中にかついだ。
今度は、氷の道が溶けきる前に戻らなくてはならない。
今来た氷の道にビームをあてて固め直しながら、
リーフィアを落とさないように慎重にあるいていく。


ようやく浜辺に戻った。
そして、そっとリーフィアをおろした。
息があるかを調べてみた。

かすかにだが、あった。
その時ミントは 今までの希望と不安が一気に増したのを感じた。
もし助かれば、少なくともミントはもう孤独ではなくなる。
もしこのまま死んでしまったら、今までの孤独に加えて、
激しい後悔に よりいっそう苦しむだろう。
そのギャップは あまりにも 大きすぎる。
なんとしてでも、生かしておかなくてはいけない。
ミントはずっと、みていることにした。
星明かりで リーフィアの苦しそうな顔がうつる。
かわいい メスのリーフィアなんだけど、
その体からでている葉っぱのようなものは しおれてたれさがっている。
それと不思議な事に、首から青い宝石をかけているのだが、
それがミントの赤い宝石とまったく同じ形をしている事にも気がついた。


初めは低かった体温が、だんだんと上がってきたかと思ったら、
今度は熱くなりすぎてきた。 熱だ。
ミントは無力感に胸がいたんだが、せめて少しは楽にしてあげようと、
リーフィアの額に そっと自分のしっぽをのせた。
グレイシアのからだはつめたいので、それで少しひやそうと思ったのだ。
それからずっと、しっぽをのせたまま、リーフィアをみまもりつづけた。
ミントは 空腹も 眠気も あまり感じなかった。



次第に空が明るくなってきた。
リーフィアの体温はだいぶ下がって よくなっていた。
ふいにリーフィアが動いて、よわよわしく目をあけた。
ミントは驚きのあまり、じっと かたまってしまった。
リーフィアは額にのっているミントのしっぽをさわった。
そして 小さく こえをだした。
「たすけてくれたんだね。 ありがとう。」
それをきいたミントは、からだじゅうが熱くなっていくように感じた。
しばらくしてから、リーフィアが少し心配そうな顔をして尋ねた。
「ねえ、ブースター、みた?」
唐突な質問だが、ミントにはその意味がわかる。
あの嵐で、一緒にいたブースターと離れ離れになってしまったのだろう。
炎タイプのブースターが 荒れ狂う海にのまれて、生き残れるとは、思えなかった。
だからこそ、ただ否定をしてしまっては、きっと傷つくだろう。
そこで、どう感じるかはよくわからなかったが、こう言ってみた。
「ブースターと、はぐれちゃったんだね。
 じゃあ、探してあげないと。
 きっとその人も、きみを探しているから。」
それを聞いたリーフィアがいきなり目に涙を浮かべだしたので、
ミントはしくじったのかと思ったが、そうではなさそうだ。
「ありがとう、心配してくれて。やさしいんだね。
 あたし、ヒートっていうブースターと二人で、小さなふねに乗ってきたの。
 ふねなら嵐にも耐えられるかもしれないっておもって。
 だけど…だめだった。水ポケモン達が言っていたとおりだった。
 ふねが…引きずり込まれるように…しずんじゃったの。
 そのあとの事は…もう、覚えていないわ。
 あぶないことはわかってた。 死ぬのも、覚悟していた。
 それでも、ヒートは、ヒートだけは、あたしといっしょにきてくれた。
 ヒートが死んじゃったら、あたしのせいなのかな。
 本気でとめなかった、あたしが悪かったのかな。」
どんどん声が震えていくので、このまま話させたら泣き出してしまいそうだ。
そこで話をさえぎって、気になったことをぶつけてみた。
「まさか、きみたちは、ここが 魔の海域 だとしってて来たの?」
そしたらリーフィアはキョトンとして、聞き返した。
「え、え、ここって、魔の海域なの? だって、すっごく晴れてるよ。」
「ドーナツみたいになっているんだ。
ここら辺だけはいつもこんな感じだよ。
まわりはたまに大嵐になるけど。」
「じゃ、じゃあ あたしはあの中心部にこれたんだ。」
「そうだけど、どうしてこんなところにきたのか教えてほしいな。」
「あのね、カイオーガをおこしにきたの。」

ミントにはその答えの意味がまったくもって理解できなかった。
黙り込んでしまったミントに、リーフィアは先を続けた。
「あ、知らないの?
 あの嵐は、眠ってるカイオーガが、邪魔されないようにだしてるものなの。」
「じゃ、じゃあ…どうしてそんなものをおこしにきたのさ?」
「え、え、それもしらないの?
 もしかして、あなたは…ずぅっとここに住んでるの?」
「うん、十年前からずっとずっとここにいるんだ。でられなくって。」
「じゅう…ねん?」
はっ としたリーフィアは、ミントの宝石を、そしてミントをじっと見つめた。
「マグマの宝石を持ってるってことは、あなたが、ミント君?」
「う、うん、僕はミント。
 だけど、この宝石がなんなのか知らないし、外の世界がどうなっているのかも知らない。
 何にも知らないんだ。 ねえ、教えてよ、知ってることみんな教えてよ。」
リーフィアはしばらくミントをじっと見つめてから、はっきりした調子で語り出した。
「十年ちょっと前の話になるよ。
 あちこちで、村中、町中のポケモンが石化しているのが見つかったの。
 あたしも見たわ。 石のように灰色になっちゃってて、ぜんぜん動かないの…。
 誰がどうして どうやって そんなことをしたのか、未だにわかっていないけど。
 それからも世界のあっちこっちでそんなことが繰り返されていった。
 今では… 半分くらいの ポケモンが石化しちゃってるみたい。
 だから、もう十年ぐらいで、世界は、終わってしまうっていわれている。」
あまりにも恐ろしい話に、ミントは喉の奥から 小さくうめき声がでた。
リーフィアはあわてて続けた。
「だ、だけどね!
 希望もあるの。
 みんなを石化しているのは、いちおうポケモンだと考えられているから、
 勝ち目はあるはず。
 世界中の 伝説のポケモン達も、次々と戦いを挑んでいるようなんだ。
 見つかるのは、かれらの 傷ついた挙句に 石化した姿ばっかりだけどね。
 そこで、もう頼れる伝説のポケモンは、あと 一匹だけ。
 十年前まで、最強のポケモンだといわれ続けてきた、レックウザ しかいない。
 レックウザは、とっても高いところを飛び続けているといわれているから、
 まだ地上の ひどい有様に気がついていないはず。
 それで、レックウザを呼ぶ、ただひとつ知られている方法は、
 グラードンと、カイオーガを、目覚めさせて、争わせること。
 グラードンは、あなたの持っているマグマの宝石で、
 カイオーガは、あたしの持っているアクアの宝石で、目覚めるって 語り継がれているの。
 一方だけを起こすと、どんどん 陸と海のバランスが崩れて大変なことになるうえに、
 レックウザが来てくれる保証もなくって 危険だから、同時に起こすことになったわ。
 あたしの両親はカイオーガを、あなたの両親はグラードンを担当することに決まったの。
 それであなたの両親は、幼かったあなたも連れて グラードンの眠る大陸へと向かった。」
その先はミントが続けた。
「だけど、乗せてもらったウォーグルは、魔の海域の位置を知らなかった。
 それで、嵐にあっちゃって、僕はこの島に流れ着いたんだ。
 それで…どうなったの。 僕の…僕の、両親は。」
リーフィアが気の毒そうな顔をしたのを、ミントは見逃さなかった。
「…死んじゃったの?
 パパも、ママも?」
リーフィアは驚いて 首を横にぶんぶん振りましながら言った。
「ううん、あの鳥もおまけに、みんな助かったよ。 ただ…
 あのね、それ以来、悪者扱いされているの。」
「ええ、どうしてさ、世界を守るために海をわたったんでしょ!
 それの、どこが悪いんだよ!」
「わるくないわ。 ちっとも悪いことなんかしていない。
 だけどね、その時にマグマの宝石をなくしちゃったから、
 もう、世界は、滅んだも同然だとおもわれたのね。
 こんな時に冷静に考えられる人はそうそういないわ。
 世論は責任をみんな、あなたの両親と あの鳥に背負わせたのよ。」
「ひどいよそんなの!
 あんまりだ!」
「おちついて ミント!
 あなたが宝石を持ってでてきたら、またうまくいくようになるから!」
「…わかったよ。そうすれば三人とも認めてもらえるんだね。」
「え、鳥だけは別だよ。
 あの鳥が、免許も取らないで運び屋なんかしてたのが悪いんだから。
 今ではワルゾーってみんなから呼ばれているし、それは変わらないわね。」
「ワゾーでしょ。 いくらなんでもひどいよ。」
「そうかな。 あの鳥さえいなかったら、嵐に巻き込まこまれることもなかったし、
 あなたがこんな所に十年もいなくてもすんだんだよ。」
確かにそのとおりだ。それでも、ミントはワゾーを憎む気にはなれなかった。
無免許による事故で、世界中から 憎しまれてしまうなんて。 どうなんだろう。

「ねえ、おなかすいたな。 なにか食べたいんだけど…。」
「あ、そういえばそうだね。 じゃあ森にいって木の実をとろうか。」
「うん! ミントは頼りになるね!」
「あ、ありがとう。 あれ、きみの名前をまだ聞いていなかったよ。」
「そうだったね。 あたしはバニラ。 よろしくね!」
そうして二人は、森の中へと消えていった。

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2015.7.4  12:20:52    公開
2015.7.24  03:24:38    修正


■  コメント (3)

※ 色の付いたコメントは、作者自身によるものです。

いやあ、いつコメントしようかと。。
つい夜更かししてしまったついでに、機会を伺ってました。理想的な読者だなんて、光栄です。ほぼ君の追っかけみたいになってるけどねw
パソコンがしばらく使えないのでiPhoneからで読むのも書くのも大変ですが、頑張って追いかけます!w

15.7.5  02:50  -  夕暮本舗  (LoL417)

うわあああ!!!早いです!!!
しかも度重なるチェック
をしてくれていたんですか!!!
さらによく読んでくれています!!!
言うことなしです!!
理想的な読者ですね、ゆーちゃんは!!!

15.7.5  02:45  -  せせらぎ  (Seseragi)

度重なる編集、お疲れ様でした。
緊迫感のあるバニラの看病…手に汗握る、とはこのことでした。序盤なのに大事件でしたね。無事、目が覚めてよかった。
そして、そのバニラのおかげでミントは10年間の間の世界の出来事が知ることができて本当によかった。なにやら大変なことになってるね。。ミントとバニラは、世界の命運を握る鍵になるのかなあ。そして、ミントの孤独がこれから癒されていけばいいのだけれど。
せーくんは、元気にしてますか?君の寂しさや、優しさがとてもこの小説にあふれていて、この作品が愛おしいなあと思います。これから、どうなっていくのかな。楽しみにしてます。ヒートのことも気になるなあ。

15.7.5  02:38  -  夕暮本舗  (LoL417)

 
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