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ひとりぼっちのグレイシア

著編者 : せせらぎ

【new】『きみのいる島』(著:夕暮本舗)

著 : せせらぎ

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 ぼくには一年に一度だけ会える友だちがいる。それはとても不思議で、おかしくて、きっと普通の人には理解できないことかもしれないけれど、ぼくにとっては彼との時間が当たり前になっていて、かけがえのないものになっていたんだ。
 だからぼくは、今年も当たり前のように、何も疑わずに、むしろワクワクした気持ちで目を開けた。きょう、彼はどんな世界をぼくに見せてくれるんだろう。ぼくにどんなことを教えてくれるんだろう。
 そう思って、自信満々で起き上がったんだ。なのに、ぼくの手のひらはいつものちっちゃなピンク色ではなかった。
 青い。青くて、なんだか犬のような形の手のひらだ。
 ぼくは驚いて、慌てて近くにあった湖の水面に顔を映した。

「ミント……」

 ぼくは、親友の――グレイシアのミントの姿になっていたんだ。

『きみのいる島』

 まるで、最初にこの世界に来たときみたいに……ううん、そのとき以上の不安と驚きで、思わず叫び声をあげそうになった。
 今までにないパターンだった。いや、これまでだって不思議の連続だったのだから、何が起きてもおかしくないのだけれど……でも、どうしてミントの姿になってしまったんだろう。そもそも、ここにいないときのミュウのぼくは、普段はどこで何をしているのだろうとか、今ぼくがここにいることでミント自身の自我はどこに行ってしまったのだろうとか……そんな、考えても仕方ないような哲学めいたことまで、頭の中を凄まじく駆け巡っていた。

「ミント、どうしたの?」

 誰かが――おそらく女性の誰かが――声をかけてきた。
 そして、少し眠たそうだけど、こんな風に慈しみや温かさのある声でミントを呼ぶのは、彼女しかいない。
 バニラだ。そう、ミントと一緒に暮らしているリーフィアの女の子だ。ぼくは彼女をミントと同じくらいよく知っていた。

「ううん、なんでもないよ」

 ぼくの口から、自然とミントの声が出てきた。当たり前だけれど、自分の口から違う声が出るのはちょっぴり奇妙な感覚だった。

「なんだかとっても驚いた顔してるから、何かあったかと思っちゃった」
「起こしたならごめんね」
「ううん、だいじょうぶ。なんとなくあたしも起きちゃっただけだもん」

 そう言って、バニラは少女のように顔をほころばせた。こんなこと言ったら、きみに怒られちゃうかな――きみの奥さん、とってもとってもかわいいよ、って。
 そのとき、暗くてすぐに気がつかなかったけれど、バニラの近くで何か小さいものが動いた。
 ぼくはすぐに気がついた。そうだ、二人の間には子どもがいるんだ。
 それこそ、叫んでしまいたくなるくらい可愛くて小さなイーブイの女の子だった。その子は、ゆっくりと気持ちよさそうに眠っていた。見ているだけで、ぼくの胸いっぱいに暖かな感情が広がっていく。これは、ぼくとしての気持ちかミントとしての気持ちかわからないけれど、とてもとても幸せだった。

「ねぇ……ほんとにどうしたの? さっきから、驚いたり、ニコニコしたり、ヘンな顔してばかりね」
「えっ、そ、そうかな? 気のせいだと思うけれど……」
「どれだけ一緒にいると思ってるのよ。この島で隠し事できると思ったら大きな間違いなんだから」

 彼女は冗談めいた口調でそう言うと、愛おしそうに娘の体を撫でていた。ぼくはそれを見て、
「だって、とっても幸せだから」と答えた。決して、嘘ではなかった。

「何それ、ヘンなの……でも、そうだね、幸せだね」

 ぼくらは娘を挟んで、寝ころんだ姿勢のまま月を眺めた。ぼくの世界では見たことがないほど、大きな月だった。

「ヒート、最近会ってないけど元気かな。ワゾーもまた遊びに来てくれるといいね」

 懐かしい名前を聞いた。ぼくは、深くうなずいた。

「ねぇ、ミント。いろいろあったけれど、この島に来て、あなたと出会えて本当によかったって思ってるの」

 ぼくもだよ、と答えた。
 ぼくは知っている。もうすぐ朝が来る。このかけがえのない時間が終わってしまう。
 それでもこのときばかりは、ぼくは完全にミントだった。この瞬間だけは、ぼくと、そしてぼくの愛する家族のものだった。
 ぼくは、言葉ではうまく説明できないけれど、自分が何故ミントの姿になったのか、わかった気がした。

「僕はずっとずっと孤独だった。けれど、君がそれを救ってくれた。そしてその時から僕にとって、この島は寂しい場所ではなくて、気が付けば故郷になっていたんだ」

 そう言うと、バニラは照れたような、困ったような、はにかんだような、とても愛おしく美しい表情を見せて、結局「もう、今日のミントはやっぱりヘンだよ!」と笑った。
 朝日が差し込んできた。「もう少し眠ろう」とぼくは声をかけた。
 ぼくらは、寄り添って眠った。


 夢の中で、やっとぼくは彼に出会えた。

「どうだった、僕の家族は」
「最高だったよ。けれど、きみに会えなくて寂しかったかな。ねぇ、来年は何を見せてくれるの」

 そう尋ねると、ミントはバニラと似た笑顔を見せた。彼が答えるつもりがないことはわかっていた。
 ここは不思議と奇跡の連続だ。起きること全てに驚いていたらきりがない。
 ぼくは、自分が生まれた日を迎えたびに、この世界に来て、そして受け入れる。親友のきみと過ごす。ただ、それだけだ。

「また、良い一年になりますように」

 彼はぼくをそっと抱き、祝福の言葉を告げた。

「また、来年もきみに会えますように」

 ぼくは、願いをそっと口にした。

 ぼくの世界の朝が来る。

 新しいぼくとしての、一年が始まる。
 
「お誕生日おめでとう、沙青せゝらぎくん」

 そして、新しい世界が、ぼくを待っている。

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2021.4.4  15:32:12    公開
2021.4.5  14:49:12    修正


■  コメント (5)

※ 色の付いたコメントは、作者自身によるものです。

(続き2)
 後書きも読んでくださってありがとうございます! そうです、前日譚とは今書いている"クロの赤い宝物"のことです^ω^ ヒートの恋の話を書いたところで、次はミントの両親の出会いでも書こうかなぁ!と思ったのがきっかけでした。でも前日譚と書いてしまうと読者が寄り付かなくなってしまうような気がしたので、あえてあちらではそのことを伏せましたが、個人的にはこの初小説を超えるものを書けたと思っております^ω^
 コメント欄を見るのもポケノベの醍醐味ですよね…(苦笑)
 夕暮本舗様のお誕生日小説本っ当に素晴らしいですよね…!!(´;ω;`)自分のキャラクターたちがあんなに生き生きと動いて、あたたかく自分の誕生を祝ってくれるなんて…!!最高過ぎます(´;ω;`)ブワッ!!

 たくさん感想を書いてくださって本当にありがとうございました!!

21.4.17  01:10  -  せせらぎ  (Seseragi)

(続き1)
 すべてのポケモンの遺伝子を持っているミュウは、その本来の力を出したとき、レックウザよりも強くなるので、レックウザははじめから自分が負けることを分かっていました。そこで、ミントが戦いを引き継ぐときのために、レックウザはミュウのしっぽをあらかじめ選択的に切っていたのです。氷タイプに耐性のある4つのタイプを削っておけば、ミントの氷技は効果抜群(なんと16倍の威力!)でミュウに刺さるようになります。
 なるほど、ミュウの心情描写が足りてないようですねφ(・ω・ )メモメモ この小説ではミュウは世界や生命を生み出したという設定になっています。だからミュウにとってはすべてのポケモンが自分のこどものようなもので、それゆえ自分が作り出した世界で多くのポケモンたちが苦しんでいるのを、ミュウはずっとつらい思いで見てきました。でも自分一匹がいくら頑張っても、すべてのポケモンを救うことは流石にできません。そこで、ミュウはまた世界を一から作り直すことで、みんなが幸せに暮らせる世界を築こうとしたのです。
(続く)

21.4.17  01:08  -  せせらぎ  (Seseragi)

絢音様
お時間割いて読んでくださり本当にありがとうございました!!(´;ω;`)

 私も久しぶりに最終話だけ読み返してみましたが、本当に目まぐるしい展開ですね(笑) ミントの孤独感が伝わったのなら良かったです(*^^*)♪ 今回ヒートにはかわいそうなことをしてしまいました(´;ω;`)…と昔の私は思って、百恋一首の三十九番でヒートをシャワーズと結んであげたのでした。
 ミュウ戦についてですが、ほかの読者のためにもちょっと解説をさせてください…! ミュウはすべてのポケモンの遺伝子を持っているので、本来の力を取り戻したならば、全18タイプを併せ持つだろう、という設定なのですが、その際に現れる18本のしっぽは各タイプを表しています。レックウザとの戦闘中、そのうちの4本(炎・水・氷・鋼タイプに相当するしっぽ)が切られてしまったため、ミュウはだんだん氷タイプに弱くなっていったのです。
(続く)

21.4.17  00:58  -  せせらぎ  (Seseragi)

>>続きです
ラストの石化が解けたバニラが「…ただいま!」というシーンは感動しました。これでようやくミントは幸せになれる一歩が踏み出せたのですね。
後書きもせせらぎ様の思いがひしひしと伝わりました。苦労されてきたのですね…そのお陰と言ってはなんですが、せせらぎ様の作品はだからこそ輝くものがあるのでしょうね。あと、前日譚とありましたが、それはもしや今連載中のものでしょうか…?ブラッキーとエーフィという組み合わせも、赤と青の宝石というのも被る所がありますよね…!?
余談ですが、コメント欄で若き日のせせらぎ様を垣間見れて少し微笑ましくなったのは内緒です(笑)
あと、夕暮本舗様のお話も読ませて頂き本当にありがとうございます。ファンとして夕暮本舗様とのコラボ作品とても嬉しかったです。温かいお話でしたね。こんな誕生日プレゼントが貰えるとは羨ましいです。
読み終わった感動に任せて書き殴ったので、支離滅裂な感想になってごめんなさい。とても楽しませて頂きました。素晴らしい作品をありがとうございました。
それでは長文失礼致しました。これからも応援しております。

21.4.15  18:39  -  絢音  (absoul)

せせらぎ様、こんにちは。遅ればせながら、完結まで執筆大変お疲れ様でした。目まぐるしいストーリー展開に、登場人物達の細かい心理描写、とても面白く一気に読ませて頂きました。
初めての作品という事もあり、最初のうちは荒削りな感じはありましたが、それを抜きにしても手に汗握るストーリーでした。先が気になりどんどん読み進めてしまいました。
また主役のミントだけでなく、ヒートやワゾーといった他の登場人物の心理描写までしっかりされているのがとても素晴らしかったです。特にずっとひとりぼっちだったミントの孤独、恋敵が現れたヒートの憤り、多くの人に責められ続けたワゾーの罪悪感といったあたりの感情表現はとても胸打たれました。これも全てせせらぎ様の実体験があるからこその表現力なのでしょうね。
レックウザ戦やミュウ戦のバトル描写も凄かったです。ずっとドキドキハラハラしながら読んでいました。今回、ミュウはラスボスでしたが、ミュウが世界をやり直そうという思想に至るまでの過程も個人的には気になりました。根っからの悪者ではないのかな、と。
>>続きます

21.4.15  18:36  -  絢音  (absoul)

 
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