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残り24時間。
わすれなぐさ
著 : ダンゴムシ
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今日はいつものような心地の良い目覚めではなく、誰かの騒がしい声で目を覚ました。何事かと思って周りを見渡してみると、びっくりするくらいの数の人間が、うちの育て小屋の周りに群がっていた。
こんなのはじめてだ。というか異常事態だ。何が起こっているんだ。
状況を把握するために育て小屋に入ったら、いつも外にいるから受付の横で何をしたらいいのかわかんなくて、あたふたしているおじいさんが私に話してくれた。
「ミルちゃん、おはよう。ちょっとね、今大変なことが起きてるんじゃ。一回しか言わないからちゃんと聞いてちょうだい。、、、今ね、でっかい隕石がこの星に近づいてきて、明日の朝この星に落ちるんじゃ、、、。
だからね、今自分のポケモンを引き取りに来てる人で殺到しているんじゃ。わしらは今、受付の対応でいっぱいいっぱいだから、ミルちゃんポケモンたちを集めに行ってくれんか?」
ちょっと待ってねおじいさんよ。今ね頭の中でおかしいくらいに情報が錯乱してるから、ちょっと整理に時間をくださいな。
それから眠りから覚め切っていない脳みそをフル回転して、とりあえずおじいさんとおばあさんが超困っていることを理解したから、大急ぎで広場にいるポケモンたちを起こしに行った。
お客さんは太陽が高くなるにつれて、どんどん増えていった。でも、私が全員集合させるのにはそんなに時間はかからなかったし、そこから私もおじいさんもおばあさんも休むことなくフル回転で対応したので、小屋を埋め尽くすほどいた大量のお客さんは、正午を告げる鐘の音が鳴る前には全員それぞれの家に帰っていった。
育て屋の営業開始以来最も忙しい午前中となった。なので、おばあさんの提案でいつもより早いお昼休憩をとることにした。いつものようにおじいさんがポケモンたちを呼びに行った。
が、連れて帰ってきたのはモココのシェリー、ただ一匹だけだった。
「ミルさん。私、ご主人に忘れられたのでしょうか。」
昼ごはんの後、シェリーは私にこう言った。
「そんなことないよ!君のトレーナーは絶対迎えに来るって!」
そう励ましたけど、自分の発言に確信はなかった。
シェリーは野生ポケモンだった時間よりも、トレーナーの手持ちにいた時間よりも、ここにいた時間のほうが長い。最初はメリープだったけど、ここにきて2か月ほどしたころモココに進化した。
「この姿を早くご主人に見せたいです!」
と、嬉しそうに語ってくれたが進化してからもう二年の時が流れた今でも、まだシェリーのトレーナーは迎えに来ない。
「私はそもそもご主人のパーティにほとんどいなかったんです。育て屋っていう便利なシステムがあるんだったら、とりあえず一匹入れとくかっていう勢いで私を入れたのです。」
そう。シェリーのトレーナーのように旅の途中に預けてそのまま忘れてしまう人はたくさんいて、うちの育て屋では3年以上引き取りに来なかったポケモンは野生に返すことを条件にポケモンの預かりを行っている。それでも引き取りに来ないトレーナーは存在し、今までに数え切れる数ではあるが野に放ったポケモンもいる。
私はシェリーの横に座ってじっと待った。シェリーの押しつぶされそうな思いをただ無言で受け止めていた。そうして時は流れ、太陽も落ちてきて、ついに地平線のかなたへとすがたを消してしまった。ただ、空は隕石が赤く光るせいで夕暮れ時がいつまでも続くような、そんな不思議な感覚に包まれていた。
「ミルさん付き合ってくれてありがとうございました。私のご主人はもう来ませんね。もう私のことなんて頭の片隅にもないんでしょう。全く、人間はおろかですね。それが死ぬ前にわかってよかったですよ。」
そのシェリーの言葉に何も言い返せなかった。
私のおじいさんやおばあさんのように人のポケモンをわが子のように可愛がってくれる人がいるのと同じように、自分のポケモンにすら深い愛をもって接してあげることができないトレーナーもいる。それが世の理だった。
そして、残念だがシェリーのトレーナーは私の言う後者だった。それは、第三者の私にはどうすることもできない問題だった。
「シェリー。そろそろ晩御飯の時間だから、小屋に戻ろっか。」
そう言って、小屋に戻ろうとした。
その時だった。
おじいさんが大慌てで、私たちのもとに飛び込んできた。
「あぁ、シェリーよ!君のトレーナーが来たぞい!」
おじいさんがそう言った直後、その後ろから、
「シェリー!!」
と、大きな声でシェリーの名を呼ぶ少年の声が聞こえた。
「あ、、あっ、あ、、、、、
あああああぁああぁあああああぁあぁああああぁぁあああごしゅじんさまああぁああああぁあぁあぁあああぁぁあああぁああぁあああぁああぁぁぁぁあぁあああぁああ!!!!!!!!!」
シェリーはものすごい勢いで、少年の方へと走っていった。それはもうすごい勢いだった。その勢いで少年の胸元に飛び込んだものだから、少年は後ろに倒れてしまった。
「ごめんよ、シェリー。先にカントーの育て屋に行ってたもんでさ、遅くなっちまったな。ずっと待たせてごめんな。こんな立派なモココになったってのにさ。」
シェリーはあふれ出てくる思いが多すぎて言葉にならず、ただただ少年の腕の中で泣きじゃくるばかりだった。
「おじいさん、おばあさん。ほんとに長い間ありがとうございました。こいつのことこんなに大切に育ててくれて。」
「ああ、またいつでもおいで。」
そうおばあさんが言うと、うちの育て屋の最後の客は去っていった。
二人の後ろ姿は、これから世界が終わるとは思えないほどに、幸せで満ち満ちているのが遠くからでもハッキリ分かった。
2020.4.27 14:57:40 公開
2020.5.19 18:47:41 修正
■ コメント (6)
※ 色の付いたコメントは、作者自身によるものです。
20.5.3 23:51 - ダンゴムシ (tailback) |
シェリーちゃんのお迎えが間に合ってよかったぁ(ToT) たとえ明日世界が無くなってしまっても、2人はきっと幸せなんだろうなぁと思いました! わたしにも居ないかな…ずっとお迎え待ってるのにな…\(//∇//)\ キモくてすみませんwwww ちなみに、わたし、育て屋っていう便利なシステムがあるんだったら、とりあえず一匹入れとくかっていう勢いで預けてしまう、タイプなので今日から改心したいと思いますwww 次回も楽しみにしてます! 20.5.3 21:51 - 未來 (pushi) |
KOHAKUさん コメントありがとうございます! どうしても、背景のせいで完全なハッピーエンドにはなりませんでしたが、幸せをかみしめる二人をかけて良かったです。 次回からも頑張ります! 20.4.29 21:36 - ダンゴムシ (tailback) |
世界が終わるという不幸の中でも、二人は幸せに満ちていたというのがグッときました! ハッピーエンドなのに何故か寂しく感じるのがまた素晴らしいです! 次回も楽しみです! 20.4.29 20:53 - KOHAKU (sian331x) |
LOVE★FAILYさん コメントありがとうございます! 間に合ってよかったですよね!忘れないでいてくれる優しいトレーナーありきのあのモココですから。ハッピーエンドにしたいと思いました。、、、感情移入が激しすぎるのかもしれませんね(笑) 次回も頑張ります! 20.4.28 12:40 - ダンゴムシ (tailback) |
隕石が迫り来る中、育て屋にずっと預けっぱなしのまま主人の帰りを待ち続けるシェリー、不機嫌になるのも無理もありませんよね…… 晩御飯になるその時、まさかの主人が二年ぶりに再会できれた事にとても驚いたシェリーは、とても幸せですね…… 次回も楽しみにしています! 20.4.27 19:37 - LOVE★FAIRY (FAIRY) |
コメントありがとうございます!
純粋な心を持つ二人だからこそ、間に合ったと思いますし、残り少ない時間も幸せに過ごしていけると思いますよね。
あ、ちなみに私も待ち続けている身なので、、、(笑)
次回も楽しみにしてください!