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残り24時間。

著編者 : ダンゴムシ

アンアストロノーツ

著 : ダンゴムシ

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目が覚めると、みんな画面の前でうなだれていた。
「おはよう、ブーケ。ちょっとね、君にお話しておかないといけないことがあるんだ。よく聞いておいてくれ。」
そうホーネットさんが言って、私は、ものすごい事実を知ることになる。
明日、私たちがここから見えている青い星に隕石が落ちて、消滅するという情報だった。

ここは、国際宇宙ステーション。ここには、三人の人間と、一匹の実験用ポケモンが常時駐留する仕組みとなっていた。
私は、浮遊しているポケモンが宇宙空間で身体にどのような影響を及ぼすかという実験のために、約3週間前にここに送られたムウマだった。
そして、私と共に来た、、、というか、私をここへ連れて来たトーマスさんと、テリーさんと、リーダーのホーネットさん。
その三人と私で、忙しいながらも楽しい一時を過ごしていた。

が、今日は雰囲気が違っていた。
三人が画面の前でうなだれていた理由。
それは、地上の司令本部の方から、選択を迫らされていたからだった。

地上に戻るか、戻らないかの二択を。

幸い、隕石が落ちてくるルートに、宇宙ステーションは入っていなかった。
だから、私たちは明日以降も生きる選択ができる唯一の生き物だった。
ただ、この宇宙ステーションにはあと1週間分ほどの食事しか残されていなかった。
地球からの物資が来ない以上、私達もいずれ飢え死ぬことは言わなくても分かっていた。
宇宙ステーションには、緊急用の簡易脱出船が備わっていた。なので、少し難しいが地上へ帰ることはできた。

そこで3人は会議をしていたのだった。
タイムリミットは、残り2時間半。
その時間を過ぎれば、宇宙ステーションの軌道上、今日中に地上に着陸することは出来なくなるらしい。
究極の選択だった。

「俺は、、、戻りてぇ。」
そう言ったのは、テリーさんだった。
「最後に、家族の顔を拝みてぇよ。」
テリーさんは、妻子持ちの宇宙飛行士だった。そう思うのも、当たり前のことだった。
「でも、、、せっかくもう少し生きていられるのに、せっかく念願の宇宙にこれたのに。、、、僕は、地球で残り少ない時間を過ごすより、ここでできるだけ長く生きていたいです、、、。」
この中で一番若い(のは本当は私だけど)トーマスさんがそう言った。ただ、その意見も決しておかしい意見ではなかった。
「、、、私はどちらでもいい。私が一番長く生きている以上、長く生きられるチャンスを奪う権利は無いと思っている。でも、大切な人に最後に会っておきたい気持ちも分かる。、、、まだ、自分の中で整理できていないんだ。悪い、、、。」
ホーネットさんが言った。

私も、ホーネットさんと同じく、皆に任せたかった。
私にも、最愛の兄が地上にいる。ただ、その兄は私が今ここにいることを多分知らない。
だから、地上に帰れたところで、私を出迎えてくれるとは限らない。というか隕石が落ちる前に再開することはとても難しいだろう。
かと言って、地上に戻りたくないわけではなかった。
実験台として、宇宙に行く前に収容されていた保護施設の仲間とも再開したいし、なにより地上のおいしい空気と、美しい自然の景色が私は大好きだった。
地上にいるありがたさを噛みしめて、最後を遂げるのでも私は悔いなく終われそうだった。

会議は膠着した。20分おきに、本部から選択の決断の確認がきた。ホーネットさんが
「もう少し待ってください。」
と繰り返していた。
そしてとうとう、タイムリミットの30分前を切った。

私たちは、長い討論の末、どんな結論でも全員受け付ける状態になっていた。
地球に帰れなくても、帰れても、どちらになっても誰も文句は無かった。
だからこそ、最後の決断を出すことが出来なかった。
もちろん、じゃんけんで決めよう、と言えるような簡単な話ではなかった。

残り10分となった。
最後の確認をするために、画面の前にホーネットさんが呼び出される。
「みんな、最後は私が決めていいのか?」
その問いに、私たちは頷いた。
「分かった。」
そう言って、ホーネットさんは、地上との連絡を始めた。

「こちら宇宙ステーション、こちら宇宙ステーション。最終決断をする。
 、、、我々は帰還せずに、この場に残る。我々の期間準備にあたっていた者たちは、直ちに準備を中止してくれ。、、、今までありがとう。それでは。」
と言い、通話を切った。

いつものミーティングルームに戻ると、私たちの方を向いて謝った。
「勝手だが、この決断をした。、、、申し訳ない。特にテリーは、、、」
「いや、いいんだ。ホーネットは、俺らが決めきれなかったことを、苦渋の決断を本部に伝えてくれたんだ。なにも文句はねぇよ。」
と、テリーさんは言った。
それを聞いて、ホーネットさんは少しほっとした様子だった。
「ちなみに、ここに残ると決めたその決め手はなんですか?」
と、トーマスが聞くと
「私たちが帰還する場合、司令本部はその帰還のサポートをしなければならない。帰るか帰らないかで迷っているような私たちのために、だ。
 それなら、あそこのみんなの時間を尊重した。私たちがここに残ると決めたことで、何住人という人が、このあとの残り少ない時間を自分のために使うことが出来る。その方が、あいつらのためだと思った。」
やっぱり、ホーネットさんは流石だった。
この状況下でも、他人のことを思って行動できる。
私たちは、何も反論しなかった。

ホーネットさんが私の元へと寄って来た。
「ごめんなブーケ。私はお前の心が読める訳じゃないから、お前の意見まで尊重できなかった。もし、お前が帰りたかったのなら、それは俺の責任だ。思いっきりはたくなり、呪うなりしてくれ。」
と言った。
私はホーネットさんの胸元へ飛んで行った。そのまま、ホーネットさんの優しさに泣いてしまった。
ホーネットさんも、私を抱きしめると、緊張が一気に抜けたのか、私と一緒に泣き出してしまった。
気が付けば、テリーも、トーマスも、もらい泣きしていた。
自分たちが決めたことだが、やっぱり、もう二度と大地を踏みしめることが出来ない悲しみが私たちを襲った。

部屋の中には、無数の雫が飛び散っていた。

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2020.5.10  20:01:27    公開


■  コメント (4)

※ 色の付いたコメントは、作者自身によるものです。

KOHAKUさん
コメントありがとうございます!
今回の物語の中で、一番特殊な例の話だったと思います。
彼らは、少しでも長く生きることを選択しましたが、明日以降は宇宙ステーションにいるメンバー以外生命体が居ない世界を生きなければなりません。
残される側の方が辛いとも言いますし、、、。
かなりシリアスなお話だったと思います。
次回も楽しみに読んでください!

20.5.13  13:05  -  ダンゴムシ  (tailback)

今回は宇宙飛行士たちのお話なんですね…!
確かに、地上にいない分寿命は伸びるかも知れませんが、彼らは滅んでいく地球の最期を見届けることになるんですよね…!?
それぞれの思いを胸にしながらも、受け入れなければいけない現実がある…
とても残酷で切ないです…
恋模様から現実的なお話まで…!
物語の振れ幅が大きい…!!(o_o)
すごいです!
次回も楽しみにしています!

20.5.13  12:06  -  KOHAKU  (sian331x)

LOVE★FAILYさん
コメントありがとうございます!
3人とムウマは残ることを選択しましたが、その後どのように過ごしたかは、皆さんの想像にお任せします。
そして、皆さんだったら、戻ったか、戻らなかったか、考えてみてください。
次回も頑張ります!

20.5.10  21:28  -  ダンゴムシ  (tailback)

宇宙ステーションで会議をする際、3人の宇宙飛行士にとって大切な人達に再会したいがために地上に帰還すべきかどうかで悩んだ末、地上に戻らない事に決めた彼らにとっては、まさに苦渋の選択だったかもしれませんね。
次回も楽しみにしています!

20.5.10  20:33  -  LOVE★FAIRY  (FAIRY)

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