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残り24時間。

著編者 : ダンゴムシ

素敵なデコレーション 後編

著 : ダンゴムシ

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未だに、目の前で起こった光景に、驚きを隠せなかった。
俺の目の前には、赤のアネモネが、確かに、そして鮮やかに咲いていた。
気づいた時には、両目から涙がこぼれていた。

「いい男が泣いちゃいけねぇだろ。」
メガニウムがニコニコしながら、こっちを見てそう言った。
「あんたは、魔法使いかなんかなのか?」
「ふーむ。まぁ、そういうことでいいんじゃない?私も最後にそんなに喜んでる顔が見れるとは思わなかったよ。」
そして、メガニウムは一輪のアネモネを摘んで、俺の元へ帰って来た。
「お前には、これを届けなければいけない誰かがいるんだろう?こんなところでいつまでも感動に浸っている場合じゃないと思うけどね。」
そう言われ、はっとした。空は、もう青から橙へと変わりかけていた。
「ありがとう!ほんっとうにありがとう!」
「礼はいいさ。、、、きちんと届けるんだよ!」
アネモネの花を口にくわえた俺は、そう言うメガニウムを背にして、急いでアイスのもとに向かった。

自然公園を抜け、コガネシティもあっという間に通り抜けた。コガネを出るとき、街の電灯がちらほら点き始めていたのが見えた。
急いでウバメの森を抜けないと。ただでさえ薄暗いあの森に、夜に入っていくのは、ただの自殺行為だった。
行きは騒がしかった育て屋さんも、帰りはいつものように閑散としていた。ミルタンクさんの姿が見えなかったので、お疲れさまでしたと念だけ送って、通り過ぎた。
そして、ウバメの森に入っていった。

しかし、森の中は行きと比べて、明らかに様子がおかしかった。
常に、誰かの叫び声が聞こえた。
入り口の右手では、パラスたちで集まってみんなで泣いていた。
入り口の左手では、ラフレシアが、放心状態でボーっと腰を下ろしていた。
俺の、お世辞にも賢いと言えない頭でもすぐに分かった。
みんな、明日が来ないことを知って、混乱しているのだった。

急いで帰りたいのはやまやまなのだが、もう既に森は暗く、慎重に帰らないと道に迷ってしまうと思った。それでも、急がなければと思って、走り出そうとした時だった。
背後の木から、殺気を感じた。
慌てて左へ避けると、二本の角が空を切っていた。
そして、茂みの中から狂気に満ちたカイロスが飛び出してきた。
とてもじゃないが、話を聞いてくれる雰囲気でも、逃がしてくれる雰囲気でもなかった。
やるしかない。

決心をして、カイロスに飛び掛かった。
そいつは角で俺を挟もうとしたから、左右のフェイントでそれをかわし、高速クイックターンで背後から蹴りをくらわせた。よろめいた体にすぐさまスピードスターを打ち込んだが、そいつは状態をすぐ立て直した後、いとも簡単に星をかわしていった。追尾型の星なのだが、シザークロスで粉々にしていった。頭は混乱しているのに冷静な判断だった。
もう一度、角で突撃した来たから上に跳んでかわすと、そのまま体当たりしてきた。敵ながら見事なダブルアタックだった。まんまとはめられた俺は、空中で角に捕まり、そのまま地面に叩きつけられた。
こいつは強い。確信した。
でも、自慢の電撃は使えない。口に咥えている花が焦げてしまうから。
それでも、この花をアイスに届けるには、こいつを倒すしかない。
闘志を燃やせ。全神経を集中させろ。
俺ならできる。

俺は、吠えた。花は放さず。けど、森中に響き渡るような甲高い声で。
そして、俺からカイロスに向かって行った。十八番のミサイル針で動きを封じ込め、自慢の瞬発力を最大限まで発揮し、音速のスピードで背後から奇襲をかけた。
技の名は、恩返し。
今日という日を俺に自由にさせてくれた、主人への恩。
俺のために奇跡を起こしてくれた、メガニウムへの恩。
そして、ここまで俺を奮い立たせてくれる、アイスへの恩。
みんなへの思いが詰まった、渾身の恩返しだった。
カイロスは、前に倒れた。
そしてすぐに俺は飛び上がり、カイロスの頭めがけて右後足を振り下ろした。
体中の電流をすべて込めた、必殺のかかと落としだった。

砂埃が収まると、俺の前には戦闘不能になったカイロスがいた。森の奥の方から騒ぎを聞きつけた仲間たちが駆けつけてくる足音が聞こえたので、俺は茂みに隠れながら出口に急いだ。そして、死闘から10分も経たないうちにウバメの森の出口に辿り着いた。

ヒウンタウンに戻って、すぐにアイスの元へ向かった。空は、真っ赤に染まっていた。
そして、ついにアイスの住む家の前に辿り着いた。
アイスは、いつものように屋根の上で、地平線に沈もうとする太陽を眺めていた。
「おーい、アイス!」
「あ、フラッシュ!どうしたの?」
アイスは、屋根の上から華麗に飛び降りて、俺の前に降り立った。

「これを君にプレゼントしようと思って。」
そう言って、口に咥えていたアネモネをそっと地面に置いた。
その時、俺は初めて気づいた。花はボロボロだった。
泥まみれだし、花びらも一、二枚欠けていた。
「あ、、、ごめん、、、」
「どうしたの?」
「こんなきたねえ花貰っても、、、だよな。でも、もともとはめちゃくちゃきれいな」
「何言ってるの。嬉しいに決まってるでしょ!」
アイスは、その花を自分の左耳の上に乗せた。
「お、おい!そんな花身に付けてちゃ、お前の体が汚れるだろうがよ!」
「そんなのどうだっていいよ。
この花は、フラッシュが私のために一生懸命頑張って探してきてくれた花なんでしょ?あなたの思いがたくさん詰まった花なんだもの。、、、それは、どんな高価なものよりも価値があるものだと私は思うな。」
そう言って、アイスは微笑んだ。
俺は、その笑顔にすべてを救われた気さえした。とてつもなく嬉しかった。

「そういえば、この花になにか意味はあるの?」
そう、アイスが聞いた。
そうだ、主人から教えてもらったときから、この時を待っていた。
勇気を出すんだ。俺。
一回深呼吸をして、言った。
「ああ。『君を愛す』だ。」
アイスの顔が、赤らんでいった。
「え、それって、、、」
意を決して、伝えるんだ!
「アイス。君のことが好きだ。大好きだ!
、、、こんな時に言うことじゃないかもしれないけど、言わせてくれ。
俺と結婚してください。アイス。」
俺は、真っすぐアイスの目を見た。
「フラッシュ!」
「、、、なんだ、アイ」
その瞬間、アイスは俺のほっぺにキスをした。

「ありがとう、フラッシュ。もちろん、謹んでお受けするよ!」
「ほ、ほんと!?、、、俺でいいのか、アイスは。」
「、、、フラッシュじゃないとだめなの。この花を貰って、そう思った。」
そう言って、アネモネの花を指した。
「私も大好きだよっ!フラッシュ!」
そう言って、俺に飛び掛かろうとした。
「ま、待て!俺の体泥まみれだから、あんま近づくとお前も泥まみれになるぞ!」
「いいじゃんか〜。できるだけくっついていたいの。」
そう言って、アイスは俺に抱きついてきた。俺はしっかり受け止めた。
アイスの深い愛が俺を包み込んでくれた。
幸せな感覚だった。

「、、、生まれ変わったらさ、もう一度お前を迎えに行くよ。」
「え?」
「その時は、二人で幸せに暮らそうぜ。」
「じゃあ、その時はちゃんときれいな花をプレゼントしてほしいな。」
「、、、やっぱり、きれいな状態の方がいいんじゃないか。」
「あ、ほんとだ。へへへへ。」
そうやって、アイスは笑った。

夕日が俺たちを照らしていく。
アイスの素敵な笑顔には、アネモネの花が添えられるように左耳で輝いていた。

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2020.5.9  13:23:37    公開
2020.5.9  13:32:04    修正


■  コメント (4)

※ 色の付いたコメントは、作者自身によるものです。

KOHAKUさん
コメントありがとうございます!
本当に素晴らしい考察に私こそ脱帽です!ありがとうございます!
その通りです。赤いアネモネには「君を愛す」という意味が込められていますが、アネモネ自体にはこれに加えて「はかない恋」という意味も込められています。
主人とフラッシュ、そしてアイスはそのことを知りません。全ては偶然なのです。(ということにしてくださいお願いします。)
「素敵なデコレーション」というタイトルについては、また後日各物語を振り返るつもりだったので、その時にお話ししようと思います。
次回も楽しみに読んでください!

20.5.13  13:00  -  ダンゴムシ  (tailback)

いや、バトル描写が上手過ぎて…!(o_o)
アニメ見てる気分でした!!凄く勉強になります…!
そして、もしかしてですが…(間違えていたらすみません!)
アネモネの花言葉「君を愛す」に、ヒロインの名前の「アイス」を掛けていて、さらに花言葉のもう一つの意味「儚い恋」を掛けてませんか…!!?
二人の恋はハッピーエンドだったと見せかけて、この後世界は終末を迎えてしまい、その恋は儚いものだった、と…
ダンゴムシさん天才過ぎませんか…!?
脱帽し過ぎてハゲそう…!笑
素晴らしいお話でした(´;ω;`)
題名の「素敵なデコレーション」とはアイスちゃんの耳に飾られたアネモネの事?
それとも、フラッシュの人生を飾った最期の想い出のこと?
やはり奥が深い…!

20.5.13  11:54  -  KOHAKU  (sian331x)

LOVE★FAILYさん
コメントありがとうございます!
フラッシュはとても勇敢ですよね。
バトルシーンは、かなり力を込めて描きました!
そして、アイスがその花を嬉しそうに受け取ったのも、フラッシュのその勇敢な姿があったからなのかもしれませんね。
次回も頑張ります!

20.5.9  23:14  -  ダンゴムシ  (tailback)

アイスの為に真紅のアネモネの花を届けに行く途中、ウバメの森でカイロスとの死闘を繰り広げたせいで、花は何もかもボロボロになってしまったけれど、それでもアイスの為に一生懸命になって頑張るフラッシュはとても勇敢ですね……
次回も楽しみにしています!

20.5.9  20:46  -  LOVE★FAIRY  (FAIRY)

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