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残り24時間。
塵になる前に
著 : ダンゴムシ
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今朝、カエデから、翌日の朝に隕石が落ちてくる。だから明日は来ない、今日が最後の日になる、という話を聞いた。
その瞬間、俺が今日することは決まった。
カエデに、ちょっくら出かけてくると言って、俺は少し遠目に見えるところにあるセキチクシティに向かっていた。
目的はただ一つ。
復讐、だった。
俺が生まれたばかりのヨーギラスだった10年ほど前に、すべては始まった。
俺を飼っていた家族のお父さんが操縦している飛行機が海へ墜落した。
原因は不明。回収された機体を調査したが、エンジン等の不備もなく、特に墜落するような原因となるようなものは見つからなかった。
当時の警察や検事は1ヶ月ほど、原因追及のための捜査を続けてくれた。でも、最終判断は、機長であるお父さんの操縦ミス、という結論になった。
それから、街の人がうちの家族に接する態度は急変してしまった。
街の人は、一部の人を除いて俺たちを無視するようになった。ジムリーダーさえ、この事態には目をつむった。
フレンドリィショップには入店禁止になった。日常品を買うためには、変装して他の町のお店で買う必要があった。
次第に、街を歩いていると意味もなく暴力に会うようになった。変装しててもばれてしまうので、ついに家族総出で引っ越さなければならなくなった。
でも、どこの町も俺たちを受け入れてはくれなかった。
俺たちは、カントー地方の全員を敵に回すことになってしまっていた。
俺たちは街のはずれに家を建てる以外なかった。
そうして、社会から孤立していくしかなかった。
お母さんは、パートの仕事を転々とした。お父さんが亡くなった今、自分しか働く人がいなかったから、どんな仕事でもやった。いつもくたくたになって帰ってくるお母さんの姿は、とてもじゃないが見ていられなかった。
そのシワ寄せは、カエデにも押し寄せることとなった。
幼かったカエデは学校で陰湿すぎるいじめにあい、学校に行けなくなった。
友達もみんな話してくれなくなった。
カエデは、俺以外の話す相手を失った。
それだけでなく、学校に行っていないということは、実力至上主義の現代社会において、就職という面でかなりのハンデを背負うことを意味していた。
それでなくても、家族のことについて調べられるなんてことがあった場合には、即クビになってもおかしくないので、カエデは将来に不安しか抱けない少女になってしまった。
そんな苦しい生活を続けた結果、お母さんは今年の3月に亡くなった。過度な精神と身体疲労が死因だった。
俺たちは火葬するお金なんて無かったから、すぐそばの森に遺体を埋葬した。そのときにカエデが見せた、悲壮感に包まれた顔が俺の頭から離れなくなってしまった。
そして俺は決意した。いつか復讐してやると。カエデにこんなにも悲しい顔をさせた社会を俺が叩きのめしに行くと。
俺たちは、森にすむポケモンたちに協力してもらって、住みかと食べものを提供してもらうことになった。
そして、その当時サナギラスだった俺は、強くなるために昼夜構わず自分の体を鍛え続けた。森のポケモンたちとバトルしたり、自ら体を痛みつけるような苦行に近いようなトレーニングも行った。
そして、血のにじむような特訓が花開いたのは、つい4日前だった。まばゆい光とともに俺は凶悪なバンギラスへと姿を変えたのだった。カエデもお祝いしてくれた。
俺は、この体に慣れてから、自分のすべき指名を果たしに行こう、そう思っていた。
そして、今日。明日が来ないという状況が、逆に俺のすべきことを導いてるとすら感じた。俺の中でモヤモヤしていた思いを取っ払って、憎き街へと足を進めるのだった。
街に着くと、大通りには人があまりいなかった。みんな家で過ごしているのか、そう思いながら、俺たちが昔住んでいた家の前まで進んだ。そこには、無数の落書きがされてある、一軒の空き家があった。何が書かれているのか、詳しくは分からなかったが、俺たちのことを非難して書かれたものがほとんどなのだろう。俺はしばらく、その当時の苦しかった生活を思い出していた。すると、
「あんた、あの家に住んでいたヨーギラスかい?」
そう声をかけて来たのは、隣の家に住んでいたクソババァだった。
「ほんと、あんたらのせいで、私たちまで迷惑かかったんだからね。勝手にどっか行っちゃうしさぁ。夜な夜な、『あいつらはどこ行ったんだ!』って押し寄せてきたんだよ。お前らという、社会不適合者の勝手のせいでな!」
そう言って、俺を蹴ったあげく、俺たちの家に石を投げつけた。
その瞬間、俺はそいつを掴んで、思いっきり投げ飛ばした。そいつは近くの民家にぶつかると、背中から大量の血しぶきを出して、その場に倒れた。
それを見ていた人たちが、悲鳴を上げる。
悲鳴を聞いた近所の人たちが出てきて、俺の方へと走って来た。
面白い。止めれるものなら止めてみろよ、このくそ人間どもがよ!
そして俺は、街に向けて破壊光線を放った。
その後、セキチクシティは焼け野原と化した。俺は自分が思っていた2倍も3倍も強かった。ジムリーダーが不在だったこともあり、俺を止めることが出来る者はいなかった。警察も来たが、全員ストーンエッジで吹き飛ばした。目に映るすべての建物を破壊し、止めに来る人も逃げる人も構わず殺戮した。
全てをコワし続け、建物が燃え上がり、人の気配がしなくなったのを確認して、俺はこの街を後にした。
10年越しの復讐は、ものの1時間の間で終結してしまった。
俺が家に帰ると、カエデが家の前で俺の帰宅を待っていた。そして、黒いすすがところどころ目立つ俺の姿を見るや否や、駆け寄ってきて、そして
俺を殴った。
「どうして街を攻撃したの!、、、ここからでもセキチクの街が破壊されていったのが見えたよ、、、君の仕業なんでしょ!なんで、、、なんで、、、そんなこと私は頼んでないでしょ!」
俺はこの日をずっと待っていた。自分たちを苦しめた奴らに復讐を果たし、カエデにいい顔をして欲しかった。でも、カエデが今見せているのは、笑顔でも、褒めてくれる顔でも、うれし涙を流している顔でもなく、怒りと悲しみに溢れた顔だった。
「いい?君は今、どんな感情でいるの?どう?爽快感でいっぱい?違うでしょ!?だって心優しい君だもん。今、君を襲っているのは、どうしようもない後悔でしょ!!違う!?」
カエデがそういうのを聞いて初めて、俺は復讐が完了したのに、満たされていない自分の思いを感じ取った。
そして、今込み上げているのは、、、紛れもなく、自負の念だった。
「私は、君にこういうことだけはしてほしくなかった。私は今の生活で十分だった。別にあいつらのことは心底憎んでいる。、、、でもね、争いっていうのは、なにも生み出さないの。復讐したからって、またあいつらの復讐を呼ぶだけ。、、、君はそれがわかっている子だと思っていた、、、。」
カエデの言葉に、俺はなにも言い返せなかった。
確かにその言葉は聞いたことがあった。
今、その意味がよく分かった。
俺の燃える復讐心は、塵になって消えていった。
2020.5.7 13:42:42 公開
■ コメント (4)
※ 色の付いたコメントは、作者自身によるものです。
20.5.7 21:18 - ダンゴムシ (tailback) |
LOVE★FAILYさん コメントありがとうございます! バンギラスは、この後ものすごく後悔します。残り少ない時間なのですが、自分のやったことを振り返ります。 私からも言いたいことは一つだけです。 復讐心を理由にして、争いごとをするのはよくないということです。 このバンギラスのような人が現れてほしくないので、、、 次回も頑張ります! 20.5.7 21:13 - ダンゴムシ (tailback) |
復讐からは何も生まれない(´;ω;`) でも人間達は何回もこれを繰り返し戦争をしてしまっている… 本当の平和に必要なのはかえでのような心の持ち主ですね! かえでのお陰でバンギラスも後悔しながらもきっと「復讐はなにも生み出さない」ということに気付けたのですね! ただやっぱり明日は来ない…切ない…(´;ω;`) 20.5.7 20:54 - KOHAKU (sian331x) |
社会そのものに復讐を誓ったバンギラス、積もり積もった怒りに満ち溢れたあまり、遂にはセキチクの街を破壊光線で壊滅させてしまいましたね…… カエデの為であるとはいえ、壊滅させた事自体逆に彼女を悲しませた事に、バンギラスにとってはこの事にとても後悔していたかもしれませんね…… 次回も楽しみにしています! 20.5.7 19:28 - LOVE★FAIRY (FAIRY) |
コメントありがとうございます!
そうです。復讐からはなにも生まれません。世の中に必要なのは、カエデのような心の持ち主です。
、、、というわけで、昨日楽しく読める話を心がけていこうと話したばかりなのに、すーぐに破ってしまいました。
次、小説を書くときは、明るい話になるようにしよう。うん、そうしよう。
次回も頑張ります!