ポケモンノベル

ポケモンノベル >> 小説を読む

dummy

【企画】一つ屋根の下で〜みんなで紡ぐ物語

著編者 : じおぐら4891 + 全てのライター

【4号室】ありっちゃあり

著 : ダンゴムシ

ご覧になるには、最新版の「Adobe Flash Player」が必要です。 また、JavaScriptを有効にしてください。

 
 俺はよく妥協を許してしまいがちである。

 バトルの練習もそうだし、何か決めごとをする際やら身の回りの整理をするときやら、いちいち数えていてはキリがない。ここへ来るときも最初は電車とかバスとかで行こうとしていたのだが、結局乗り換えを調べるのが面倒くさくてタクシーで来てしまった。そうしてお金を払う時に、自分の計画性の無さに呆れてしまうのである。
 さて、少し時を戻そう。俺が新しく一人暮らしをするにあたって不動屋さんを数件(二件)回っていい物件があるかどうかを調べていた。俺が求めた条件は三つ。家賃が安い事、大きな庭がある事、利便性が高いところ。この三つだ。しかしまぁ当たり前ではあるのだが現実は非常なもので、庭や部屋が広けりゃ家賃が高く、利便性が良けりゃあ庭が無く、部屋が安けりゃあド田舎、みたいな感じで俺の理想を大方半分くらい叶えてくれる物件はゴロゴロ転がっていたが、肝心なところが虫食い穴になっていて、「ココだ!」と思えるところは全然見当たらない。そこで、俺は「利便性」の部分のハードルを少しずつ下げていった。そしてやすりで削るように徐々に徐々に許容点をそぎ落としていき、ついに長年研ぎ澄まされた俺の感覚におけるジャストな妥協点が目に入った。
「この【エルスレイズ・マンション】ってとこ、どんな感じですかね?」
 そうして今に至る。正直言って、部屋は思っていたより広い。最先端のものには程遠いが新品同様の家具や家電もそろってるし、不備もなく使いやすい。窓を開けるとそこには広大な庭が広がっている。一面の緑黄色に心が清められていく。非常に良い。本当に新生活を始めるには素晴らしいスタートだ。しかし、一点だけ、一点だけこのスタートを駆け出すのを拒むようなミスをしてしまった。

 利便性のハードルを下げ過ぎた。

 まず、スーパーが死ぬほど遠い。山を下りた先にあればまだしも、どうやらもう一つ山を越えないとスーパーどころかコンビニもありゃしないらしい。他の生活に必要なものも全然売ってない。唯一、たばこ売り場だけ一つの山を越えなくても手に入るらしいのだが、そんなものポケモンが買う訳がないし、そもそもどんな状況でも必要になることはない。
 でも、そんな超絶不便な状況の中、数匹のポケモンがこのマンションで毎日らんらんと生活しているという。何かこの状況を打破する秘策があるかもしれない。
俺は、食べものとか生活必需品を他の住民はどう調達しているのかを聞いてみた。

 まず、マンション長。部屋に入るとなんか滅茶苦茶広いスペースの真ん中にラティオスがだら〜んとくつろいでいた。噂には聞いていたが、実物を見るのは初めてだ。買い物はどうしているのかと尋ねると、
「いま、ラティちゃんが行ってるよ。」
 お前もラティじゃねぇのか。とつっこみたくなるのを我慢して、
「え、何を使ってですか?」
 と、何か公共交通機関があるのかと期待を込めて聞いた。
「翼。」
 そういやこいつら、飛べんじゃねえか。

 次の部屋は、入ったとたん熱帯雨林にでもワープしたのかと錯覚してしまった。中から返事らしき声が上がったのは幻聴だったのではないかという一末の不安を抱えながらも奥へと進んでいくと、普通の生活感を出すために申し訳ない程度に置かれた座椅子の上に胡坐を組みながら悟りかなんかを開いこうとしている奴がいた。
「お主か。」
「初対面なんすけど。」
「なにか言いたげな顔であるぞ。」
「いったいこの部屋はどうなってんだよ。」
「ついちょっと前まではごくごく普通の部屋だったんだがな、気づいたらこれだ。」
 んなわけねぇだろ。
「そういや、ここにある観葉植物とか座椅子とかはどうやって手に入れたんだ?」
「え、そんなこと聞く?」
「いや、俺にとってはめっちゃ重大な情報なんだ。どこだ、どこで買った?」
「ネットだが?」
 俺は一礼だけすると、そのまま顔を上げずに後ずさりしながら部屋を出た。

 因みに電子機器は持っていないから、ただ俺の無知さをあいつに教えるだけになってしまった。

 しかし、この世のものとは思えない部屋を体験したからか、最後の部屋にも少し悪寒を感じつつあった。まぁ、でもあの部屋を越えるほどのおかしな部屋ではないだろうと高を括りつつ扉を開けた。そして、三メートル先には水が張ってあるのを確認して、自分の両眼を疑った。もはや水族館のイルカの水槽に続く従業員専用のドアを開いた気分である。おそるおそる両足をちょっとずつ引きずらせて水辺の前まで来た。意を決して水辺を覗き込もうとすると、近くの岩場から猛スピードでこっちへ黄色い尾びれが向かってきた。目を丸くする俺の顔の真正面まで来ると、水から顔を出してキバニアは喋り出した。
「Hey ! Who are you ? It‘s the hace to start.」
「はい?」
 思わず叫んでしまった。
「Oh. It was good ! I was surprised because you came suddenly.」
「へ?」
 何を言ってるのかさっぱり分かんねぇ。とりあえず、歓迎はされているのか?
「あの、聞きたいことが…」
「Hmm ? By the way, what are you doing here ? Or rather, I wonder if you &%$#\...」
 駄目だ。何言ってるのかさっぱり分かんねぇ。もしかしたら、大切なことを言っている気もするが、翻訳者がいないとどっちにせよ一方通行すぎる。
「だからさっきから言ってることが…」
「ただいま。」
「オカエリッ!」
「へっ?」
 気が付くとなんか水の中からニョロトノが顔だけ出していた。てかそれより今キバニア普通に話せてなかっ
「あっ、なに不法侵入してんだ!」
「は? 別に俺は不法侵入じゃn」
 俺が弁論を取る暇もなく陸上に上がったニョロトノは容赦のかけらもなく口からハイドロポンプを繰り出した。真正面からもろに受けた俺は入り口に向かって一直線に伸びていき、受け身を取る暇もなく廊下にはじき出された。衝撃で頭がクラクラし意識が朦朧となる中、扉が強く閉まる音だけ僅かに聞こえると俺は喉から絞り出すようなかすれ声でこう言った。

「やっぱ一回は現地の下見をすべきだった…。」



 + + + + +



「もしも〜し、大丈夫ですか〜?」
 頭上。声がした。どこぞのアニメで聞いたことがあるようなフレーズだが、原作のようなサイコパスみは一切感じられず、優しさの純度百パーセントで包まれてあることが寝ぼけ気味の頭の中でもしっかり伝わって来た。目を開けると、いつの間にか俺はマンションの目の前の庭に横たわっていて、俺から見て右手側から太陽の痛いくらいの眩しい光を遮るように俺を覗き込む一匹のラティアスがいた。おそらく、一号室のラティオスが言っていたラティちゃんなのだろう。
「帰ってきたら、廊下で君が倒れていたから、とりあえず外に連れ出してみたんだけど…。」
「あ、ありがとうございます。」
 出来るなら自分の部屋に持って行って欲しかったが、それは言わないでおこう。
「しかしまぁ、どうしてあんなところで寝落ちを?」
「いや、気絶してただけです。」
 俺は、他の住人に買い物はどうしているのかと問いまわって、気絶するまでのいきさつを話した。自分で話しながら非現実的な出来事の数々にとち狂いそうになったが、聞いているラティアスはウフフと笑うだけであった。もう、この生活に慣れているのだろう。
「しかしまぁ、これから俺はどうすりゃいいんだろうな。」
「それなら、私に買うものを教えてもらえたら、代わりに買い物に行きますよ。」
「いや、それは流石に申し訳なさすぎるよ!」
「そう? 別にそんな大変なことでもないんだけど…。」
「でも、それはあまりにあなたに仕事を任せすぎじゃ…。」

「このマンションでは、困ったらお互い様ですよ。」

 という訳で、引っ越し早々生じた最大の悩みは、ラティアスの聖母的な深い愛が見事に解消してくれた。確かにこのマンションの生活の不安が完全に晴れたわけではないが、これでやっと新生活が始まるといった感覚だ。ちなみにあの後すぐにニョロトノが俺の部屋に駆けこんで謝罪しに来た。別に気にしないでという旨を伝えても尚腹を切るような勢いで頭を地面につけようとしたものだから、何故か和解に時間がかかった。
 まぁいいだろう。生憎、こんなに個性的なマンションでマンネリすることは無いだろうというそこだけは、入りたての今でも確信しているのだから。

「そういえば、君は今日ここに来た入居者よね! 名前は?」
「あぁ、そうだったな。」

「4号室入居者のホルビーです。世間知らずの若造ですが、以後お見知りおきを。」

 これから、楽しくなりそうである。






P.S
作者のダンゴムシです。
今回はこの企画に(勝手に)参加させていただきありがとうございました!
ポケメールでの受け答えも迅速にしていただきましたので、素早く投稿することが出来た次第であります。(笑) いやぁ本当にありがとうございました。
企画ものはやっぱ楽しいですね!
これからも時間とアイデアが確保出来次第投稿していきたいと思います。
ではでは失礼しました〜。

⇒ 書き表示にする

2021.5.10  23:33:18    公開
2021.5.12  19:19:18    修正


■  コメント (1)

※ 色の付いたコメントは、作者自身によるものです。

これから一人暮らしを始める為、エルスレイズ・マンションに住むことになったものの、マンション長を始め、外国語をペラペラ喋るキバニアといったポケモン達は何かと癖がありすぎますね……
しかし、不法侵入だと勘違いされたあまりにニョロトノに水をかけられて気絶する羽目となったホルビーにとっては本当に災難ですね……
とても面白いお話でした!

21.5.11  00:54  -  LOVE★FAIRY  (FAIRY)

 
パスワード:

コメントの投稿

コメントは投稿後もご自分での削除が可能ですが、この設定は変更になる可能性がありますので、予めご了承下さい。

※ 「プレイ!ポケモンポイント!」のユーザーは、必ずログインをしてから投稿して下さい。

名前(HN)を 半角1文字以上16文字以下 で入力して下さい。

パスワードを 半角4文字以上8文字以下の半角英数字 で入力して下さい。

メッセージを 半角1文字以上1000文字以下 で入力して下さい。

作者または管理者が、不適切と判断したコメントは、予告なしに削除されることがあります。

上記の入力に間違いがなければ、確認画面へ移動します。


<< 前へ戻るもくじに戻る 次へ進む >>