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【企画】一つ屋根の下で〜みんなで紡ぐ物語

著編者 : じおぐら4891 + 全てのライター

【2号室】ジャングルリフォーム大作戦

著 : Cynothoglys

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 私は扉を開けて1秒足らずでその扉をそのまま閉めた。その1秒足らずの間に私の目に飛び込んできた映像を必死に頭の中で整理する。それだけ短い時間の記憶であっても目に映ったものが強烈ならば想起は容易だろう。より情報を明確にするためここまでの経緯も振り返る。
 まず私は友人のヤレユータンに某所に建てられたマンションに住むと一報をもらったダーテングだ。同じ森に棲んでいたが、奴曰く「新たな世界観を築きたい」とのことで森から離れた場所にあるこのマンションに移り住むことにしたらしい。奴とは同じ森で共生した長年の友人であり、長年の付き合いが故に奴が自分の知識欲に忠実で自分の決めたことをそう簡単に覆さない頑固な性格をしているのも承知していたので快く見送った。それが先月のことだ。
 そして奴から一報が来た。客を呼べる程度に部屋が整ったので一度来てほしいと。そして私は今奴が引っ越してきたというエルスレイズ・マンションとやらに訪れ、奴の住む2号室の扉を開いた。それがさっきまでの私の行動の経緯だ。
 だが私の眼に映った光景は私が想像していたマンションの一室とはかけ離れたものだった。私が想像していたマンションの一室というのは小綺麗な床と壁に様々な家具や物がちりばめられ、その中に個々のこだわりや趣味嗜好といったものが表れる。奴の性格や趣味嗜好を考えるなら草木などの植物を育てて眺めることを何よりの楽しみにしていた。そのためプランターの1つや2つを用意して美しい花を植えつつ、部屋の隅にもこじゃれた観葉植物の一つでも置いてある。私が想像していた奴の部屋とはせいぜいそんなところだ。そんな私の想像を容易に飛び越えた部屋が私の目の前に映り、現実と想像の差異を受け止めきれずに思わず扉を閉めた。
 私は一度呼吸を置き、再び扉に手をかける。ガチャリという音と共に奴の築いた世界を再び目の当たりにする。そして私は確信した。先ほど見た光景が見間違いでは決してないということに。
「なんじゃこりゃああああああああ」
 一応注釈しておくが私は比較的冷静な性格をしている。無為に騒ぐことや叫ぶことにあまり意義を感じないからだ。だが目の前に広がる光景はそんな私から冷静さをものの見事に消し飛ばして見せた。私の目に映るのは一面の緑、緑、緑だ。小綺麗さを感じさせていたであろう床を見事に覆った黒土。備え付けであったであろう家具に巻き付くツタ。壁には様々な植物が意気揚々と生い茂っている。プランターなんてものはなく、敷き詰められた土から多様な花たちが元気な姿を見せる。そしてもうここまで来れば観葉植物なんて必要ない。なんせ目の前に映る光景は全部植物なのだから。
『おお、来たかダーテングよ。どうだ、私の部屋は。』
「どうもこうもないわ!何をして・・・・・・」
 私の耳に奴の、ヤレユータンの声が聞こえたから咄嗟に反応をしたのだが肝心の奴の姿が見えない。視界を覆う室内ジャングルとはいえ体の小さな者ならいざ知れず、並の図体をした奴が見つからないことはないはずだ。
 そういえば先ほどの奴の声が妙にこもっていたような気がしたが・・・・・・
「何がどうもこうもないと言うのだ?」
 私は言葉が出なかった。姿が見えないと思っていた奴は部屋の奥にわずかに見えていた木製クローゼットの中から飛び出してきたのだ。
「貴様、なんという場所から出てくるのだ。」
「入った当初から備え付けられていたものでな。森の中にいた時も樹木にできた穴で瞑想をしたことはあったが、まさか完全に木で囲まれながら瞑想ができるとはな。素晴らしいものがあった。」
「それは物を収納する家具であって中で瞑想をするための家具ではない!」
「ぬぅ、そうなのか?形からしててっきり・・・・・・」
 奴はそれとなく残念な表情を見せる。だがもはやこの部屋の惨状を見た後ではクローゼットの中に誰かが入ろうと大した問題には映らない。感覚の麻痺とは困ったものである。
「なんなんだこの部屋は!貴様、新しい世界観を築くために森から出ていったのだろう。部屋がこれでは森の中と変わらんではないか!」
「勝手が違いすぎて住みにくくてな。」
 とてもシンプルな回答だ。うだうだと御託を並べられるよりは清々しさを感じる。
「そもそもマンションの一室をこのような植物だらけにして良いわけがなかろう!」
「許可は取ってある。」
 意外な答えだ。てっきり勝手がわからず許可もなしにこんな魔改造をしたのかと思っていたが、さすがにその程度の良識は持っていたか。
「二つ返事で問題ないと言われたぞ。」
 少し疑惑が出てくる。ここまでの魔改造を二つ返事で問題ないというのはおかしな話だ。
「誰に許可を取った?」
「1号室に住むマンション長」
 あぁ、マンションを取り仕切る者から得た許可なら問題は・・・・・・
「の娘だ。」
 問題大有りだった。
「しばし待て。」
 私は即座に1号室へと向かった。

〜〜〜〜数時間後〜〜〜〜

「ダメに決まっているだろうが!!!!!!」
「・・・・・・?」
「貴様あの娘に対して『部屋を少し弄っていいか?』としか聞いていないであろう!そんな簡単な質問すれば大抵の奴は『問題ない』と答えるに決まっておるわ!」
「ダメなのか?」
「部屋を少しいじるのはダメではない。が、これは断じて少しの改装ではない!もはや別の空間だ!マンション長のラティオスもこの現状を話して軽く引いておったわ!」
 こいつにはマンションで暮らすことに対しての知識が一切ないとよく分かった。正直こいつがこのまま間違った方向に突き進んでマンションを追い出されようが私にはなんら関係ないことだ。だがこいつの不名誉極まりない強制退去のせいで森全体に常識外れのレッテルを張られるのは我慢ならない。万一森からこいつのようにこのマンションに住みたいと希望する者をこいつのせいで入居拒否にでもされたら哀れでならない。
「仕方ない・・・・・・リフォームだ!!!」
「・・・・・・なんだそれは?」
「部屋の改装・模様替えをすると言ったんだ。この部屋のままでは強制退去させられかねんからな。元の部屋に戻しつつ、貴様がある程度快適に暮らせるようにできることをする!」
 こうして私のリフォーム作戦が始まった。
「まず床の土と壁一面の植物だが・・・・・・」
「うむ。」
「すべて撤去だ!!」
「なにぃ!?せっかく植えたものだぞ!?」
「このマンションの庭に全部植え替えろ!部屋の中に土と植物を敷き詰めるのは禁止だ!部屋の中で植物を育てたいならプランターや植木鉢を使え!家具に巻き付いたツタも全部撤去だ、植え替えが難しいものは私が持って帰って森で供養してやる!」
 渋る奴を横目に私は瞬く間に撤去作業へと繰り出した。部屋中の植物の植え替えについてはマンション長も快諾してくれたので大半の植物が命を無駄にせずに済んだ。
「次は部屋の中に飾る植物についてだが・・・・・・」
 室内の植物に求められるのはある程度の耐陰性だ。すなわち日光がなくとも生きていける植物を選ばなければならない。
「大き目の観葉植物ならオーガスタやアガベなんかがいいだろう。耐陰性のある植物の種類は色々あるが、鑑賞用に使えそうなもので森の中に同じか似た系統の植物ならあるし、それを持ってきてやる。」
「私は瞑想ができる場所があればそれで良いからな、部屋の床を埋め尽くす量で問題ない。なんならあの木の中でまた」
「クローゼットは瞑想をする場所ではない!」

 私は奴との幾度となく起きた言い争いを経て、ようやっと奴の部屋のあるべき形を取り戻した。床の土を取り払ってフローリングに戻し、壁や家具に巻き付き生い茂っていた植物たちはマンションの庭へと植え替えた。代わりに歩けるスペースを少量残しつつも床を大量に覆う観葉植物や花を設置した。わざわざ床から植物を生やさずともこういった道具を使えば疑似的に植物に覆われた空間を作り出すことはできる。備え付けの家具は汚さないように、且つ使わないなら触れないように念押ししたうえで放置することにした。奴にとって必要かどうかはさておき使えば便利なものばかりではあるが・・・・・・
 そんなリフォーム作戦から早1ヶ月が経過した。奴から再び一方が届いた。
『耐寒性もある植物が欲しい。部屋の植物がこの冬を越せない。』
 何を言っているのか理解ができない。今は春だ。冬などひと月前に終わっている。
 私は再び奴の部屋を訪れた。そして扉を開く。その瞬間だった。
「・・・・・・来たか、ダーテング。」
 凍てつくような冷気が扉を開いた私を襲った。
「今年の冬は、随分と早いものだな。」
「エアコンを消せ!!!!!!」
 奴のこの新たな暮らしが落ち着くのはもうしばらく先の話だろう。





*あとがき
 ここまでお読みいただきありがとうございます。
 気づけばポケ徹暦が2桁年数に到達してしまったCynothoglysです。
 気になっていた企画の第二稿にチャレンジしてみました。このサイトでまともに文字を綴るのはもはや何年振りか分かりませんが、なんとなく思いつくままにキーボードを叩いてみました。お楽しみいただけたのなら幸いです。
 また、昔あった縦読みができるつもりで書いてたので横読みだと読みにくいかもしれません。これは機能を確認してなかった凡ミスです。申し訳ありません。
 気が向いたら別の号室の物語も書いてみたいと思います。
 最後に、この企画を発案されたじおぐら様。こちらの投稿前にポケメールでやり取りは致しましたが実際にこの場を使わせていただいたことに感謝いたします。
 それでは、次のお部屋を楽しみにしつつ今回はこれで締めさせていただきます。

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2021.5.2  15:11:12    公開
2021.5.2  22:21:56    修正


■  コメント (2)

※ 色の付いたコメントは、作者自身によるものです。

じおぐら様
コメントありがとうございます。
こういった企画ものは気晴らしのショートストーリーが書けるのでありがたいです。
企画を見た時から『トンデモ部屋からのリフォーム劇』というアイデアは浮かんだのでそれを形にしてみたものとなります。ただ久々に短編を書いたのでボリュームの調整が中々分からないもんですね。
誤字の指摘ありがとうございます。修正しておきました。
また何か思いついたら投稿させていただきます。

21.5.2  22:25  -  Cynothoglys  (JACK0119)

Cynothoglys様
まさかの速さで第2部屋をこの様に書いて頂けることに感謝しております。
まさか2号室がほぼ全部ジャングルになっていたとは…部屋に土をそのまま置いて(?)植物を植え…この時点で既にマンションが個性的ですね。
(ヤレユータン、頑張って……)
後、一点確認ですが、文中の「木星クローゼット」ですが、「木製」ではと思います。
短文ですがコメント失礼致しました。

21.5.2  21:55  -  じおぐら4891  (geograr)

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