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記憶の葉っぱと秘密の物語

著編者 : どりーむぼうる

1-2 平穏

著 : どりーむぼうる

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1-2 生活

 新しい住民がやってきて数時間後の事。
 密葉はチャマーラが言っていた「7にんの居候」のうちの6にんと挨拶を交わし、自己紹介をした。
 ひとりはリンネと呼ばれたクチート。そしてさらさらと呼ばれたエーフィ。ピジョット、サンドパン、キレイハナ、エンペルト。
 6にんは全員、元々は人間の下で暮らしていたポケモンだという。そして。

「もうひとりは我らの主人だ」

 冷たい目を持った、住民のひとりである皇帝ポケモンのエンペルトがそう説明した。主人、という言葉で家主であるチャマーラの事とは違うのか、と密葉が問うと、エンペルトは黙って首を振り、ポケモントレーナーの事だ、と訂正した。

「ということは、人間、なのですか?」
「……昔はな」
「?」

 首をかしげる密葉に、エンペルトはひとつ息をついて横にいた半身を包帯で覆い隠したフラワーポケモン――キレイハナに目配せをした。
 視線に気づいたキレイハナが柔らかな笑顔を返し、エンペルトの代わりに口を開いた。

「もう十年も前の話になりますが……色々あったのですよ。このお話は近いうちにお話しすることになると思いますわ」

 キレイハナは密葉を見据え、密葉の下に歩み寄るとその横に座り、彼女の頭を撫でた。
 包帯の隙間から紫色の肌が一瞬見え、びくりと体を震わせる密葉に、あら、と声を漏らしてキレイハナは手を放す。

「ごめんなさい、驚かせてしまったようですわね。……でも、怖がる必要はありませんわ。昔はどうあれ、今はただ……普通に暮らしているだけのポケモンですから」
「そう、ですか……」

 ええ、と小さく答えてキレイハナは再び密葉の頭を撫でる。困ったような顔を始終張り付けている彼女に困り笑いを浮かべ、部屋の奥側に座っているチャマーラに視線を向けて、

「……随分と大人しい子なのですね」

と、半ば皮肉気味に言う。それを受けたチャマーラは、翼をたたみ直すような仕草をしてからこう返す。

「そうじゃな。あいつとは対照的じゃ」
「そうですね……いえ、ある意味では似ているのかもしれませんが」
「似てる? どこが?」
「流されやすそうなところなどはとても似ていると思いますわ」

言われて、チャマーラは密葉を見据える。密葉は視線に気がつくと一瞬びくりと肩を震わせたが、その後は疑問符でも浮かんでいるのではないかといった表情でチャマーラの方を向いていた。その様子を眺めて、チャマーラは納得したように声を上げる。

「なるほど、確かに一理あるかもしれん」
「そこで納得されても全く嬉しくないわね……」

呆れたようにリンネが呟くと、目付きの悪いサンドパンが流れを変えるように咳払いを一つした。
その場にいる全員がサンドパンの方を向く。一気に視線が集まったことにどぎまぎしつつもサンドパンは口を開く。

「あー、その、なんだ。そー言う話は抜きにしてよ、パーっと祝おうぜ? 久々の新しい仲間だぞ?」

「パーっと」の部分を手を大きく広げながら言う。それを聞いたリンネが肩をすくめながらサンドパンの方へ歩み寄っていき、頭を小突いた。

「痛って! リンネ、何しやがるんだよ」
「貴方は騒ぐ口実が欲しいだけでしょ。しかも、特に理由がなくても騒ぐじゃない」
「うっせ! うっせばーか!」

そんな騒がしく戯れるふたりを困惑したような目で見つめる密葉のそばに、ピジョットがひとり座った。ピジョットはふわふわの羽毛が生えた翼で密葉を撫でると、そのまま抱きかかえる。

「あ、あの……」
「抱っこされるのは嫌でしたか?」
「……いえ……ちょっと、びっくりしただけです……ごめんなさい」
「そんなに謝らなくて良いんですよ? ほら、もっと気楽にしてて良いんですからね」
「……はい」

柔らかい羽毛に抱かれていると、まるで揺りかごに揺られているようで。不安げにピジョットを見つめていた密葉は次第にピジョットに体を委ね、ウトウトとし出したかと思えば小さく寝息を立て始めた。

「おや、眠ってしまったのか」
「はい。安心してくれたみたいです」
「……皆が集まった時、心配そうに震えておったからな……。ありがとう、ダブ」
「そんな、お礼なんて良いですよ。私がこうしたかっただけですから」

ダブと呼ばれたピジョットは、そう言いながら密葉の頭を撫でた。密葉に向けているその瞳には光が灯っていなかったが、彼女には目の前のものの姿が見えているかのように、愛おしそうに優しく撫で続けていた。
サンドパンと罵り合っていたリンネがその様子に気がつくと、サンドパンに静かにするよう制止する。「何だよ」と顔をしかめながらサンドパンが返すと、リンネは眠っている密葉を指差した。リンネが指差した方向を見て、サンドパンは少しつまらなそうな顔で口を開く。

「……何だ、寝ちまったのか」
「態度が年不相応とはいえ、見た目通りあの子はまだ幼いのよ。多分、親元を離れるような歳じゃないわ」
「お前、よくそんな事分かるな」
「貴方が鈍いだけよ、サンドパン」
「言ったな? 後で覚えとけよ」

ツメを研ぐようなジェスチャーをしながら睨みつけてくるサンドパンを無視して、リンネはキレイハナの方を向く。その視線を受けたキレイハナは微笑みを返す。

「それで、貴方の所感はどうなの、キレイハナ」
「そうですわね……。常に怯えた様子で、身体も……今は塞がっているとはいえ傷だらけですし……事故があったと言うよりは何かに襲われて逃げてきた……のではないでしょうか」
「本人が思い出せない様子だし、私たちは推測しかできないけれど……ね。私もその推測は正しいと思うわ」

そんな会話を始めるふたりを止めるように、サンドパンがため息まじりにふたりの間を遮る。

「そう言う話はやめようぜ。どうせ俺たちは元から厄介者の集まりだったわけだし、そんな俺らがこいつの事詮索すべきじゃねーって、絶対」

その言葉を聞いて、リンネは片眉をひそめて小さく頭を横に振った。

「私だって詮索したくは無いわよ。でも、この子が逃げてきていたとして……その追手が来るとしたら……考えておかなければいけないでしょう」
「ふぅん、そう言う事。……あー、まあ心配ないだろ。戦力は足りてるよ」
「慢心だけはやめておくのね」
「分かってるよ」

様子を眺めていたさらさらが大きくあくびをすると、軽い足取りで密葉を抱いているダブの横で丸くなり、尻尾でダブの羽毛を弄んだ。
ダブが限りなく小さな声で声を上げるのも構わず、ニヤニヤとした笑みを浮かべながらしばらくの間尻尾で遊んだ後、何でもないかのように眠り始めた。

「何がしたかったんじゃ、あいつ」
「さあ。馬鹿の行動に意味を見出す事自体が無粋よ」

チャマーラとリンネが呆れたように口にすると、キレイハナが困り笑いを浮かべながら眠る密葉を見る。

「彼なりに気を使ったのでしょう」
「……あれがか?」
「不器用なんですよ、どうしようもなく」

 柔らかい笑顔を作りながら、キレイハナはこう続ける。

「願わくば、私(わたくし)たちのように……平穏な日々が訪れますように」

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2017.12.21  15:00:38    公開


■  コメント (2)

※ 色の付いたコメントは、作者自身によるものです。

雪椿さん
返事が大変遅くなってしまい誠に申し訳ありません……。
お久しぶりです。もちろん覚えていますよ! いつもありがとうございます。

あれから彼らはチャマーラの所で居候という形で平和に暮らしていました。あれだけの事があっても仲良く暮らせるのは朱蘭の人望のなせる技なのかも?
性格は変化がないように見えて、ちょっとだけ穏やかになってる気がしなくもないです。今までが色々あったおかげで今がすごく平穏で静かな日々を過ごしてますから。

朱蘭は……今後のお楽しみという事で。いつになるかは分かりませんが、近いうちに登場させる予定です。
密葉が現れたことで、また何かが動き始めるので、以前の苦難を乗り越えた彼らがどのような答えを見つけるのか。その辺りを語っていけたらなと思います。

停滞気味ではありますが、何年かけても完結までは持っていきたいと思っていますので、気長にお付き合い頂ければと思います。
コメントありがとうございました!

19.5.4  09:13  -  どりーむぼうる  (aikon)

お久しぶりです、雪椿です!
……といっても、久しぶりすぎて忘れられているかもしれませんが(汗)。

皆は一つの場所で生活しているのですね。あれから十年が経っても、皆の性格はあまり変わっていないようですね(いや、十年経って変わっていてもアレですが)。
前の物語の主人公、朱蘭は密葉と会う機会はあるのでしょうか。チャマーラ達が出ているのなら彼にも出てきて欲しいですが……。果たしてどうなのやら。

色々あったものの、花飾達はこの十年平穏だったのですね。よかった……。しかし、密葉の登場により何やらまた一波乱待っていそうですね……。

少し話が逸れますが(え)、結構前と少し前から月と太陽の幻リメイク(という名のほぼ別作品。シリアスと厨二要素満載)とポケダンのような小説を連載しています。
どちらも亀更新で、話はほとんど進んでいませんが……(特に月と太陽←え)。
よかったら読(宣伝するな)

次回も楽しみにしています!
では!

18.4.1  18:30  -  雪椿  (ssss)

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