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記憶の葉っぱと秘密の物語

著編者 : どりーむぼうる

1-1 住民

著 : どりーむぼうる

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「また、とは何じゃ」
「また、でしょう」

 洞の奥から現れたのは、黒い鋼の大顎を持つポケモン、クチートだった。
 クチートは果物が入った籠をチャマーラと密葉の傍へ置き、中から一つリンゴを取り出し密葉に手渡した。密葉はクチートの顔を見上げて疑問符が浮かんでいそうな表情をした。

「え……?」
「食べなさいよ。さっきまで寝てたんでしょう?」
「……あ、その、すみません。頂きます……」

 小さく礼をして、密葉はリンゴを齧り始めた。その様子をクチートが観察している。
 幼い印象を受けるチコリータだ。背中に一つ大きな傷があり、身体のそこかしこに小さな傷がある。傷口は既にふさがっているようだが真新しく、ここ最近付いたものだろうと思わせる。
 ……と、そこまで確認してクチートは少しだけ顔をしかめてチャマーラに問う。

「それで? どうしたのよこの子」
「海岸に打ち上げられておってな……」
「そう。エアームドも御人好しよね、本当に」

 呆れた口調でクチートが言うと、チャマーラはむっとした表情を浮かべながら、クチートに「仕方ないじゃろう」と告げた。

「あのような姿で打ち上げられていて、放っておけるはずがないじゃろうが」
「はいはい、そうね。貴方は優しいもの」

 “優しい”の部分をからかうように強調して言うクチートに機嫌の悪そうな顔を向ける。それを無視してクチートはちびちびとリンゴを齧る密葉に目を向けている。チャマーラも咳ばらいを一つすると、密葉に視線を向けた。

「見た感じ、普通の迷子とかではないようね」
「ああ……。記憶もなく、思い出そうとすると……」

 そこで言葉を切り、チャマーラは目を細めた。10年前のあの日に少し似ている。風に乗せるように口にする。ため息をついてクチートが腕を組んだ。
 洞穴の中に日の光はあまり届かないのだが、代わりに自然的な場所とは不釣り合いのランプが中を照らしている。ランプの朱色の炎が洞穴の中を満たしていた。

「あの……自分はどうすればいいでしょうか……」

 小さな声で密葉が尋ねた。どうしたい? とクチートが聞くと密葉はわからない。とだけ返した。残った林檎の芯を片付けながら、チャマーラが笑みを浮かべた。

「お主もここに住むか? 何、ひとりくらい増えたところで変わらんよ」
「……でも……」
「気にすることはない。既に7にんもの居候が居るんじゃ……のぅ、リンネ?」
「……私に聞かないでくれる?」

 リンネと呼ばれたクチートが方眉をひそめる。決まりが悪そうに密葉がふたりの顔を交互に見ていると、リンネは額に手をやりむしゃくしゃした様子で密葉を見た。
 どうにもこの子は相手にしにくい、とでも言いたげに肩をすくめると、踵を返して洞穴の奥に歩いて一度残った二人の方を向き、

「私は“はい”とも“いいえ”とも言わないわ。家主である貴方が決めた事に従うだけだから」

 とだけ告げて、そのまま奥へ歩き去ってしまった。

「……相変わらずの様子じゃな」
「いつも、こうなんですか?」
「そう、いつもこんな感じじゃ。感情に流されやすいタイプのくせに冷静ぶって他人に指示を煽って後々後悔するような奴じゃ。昔は妾も面倒な奴だと思っておったがこれでいて根はいい奴なんじゃ。あまり気を悪くしないで欲しい」

 密葉が頷こうとしたのと同じタイミングで奥から「余計なお世話よ」と声が聞こえてきて、苦笑しながらチャマーラは奥の方に向かって「はいはい、解っておるよ」と返した。
 再び二人だけになった部屋の中で、チャマーラは密葉が座っている藁の隣に座り、その翼で密葉を撫でながら微笑む。

「さっきも言ったが、主がどんなポケモンで、どうしてああなっていたのかは今は聞かない。……何、妾にとって主のような者は初めてじゃない。あの時もゆっくり確実に歩を進めることができていたのじゃ。心配することはない」
「……はい……」

 密葉が先ほどと変わらず不安そうな表情でそう答えるのを見て、チャマーラは慈愛にも、庇護にもとれる微笑みを返した。まるで自分の子供をあやすかのように頭を撫でながら。
 リンネが居なくなるのと入れ違いに、軽やかな足取りで、紫色の美しいと言うには手入れが整っていないぼさぼさの毛並みのエーフィが部屋の入ってきた。エーフィはくつくつと笑い声を上げながら密葉とチャマーラを見て、チャマーラを前足で無造作に叩いた。

「よぅ、チャマーラ。お前もホント隅に置けないよなぁー」
「のうさらさらよ、また踏まれたいか?」
「それだけは断固拒否する!」

 さらさらと呼ばれたエーフィは弾けるように後ろに飛びのいてチャマーラの踏み付けを回避する。下目遣いでさらさらを睨み付けて、先ほどとは真逆の笑みを浮かべる。
 暫くの間ふたりは罵り合いのような時間が過ぎた。チャマーラがふと横を見ると密葉が隅で小さくなっているのに気が付き、謝るついでにさらさらを一回小突いた。不意打ちじみた一撃に悶えているのを無視して密葉の方に駆け寄り、一度頭を下げた。

「……驚かせてすまんな。こんな風に一癖ある連中ばかりじゃが、良ければ宜しくしてやってくれ」

 チャマーラを見上げ、一瞬だけ顔を伏せてから、密葉は柔らかく微笑んで答えた。

「はい。……よろしくお願いします」

 その日は和やかな気候で、洞窟の中も快適な空気に包まれていた。新しい住民も、静かに、優しく迎えられていった。

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2017.1.11  19:50:06    公開


■  コメント (2)

※ 色の付いたコメントは、作者自身によるものです。

>LOVE★FAIRYさん
お返事が遅れてしまい本当にすみません……。
密葉の事はこの物語の中で少しずつ明らかにしていければなと思っています。それと同時に、彼女自身の物語も広がっていくでしょう……。
10年前の事については、前作をお読みいただければと思います。続編という括りに入っている関係で、ちょこちょこ話題に上がると思いますが、後々こちらでも総集編じみた事をするので、興味があったら読んで頂ければ幸いです。
年単位の亀ペースですが、ゆっくりと進めていきます。
コメントありがとうございました!

17.12.21  15:13  -  どりーむぼうる  (aikon)

密葉の背中にに大きな傷、10年前、何があったんでしょうね……
今後、密葉の展開は、どうなるのでしょうね……

17.1.11  23:58  -  LOVE★FAIRY  (FAIRY)

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