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記憶の葉っぱと秘密の物語
0-0 邂逅
著 : どりーむぼうる
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燃えていた。
火花の弾ける音、崩れ落ちる音、赤と白が視界でちらついている。その中で、誰かが名前を呼ぶ声だけが聞こえている。
それなのに、名前を言っていることは分かるのに、その名前が聞き取れない。
声が聞き取れることもなく、眩しかった視界は次第に闇に落ちていく。
「――、貴方だけは逃げ延びて頂戴」
そんな声が頭の中で響いた。周りは暗闇に包まれている。何も見えない。
……頭が痛い。
一度ブラックアウトした視界が次第に明るくなっていく。今度は赤くない。温かい光だ。
視界が明るくなるにつれて、また誰かが声をかけてきている。今度は聞き取ることができた。
「おい、大丈夫か」
聞こえてくるのは女性の声。凛とした、低めの声をしている。
「聞こえるか、お主。聞こえていたら反応してくれ」
「……聞こえて、ます」
声にそう答えて、“彼女”は気怠そうに目を開けた。
ここはどうやら海岸らしい。波の音が聞こえ、地には砂。少し体をよじらせると動きに合わせてさらさらと砂が形を変えた。
「目を覚ましたか。心配したぞ」
“彼女”の視線の先には先ほどから声をかけていたひとりのポケモン、薄茶色の銅のような鋼の体を持ち、抹茶色の鋭い刃のような翼をもつ鳥ポケモン、エアームドがいた。
エアームドは少しばかりほっとした表情を見せ、“彼女”の近くによるとしゃがみこんで顔をまじまじと見つめてきた。それにびくりと肩を震わせ、小さなポケモンは小さな声で尋ねた。
「あなたは……?」
「妾はチャマーラ。この島のとある山の王じゃ」
チャマーラと名乗ったエアームドはそういうと、澄ましたような笑顔を向けた。その後で、
「して、お主は一体誰で、どうしてこんなところでこうしているのじゃ?」
そう聞かれて、“彼女”ははっとした表情を浮かべ、自分の状況を理解しようとして、記憶を……
「……あ……うぁ」
「ど、どうしたんじゃ?」
記憶を辿ろうとした瞬間締めあげられるような頭痛に襲われ、発した声は言葉にならず漏れていく。「痛い」という言葉すら伝えることはできず、ただ痛みに耐えようと声を絞り出すことしかできない。
「落ち着くんじゃ! もう思い出そうとせんでいい!」
チャマーラがそう声をかけたのも叶わず、糸が切れたように“彼女”は意識を手放した。
「…………」
驚愕と困惑の表情を浮かべ、チャマーラはその様子を半ば立ち尽くすような形で見ていた。暫くしてから、慌てて目の前で再び動かなくなった小さなポケモンを咥えて住処へと羽ばたいていった。
“彼女”が再び目を覚ますと、そこは砂浜ではなく藁で作られた寝床の上だった。辺りはごつごつとした岩肌で、ここが洞穴だということがなんとなく分かる。目の前には先ほど出会ったエアームドが再びほっとした表情を見せていた。
「大丈夫か?」
そう声をかけられて、“彼女”は申し訳なさそうに小さく頷いてから、一言「ごめんなさい」と言った。
「謝らんでもよい。何があったのかは知らんが聞いた妾が悪い、主は気にするな」
「……はい」
チャマーラはその固い翼で優しく“彼女”の頭を撫でると、小さくため息をつく。
「見たところまだ幼いチコリータのようじゃが……困ったのぅ」
「ごめんなさい、迷惑をかけてしまって」
「あぁ、いや。迷惑などと思っている訳ではないんじゃ。ただ、主がどこから来て、誰と繋がりがあるのかが分からぬと主を親元に帰してやることもできんと思ってな……と」
ここまで言葉を紡いでから、しまったとばかりに慌ててチコリータを翼で制する。それに驚いてかチコリータは目を見開いてチャマーラを見た。
「無理に思い出そうとするんじゃないぞ。その様子じゃ主も覚えておらんのじゃろうがきっと思い出したくないものなのじゃろう。だから妾も聞かぬようにする」
分かったか? と続けるチャマーラにチコリータは申し訳なさそうに小さく頭を下げて、歳不相応な困り顔を貼り付けたままチャマーラを見つめた。
チャマーラはやれやれと言った様子で少し首を傾げ、チコリータの寝ていた寝床を少し整えてから再び口を開いた。
「しかし、名前がないのは不便じゃな……」
「名前……ですか……?」
「よいよい。妾が主に名を付けてやる。本当の名はゆっくりと思い出していけばよい」
チコリータはそれを聞くと困り顔を崩さず小さく首をかしげる。
「ん、妾に名前を付けられるのは嫌か?」
「あ……いえ、そういう訳では……ごめんなさい」
「主は謝ってばかりじゃのう。主はまだ小さいのじゃからもう少し我儘になってもよいのだぞ?」
「はい……」
じれったい、と言いたげな眼差しを向けつつ暫く考え込んだ後、ぱっと笑みを浮かべた。
「密葉じゃ」
「みつば……?」
「秘密の葉と書いて密葉。暫くはその名で生活するとよい」
チャマーラが笑う。それにつられて密葉も少しだけ表情を綻ばす。
そんな時、奥から別の声が聞こえた。
「エアームド、また拾ってきたの? 相変わらずね」
2016.12.4 01:53:13 公開
■ コメント (12)
※ 色の付いたコメントは、作者自身によるものです。
17.1.11 20:00 - どりーむぼうる (aikon) |
どりーむぼうるさんお久しぶりです、いつぞやの風鳥です まずは新連載おめでとうございます!密葉ちゃんがこれからどうなっていくのか楽しみです^^ まだ前作を読めていないのでそちらも読んでいけたらなーと思ってます どりーむぼうるさんの個性的なキャラたちが大好きです(ノ´ω`*) 更新頑張って下さい、陰ながら応援してます…!! ではでは、失礼しました 16.12.10 18:33 - 風鳥 (kuru1109) |
>べるもんとさん おひさしぶりです。この度新連載を始めることにしました。こちらの作品も覗きに来てくださり嬉しい限りです。 密葉はとても大人しい、というより自我が薄い感じのある子なので、チャマーラにぐいぐい引っ張られる感じになっていくかもしれません。仲良くは……なれるのでしょうか。 更新はゆっくりめですが気長にお待ちいただければ幸いです。 コメントありがとうございました。 16.12.10 02:18 - どりーむぼうる (aikon) |
>LOVE★FAIRYさん 初めまして。 こちらの作品に興味を持っていただきありがとうございます。沢山の作品たちに囲まれて飲み込まれてしまいそうになりますが、その中でも多くの方に読んで頂けるような作品目指して頑張ります。 彼女の秘密を物語の中でゆっくりと語って行けたらと思っています。宜しければお付き合いくださるとうれしいです。 皆様のノベルもちょこちょこ読ませて頂いてます。こっそりですけど。 コメントありがとうございました。 16.12.10 02:10 - どりーむぼうる (aikon) |
>kouさん どうも、こちらこそ初めまして。のんびり小説とか絵とか描いてる人です。 後も先も見えないような彼女がどんな道を歩んでいくのか。ゆっくり更新ではありますがうまく描いていけたらと思います。 あまりコメントをしない質ですが、こっそり色々な方の作品を読ませて頂いてます。 コメントありがとうございました。 16.12.10 01:11 - どりーむぼうる (aikon) |
>猫耳ほっぺさん こちらこそ初めまして。ゆっくり更新ですがお付き合い頂ければ幸いです。 面白そうと思っていただき光栄です。ご期待に沿えるよう頑張っていきたいと思います。 他の方のノベルにコメントはあまり入れないですが、ちょくちょくいろんな方の作品を読ませて頂いてるのでそこはおいおい。 コメントありがとうございました。 16.12.10 01:01 - どりーむぼうる (aikon) |
>ネコLOVEさん こちらこそ初めまして。 この作品に興味を持っていただいてありがとうございます。 記憶をなくした密葉、まだまだ始まったばかりですがゆっくりと書き進めていきたいと思います。のんびりとお付き合い頂ければ幸いです。 コメントありがとうございました。 16.12.10 00:58 - どりーむぼうる (aikon) |
どりーむぼうるさん、お久しぶりです!新連載おめでとうございます〜^^*以前は夢猫という名前で何度かお世話になったかと思いますが……覚えていらっしゃいますでしょうか 記憶を失くしたチコリータ、密葉と、どこか古風な口調のチャマーラ……正反対のように感じられる二人ですが、これからどんな仲を築いていくのか、とても楽しみです 次のお話も心待ちにしていますね、それでは 16.12.5 16:34 - 不明(削除済) (YK1122) |
初めまして、LOVE★FAIRYです。 私も表紙絵や内容が気になったので、見てきました。 この後の密葉がどうなるか楽しみです。 あと、私の小説もどうぞ宜しくお願いします! 16.12.5 12:27 - LOVE★FAIRY (FAIRY) |
初めまして、kouという偏屈な物書きです。 密葉がこれからどうなっていくか楽しみです。 あと猫耳様だけでなく私のノベルも以下省略。 16.12.5 01:28 - 不明(削除済) (7777777) |
お久しぶりです。こちらの方に覗いていただき誠にありがとうございます。
筆がものすごく遅いくせして新連載初めてしまいました。ゆっくりですが楽しみにして頂けたら嬉しいです。時系列的に前作と地続きになっていますので読んで頂ければより設定などについて分かるかともいます。
キャラクター、気に入って頂けたようで何よりです。ご期待に沿えるよう頑張っていきたいと思います。
コメントありがとうございました。