ポケモンノベル

ポケモンノベル >> 小説を読む

dummy

我楽多たちの物語

著編者 : 森羅

月の光をひとかけら

著 : 森羅

ご覧になるには、最新版の「Adobe Flash Player」が必要です。 また、JavaScriptを有効にしてください。

 今宵は新月。折角だから空の月の代わりに月にまつわる話でもしようか。

 いやいや、ゆっくり座って聞いてくれ。他愛もなく詰まらない話なのだから。さあさあ、夜はまだ長い。そう、ゆっくり座ってくれたまえ。詰まらない話だが、少々長くなるのでね。
 さて……。

 新月は夢魔を生み出しました。
 三日月は自分の分身を生み出しました。

 三日月の化身の羽根は悪夢を祓い、聖夢を与えたそうです。
 それはそれは美しい、優しい光を放つ羽根。

 これは、
 その羽根の美しさに囚われその主を追い続けたニンゲンと羽根の主のお話。

  *

「ダ……クライ」
「大丈夫だよ」

 寝汗をかき、時折寝返りを打ちながらうなされている男の子に向かって優しく微笑んだのはボロボロ服を纏った、乞食のような格好をした青年。麻のマントの裾は焼け焦げたような、引き千切れたような、とにかく何年使い古したのかもわからないほどに薄汚れていました。普通ならこんな不衛生な人間を家に上げるのはかなり抵抗があるはずです。それでもうなされている子供のために子供の両親は自分達の家に彼を上げたのでした。

「もう、大丈夫だよ」

 青年は再びそう言って子供に優しく笑いかけました。長い間切られないまま纏めて合った黒髪が青年の動きに従って揺れ動きます。青年はそんな事に気もかけずマントと同じくボロボロになった鞄の中から何かを取り出しました。それはその子供の両親には見えなかったでしょうが、一枚の羽根でした。
 月のような淡い金色を放つ、そんな不思議な羽根でした。
 青年はその羽根をそっと大切そうに撫でてから子供の手に持たせます。羽根は幻か見間違いだったかと思うほど刹那の間だけ輝きを増しました。もっともそれは太陽の自ら光り輝くような強い輝きではなく、儚いほどに柔らかいそんな光だったのですが。
 青年はその光を見てかすかに顔を綻ばせ、慣れた手つきで子供の手からそれを引き抜きます。そして肩の力も抜いてから、固唾を呑んで見守っていた両親に向き直り弱弱しく見える類の笑みを浮かべました。

「もう大丈夫ですよ。すぐにでも目が覚めるはずです」
「ぅ……父、ちゃん……?」

 青年が言い終わるか終わらないかのうちに子供は目を開けきょろきょろと視線を彷徨わせます。両親達は駆け寄り子供を抱きしめました。何がなんだかわからない子供は首をかしげたまま青年へと目を移します。その様子を見た青年はふわりと子供に向かって笑いかけました。

「おはよう。気分はどうだい?」
「・・・おじちゃん、だぁれ?」

 その呑気な声に安堵した様子の青年は「少年。ぼくは『おにいちゃん』だよ?」と苦笑して言います。子供の無邪気な言葉は時に非情でもあります。青年は少し傷ついたようでした。無精髭だけは剃ってるんだけどなぁ、と誰に言うでもなく呟きます。その言葉にその家の家族達は笑いました。青年もつられるようにして笑っていました。開いた窓から、潮風がカーテンを揺らしていました。

   *

 昔々、先程の青年がまだあの子供と同じくらいの年齢だった時の話です。少年だった青年は毎晩毎晩夢を見ていました。その夢は真っ暗で寒くて上も下も右も左もない、そんな夢でした。少年も勿論男の子でしたからそんな事は両親にも友達にも言いません。そこは子供ながらのしょぼいすぎるほどしょぼいプライドだったのでしょう。ですが、本当にただそれだけの夢だったというのに少年は眠る事さえ恐れるようになりました。一晩中起きていた夜だってありました。
 ただそれだけの夢だったと言うのに。
 ただの夢だと言うのに。
 うなされて両親に起こされた夜もありました。寝汗でぐっしょりの髪の毛に驚いた朝もありました。なのに、その理由を少年はわからないのです。どうしてそれだけの夢がそんなに恐ろしいのか、少年にも全く分からなかったのです。ですが、眠れない少年はとうとう体調を崩してしまいました。少年を診察した医者は「寝不足で体の抵抗力が少なくなっていたんだろうからゆっくり寝なさい」と人を安心させる類の笑顔で言いました。少年がその言葉に凍りついたのは言うまでもありません。少年が“眠ること”自体を恐れていると医者は知らないのですからこの言葉は仕方がないことです。ですが、それははっきり言って少年からすれば死刑宣告を受けたようなものでした。

 そして、その夜。その夜は空に月がない、新月の夜。

 少年の住む町は田舎でしたから元々夜の闇は深かかったのですが、新月ということもあってさらに闇は深まっていました。つまりそれは少年の恐怖にとどめを刺したということです。布団をすっぽりと被って体を小さくさせた少年は風邪の熱と睡魔と戦っていました。
 真っ暗な視界の中、眠気に目を擦りながら少年は気が付きました。
 自分がその夢の何が恐ろしいと思っていたのか、を。

 少年はその夢の真っ暗が怖かったわけじゃないのです。
 少年が本当に怖かったのは、『独り』だったということ。

 夢の中で、誰も応えてくれない独りっきりが寒くて怖かったのです。声も言葉も闇に呑み込まれ、自分の存在さえも不確かになりそうな闇色の夢。そこから救い上げてくれる人は誰もいません。そこにあるのはただただ自分はここにいると叫んでも、誰にも届かない恐怖、それだけです。それが、少年の恐怖の対象でした。
 たとえ子供っぽい(事実子供なのですが)と言われても、ただの夢じゃないかと嗤われても、それが恐ろしいことに変わりはありませんでした。
 少年は枕をぎゅっと抱きかかえていました。けれどもやはりずっと寝ないなんてことは不可能に決まっています。体と脳は睡眠を求めているのですから。気が付けば少年は眠っていました。
 眠った少年はいつもと同じ、真っ暗な夢を見ていました。
 ――このままずっと独りだったら?
 ――このままずっと誰も起こしてくれなかったら?
 ――ずっとずっと独りでここに居なきゃいけないのかな?
 そんな恐怖が少年を襲います。いくら一人旅を求める年頃でも、強がってみても・・・それは帰る場所があってこそなのです。帰る場所を知っているからこそなのです。暖かい場所を覚えているからこそなのです。そして、ここにそれらはありません。
 「助けてよ!」と叫んでもその声は虚しく響くだけでした。少年は真っ暗なその場所で小さくうずくまってしまいます。
 と、その瞬間。
 優しい光が真っ暗な闇を打ち消しました。決して目がくらむ程の光ではありませんでしたが、それは少年にとっては十分な光です。そして、徐々にその光の中から浮かび上がる輪郭に少年は凝視しました。

「だれ?」

 少年のかすれた声に異形の姿をした生き物は微笑むだけ。そしてその微笑を見た次の瞬間、少年は目を覚ましました。目にはいつもの天井と見慣れた自分の部屋が映るだけ。変わっていることと言えば少年の部屋の窓が開いていて、カーテンが夜風に遊ばれていた事と、

 手に一枚、不思議な色をした羽根を握り締めていたと言う事だけです。

「うっわぁ……」

 羽根を見つめて少年は思わず呟きました。それは彼の人生で一番綺麗なものを見た瞬間でした。月の光のような淡い黄色の羽根。角度や光の加減で白や金や薄いエメラルドグリーンへ色が変わっていきます。それまでは自分の相棒であるアブソルの銀色の毛並みが一番綺麗だと思っていましたが、それに勝るとも劣らない美しさをその羽根は宿していました。言うならばまさに『夢幻』の存在。現実味を失った幻想的な羽根でした。真っ暗な夢のことなど、先程まで抱えていた恐怖など、風邪の熱っぽさなど頭から飛び去ってしまうくらいに少年はその羽根にすっかり心を奪われてしまいました。
 少年がその羽根の名前とその羽根の持ち主のポケモンの名前を知り旅に出るのは、

 それからまもなくでした。

  *

「……頼みってのはそれか?」
「はい。お願いできますか?ナミキさん」

 青年は子供に向けたのと同じようにナミキに向かって弱弱しく微笑みました。テーブルを挟んで向こう側のナミキは青年の「頼みごと」に首を傾げるだけです。船乗りのミナキにとって青年の頼みは無茶苦茶ではありませんでしたがある意味滅茶苦茶でした。どうしようかと思案するナミキの横を元気になった男の子が走り抜け青年のマントを引っ張ります。開けた窓から潮風が入ってきていました。

「『にいちゃん』。さっきのあれ、見せてよ!」
「いいよ。……丁寧に扱ってくれよ?大切なものだから」

 にいちゃん、と呼ばれて気を良くした安い青年は自分の『宝物』を子供に手渡します。この子供も自分と同じくこの羽根の虜になったのだろうか。でもその羽根はぼくのものだから渡さないよ。などと下らない闘争心を子供相手に燃やす青年。子供っぽいことこの上ありません。男の子は電球に透かしてみたり、角度を変えてみたりと一通り弄ってから青年に羽根を返します。青年はそれを受け取ってまた鞄の中に丁寧に仕舞い込みました。

「っうし!行ってやる」
「え?ナミキさん?」

 突然ぽんっ、とナミキが膝をたたいて立ち上がります。完全に子供に意識が行っていた青年は呆けた顔でナミキを見上げ聞き直しました。

「行ってやるよ。“まんげつじま”にな」
「……本当ですか!有難うございます!」

 青年は驚いて立ち上がり……テーブルの端に足をぶつけました。

   *

「ユエー。やっとだよ?」

 青年はマントをはためかせ傍らのアブソルを見ながらそう言います。ユエと呼ばれたアブソルは潮風に毛並みを靡かせているだけでしたが。操縦席の所からナミキの声が飛びます。

「兄ちゃん!もうすぐのはずだっ!」
「有難うございます。……本当に」

 月のような儚げな笑みを浮かべて、振り返った青年はぺこりと頭を下げました。途端船の揺れでバランスを崩しましたが、アブソルによって受け止められます。その様子にミナキは豪快に笑いました。

「よりによってアブソルったあなぁ!」

 一般的に“わざわいポケモン”と呼ばれるその銀色のポケモンを眺めながらナミキは他意なくそう言います。青年はそれに気弱に笑い、その銀色の毛並をそっと撫でました。

「災いを招くポケモンだと思われがちですが、そんな事はないんですよ。ユエ・・・彼等は災いに敏感に反応する事ができるだけです。ユエのおかげで助かった事も多いですし、ナミキさんの家の『悪夢』も気がつけたんですから」

 青年は羽根の主を探すとき相棒であるアブソルに手伝ってもらっていたのです。彼等の敏感さをレーダーに世界中を練り歩いたのです。ただ、悪夢を祓うためにあのポケモンは現れるだろうとそう信じて。

「ほほう!まぁ構わんがな。……兄ちゃん!あれが“まんげつじま”だ!」
「……!ユエ、ほら見える?」

 青年の声にきゅーんとアブソルが鳴いて青年に擦り寄りました。“まんげつじま”。そこはあのときのポケモン、クレセリアが居るはずの場所。クレセリアの住処。

「だがなぁ。居るとは限らねぇし友好的とは限らねぇぜ、兄ちゃん!それでなくてもあそこに行った事のある船乗りが世界中からかき集めても何人いるか……」

 ナミキの呟きに対して青年は苦笑します。それは青年にも分かっていました。なぜならそもそも青年がそのポケモンとであったのが“まんげつじま”ではなかったのですから。ですが、それよりも青年はとりあえずクレセリアの島が見てみたかったのです。

「いいんです。それよりすみません、無理を言ってしまって……」
「坊の恩人だからな、そいつぁ断れねぇや。降りる準備しときなっ」

 「はい」と青年は再び笑いアブソルに支えてもらいながらよたよたと荷物をまとめていきました。

   *

「……わあ……。ユエ、嬉しいよ。なんだか高揚してるや……!」

 “まんげつじま”の夜の森の中、呼びかけられたアブソルはきゅう、と甘えたような声を出して青年の腕に自らの毛並みを擦り付けました。青年はそれに微笑みそっとアブソルを撫でます。そして、鞄の中から『宝物』、すなわち『三日月の羽根』を取り出しました。淡い光は相変わらず幻想的なまでに美しく、その羽根の輝きに少し心を奪われた後、青年は目的を思い出してぶるぶると首を振ります。アブソルがあきれたように青年を見ていました。

   *

 昔からクレセリアは生きているものが好きでした。自然が好きでした。
 だから昔、クレセリアはその全てに耳を塞ぎ、目をつぶって怯えている存在が居る事を知りませんでした。

   *

 森を抜けた所にクレセリアは居ました。彼女は自らの美しい羽をせっせと引き抜いていました。ぽろぽろぽろぽろ泣きながら。泣きながら羽根を散らしていました。
 まるで小さな三日月を地上に散らすかのように。

「ユエ……」

 息を呑むような、ここに居るはずのない者の声に、そこにいたクレセリアは慌てて森の入り口辺りを振り返ります。涙で歪む視界の先にはぼろぼろの格好をした青年と銀色の毛並みのアブソルがいました。そして、その青年の手には綺麗な月色の羽根が握られていました。

   *

「ちょっ、どうしてそんなことするの?」

 クレセリアの羽根がクレセリアの回りに散らばっている様子はとても美しいものでしたがクレセリア自身は自分の羽根を引き抜いた事で青年に負けていないくらいみすぼらしくなっていました。青年とアブソルを無視してまた羽根を引き抜きにかかるクレセリアに青年は駆け寄って制止をかけます。きっ、と涙目で青年を睨みつけ威嚇するクレセリアに青年は微笑(わら)いました。

「どうして泣いているの?どうして羽根を抜いてしまうの?」

 一息入れて、その言葉に真実だという想いを込めて。
 なぜなら、そのためだけに探していたのだから。
 魅せられて、魅せられて青年は彼女を追い続けていたのだから。

「せっかく綺麗な羽根なのに」

 一瞬だけ驚いた顔をしたクレセリアでしたが、結局は首を振るだけでした。ガラス玉のような透明な涙が遠心力で飛ばされて空を舞います。

「どうして?これをぼくにくれたのはきみだろう?ぼくが幼かった頃、『悪夢』から救ってくれたのはきみだろう?」

 青年はずっとずっと魅せられ続けていた月色の羽根をクレセリアへと差し出します。刹那、淡い光が輝きを増したようにも見えました。それは主の元へ還った事を喜ぶように。クレセリアは泣き笑いのような顔でその羽根を口で受け取り掛けましたが……結局寸前でやめてまた首を振ってしまいました。青年は理由が分からずに首を傾げます。その表情はどこか悲しげなものでした。

「……どうして?きみの羽根はこんなにも綺麗なのに。初めて見たその瞬間にぼくはこの羽根に心を奪われてしまったのに。『悪夢』を祓ってくれてありがとうって、こんな綺麗なものを見せてくれてありがとうってお礼が言いたくてきみをずっと探していたのに」
《……祓ってはいけなかったの。彼は恐れていただけなのに……》
「……!」

 青年は突然頭の中で響いたソプラノの声に目を丸くさせ驚きます。けれども騒いではいけないと、声だけは出さないように青年は黙っていました。傍観していたアブソルが何かを感じたように青年の傍に寄り添い満月の空を見上げました。ソプラノの、テレパシーの類であろう声は彼の頭の中で続けます。

《彼は悪くないの。独りで居る事しか知らなかっただけなの。だから誰かが来るのを恐れていただけ。自分を傷つけるんじゃないかと、不安になって。怖いから追い出そうと、悪夢(ゆめ)を見せていただけ。わたしはそれを祓ってしまえる。彼は怯えていただけなのに。わたしはそれに気が付かなかったの》

 それは、クレセリアの独白でした。どうして自分はそんなことをしてしまったのかと、そう嘆いている声でした。間違いを犯した自分を責める言葉でした。
 そして、聞き手である青年は知っていました。少年だった青年に悪夢を見せていた『もの』がいることを。クレセリアについて調べて追い続けているうちに見つけたのです。それは新月から生まれた存在でした。クレセリアと同じように月から生まれた存在でした。青年は涙を流すクレセリアに向かって微笑みを崩さないまま言います。

「だからきみは羽根を抜くの?もう彼を怯えさせないように?」

 こっくりとクレセリアは頷きました。けれども今度は青年がそれに首を振ります。それは間違っているよ、と。どこまでも優しく微笑みながら。

「違うよ。もう自分を傷つけないで。きみはそんなにも優しいのだから」

 意味が分からずにきょとんとするクレセリアに青年は笑顔のままです。そしておもむろに地面に星の如く散りばめられたクレセリアの羽根を一枚一枚丁寧に拾っていきました。
 柔らかい笑みを浮かべて。
 それは月から零れ落ちた光の欠片を拾い集めるように。
 クレセリアもアブソルも静かにそれを見守っていました。永遠にも感じるほどに長い時間、ずっと眺めておりました。

「はい」

 やっと見える限り全ての羽根を拾い集めて両手にまとめた青年はそれを花束のようにクレセリアに差し出します。月の光に形を与えたような綺麗な羽根の『花束』でした。驚くクレセリアに青年は相変わらず先ほどと同じ種類の笑みを浮かべたままです。どこまでも気弱で、どこまでも柔和で、どこまでも純粋なその笑顔を。

「こうすれば良いんだよ」

 口元は弧の少ない三日月の形。

「お節介でも良いじゃないか。きみがそうしたいんだったら。きみがしたいのは羽根を抜くことじゃないだろう?ねえ、きみが本当にしたことはなに?ねえ。……羽根を抜くことじゃないだろう?きみは、とても優しいのだから」

 青年は自分に微笑みかけた夢の中のクレセリアを忘れていませんでした。
 独りが怖いと、独りじゃ寒いと、そう怯えていた青年に光と温もりをくれたのは間違いなくクレセリアだったのですから。だから、青年にはクレセリアが本当にしたいことがよくわかっていたのです。自らの美しい羽根を失ってまでしたいことが。
 たとえ、それは勝手な思い込みだと言われたとしても。

「『新月』に……『悪夢』に教えてあげれば良いんだよ。ぼくたちはきみを傷つけないって。こう言えば良いんだよ、友達になろうって。きみはそうしたいんだろう?」

 すっ、とアブソルが青年に擦り寄りました。青年はアブソルを優しい眼差しで見つめてからクレセリアに向き直ります。アブソルを見つめていたのと、同じ温度の眼差しで。

「ぼくはずっときみにお礼が言いたかった。この羽根みたいな、こんな綺麗なものを今までもそしてこれからも見ることなんてないだろうから。だからそれだけのためにずっときみを探していた。それをとてもつまらない人生だと笑う人が居るかもしれない。夢物語だと嗤う人がいるかもしれない。でもそんなことぼくにとってはどうだって良いんだ。ぼくは満足しているよ。ぼくの人生に後悔してないし、することもない。だから。だから、きみも後悔してほしくないんだ」

 青年の手から握力が消えました。ふわりと風に乗った『三日月の羽根』は空の闇を照らして、クレセリアの周囲を踊ります。青年の手には最初と同じたった一枚の羽根だけが残されていました。

「ありがとう。何も返せるものはないけど、ありがとう」

  *

 これで、青年の旅路はおしまい。
 さぁ、そろそろお話も終わりにしようか。
 え?あまりにも途中だろうって?
 その後のお話が知りたいって?

 ふむ。そうだね……じゃあ少しだけ。
 こう言えばわかるだろう、きっと。

 新月も月。三日月も月。元々は同じものだったんだよ。

 クレセリアは三日月の夜、『友達』に会いに行きました。青年とアブソルも一緒に。
 そして何も言わずに微笑みながらそっと一枚の羽根を残して立ち去りました。

 淡く輝ひとかけらの月の光を。

 三日月形の羽根に込めて。


***   ***
こんばんは、もしくはこんにちは。
少々お久しぶりになりまして。森羅でございます。
最近どうも暗い話(愚者狂奏曲とか最たる例ですね)が多いんですが、決して僕はグロテスクな描写や物語が好きなわけではないですので!!!いやそれも好きですけど、ハッピーエンド大好きですので!!……ということを主張したくてですね(うわあ暇人)。といってもこれも企画に投稿させていただいた分なのですが。ええ、まあ、暇つぶしにでもなれば幸いです。


⇒ 書き表示にする

2012.10.30  23:31:55    公開
2012.10.30  23:44:20    修正


■  コメント (0)

コメントは、まだありません。

コメントの投稿

コメントは投稿後もご自分での削除が可能ですが、この設定は変更になる可能性がありますので、予めご了承下さい。

※ 「プレイ!ポケモンポイント!」のユーザーは、必ずログインをしてから投稿して下さい。

名前(HN)を 半角1文字以上16文字以下 で入力して下さい。

パスワードを 半角4文字以上8文字以下の半角英数字 で入力して下さい。

メッセージを 半角1文字以上1000文字以下 で入力して下さい。

作者または管理者が、不適切と判断したコメントは、予告なしに削除されることがあります。

上記の入力に間違いがなければ、確認画面へ移動します。


<< 前へ戻るもくじに戻る 次へ進む >>