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我楽多たちの物語

著編者 : 森羅

洗濯日和

著 : 森羅

イラスト : 森羅

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 昨日がハロウィンだったからと言って特に何かあるでもなし。
 ……ああ、うん。何も。無かった。はずだ。
 あえて言うなら友人と飲みに行ったくらいで、少し陽気にはなっただろうけど、さすがに最低限の理性はあったはずで。
 だからなんでこんなものがこんなところにあるのか、てんで見当もつかない。そう、うん。多分、きっと。
 つい最近買い替えたばかりのドラム型洗濯機はもちろん、洗濯機型タイムマシンでもなければ、ロトムの憑いた“いわくつき”でもない。ちゃあんと家電量販店で買った、保証書付きの新品だ。だけれど、その中にどうにも見覚えのないうえに、洗濯機に入っていることがおかしいものが入っている。

「かぼちゃ?」

 黄色に近いオレンジ色をしたそのかぼちゃは、もっと正確に言うならジャック・オ・ランタン。シンデレラの馬車に化けるタイプのあの黄色いやつだ。ご丁寧に目と鼻と口がくりぬかれて、洗濯物の上に鎮座している。いやだから、なんで?

 なんで洗濯機の中に、ジャック・オ・ランタンが入っている?

 いやいやさすがに酔ってたとしてもこんなもの拾ってはこない。拾ってこない……はず。だいたいこれはいったいどこの飾りだったものなのか下手したら窃盗になるんじゃないかいやでも覚えてないし本当に身に覚えがないしなんなら昨日の飲み屋に確認したほうがよかったりするのだろうかジャック・オ・ランタンがなくなっていませんかって? なんだか頭がついていかない。ぐるぐるする頭が正気を保つために、日常行動をとろうとする。 ……とりあえず、洗濯機を回そう。そうしよう。
 さすがにかぼちゃごと洗濯するわけにはいかないので、取り出そうと手を伸ばす。右手に当たる感覚はしっかりかぼちゃで、けれど中身がないからか思ったよりも軽……

 ぞわり、と皮膚が粟立った。

 声にならない悲鳴を上げて、反射的に手を引っこ抜く。背筋がぞわぞわして寒気が走る。かぼちゃに触った右手が自分の言うことを聞かずに震えている。とっさに無事な左手で必死に震える腕を抑え込み、さすってやる。この感覚には覚えがあった。小学生の時に面白半分にヌケニンの背中の割れ目を覗き込みかけたことがあるけどその時と同じタイプのあれだこれ。
 震えがある程度収まってからもう一度洗濯機の中を覗き込むと洗濯機の中のかぼちゃと目が合う。いや訂正、ジャック・オ・ランタンを被った“そいつ”と目が合う。

「なんでミミッキュが!」

 幼稚園児の描いたピカチュウのような“ばけのかわ”を被ったゴーストタイプ。アローラの固有種だが、かわいいだか強いだか何だかで人気が高く、このあたりでも見なくはない。ただそれはあくまでトレーナー付きの話。野生のミミッキュなんて普通はいない。いてたまるか、ここはホウエン地方だぞ!
 心の中で一通り吠えて、自分をなだめる。トレーナーの管理不十分で逃げ出したか、逃がしたか、繁殖したのが野生化したか、何かに紛れ込んだまま海を渡ってきてしまったか、その辺りはまあこの際どうでもいい。問題は、なんで本来ピカチュウの“かわ”を被ってるはずのミミッキュがジャック・オ・ランタンなんて被ってるのかってことだ。ハロウィンだから!? ハロウィンだからか!? 昨日終わりました!! 昨日終わりましたがッ!!

「……あんた、なんでかぼちゃなんて被ってる、んですか……?」

 背筋がいまだにぞわぞわしていて、つい中途半端な敬語になる。はたから見ればドラム型洗濯機に話しかけるやばいやつにしか見えないに違いない。なんだこの茶番は。
 ポケモンに対してどこまで人間の言葉が伝わるかというのは微妙なところだが、戦闘時に細かい人間の指示に従うためある程度は意思の疎通が可能であると考えられる。と、どこかの偉い人が言っていた気がする。今はその人を信じるしかない。たすけてどこかのえらいひと。大切な洗濯機がかぼちゃに不法占拠されているんです。

「きゅきゅっ」

 願いが通じたのか、かぼちゃミミッキュがその両腕――と形容していいのかわからないけど、あの黒い触手のようなやつ――をこちらに伸ばしてくる。片方にはどこぞで引っ掛けたのか、大穴の開いたピカチュウの被りもの。そしてもう片方、

「ああ、なるほど……」

 見覚えのあるレモンイエローのそれは昨日着ていたトレーナーだった。なるほどわかった。どうやらこいつはこの“ピカチュウ色の”トレーナーを追いかけて洗濯機に潜り込んだらしい。ミミッキュの“被り物”は日光に弱い中身を保護するためのものだそうだし、どこかで大穴を開けたそれを補強するために目に入ったのが飲み屋帰りの自分、もとい自分が着ていたトレーナーだったのだろう。どこで拾ってきたか窃盗してきたかは知らないが、ジャック・オ・ランタンは“ばけのかわ”の代わりに被っているのか。

「きゅっきゅ」

 黒い触手がゆらゆらと揺れる。呪われるんじゃないかと身をよじるが、どうやらその気はないらしい。否。そう信じたい。ホールドアップで、洗濯機に近づき、不法滞在者に声をかける。

「オーケー、わかった。その服はやろう。夜になるまでいてもいい。だから、どうか」

 洗濯機を返してください。
 …………明日から雨なんです。


***   ***
挿絵はしゅんさんからいただきました!! ありがとうございます!
トレーナーミミッキュが最高に可愛い!!

洗濯日和

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2020.11.1  23:46:49    公開
2020.11.2  23:41:05    修正


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