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Second Important

著編者 : ぴかり

【その守護】美しく眩むノイズT

著 : ぴかり

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 十四歳の冬、あたしは“ひとならぬひと”に出会った。
 そのひとは、人間ではなかった。けれど、獣でもなかった。
 大通りを抜けた先、昼間は商人で賑わうけれど夜はからっきしの静かなリルア広場。いつものようにその端っこのコンクリート塀に腰かけ、愛用の赤いエレクトリックギターを充電式のアンプに接続したときだった。
 観客が来るのはそう珍しいことではない。三日に一度くらいはふらふらと立ち寄った誰かが遠くから聞いていくこともよくあった。
 あたしは、生まれたときからひとの感情が見えた。そして、顔の表情や言葉と裏腹、中の感情がまるっきり違っているひとを、よく嫌った。幼い頃は自分が異質な存在だということに気付かず、よくその食い違いを声に出して言い、気味悪がられたものだ。今もその影響が噂を呼び、あたしを知っていてなおかつ周りに近づいてくるひとはほとんどいない。
 その日あたしの前に現れたそのひとは、明らかに感情が足りなかった。
 経験上どれだけ“いいひと”と言われる人間の類でも、必ず負の感情は存在する。それが当たり前なのだ。目の前のこのひとは、それがない。“憎悪”“執着”“嫉妬”――そこらへんの感情が、ない。全く、ない。目を凝らしてみても、わからない。
 今まで、こんなひとになんか、出会ったことがない。
 もう夜は更けていたが、その広場は月のせいで明るかった。半分くらい欠けた月が、目の前のひとを映し出す。少し背が高く、あたしより年上に見える男だった。キャスケット帽を深々と被っているので、その表情はよくうかがえない。
 今までの人生で経験したことない事実に思わず手を止めるあたしに、そのひとは言った。
「それ、弾かないの?」
 とても、透明な声だった。このひとはあたしがギターを弾くのを待っていると知ると、あたしはあわててギターをセットした。簡単なチューニングを終えてから左手でネックを持って弦を押さえ、いつものように弾いた。
 空気が音で震える。まるで自分の周りに新しい空間が出来たかのような錯覚に陥る。あたしの隣で浮いている相棒兼師匠のシャンデラがともす光が、音に様々な色を与えてくれた。赤、青、黄色――強みを帯びたり、弱くかすかになったり、曲を一層魅力的にしてくれる。
 一曲弾き終わり、余韻もしばらく、数分してから彼は静かに言った。
「シューマンのトロイメライ? ずいぶんアレンジしてるね」
「あ……そ、そうです」
「いいね。とても上手だよ」
 あたしが中々次の曲を弾かないので終わりだと思ったのだろうか、それじゃ、と一歩下がった男に、あたしは思わず声をかけた。
「あ、あのさっ」
「ん?」
「あ、あんた、なにもん、ですか」
 男は一体何を言うんだという様子でこちらを見ていた。
「あたし、生まれつき……その、ひとの感情が、見えて、……でも、あんたは欠けてる? っていうか……失礼なことだったらごめん、気になって」
 なんとなく張りつめていた空気が、男が笑ってふっと柔らかくなった。
「君の名前は?」
「え? あ、あたし? ……ヒナリ」
「そう。俺はシィ。生まれつき感情がいくつか足りないんだ。でもこれ、周りのひとには内緒にしてるから黙っててね」
 黙っているもなにも、あたしは彼のことを全く知らない。ぽかんとしているあたしに、彼は翠の自分の帽子と髪に手を付けた。ごそっとそれが取れる。どうやらかつらだったらしい。
 現れた白銀の髪と、いかにもおとなしそうな顔つき。どちらも春の冠戴式で見覚えがあった。
 ――この国、ディガルドの王様である。
 さあっと顔が青ざめるのがわかる。あ、あたし、王様に向かって、あんたなにもんですか? とか言っちゃったよ!
 知らなかったとはいえ、不敬罪もいいところだ。というか、まず、なんでこの国の王様が護衛どころか守護獣すらつけずに、こんな時間にこんな場所にいるのだろうか?
 あきらかに焦るあたしに、
「よかったらうちで働かない?」
「へっ?」
「王城専属の占い師って言ったらわかるかな」
 聞いたことはある。ディガルド王城の専属占い師。なんでも、なるためにはものすごく難しい国家資格が必要らしい。しかし、的中率も半端じゃない。もちろん、価格も。それでもその占い師の意見を求めて、予約は半年先まで埋まっているらしい――というのを、誰かから聞いた。大昔に。
「で、でもあたし全日制の高等学校に行ってて……」
「暇なときのバイトでいいよ」
 男、もといシィ様は厚いコートのポケットからメモと万年筆を取り出し、何かを書いた。適当にちぎるとあたしにそれを渡す。教科書に印刷されているもののような几帳面な字で、“説明は俺がしとくから館まで案内よろしく シィ”と書いてあった。
「表門の門番に見せたら通れると思うよ。気が向いたらおいで」
 シィ様はそれだけ言い残すと、あまり音をたてない歩き方でその場から去って行った。
 つかみどころがないひとだと思った。しかし、なぜか不思議と、温かみを強く感じた。






「ほ、ほんとに入れるんだよなぁ?」
 数日後、あたしはディガルド王城に訪れた。
 今までずっとコンプレックスだったことが、きっとあたしの自信になる気がしたから。うまくいく気なんてこれっぽっちもしなかったけれど、何かが変わる気がしたから。
 変われるものなら、変わりたかった。
 そうなることができるというのならば、こんなに素敵なことはないと思った。
「ヒナリハイレル、ジャナキャ、モヤス! ムリニデモ、イレル!」
 シャンデラがくるくる回って門のてっぺんでぴょんぴょん跳んだ。
「こ、こらっ! 勝手なことすんなって!」
「何の御用件ですか」
 重厚な制服を着ているが物腰が柔らかく見える門番があたしに話しかけてきた。あたしは手のひらでぎゅっと握りしめていたメモを、
「あ、あの、これ」
 そのひとに差し出した。汗ばんでよれよれになったメモを門番が開く。周りの門番も数人集まってきた。
「これ、直筆か?」
「いや、でもあのひとならありうる。大いにありうる」
「っていうか、通さないと後が怖いよな」
「オレ、こないだタンスの中が花だらけになってた」
「俺は靴の中にぬいぐるみが入ってたぞ、ピカチュウの。しかも腹を押したら、ピッカーって鳴くヤツ」
「……まあ、シィ様を自称するような馬鹿もそうそう居ないだろう。彼の直筆によく似ているしな。よし、案内しよう」
 数人の中でも一番背が高い門番があたしに付いてくるように促した。
「あ、ありがとうございます」
「ヨキニハカラエ!」
「あ、あんたは黙ってろって!」
「ムグッ!」
 シャンデラの口をふさいで抱え、門番の後ろに付いていく。
 王城の中を見るのは初めてだったが、思ったより派手な造りではなかった。門番によると、一階はそれほどでもないようだ。もっとも、ダンスホールや晩餐部屋、王室はとても豪華に出来ているらしいが。
 派手ではない、と言ってもあたしが興味を引くようなものはたくさんあった。授業で使った資料集で見た、壺や絵画、床に使われている特別な石。何度か門番の背中を見失いかけるほどに、魅力的だった。
 一階の隅、池でコイキングが泳いでいる庭園が一望できる渡り廊下を抜け、古いが小洒落た館に案内される。どういう仕組みで倒れないのか、逆三角形型で形成されていた。館を覆い囲むように伸びた草木はよく手入れされている。
 門番が受付嬢にいくつか話すと、
「こちらになります」
 受付嬢が奥に案内してくれた。途中、何人か見知らぬひととすれ違い、会釈され、通り過ぎてから、新人が来た、と噂された。
「…………」
 生まれてきたときからのくせで、心中を探る。無意識のうちにしているものだから、もはやどうしようもない。とりあえず悪い印象は与えていなかったみたいでほっとした。通り過ぎる前と、後で、感情に揺らぎがない。
「アリスさん、例の方がいらっしゃいました」
「ええ、ありがとう」
 廊下の突き当たりの部屋にいた、つややかなセミロングの髪型をした女性が椅子から立ち上がる。
「あなたがヒナリさんかしら」
「ヒトニ、ナマエヲタズネルトキハ、ジブンカラナノ――ムグ」
 何か言おうとしたシャンデラの口をふさぐ。
「は、はい、そうです」
「はじめまして。私が此処の総館長のアリスですわ」
 無駄のない口調、人当たりのいい雰囲気、乱れのない感情の流れ、なんというか、アリスさんはひととして完成したように見えるひとだった。
「私がこんなことを言うのもおかしな話なのだけれど――突然ごめんなさいね。王様はとても変わっていらっしゃって――悪いかたではもちろんないし、私はとても好きなのだけれど、多少強引なところがあるの。“ひと助け”が趣味というか、“ひとさらい”が趣味というか……」
 どうやら、こうやってシィ様に連れてこられるひとはわたし以外にもわりかし居るようだ。
「あなたはひとの感情が解るらしいわね。なら、“相”の館に入ってもらおうかしら」
「相……ですか?」
「占いは大きく三つに分けられるの。“命”――運命や宿命を占うもの。“ト”――ひとの関わり、事件を占うもの。そして“相”――現在のひとへの影響や吉兆を占うもの。ちなみに私は夢解き、っていう夢占いを専門にしているからあなたと同じ“相”の占い師だわ」
 アリスさんは部屋の隅に置かれた大きな館の地図を開いた。
「この館、すこし変わった造りをしているでしょう? 三角形の頂点ごとに“命”“ト”“相”で占う場所が別れているの」
 正面から見て右の頂点を指さして、
「“相”の館は此処ね。給与は指名数や顧客数で給料変わるから、シフトはまた後日相談しましょう。ヒナリさんは全日制の学校に行っているということですから」
「は、はい」
「緊張しなくてもいいのよ。当たるも八卦、当たらぬも八卦。所詮“裏無い”なんですから、必ず当たる必要はないの」
 じゃあ、今日は少し案内をお願いできるかしら。適当なところで帰してあげて。アリスさんがそう言って、先ほどから立って待っていてくれた受付嬢に言う。受付嬢は一礼して、
「こちらです」
 わたしを連れて行ってくれた。受付の前まで戻って、横に広い階段を上る。
 二階に着くと、
「ねえ、あのひと、例のひとじゃない? ほら、カルディアから来た――」
「ああ、名前――なんだっけ? うさんくさいわよね。王様大丈夫かしら、もしかしたら付け入られていたりして」
「大体独りで生きていること自体がおかしくないかしら?」
 占い師がいわれのない悪口で盛り上がっていた。あたしは思わず足を止めて、その大きなガラスを見下ろす。ちょうど、本館の廊下の一部が見えた。
 金髪で、金色の目をした――とても綺麗な容姿をしたひとだった。ただ、とても疲れているのか目の下にはくまがある。笑い方もどこかぎこちなかった。
「でも、とても綺麗よね。本館のメイドから人気が出るんじゃないかしら」
「バレンタインの人気投票? それまで此処にいるかどうかもあやしいけどねー」
 隣にシィ様が居るからかもしれない。あのひとが特別ひとと違う澄んだ色をしているから、対比からそう思えるのかもしれない。
 だが、あたしは彼が恐ろしくてしょうがなかった。取り返しのつかないくらい、暗く濁った感情のよどみ――きっと足を入れたらそのままずぶずぶと落ちていく、決して濡れられない底なしの沼のようで。
「アイツ、ゼッタイ、イヤナヤツダ」
 シャンデラがつぶやく。精一杯、無い眉間を寄せていた。心なしか、いつもより炎がギラギラしている。
「だからって燃やすなよ」
「……ヒナリ様?」
「へ? あ、ああ、ご、ごめんなさいっ」
 あたしが付いてこないことを不思議に思った受付嬢に声をかけられ、駆け足で追いついた。


 これが、あたしと、あのひとの、最初の出会いだったのだ。もちろん、あのひとは、この時点であたしのことなんか知らなかったわけだが。
 今までのモノクロの毎日は、たしかに色づき始めていた。
 でもそれは、あたしにとって良かったのか、彼にとって良かったのか、そんなことはわらかない。今までも、きっと、これからも。
 “当たるも八卦、当たらぬも八卦――”
 そうやって通り過ぎた道を眺めながら、ひとは、生きていくしかないのだ。
 後から考えて、あたしは、本当に此処に来てよかったと思う。
 ただ、ひとつだけやり直せるとしたら――。
 彼のことではない。シィ様のことである。このとき、あたしがもし、すべてに気付いていれば、シィ様の一生は変わっていたのではないのだろうか。
 そのことだけが、唯一、あたしの胸をしめつけるのだ。
 こんな痛み、リスネル様に比べたら、取るに足りないことなのだろうけれど。









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2012.11.18  18:01:25    公開
2012.11.18  19:11:53    修正


■  コメント (5)

※ 色の付いたコメントは、作者自身によるものです。

sakuさんこんにちは!
コメントありがとうございます人*'A‘∞)♪

うおお本当に受験生大変ですよー!
そのうえにはずっと遊んでいるのですがryプゲラ
sakuさん20前半なのですか……!
おいしい年代ですね、ごくり※この人危険です


緊張してしまうsakuさんかわいいげふん<
うおお合格おめでとうございました!わたしもはやく受験終わりたいですー!><
徹夜の連続・・・・・わたしにはむりだな(とおいめ)


ありがとうございますー!体調管理はしっかりしたいです!(●´∀`●)∩


ではでは!本当にありがとうございましたヽ(●´Д`●)ノ



12.12.8  10:20  -  ぴかり  (pika)

雛ちゃんこんにちは!
コメントありがとうございます人*'A‘∞)♪

可愛いおおすぎわらたwwwwwwかわいいのはひなちゃんだよ!!!マイエンジェル!!←……


何気に師匠設定あるんだけど書けるかどうかは微妙なんだよな〜機会があったらかきたいよ〜(●´∀`●)∩
ひなりんはスレ気味の癒し系DAZE★
ひなりんのライブは夜遅くにりるあ広場できけるよ!!フゥ!
5時間前wwwwwwwwwwwwwwwwwはやすぎwwwwwむしろその並んでるひなちゃんを見に行くわwwwwwwwwwwwww
(そしてストーカーが誕生するのであった……)
シィはなんかこう……いいひとに見えないけど基本いいひとポジションを貫きたいんだ……(できるかどうかはべつとして)
さらわれたらもれなく強制労働の刑だよww
雛ちゃんが助けてくれるならシィの一生は安泰だな・・・・・でも雛ちゃんは私のよめだからごめんな<うぉい
もう・・・・・我ながらしゃおひながリア充過ぎて<爆発しろ>ってなってるよ!!!ふぅ!!
お城はごめんわりとてきとうだから矛盾とか無視してね★えへ★
コイキングの放し飼い感パネェ……


応援ありがとー!!わたしも雛ちゃん大好きだよ(*'−'*)!


ではでは!本当にありがとうございました(●´∀`●)∩


12.12.8  10:18  -  ぴかり  (pika)


どもども、スラマッパギ〜!
おぉ、ぴかり様は受験生なのですね。大変ですねー。僕なんかもう直ぐ40……おっと、誰か来たみたいだ。(実は20前半)

いや、本当に受験とは嫌な時期ですね。僕なんか徹夜の連続で前日に倒れてしまい受験日に頭が真っ白の状態に挑みましたねー。運よく受かりましたが……。

受験や執筆で体を壊さないようにしてくださいねー。ではでは

12.11.20  18:04  -  不明(削除済)  (saku0727)


ひなりんだああああああああああああああああ!
可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛(ry
何この子! 天使ですか!!
名乗り遅れました雛花です。

ひなりんが本編に登場するこの時を待っていました! 色々可愛すぎて癒されました。シャンデラも可愛い! てか師匠なんだ! ひなりんのギターあたしも聴きたいです。路上ライブとか始まる5時間前くらいから待機します! 誰もいなくてもあたしは見てるよ!
そしてシィ様!!!!! いい人すぎてもう泣けてくる。あたしも早くさらってください!← 溢れ出るシィ様愛。今日もあたしは元気です。シィ様はあたしが助けるよ。
これがねひなりんとしゃおりんの出会いなんだね! これからどうなってくかめちゃめちゃ楽しみだ! しゃおひな可愛いよお!
それにしても魅力的な文章にいつも飲み込まれます。お城の中とか描写うますぎて情景が浮かんでくる! コイキングとかねwww

受験頑張って! 応援しかできないのが悔しいけど... ぴかちゃん大好きだよ!!!!!

12.11.18  18:38  -  不明(削除済)  (hina3302)



若干お久しぶりです?ばりばり受験生のぴかりです〜!
来週も入試(だた倍率14倍なんで受かるつもりはないです<)なのに何かんがえとんじゃーという感じですが書いてしまいました<禁断症状!オソロシイ!
ツイッターでぼちぼり言わせていただいた(ぶろぐでも)ひなりんです!ワァー!
この子が生まれる経緯にはいろいろあるんですがとりあえず雛ちゃんに敬礼しときますね★
いやーずっと書きたかったしゃお嫁話!!気合いいれて続きも書きたいですー!
……いつ書けるかはわからないんですけども!よろしくおねがいします〜!人*'A`∞)♪


12.11.18  18:02  -  ぴかり  (pika)

 
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