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Second Important

著編者 : ぴかり

【その守護】美しく眩むノイズY

著 : ぴかり

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 ――これは、ハッピーエンドののちの話である。

 それまであたしがディガルドで生活するにおいて、シィ様が(勝手に)外出している間に、彼の守護獣がシィ様の姿に“へんしん”して、仕事場に居ることはよくあった。
 たとえ他のひとが気づかなくても、あたしはそれが彼じゃないことはすぐにわかった。シィ様は初めてみたときから“ひとならぬひと”だという印象が強かったし、色々な感情が欠けているせいで、そういう意味ではとても目立ってみえたからだ。
 “へんしん”ができるのだから、シィ様の守護獣は、本当のところオオスバメじゃなくて、メタモンだとか、ミュウなのだろうと安易に予想もついた。
 あたしはそれに対して何も言わなかった。わざわざ言う必要もなかったし。
 カルディアに渡ってから、ディガルドに行くことはめっきり減った。減ったと言っても、時間をやりくりして三か月に一度は訪れていたように思う。行くたびに大抵シィ様とは顔を合わせていたが、ある日をさかいに、いつ訪れたときでも、それは彼の守護獣だった。また勝手に外出しているんだろうなあ、なんてぼんやり考えて、特に気にとめることもなかった。
 ――明らかに違和感がしたのは、シィ様の二十六歳の生誕祭のときだった。そのときも彼は、居なかった。彼の守護獣が彼のかわりをした。シィ様は確かに脱走癖があったが、こういう大きな行事に自分で参加しないことは今まで一度もなかった。
 なにか、彼の身にあったのだろうか。
 生誕祭であたしは、まわりのひとと変わらないように振る舞ったが、内心気が気でしょうがなかった。

 ――それからあたしは、随分悩んだように思う。
 この事実を他のひとに告げるべきか否か。きっとあたしのことを理解してくれないだろうひとたちは、あたしの言葉を信じないだろう。けれど、信頼に足る、それこそにーさんやリスネル様のようなひとなら、ちゃんとあたしの話を聞いてくれるに違いない。
 だが――それは本当に“伝えるべきこと”なのだろうか?
 あたしは――たとえば、シャンデラが、別の何かに代わっているとして。もう二度と帰ってこないとして。その真実を、“知りたい”と思うだろうか?
 あたしなら、思わない、だろう。知りたくないと感じるだろう。あたしは弱いから、自分の力でどうにもできない真実を受け止めるくらいなら、供給されたものを疑いもせず受け取っていたいのだ。
 知らないことが幸せなこともこの世界にはたくさんある。この事実を、あたしはどう位置付けるべきなのかわからなかった。







「シィからの手紙ですか? たくさんありますよ」
 ある日の休日、あたしは何かヒントになるかもしれないと思い、にーさんにシィ様からの手紙を見せてもらった。一箱では到底おさまりきらず、実に三箱にも及ぶ。その中には、本当に沢山の量が詰められていた。
「中身見てもいい?」
「どうぞ? でも、たいした内容のものはありませんよ」
 最新のものから目を通していく。
“今度来るときカルディアのお菓子持ってきてくれない? 甘いやつがいいな”
“こっちはいい天気だけど、そっちはどう?”
“クロスの彼氏がすごいイケメンなんだけど、見た?”
 重厚そうな巻物から小さなメモまで種類は様々だが、たいした内容のものはないと言うとおり、大抵ひとこと二言、それも世間話のようなものが多かった。
 抜粋しながら遡り、あたしは、ある一点で、奇妙な手紙を見つけた。
 “――しゃおりん、来週の水曜、昼ごろにヒナリがそっちに行くから丁重に扱ってね。よろしく。最近めっきり忙しくなったみたいだけど、また近いうちに俺とも遊んでほしいな。”
「ああ、これはヒナリさんがこちらにくる少し前にもらった手紙ですね」
 今まで流し読みをしていたあたしが急に手を止めたので、にーさんが解説を加える。あたしは、自分のことが書かれた部分よりも、後半のほうが目についた。
“最近めっきり忙しくなったみたいだけど、また近いうちに俺とも遊んでほしいな。”
 つまり、その言葉はそういう意味を孕んでいるのだろうか?
 自分が、もうすぐ居なくなるから?
「このあと、シィ様に会いにいった?」
「はい。でも、特に大事な話はしていませんよ。いつもどおりです」
 その後の手紙を一つずつ開ける。シィ様が二十五歳付近の手紙は、彼が入れ代わっていると予測した時期だったから、特に慎重になった。
“やっぱりクレープはモモンがいちばんおいしいと思うんだよね”
“昔俺が隠したしゃおりんの羽ペン出てきたんだけどどうすればいい?”
 やはり、日常的な話が多かったが、ある一通で、わたしは目をとめた。

“君に会えて楽しかったよ。これからもよろしくね”

「……なんだか照れくさいですね」
「…………」
 どうやら配達員に頼んだらしく、消印が付いていた。シィ様の二十五歳の誕生日の数日前に捺されている。
「それから次の手紙まで随分間が空くんですよね。まあ、リスネル様の出産があって忙しかったんだと思います」
 次の手紙は、また同じような日常の話に戻っている。
 あたしはそっと、手紙をとじて、箱を閉めた。
「もういいんですか?」
 にーさんはあたしに向かって少し笑った。その表情は、とても素直で自然なものだった。
「……うん、もういい。ありがと」
 ――以前シィ様と交わした会話を思い出す。
“「ただ、時間が足りないなって、今更になって思うんだよね」
「どこかに、行くんですか?」
「どこにも行かないよ。俺はこの場所から離れたりしないし、ずっとこの場所にいるよ」”
 ずっと、前の話だ。あたしがにーさんと別れて、にーさんがカルディアに発っていったときのことだった。
 もう、八年以上も前の話だ。だって、シィ様がまだ十八歳で、あたしが十四歳のときのことだ。
 時間が足りない、とはそういう意味だったのだろうか。彼は少なくとも十八のときから、自分が二十五で此処を離れなくてはいけないことを知っていたのだろうか。
 この場所から離れたりしない、という言葉は、どういう意味を持っていたのだろうか。彼が彼である限りこの場から離れないというのならば、シィ様は死んだことと等しいのではないのだろうか。
「一度、ちゃんと話をしに行かなくてはいけませんね。彼には随分助けられましたから」
 にーさんは立ち上がると、先ほど蒸らしたばかりの紅茶をカップに注ぎはじめた。
「あのひとはなんでも出来るように見えて、ひとりで抱え込むところがありますから。今までは無力すぎて言えなかったけれど、今ならきっと言えますよね」
「何を?」

「僕たちも隣にいるということです」

 にーさんから紅茶のカップを手渡される。淹れたての紅茶は、とてもやさしい匂いがした。
「シィの話が出たのでモモンティにしてみました。おいしいですよ」







 それからあたしは、シィ様について考えるのはやめた。そんな結末を、あたしだって認めたくなかったからだ。
 にーさんもあたしも、そして周りのひとだって、シィ様のことを自分たちと同じ存在だと考えていたのに。
“「じゃあ、なぜ時間が足りないんですか?」
「それは、――」
 シィ様は少し考えて、それから言った。
「みんなに幸せに、なってほしいからかな」”
 その言葉の、“みんな”の中に、彼自身が入っていなかったとしたら、それはあまりに哀しすぎる。
 シィ様は決して、ひとりきりではなかったのに。少なくとも、彼が大切にした“みんな”はそう思っていたのに、彼自身がそう思っていなかったなんて。


 ――だから、あたしは蓋をしたのだ。もう、二度と開かないように。これ以上、誰も傷つかないように。







 それからいくつもの季節が流れた。シィ様の子供が二十歳を迎え、しばらくした頃に、“シィ様は公に死んだ”ことになった。リスネル様が、発表した。
 理由は病死とのことで、急すぎる死を悼む声も多かった。
 その事実を、特にシィ様をよく知る人物の間では疑問視されることも多かった。シィ様はたしかに変わった方だったから、みんながみんな、シィ様がそんなに簡単に死ぬはずがないと思い、一概に受け止めることができなかったのだろう。
「シィは確かに、亡くなったわ。私が看取ったもの」
 けれど、リスネル様のその言葉を否定するものは、誰もいなかった。シィ様を一番愛していただろう彼女が言うのだから、そうなのだろうと、誰もが感じた。



「このことは、内密にしてください。特に、妹のセルフィには」
 ――しかし、“そのひと”だけは違った。
「僕は、母――リスネルが、父、シィの死を工作した可能性が高いと思っています。それどころか、最初から、父という人物が存在していたかどうかも、確かではないと感じています」
 それは、紛うことなきシィ様の息子のルシファーだった。
「昔優秀な占い師で、父と同じ場で働いたこともあった貴方なら、心当たりがあるのではないですか? ――誤解しないでくださいね。僕は母のことを尊敬していますし、なにより愛しています。もし、父が居なかったとして、一番苦痛を感じるのは、父の子供である、僕や妹なのですから」
 でも、と彼は続きを紡ぐ。
「……僕は知りたいのです。父が本当は何者で、どのように生きたのかを」









 この世界は、美しく、眩しい。それはきっと、眩むほどに。









(でもその一辺で、どうしても、消えない音がある)

(それはノイズとして、ずっと、その場に留まり続けるのだ)








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2014.2.4  16:46:13    公開


■  コメント (6)

※ 色の付いたコメントは、作者自身によるものです。

4000字どころか5000字も超えていたらしく、2つでも足りませんでした((())
GLASSさんへのコメント返信で1話かけるレベルになってしまいましたがこれも!! GLASSさんへの!!愛です!!押し付けますね!!!!!((

そして二通目もありがとうございます!!( ;∀;)
全然残念賞じゃないです!!特賞大当たりです!!( ;∀;)( ;∀;)
ウッもうほんとに・・GLASSさん・・・すき・・・・女神かな・・(五度目
GLASSさん・・・ほんと・・もう・・・すき・・・すきです・・・・(真顔
読み返しありがとうございまああああああああす!(土下座
ノイズはほんと・・ひなりのためでもあるんですけど、なにより、わたしのなかで、しゃおりんのための話でもあるのでそういっていただけてうれしいです( ;∀;)
本編でわりと髪切ってふっきれたとはいえ独り身だったので()しゃおりんにも家族をつくってあげたいなーとおもって書きました!ピジョットも家族なんですけどね!!えへ!<?
世界観気に入っていただけてうれしいですほんとありがとうございます!!( ;∀;)
わたしはGLASSさんが好きっ!!!!!!!!( ;∀;)
全然上からじゃないですよ!!気づいていただけてすっごいすっごいうれしかったです!!もっと!!ぜひ!!!
もっと!!ぶつけて!!ください!!!さあ!!!(((
GLASSさんの一言一言がほんと毎回励みになってますほんとうに・・ほんとうにありがとうございます!!!^▽^!!!


ではでは!!お決まりの!!
コメントありがとうござましたっ!^▽^


14.7.23  23:46  -  ぴかり  (pika)

GLASSさんへのコメント変身文字数2000超えてて一つに返信おさまりませんでした(())
わー!長くなってごめんなさい!返信つづき!ですっ!!


>>あまり周りに頼らないし依存しないこのひと達を見てると少し寂しい気もしますね。個々で生きている感じがすごく強くて、その分周りのひとを必要としていない気がしてならないです

そ れ な ん で す!!!(コメントいきなり引用してすみません()
だからこそ、リスネルとか(彼女もかなり自我強いですけど)そういうキャラに心配される存在なんだと思います
自分が他の人に心配されているっていうことを考慮することを考えてないやつらばかりで・・ほんと・・(自分がなにをいってるかわからなくなってきました<?
ソアラはもうほんとわたしの中でその守護メンバーで一線引いた特別な子なので(他の子ももちろん大事にしてますが)そういっていただけてとてもうれしいです( ;∀;)ヒィGLASSさん好き!!
彼女はまわりへの頼り方を上手く知っているので、周りになかなか頼らない(頼れない)メンツの中で浮いてくるのかなとおもいます!!
あとがきはほんと分けて考えてるので(エヘ)笑っていただけてうれしいです〜〜!^▽^
話かいてるときはわりかし真顔だったりするんですけどあとがきは超NORINORIです!!(
ほんとGLASSさんにわたしいつも救われてるというか
GLASSさんにこう・・・わたしが・・こう・・書いてることが・・・伝わって・・・
すごくうれしいです( ;∀;)ほんとうにいつもありがとうございます
ジャンピング土下座とかじゃすまないです( ;∀;)GLASSさんは女神かな!?(四度目

14.7.23  23:43  -  ぴかり  (pika)

GLASSさんこんにちは!
コメントありがとうございます^▽^!

もうなんか
もう
ほんと
GLASSさんは女神か何かでしょうか!?!?!?!?あがめますね!?!!!!????!!?(スライディング土下座
ちょっと嬉しすぎてよく理解ができてないのでコメント支離滅裂で非常に長くてすみません愛です!!これは!!GLASSさんへの!!愛なんです!!!!!(迷惑
更新ありがとうございますとかありがたすぎて死ねますね・・ほんと・・ありがとうございます・・
いつもコメントくださってありがとうございます!!!!(土下座

そうですね!珍しい書き方だったと思います!気づいていただけてうれしいです〜〜!^▽^
実はこの話続きがあって、ヒナリとシィがごにょごにょあるんですが、それが次世代連中とも絡ませるので、非常に先が遠い話題になりますので、ノイズの話としては一回切らせていただきたくてこうなりました〜〜(ノイズ自体一年かけてますが(白目
なので続きが気になるといっていただけてめちゃんこうれしいです( ;∀;)( ;∀;)GLASSさんが女神かな!!!しってた!!(二度目

キャアアアア
ひぃいキャラ考察うれしすぎて悶絶しましたありがとうございます
嬉しすぎて駆けまわって机の角に足ぶつけました
コメント直視できませんでしたヒィもうGLASSさんが女神なの知ってた(三度目
GLASSさんの考察が適格すぎてリアルに涙ちょちょぎれるんですが・・なにかな・・GLASSさんは女神なのかな・・(四度目
そうですね、ルシファーもヒナリも気丈なところがあると思います。ルシファーもヒナリも、ある一定の自我を確立していて・・みたいな・・・(?

14.7.23  23:36  -  ぴかり  (pika)

再び私です。私ばっかり来てもちょっと残念賞なんですが、読み返してたらぼろぼろ泣けてきてこの感動押し付けて帰りたいなと思って……!
映画!例えるなら映画でした!2があるけれどここでも完結してる、みたいなところとか……ちょっとずつ『わかっていく』どきどきした感じとかが。シャオウ君のところが一番切なくてこう、ぼろぼろでした(私が)。この世界観たまらなく好きです……!
珍しい書き方〜とか上からなこと言ったなーと思います。ぴかりさんが書いてるの見る度に嬉しくなって色々考えちゃうんですよね……。ぶつけすぎないようにちゃんとセーブしておきます^^;
おじゃましました!

14.5.15  19:38  -  不明(削除済)  (GLASS)

どうもこんにちは、GLASSです。更新ありがとうございますは本心なのでああいってもらえて嬉しかったです。では今回も、更新ありがとうございます!

ちょっと珍しい書き方じゃないですか?ダイジェストっぽい?というか。私は書きたいことが先走るとそうなっちゃうんですけど(そうしたってこんなにあっさり綺麗にはまとまらないんですよ)。ともあれ、続きが気になるような引き込まれる話でした。
前にも書きましたね、ぴかりさんのキャラクター達はすごく強いです。覚悟を持って知ろうとするルシファー君、自覚があって目を背けるヒナリさん。なよなよしてないこのひと達にはすごく憧れます(これも前に書きましたね)。
でも、あまり周りに頼らないし依存しないこのひと達を見てると少し寂しい気もしますね。個々で生きている感じがすごく強くて、その分周りのひとを必要としていない気がしてならないです。だからか、ソアラさんがちょっと特別なキャラクターにみえるんですよね。………ぴかりさんが考えるキャラクターと違ったら申し訳ないんですけど。
本編のほうを真顔で読んで、あとがきを続けて読んだら笑ってしまいました。テンションの落差がすごいですね。分けて考えてるんだなーと思ってちょっと安心しました、悲しい話の時は特に。
何書くか決めてないときって本当に書きたいことがかけるからいいですよね。ぴかりさんがそんな調子を出せたらいいなと思います。それでは。

14.2.4  20:53  -  不明(削除済)  (GLASS)

ノイズおわりましたー!!!やったー!!!ありがとうございます!!!!!!^▽^
ノイズ一話書いてから1年3か月たってるんですね・・・ひぃ時間たつのはやすぎオソロシイ
ひとつ話削ったのでこのはなしでおわれましたよかった〜〜そっちの話もまた暇があったらかきますね
前回のあとがきでいわせていただいたとおり若干後をひくおわりかたですみません……この後の次世代はネタはあるっちゃあるんですが書くのはだいぶ先になると思います
そして次なに書くかは決めてません()
去年の夏から放置してる漬物か(でも漬物書こうと思ったらアニポケAGを見返すところからはじまるんですよね・・(ネットにコンテストの設定落ちてなさ過ぎて))
なんか・・・・・てきとうな・・・SIに・・・話を・・・・。
あっ、クロスの彼氏の話でもいいですね★<ノイズYを見返しながら
そんなこんなでのんびりやっていきたいとおもいます〜!(*´ω`)


14.2.4  16:56  -  ぴかり  (pika)

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