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この星の中心と一つになりたくて

著編者 : 芹摘セイ

エビワラー

著 : 芹摘セイ

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 エビワラー(約800字)




「エビワラーのようになりなさい」
 ラーメン屋のアルバイトを始めた大毅が真っ先に店長に言われたのは、そんな言葉だった。開店2時間前から大学生や若いサラリーマンが長蛇の列をなして並ぶほどの人気店。極太縮れ麺はモジャンボの蔓のように硬く、柔らかチャーシューはマグカルゴの殻みたいにホロリと口の中で崩れ、濃厚豚骨醤油のスープはマリルの尻尾よりも脂っこいと専らの評判。極め付きはトッピングの量の多さである。麺を覆い隠すほど盛られた野菜とニンニクは、人やその手持ちポケモンを中毒にさせるほどの魅力がある。とにかく味にパンチを効かせ、リピーターを確保すること。店長の言葉はエビワラーのような強力なパンチを顧客にお見舞いせよとの意だろう、とカウンター席に座ってスープを啜るポケモンたちを横目に大毅は考えたものだった。
 バイトを始めてから何年か経ったある日。エビワラーを連れたトレーナーがラーメン屋に来ていた。頻度でいえば半年に1回だけ訪れるらしい。彼の座る席におしぼりを運び終わったとき、大毅は自分の体に違和感を覚えた。頬が痛い。火傷したかのようにひりひりする。それが厨房の火によるものではないということは、お冷のピッチャーを届けに再びカウンター席に顔を出したときに理解できた。
「いやー、うちの子がどうもすいませんねー」
 パンチポケモン、エビワラー。何もしていないように見えても、目に見えないスピードでパンチを出しまくるのだとトレーナーは笑い混じりに話す。なんと危険なことか! 厨房に踵を返した大毅は頭を抱えていた。
 彼の注文はニンニク増し増し麺。まな板の上に山のように積まれたニンニクを見て、ふと思い立つ。気付けばトレーナーに届けるドンブリの底に、隠し味としてさらなるニンニクをトッピングしていた。これぞカウンターである。エビワラーのように目に見えないパンチを仕込み、食べさせる。金を落としてもらうために、ポケモンの躾のなっていないトレーナーをラーメン中毒にしてやるのだ。大毅は悪意に満ちた笑みを浮かべた。

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2021.9.20  13:47:32    公開


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