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【企画】百恋一首 〜百の短編恋物語〜

著編者 : 絢音 + 全てのライター

六十四番 ミス

著 : ダンゴムシ

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「失敗した...。」
 すっかり寂しくなっていた部屋でそう呟いた。
 部屋に残る微かな甘い匂いを感じる。そう長く眠りについていた訳ではなさそうだ。一応部屋の隅々を捜索したが、やっぱりどこの裏にも彼女...俺と同種であるニャオニクスのエンテが忍んでいることは無かった。
 きっかけはあまり覚えていない。どうせそんな大したことではないのだろう。兎にも角にも俺の何らかの言葉がエンテの逆鱗に触れ、単純な念力の強さで負けている俺は成すすべなく催眠術で眠らされ、その間に家出されてしまったということだ。ちなみにこういうことは今回が初めてという訳ではないが、エンテの家出は非常に面倒くさい。怒り心頭で我を忘れたまま無心でテレポートを繰り返し、我に返ったところがどこであろうとそこでモヤモヤがとれるまで永遠にボーっとしているのだ。幸い俺たちはこの森と隣町以外通うところが無いので範囲は一応限られているが、しらみつぶしに探すとなると半日以上はかかってしまう。かといってほったらかしにしていると、翌朝の台所に禍々しい負のオーラを纏った地上最強生物が光臨してしまう(こっちを対処する方がよっぽど大変なのは言うまでもない)ので、何としても翌日までにはエンテを見つけ出さないといけない。
「行くかぁ...。」
 重い足を無理矢理動かし、森に入った。


   ―+++―


 あれから結構な時間が経った。基本的に森の中の思い当たったところは全部回ったが、手掛かりの一つも見つからなかった。流石に焦ってくる。日没までおよそ一時間と行った所か。夜になると森は暗闇に覆われてしまうので、俺みたいな一般ポケモンはもう何にも見えなくなってしまって詰みである。何としてもお天道様が顔を出している間に見つけなければ。そう思い足を急がせ行きついた先は、森の出口だった。
「...てことは町の方か?」
 森は一周した。俺が見過ごしていない限りこの森にはいないであろう。もしこれで森にいたらもうそれは知らん。頼むぞ、町の中にいといてくれよ。そう祈りながら町の中に足を踏み入れた。

 俺は町の西端にある雑居ビルの階段を登った。三階まで辿り着くとキャットドアが付きの扉を見つけ、戸を潜った。中に入ると昼間からロッキングチェアにもたれかかって居眠りをしているお爺さんの元でこれまた寝っ転がっているブービックのオリバーさんに声を掛けた。
「おひさです。」
「んお? あぁ、お前か。どうした?」
「エンテ来ました?」
「エンテさん?」
「...どうやら来てないっぽいですね。」
「お前らまた喧嘩したんか。」
「まぁそんなとこです。」
 オリバーさんは優しく微笑んだ。いや、一大事なんですが。
「町は探したか?」
「まだです。」
「ほな、俺が探しとくわ。見つけたらここに連れてきとくよ。」
「恩に着ます。」
 それを聞くと、オリバーさんは笑顔のままテレポートで姿を消した。そう言えば俺もテレポート使えるじゃねぇかと思いながら部屋を後にした。

  ―+―

 日没まで町で捜索しようと思っていたのだが、オリバーさんがやってくれるのだったらもう一度森の中に入って探すのが一番良いはずだ。てか、広大に広がる森の中から一メートルにも満たないポケモンを見逃すなという方が不可能だと思う。てか本当に意味わからないところにいたりするからな...ん?
「誰か助けて!」
 自分の後方から助けを呼ぶ声が聞こえた。無意識に声が聞こえる方に走り出す。こういうのは見過ごせない主義である。町の東の出口を少し過ぎたところで声のニョロモを発見した。
 浅瀬の池で溺れている状態で。
「...何で溺れてんの?」
「おいら泳げないんすよ〜!」
「いや、水中でも息吸えるだろ!」
 そう突っ込みながらもサイコキネシスでニョロモを引き上げた。
「ありがとうございます!」
「...とりあえず泳ぎの練習をしたらどうだ?」
「そうなんすけど、これ今日助けてもらうの二回目なんすよね。」
「まじか。」
 何故両生類なのにカナズチなんだ...。
「ていうか、一回目は誰に助けてもらったんだ?」

「え〜と、あなたと同じくニャオニクスっす。あ、でも白のほ」

 俺は最後まで聞かずに詰め寄った。
「そのニャオニクスどっちにいった!?」
「え、え〜っと、あっちです。」
 ニョロモが差した先はいつも俺たちが住んでいる森と反対方向の森だった。
「え。」
 要はほとんど地形も知らない未知の森の中に気が赴くままエンテは入っていってしまったのか。そりゃ見つからんわ。ていうか、みすみすほぼ唯一の情報源を逃すところだった。運がいいんだか、悪いんだか...。
「それじゃ、頑張れよ。」
「はい!」
 そう言って俺は未知の森の中に入っていった。

  ―+―

 初めてこの森に入るという訳ではないと思うが、前回入った時の記憶も途切れ途切れな状態である。特段いつもの森と比べて厳かでも不気味でも無かったのだが、やはりどこか緊張してしまう。生い茂った木々の葉の隙間から差し込んでくる木漏れ日もすっかり赤く染まっていたのも相まって、自然と急ぎ足になっていた。
 とにかく白だ。この緑一面の絵面の中から白色を探し出すんだ。
 その時、白が遠目から見えた。ハッキリと捉えた訳ではないが、確かにポケモンだった。刺激しないように逸る気持ちを抑えて草むらを越えた。
 そこには、木にもたれかかって居眠りしているダーテングがいた。ありゃりゃ。と思いながら落胆する気持ちをかき消し、周りを捜索した。
 慣れた手つきで左見て、右見て、上を見る。

「あ。」

 白い毛に、黄色の中に赤の瞳。可憐な二尾の尻尾。
 一日中恋しく探し続けたエンテが、木の枝に座って夕焼け空を眺めていた。

 俺はテレポートでエンテの隣に降り立った。
「やっと見つけた。」
「ん? うわっ!」
 どうやら少し俺の焦りが先走ってしまったらしい。
 本当に頭を空にしてボケェ〜っとしていたエンテは、俺が隣に現れたことに一切気づいておらず、幽霊でも見たかのような表情でのけ反った。そして、その反動で尻が一瞬宙に浮いた。次にエンテの尻が着地した場所は、
 居眠りしているダーテングの上だった。
「あ。」
「あ。」
 ダーテングが扇を右手に持ち、頭の上のエンテを殴打しようとする瞬間にテレポートでかわした。俺も木の上から降りてきてすぐに土下座姿勢に入る。
「本当にすんません! これは、その、不慮の事故だったというか...。」
「五月蠅い小童共が! 儂の眠りを妨げる者は何人たりとも許す訳にはいかぬ。」
 まずい。できるなら絡みたくなかったパターンの奴だった。しかも台詞があまりにも強者を物語っている。
 てか、あいつ悪タイプじゃん。相性最悪じゃないですか。
「さて、何方から殺ってくれようか?」
 もはや脅しの言葉が発されたと同時に、エンテが俺の肩を叩いた。
「再会してすぐですが、ちょっと頼み事いいですか。」
「なんですかエンテさん。」

「...お願いしてもいいですか。」
「まぁ、そうですよね。」

 仕方ない。俺は一歩足を前に出した。

先制は天狗。
目にも止まらぬマジカルリーフが襲う。
たまらず光の壁を展開。
鏡を貫通してダメージは入ったが、許容範囲内であった。
しかし、向こうも攻撃の手を緩めない。
容赦ない連撃を繰り出そうと準備していた。

「...困った天狗だ。」

俺は光の壁を見限り、射出するタイミングを見計らってマジカルフレイムを放った。
天狗は攻撃を諦めすぐに側転してかわす。
逃すまいともう一撃溜めていた炎を放つ。
天狗は反射的に跳躍。
木を蹴り、扇で風を起こそうとした天狗に襲い掛かったのは、
さっき避けたはずのマジカルフレイムだった。
念力によって操作された炎が後頭部から直撃する。

「...お主、やりおるのう。」
「そっちも、なんで寝起きなのにそんなに動けるんだよ。」

言い切ると、今度は俺から仕掛けた。
サイコカッターで正面から攻撃を仕掛ける。
勿論当の本人は無傷であるが、刃が本命の扇を捉え、右手から引き剥がした。
天狗が地面に突き刺さった扇をすぐに取りに行こうとするのを見逃す訳もなくマジカルフレイムで制止する。
確実に俺が天狗を追い詰めている。
あと一歩である。

天狗が躍起になり、影分身を始める。
十数体の天狗が俺の周りを囲む。

...この爺さん、煩悩の塊じゃねぇか。
まるで殺気が隠しきれていない。
血が躍る戦場でしか味わえない快楽に身を任せている。
天狗が考えることが手に取るように頭に入ってくる。
ここまで追い込まれていても、まだ心のどこかで相性有利という手綱に寄り縋っている。
確かにそうかもしれない。

俺はエンテよりも念力が弱いし、攻撃力でも防御面でも彼女に負けている。
他のポケモンから見ても俺は弱い部類なのかもしれない。
だけどな...

俺はエンテより強いんだよ。

背後から殺気が放たれる。
振り返ると決死の騙し討ちを仕掛ける天狗が一匹。
何の捻りも無い。
あまりにも、予想通り。

俺はギリギリまで天狗を引き付け、冷静に溜めていた技を繰り出した。

「マジカルシャイン、終わりだ。」

天狗は力尽き、後ろのめりに倒れていった―――

  ―+―

「いや、本当にすみませんでした!」
「もうとうに忘れてしもうたわ。こっちこそ突拍子に申し訳なかった。」
 バトルも終わり、こっちは居眠り妨害の謝を、ダーテングはダル絡みの謝を伝えた。
「お強かったです。」
「...こっちの台詞だ。久しぶりに完敗した。」
 ダーテングは笑顔をこぼした。バトルの時の煩悩丸出しの狂気に満ちた表情を見た後だから俺としては苦笑をするしかなかった。
「何者か...と聞くのは野暮か?」
「ほんとにただの野生ポケモンですよ。それでは。」
 それだけ言うと、俺はエンテの手を引き森の出口へと向かった。

 ―+―

「さっきはありがと。」
「...エンテもエスパータイプの技以外を覚えてくれよ。」
「なんか私らしくなくて嫌なのよ。」
 要は脳筋プレイヤーなのだがここでそれを口に出してしまうと、今日一日の苦労が水の泡になってしまう可能性があったので、何とか喉の奥に押し込んだ。
「あなた。」
「ん?」
「久しぶりのバトルどうだった?」
「やっぱまだまだ現役だ。よく動くわこのから」
 突然足元がぐらついて倒れた。地面に伸びきった足が悲鳴を挙げるかの如く攣りだした。間違いなく今日一日森中を走り回ったのと今さっきのバトルのガタが一気に来たものであった。
「大丈夫?」
「あぁ、平気平気。やっぱ若い時のフレッシュさはねぇな。」
「そうね、ふふっ。」
 そう言うと、エンテは俺の体を起こしてくれた。

「久しぶりにかっこいいとこ見せてもらったよ。」

 エンテはおしとやかに微笑んだ。俺がこの世で一番好きな笑顔だ。ほんと、この笑顔だけは何年たっても全くもって色あせないものだ。

「さて、家に帰りましょ。」
「そうだな。...ところでさ、」
「はい?」
「今回の家出の原因ってなんだったっけ?」
 エンテの足が止まった。
「...覚えてないの?」
 あ、まずい。
「えっと、あの、ん〜となぁ...あれだよなあの」

「しっかり反省しなさいこのミスコンデレデレ野郎!!」

あ! そうだ、それだ。この前ミスコンで優勝したポケモンと会った話をし...

 俺はやはり大したことではなかったという予想が当たっていたことにほんの少しだけ安堵しながら、また振り出しに戻ってしまった現実から逃げるためにも、催眠術に抗うことなく薄れる意識に身を任せ、しばしの眠りについてしまうのであった...




P.S
作者のダンゴムシです。
今、絶賛受験期真っ只中であるのですが、ここ一週間くらいですこし体調を崩したタイミングといい題材を思いついたタイミングが重なり、休載宣言をしている中この一話だけババッと書き上げさせてもらいました。
さて、前置きはともかく、このお話には隠れミッ〇ーならぬ隠れ「みす」が至る所に隠されています。日本語のものもありますが「失敗した」=「I had a 『mis』take.」のように、英語等で間接的に描写されたものもあります。コメント欄に答えを貼っておきますので、興味がありましたら是非探してみて下さい。
今回も勝手ながら参加させていただきありがとうございました!

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2021.11.15  00:26:41    公開
2021.11.15  00:48:26    修正


■  コメント (7)

※ 色の付いたコメントは、作者自身によるものです。

絢音さん
コメントありがとうございます!
コメント返信が遅くなり申し訳ないです。忙しさでかまけてていたというかなんというk(銃声
クールと可愛さを兼ね備えてるニャオニクスがデレデレするのは想像できなかったのですが、幸せカップルを描きたかったのでこうなった具合です(幸せ...?)
今回の主人公は私の煩悩の欲張りセットみたいな感じです()
冷静だけど優しくてカッコいい、そんな男に私もなりたいものですね。
隠れみすも、もっと文を練り練りしていい感じに作れたら尚よかったなと少し反省しております。次はもう少し良い捻りを組み込めていけるよう精進していけたらなと思います。
今回も勝手ながら参加させていただきありがとうございました!

21.12.7  22:04  -  ダンゴムシ  (tailback)

お久しぶりです、ダンゴムシ様。企画者の絢音です。
まずはまたのご参加誠にありがとうございます。コメントが遅くなってしまい申し訳ありません。
さて、前置きはこれくらいにしておいて早速感想に移りますね。
クールなイメージのあるニャオニクスカップルの痴話喧嘩、想像すると可愛いですが、エスパー技を駆使する彼女を敵に回すのは大変そうで、主人公に同情してしまいました(笑)
それでも面倒臭がりながらも彼女を探し回る姿に愛情を感じました。ダーテングとのバトルではかっこいい所も見せてくれましたし、円満に終わるかと思いきや…乙女心は難しいですね。
隠れ「みす」という仕掛けも面白かったです(と言う割に半分も見つけられませんでしたが笑)。前回もそういった仕掛けのある短編を書いて下さいましたよね。違和感なくそういう捻りを入れられるとは流石の力量だなと思います。

今回もとても楽しく読ませて頂きました。紹介文を掲載しておきますので、お手数ですがご確認頂きますようよろしくお願い致します。
またのご参加お待ちしております!それでは拙文失礼致しました。

21.12.2  07:18  -  絢音  (absoul)

せせらぎさん
コメントありがとうございます!
はじめまして!一緒に受験頑張りましょうね(泣)
自分の能力の低さや相性の悪さを技術でカバーする渋さを含ませたバトル描写に力を籠めすぎて、熟年夫婦恋愛描写がお粗末になるという百恋一首にあるまじきプレ三であったのですが、私が描きたかったニャオニクス像を完璧に捉えて下さり、光栄です。
ダーテングをいい人にしてよかった...(笑)
エンテさんは...夜に駆けていきましたとさ(笑)
(おそらく)同学年だと思われるのですが、またお機会があればよろしくお願いします。
ではでは〜。

21.11.18  18:21  -  ダンゴムシ  (tailback)

LOVE★FAILYさん
コメントありがとうございます!
お久しぶりです。
♂のニャオニクスの名前を考えるのがめんd...雰囲気的に作りたくなかったので作中で表記しませんでしたが、コメントするときにこんなに大変になるとは…。これこそがほんとのミスだってn(殴
自分の思い描くニャオニクス像が描けたかなと思います。
ご閲覧ありがとうございました!

21.11.18  18:04  -  ダンゴムシ  (tailback)

ダンゴムシ様はじめまして!

主人公のニャオニクスは攻撃面、防御面ではあまり強くなくとも、状況を把握したり、先を読んだりする洞察力などで敵を圧倒するのですね!

倒した後のダーテングが思いのほかいいポケモンでホッとしました(*^-^*)

最後に催眠術をかけられてしまったので、この後はまた次のエンテ探しが始まったりして…(^▽^;)

コメント失礼しましたm(*_ _)m

21.11.17  02:16  -  せせらぎ  (seseragi)

ダンゴムシさん、お久しぶりです。
喧嘩が原因で家出した♀のニャオニクスのエンテを捜しに行く♂のニャオニクス、森の中に入ってはまさかのミスの形でダーテングと激しい戦いを繰り広げる羽目となった後、エンテによる喧嘩の原因が大した事ではなかった事そのものが、♂のニャオニクスにとっては、ある意味ミスですよね……
何はともあれ、とても面白いお話でした。

21.11.15  01:15  -  LOVE★FAIRY  (FAIRY)

作者のダンゴムシです。
前述の通り、隠れ「みす」の答え合わせをしたいと思います。
ちなみに全部で九つ(バリエーションでいうと七つ)あります。まぁ二回出てくる表現が二つあるということです。
 ↓ 答えです









@「失敗」=「『mis』take」
A『見過』ごしていないだろう
B「エンテさん?」=「『Ms』Ente」(ミズとも読めますのでおまけです。)
C『見過』せない主義である
D『みすみす』ほぼ唯一の情報源を
E「恋しく」=「『miss』ed」
F「見逃す」=「『miss』」
G『ミス』コンデレデレ野郎
H『ミス』コンで優勝したポケモン
の九つです(バリエーションで言うと七つ)
結構無理矢理なところも多いですが、大目に見てやってください(笑)
今回もご参加させていただき、ありがとうございました!

21.11.15  00:46  -  ダンゴムシ  (tailback)

 
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