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【企画】百恋一首 〜百の短編恋物語〜

著編者 : 絢音 + 全てのライター

六十番 ミルククラウン・オン・ソーネチカ

著 : ダンゴムシ

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先天性眼皮膚白皮症。
またの名を、アルビノ。
約二万分の一の確率で発症するといわれている病気です。
アルビノ患者は生まれつきメラニン色素というものが足りないので、肌や体の毛が白くなり、弱視を患ったり、紫外線にめっぽう弱くなったりします。
それはポケモンも例外ではありません。
人型グループと呼ばれるポケモンの種類に限られますが、人間とほぼ同じく二万分の一の確率でかかると言われています。
色違いの確率が八千分の一とか四千分の一とか言われていることを考えれば、その希少性を理解していただけると思います。
だからこそ、迫害の対象になりやすいんです。
アルビノの肌の白さを、一面に降り積もる雪の様な美しさと例える者より、ホラーゲームで出てくるゾンビのような気味悪さとみなす者の方が圧倒的に多いのです。
その第一印象のせいで、苦しんでいる方は世界中に大勢います。
そして...


彼女もその一人です。




ミミロルとしてこの世に生を受けた一人の女の子。
体の上半身が、茶色ではなく白いこと以外は、何の変哲もない普通のミミロルでした。
でもこの彼女の特徴は、何か呪縛のように、重い足枷のように、
彼女を苦しめていきました。

彼女の肌に日焼けが出来ると、その部分がやけどしたみたいにヒリヒリしました。
だから日中は外で遊べず、一人で木陰で過ごすほかありませんでした。
ある日、お父さんとお母さんの提案で生まれ育った草むらを離れ、日の光があまり差し込んでこない近くの森に引っ越すことになりました。
元いた草むらには同族や知り合いが幾人かいたのですが、新しく住むことになった森にはもちろん赤の他人しかいませんので、元々一人で過ごすことが多かった彼女はやっぱり森のポケモンに溶け込むことができませんでした。
「わたしにはむずかしいよ。」
そう彼女がお父さんとお母さんに愚痴をこぼすと、
「大丈夫。お前ならできるさ。」
と二人は返しました。
その三日後。

お父さんとお母さんは彼女の前から姿を消しました。

親に捨てられた白いミミロルがいる、という噂はすぐに森中に広まっていきました。
最初は怖いもの見たさで彼女の元へ何匹かポケモンが集まりました。
ですが、色違いでもないのに血の気の引いた肌の色をしておどおどしているばかりの彼女の姿を見て、助けてやろうと思った者はごく一部しか現れず、
ほとんどの者に芽生えたのは、沸々と込み上げてくる加虐心でした。

彼女は、この森で猛烈ないじめに遭いました。
意味もなく暴力に遭い、備蓄用の木の実はすぐに盗難されました。
森の若い女の子グループからも目を付けられ、集団で襲われることもありました。
孤独で、心身共に辛い日々が続きました。
彼女の白い肌とは対照的に、両眼の奥は暗黒が広がっていました。
私が生きる意味なんてどこにもないのかもしれない。
そう感じていました。

そんなある日のことでした。

彼女は住みかとギリギリ言えるような茂みの中でさめざめと泣いていました。
朝から木の実を盗られたため、涙がこぼれる度におなかが締め付けられるように痛みましたが、それでも悲哀の涙は止まることを知りませんでした。
そんな負のオーラが漏れ出てきている茂みの中に、何を思ったのか彼は足を踏み入れました。
「こんなところで、何してるの?」
彼女はびっくりして顔を上げました。
充血した目をかっぴらいて目の前のシルエットを視認しようとしました。
涙で潤んでいる視界が晴れるにつれ、全身が黄緑色で、おなかに赤いギザギザのベルトの様なものがあるポケモンが、ぼんやりと見えてきました。
世間知らずの彼女は、彼が何の種族なのか見当もつきませんでした。
「何があったか知らないけどさ、とりあえずこれ食べなよ。」
そう言って、彼は両手で持っていたオボンの実を彼女の顔の前にそっと置きました。
彼女は目の前に置かれたものが何なのかを脳が認識すると、無我夢中で食べ始めました。
そのオボンの実は、採れたての新鮮な木の実でした。
もはやアゴが外れるんじゃないかと思うくらいの勢いで食べ進めるものだから、彼はちょっと怖くなって彼女を落ち着かせようとしましたが、それでもなお彼女の口は止まりませんでした。
ものの一分足らずで木の実は芯だけになりました。
彼女は骨に残っている肉を平らげようとするように、芯に残っている実の部分をチマチマ食べてようとしていました。
それを見て彼は少し微笑むと、茂みから立ち去ろうとしました。
「ちょっと待って!」
彼女が彼の足を止めました。
彼が彼女の方を振り返ると、彼女は木の実の芯から口を離して真っすぐ彼の方を見ていました。
「き、木の実ありがとう。あなたはい、一体どちら様なの?」
彼女はブルブルと震え、怯えながらも、彼にそう尋ねました。
彼は、もう一度草むらの出口の方を向いて、
「心配しないで。また来るよ。」
と言って、彼は姿を消しました。
彼女はまだ赤みが残る目をパチクリさせ、木の実の味が残る口をポカンと開けて、目の前に起こった現象を理解できないでいました。


そう、彼の種族の名はカクレオン。
何色にも体を変色させることができる、まさに彼女と真逆の存在でした。


その後も、彼は彼女の元へと通いました。
最初はおどおどしていた彼女も、気が付いてみれば彼に心を許し、本心で話せるようになっていました。
生まれて初めて、「友達」ができた瞬間でした。
「僕も、こんなに仲良くなったポケモンは、君が初めてだよ。」
そう彼は言ってくれました。

彼はとても優しい男の子でした。
彼女が元気な時は一緒に森の中を走り回ったし、彼女がしんどかったり辛い時には一日中静かに寄り添ってあげました。
彼と知り合ってから、いじめに遭う回数も幾分かましになりました。
彼は、絶望の色をしていた彼女の瞳に、光を灯してくれました。
彼女に生きる希望を与えてくれました。
彼が笑うと、彼女も自然と幸せな笑みがこぼれました。
そうして彼女は次第に、

彼に対して友情を越えた気持ちが芽生えるようになりました。

彼と一緒にいるだけで、いつしか幸福感とはまた別の高鳴りを感じるようになりました。
刺激。興奮。そんな言葉がピッタリ当てはまる感情が血流に乗って彼女の体を駆け巡りました。
でも残念ながら、この胸が張り裂けるように鼓動するこの感覚が「恋」だということを彼女に教えてあげられる者は、誰もいませんでした。
彼に一度だけ聞いたことが聞きましたが、彼は「知らないな。」と返しました。
結局、この感情の正体は分からずじまいでした。
でも、彼女は今までよりいっそう彼と過ごす時間を大切にしようと思いました。
そして彼もまた、その彼女の想いを受け止めて、彼女と過ごす時間を大切にしようと思いました。




そうして、時が過ぎました。


しかし、彼と出会ってから季節が一周もしない頃でした。


彼女は、重い病気を患いました。


生まれてからずっと辛い思いを受け続けた彼女の心は、彼の底ぬけな優しさでもぬぐい切れない程にボロボロになっていました。
心が弱っていると、万病にかかりやすくなるのは誰もが知っていること。
詳しい病状は分かりませんが、彼女の体は目に見えて日に日に悪くなっていきました。
彼が近くの街の漢方屋さんからあらゆる薬を盗んできては彼女に飲ませましたが、様態がよくなることはありませんでした。
元々病的に白い彼女の肌は、更に青白くなっていきました。
彼女の命の灯火は、もう消えかけていました。

「他の街の漢方屋さんまで行く。」
彼女が荒い呼吸を始めた日の晩、彼はそう言いました。
「他の街って...どこへ...?」
「分からない。君の病気が見つかりそうな万能薬を見つけるまで、どこまでも。」
彼の意志は強いものでした。
一つの地方に、きちんとした漢方屋さんが一つか二つほどしかないことも知っていました。
最悪の場合、他地方に行く覚悟すらありました。
「僕を信じて。待ってて。」
彼は彼女に背を向け、近くに転がっている私物を拾い集めて、一刻も早く旅路につこうとしました。

「...行かないで。」

弱々しく、でもはっきりと彼女はそう言いました。

その声に驚く彼の目に飛び込んできたのは、フラフラになりながらも彼が行くのを止めるためにゆっくりゆっくりと向かってくる彼女の姿でした。
彼はすぐさま彼女の元へと駆け寄り、今にも倒れそうな彼女の体を支えました。
「どうしてなの?君の病気が治るかもしれないんだよ?」
「...もうそんなに...私は生きられないかもしれない...。」
「だったら!」
「それなら私は...この残された時間を君と過ごしたい。」
彼女は本能的に、もう残りが少ないことを分かっていました。
その少ないというのも、一週間とか二週間くらいの期間ではなく、今日眠ったらそれが最後になるかもしれないというほど深刻なものかもしれないと思っていました。
だから、彼が彼女のタイムリミットまでに薬をもって来る確率はかなり低いものだということに気づいてしまったのです。
「お願い...。私のそばにいて...。」
そうか細い声で言う彼女をしっかり彼は支えました。
「じゃあ、僕からも一つお願いを言ってもいいかな。」
彼女は小さく首を縦に振りました。
「君に聞いてほしいことがあるんだ...。」
彼は、暗い森の中で彼女の意識が朦朧とする中、淡々と語り始めました。


 僕は、どうして君に近づいたと思う?
 それはね、皆とおんなじさ。
 君の絶望した顔が見たかったから、なんだ。
 それでね、僕はこの森では有名なひねくれ者でね、
 ただいじめるだけじゃ面白くないと思って、
 僕は他の奴等より酷いことをしようとした。
 一回君と仲良くなったふりをしてから、裏切る。ってことを。


不思議と彼女はすんなりとその事実を受け入れていました。
もちろん、衝撃はありました。
でも、いつもいじめられている時に感じる恐怖心は、一切湧き出てきませんでした。


 それでね、君の元に向かったんだ。
 君が泣いているのも、おなかを空いているのも知っていた。
 だから、わざと木の実を持って君の前に現れた。
 そして、君に木の実をあげたんだ。
 君がこの森のポケモンから木の実を貰った時、どんな反応をするか気になったから。
 普通、こんなにひどい目に遭っているんだから、木の実が腐っているだとか毒が持っているかもしれないと疑うと思ったんだ。

 ...でも、君は全く疑うことなく木の実をむさぼった。

 君にとっては、食べものに毒が盛られているとかいう考えが無かっただけなのかもしれないけど、それでも僕は君に少し興味を持ったんだ。
 そうして君と過ごしていくうちに、君のことを沢山知れた。
 君は、他のポケモンよりも繊細な心を持っていて、その分どんなものにも優しい。
 自分の思ったことをしっかり話してくれる。
 そして、決して自分の容姿に愚痴をこぼすことも、僕の能力を羨むこともしなかった。

 僕は勝手に君の魅力に惹かれていたんだ。
 
 ...僕は最低な奴なんだ。
 清い心を持つ君に、僕は釣り合ってはいけないポケモンなんだ。
 こんなひどい僕が、君の最期に出来ることは君のそばにいることじゃない。
 君は生き続けるべきなんだ。
 あんなに苦しい目に遭っても、強い心を持っていた。
 だから...

「ありがとう。でもね...私はそんなことあんまり気にしてないんだ。」
彼の話を遮って、彼女は言った。
「だって...私の前にいる君はいつも優しかったもん。どこまでが演技でどこまでが本気なのかなんて...多分どうだっていいことだよ。だって、全部君は君だもん。」

「君が隣にいたから...私は私でいられたの。そうでしょう?」

彼は泣き崩れました。
彼女の白い肌に何粒も涙がこぼれ落ちました。

「大げさ、だよ。」

そう彼は呟きました。

彼は彼女をゆっくりと地面に下ろすと、近くにある花を何本か摘み、それを器用にくくりつけあわせ、花の冠を作りました。
それを両手でしっかり持つと、今にも眠りにつきそうな彼女の頭にかぶせました。
「すごく似合うよ。」
「ありがとう。」
そう言って、二人は頬を赤らめました。


「こんな簡単なことだったんだ。幸せって。」


彼女の頭を彩る花の冠は、幸せの色に色づいていました。












P.S
作者のダンゴムシです。
この作品は、ユジー氏の楽曲、「ミルククラウン・オン・ソーネチカ」から構想を得ました。
少しでも興味を持たれた方は、ぜひ本家の楽曲も拝聴してみて下さい。
このお話をより楽しむことが出来ると思います。
今回も参加させていただき、ありがとうございました!

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2021.4.5  23:11:37    公開
2021.4.8  21:02:48    修正


■  コメント (4)

※ 色の付いたコメントは、作者自身によるものです。

絢音さん
コメントありがとうございます!
あまり慣れない敬語の語り口調でしたが、上手く私の描きたい方向性の雰囲気に仕上げられたのではないかと思います。
ミミロルは、自分が受けた辛い出来事に対して訝りを覚える訳ではなく、この想いを他の人にして欲しくないという思いの方が強い子だったんですね。私も見習わないと...(笑)
本家の楽曲も聞いてくださったんですね!私自身もこの曲に(プ〇セカで)出会ってまだ間もないのですが、ボカロの曲で一番のお気に入りの楽曲です。メロディーも伝えたいことも全部含めていい曲ですよね。

...いやぁ、丁寧な感想、本当にライター冥利に尽きます。
でも、絢音さんがよろしければ、もっとラフな感じで接してもらっても構いませんよ!ダンゴムシ「様」なんて、私の身の丈に合わない呼び方です(笑)
またいい案が思いつけば、投稿したいと思います。
絢音さんの新連載の小説も密かに期待して待っています!
それでは、失礼しました!

21.4.11  21:20  -  ダンゴムシ  (tailback)

LOVE★FAILYさん
コメントありがとうございます!
色違いのミミロルは下半身のもこもこがピンク色に変わるというものなので、白い上半身のミミロルなんて物凄い変わり者でしょうね。
切ない結末でしたが、カクレオンと出会ってからの日々はミミロルにとって大事なものになったと思います。
終わりよければすべて良しとは言いませんが、亡くなる直前に幸せを感じられたことに意味があるのではないかと思います。(多分)
今後も精進します!

21.4.11  20:41  -  ダンゴムシ  (tailback)

ダンゴムシ様、お久しぶりです。企画主の絢音です。
再びこの企画にご参加頂き誠にありがとうございます。

丁寧な語り口で美しい文章が、物語の切なさをより強く醸し出していると感じました。
アルビノという、他とは見た目が違うだけで迫害されるミミロルは可哀想ではありましたが、それでもカクレオンと出会い、自覚のない恋心と共に真っ直ぐ生きようとする姿は健気で清らかに思いました。カクレオンが秘密を暴露しても、それも含めて受け入れたミミロルは本当に優しい子なんだろうなと思いました。
元となった楽曲も聞いて参りましたが、ダンゴムシ様のお話同様、暗いテーマを扱っていながら、どこかで救いを求めるような美しい楽曲でした。
儚いながら、最後は幸せを感じられて良かったなと思います。願わくば少しでも長くその幸せが続きますように…。

改めましてこの度は素敵な作品をありがとうございました。
今後とも百恋一首をどうぞよろしくお願い致します。
またのご参加お待ちしております!それでは失礼致しました。

21.4.7  10:21  -  絢音  (absoul)

本来茶色い肌を持つ筈のミミロルが何と、何らかの現象によって上半身だけが白いミミロルは、随分変わっておりますね……
孤独、苛め、病気といった数々の苦しみから逃れられない運命を辿るその時、ミミロルはカクレオンと出会って恋をしていては、実にとても切ない結末へと終わりましたか。
とても面白かったです!

21.4.5  23:49  -  LOVE★FAIRY  (FAIRY)

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