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【企画】百恋一首 〜百の短編恋物語〜
三十六番 恋の占い師
著 : 不明(削除済)
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紫の布を羽織り、柔らかく内側に巻いたエメラルドグリーンの髪。胸の辺りから生えた赤いツノ。腹部は細くくびれ、すぐに真っ白なスカートが足元を美しく隠す。見た目に似つかず鋭い眼光を宿した大きな瞳は、目の前の青く透き通った水晶玉を見つめている。
彼女、サーナイトは、占い師の一人である。それも恋専門であった。
薄暗いテントには、彼女一人と誰か一人とが入ってしまえば一杯一杯な広さであり、夜賑わう繁華街に怪しく佇む占い屋の風貌としては十分であった。
彼女はテントから出て、夜中1時を周ろうとする繁華街に面した入口に「恋の迷い事。承ります。」とこれまた怪しげな看板を張り出した。よし、と頷いた彼女は、今晩の来客を待つため再び狭いテントに戻ろうとした。その時だった。
「あのぉ。すみません。」
一匹のニャオニクスが、おどおどとした口調で訪れたのは。
◇
「未知の世界へワープ出来るというのは、その、本当なのですか?」
彼の発した最初の問いは、そんな問いだった。雄のニャオニクスは、自らの名を「ラスク」と名乗った。サーナイトは、それは愚問だと言うかのように小さく、やや不満げに首をこくりと縦に振った。
サーナイトの名は「ミリア」という。ミリアとラスクは、細長いテーブルを真ん中に向かい合った。テーブルには紫のテーブルクロスが皺一つなくぴしっと掛けられ、両端には青白く光る炎が唯一の灯りと成り得た。
「ほっ、本当ですかっ!?」
ミリアが頷いたのを確認すると、ラスクは瞳を輝かせて再度確認するかのように身を乗り出して言った。しかし、そんな彼の言動などまるで視界にないといった様子で、ミリアは淡々と問うた。
「貴方の願いはそれで良いか?…そうだな、何故未知の世界へ行きたいなどと思ったのか、聞いてみたい。決して、簡単な事ではないこと、肝に銘じているのだな…?」
老婆のような口調で、ミリアはまだうら若き細い脚を静かに組んだ。私は心の奥底に隠れる真の心までをも読み取れるのだぞ?そういうように言い放ったミリアの言葉に、びくっと肩を竦めてラスクは
「えっ!?あ、はい。」
と辛うじて返答した。ミリアは、信用し切れないといった表情を見せたが、仕方がないと溜息を一つついた後、
「…そうか。では、何故未知の世界へなどに行きたいと願うのか、話してもらおう。」
と、面倒くさそうに再び先程の問いを口に出した。
「あ、はい…。僕がどうして、未知の世界へ行きたいだなんてお願いしたのには、ちゃんと理由があってのことです。えーとですね…。あれは、少し前の出来事です…。」
ラスクは、記憶を探るようにして話し始めた。
◇
僕は、地元でも修業の場にうってつけだと称されるフロストケイブに来ていました。そこはとても寒く、近寄るだけで身震いが止まりませんでした。でも、そんな所で立ち止まっていたら強くなんてなれません。僕は、がちがちと音を立ててなる歯を食いしばり、奥へと進んで行きました。本当に、雪以外の物は見当たりませんでした。
僕の最終的な目標は、サイコキネシスを強くして帰って来ることでした。実は僕、最近サイコキネシスを取得したばかりで、まったくと言っていいほどコントロールが出来ていませんでした。なので、どうしても強力な技に仕上げて帰って来たくて…。
フロストケイブの最深部に、堅く冷たい凍ったような岩があるの、ご存知ですよね?僕、お父さ…あっ、父に、あの岩を少しでも削れたら二人前にはなれるだろうって教えられて、一秒でも早く一人前のニャオニクスになりたいと思ったんです。
なんとかその凍った岩の前まで来ることが出来ましたが、もう殆ど体力は残っていませんでした。後はなけなしの気力と、足に張り付いた霜だけが残っていました。技をぶつけようにも、上手くサイコパワーを操れず、岩は煌きを増すばかりでした。その時、僕はきっととても悔しかったんだと思います。今でも思い出します。あの時、僕が最後の力を振り絞って、頭が砕けそうになる位に、自己ベストの
サイコキネシスを悔しさと一緒に岩にぶつけたんです。
自分でも何かがおかしいって分かっていました。岩はほんの少し、足元に屑がぱらぱらと落ちる程度に砕けました。僕はその様をしっかり見ていたんです。途端に達成感が溢れ出て、涙を流したかも知れません。ただ、何かがおかしかったんです。砕けた岩ごと、闇に真っ逆さまに落ちていくような錯覚に陥りました。最深部のさらに奥深くまで行けるんじゃないかって思うほどに、真っ逆さまに。
気付いたら、僕を暑い日差しが真っ直ぐに貫いていました。しっぽは汗でぐしゃぐしゃになっていました。おかしいですよね?さっきまで、骨の髄まで凍ってしまいそうな場所にいたのに、今は自分を真夏のような太陽が頭上から見下ろしているんです。もちろんその時の僕は、何が起こったのかまったく理解できませんでした。ただ、レシラムでも現れたのかと思いました。今思えば馬鹿みたいな発想で
すけどね。
僕は、ずきずきとする頭をなんとか起こして、周辺を見渡してみました。僕の周りに広がる景色は、とても異様でした。灰色や茶色をした高い建物が所狭しと立ち並んでいて、木なんて一本も生えていませんでした。草っぱらも無ければ、花一つ咲いていませんでした。まったく信じがたい世界です。自分は遂に狂ったか、なんて何度も目をこすり頭を叩きました。でも、どこまでも続く高い建物は一つも
無くならず、草も一本も生えてきません。
僕は、とりあえずそんな異様な世界を見て回ろうと思いました。訳が分からないなりに、やることは何かあるはずだと信じていましたから。すると、どうやら高い建物ばかりが乱立しているだけでは無いようだってことが分かってきました。三角形の屋根が付いた建物、恐らく家なのでしょうけど、僕らの世界の物とは少し違っていました。僕らは、草木や布で主な家を作りますがそこでは草木なんてこれっぽっちも使われていませんでした。全て堅い岩のような物で出来ていました。
あ、そうそう。僕がその世界で一番恐ろしいと感じた物を挙げますね。それは、「ニンゲン」という生物です。恐ろしい、というか不思議というか…。この異端な世界に相応しい、異端な生物でした。何故か裸の上に直接布を着て、履物まで身に着けていたんですよ。信じられないでしょう?でも、後から聞けばこれはニンゲンにとって「当たり前」なんだそうです。あ、ちなみに、「ニンゲン」とは「人間」と書くそうです。
しばらく探索活動をしていたら、細い路地を見つけました。太陽が照りつけていて、ちょうど日影が恋しかったので遠慮なんてせずに入っていきました。たまたま青い蓋付きの筒状の箱が置いてあったので、そこにしばらく座らせてもらいました。なんだか生臭い臭いがしましたが、あまり気にしませんでした。あ、ちょっとミリアさん、眠らないで下さいよ。そんな面倒くさそうにしないで下さいって。話を戻しますよ?
…いつの間にか眠ってしまっていたようです。僕は、肩を揺さぶられるように感じて、うっすらと目を開きました。僕の目の前にいたのは、随分と変わったニャルマーでした。通常紐のように長いしっぽは極端に短くて、意地悪そうに夜に光る目も持ち合わせていませんでした。でも、僕はそんな変わったニャルマーに強く惹かれてしまいました。え?やっと本題かって?そんな風に言わないで下さい。僕だって真剣なんですから…。
えっと。具体的にどこが、と訊かれる前にお答えしますと、本当に単純なんです。僕は、普通でない変わった姿をした彼女に心惹かれたんです。一目惚れってヤツですよね。僕は、高鳴る心臓の鼓動を落ち着かせながら、彼女にここはどこかと尋ねました。すると彼女は逆に、僕に名前を訊いたんです。僕はこれは失礼をしたと思って、早口で名乗りました。彼女、僕の名前を聞いて、なんて言ったと思いますか?「ラスクなんて、おかしな名前ね。」って言ったんですよ。ちょっとした怒りを感じた僕は、それは何故かを訊きました。そうしたら、彼女はだってと前置きをしてから、「人間が食べる物が名前なんて、変ねって言ったのよ。それにあなた、姿も普通のネコには見えないし。」って語気を強くして答えました。…え?結論を早く言えって?そんな、慌てなくても…、ハイ。
結論を言えば、僕はまた彼女に出会って、あ、僕まだ彼女の名前も教えてませんよ!?…彼女の名前はキャンドルと言うそうです。僕は、またあの世界へ行って、キャンドルにこっ、こここっ、こ告白をして、ポケモンの世界で一緒に暮らしたいなぁ…って思って、今日ここを訪ねたのですが、どうでしょう、ミリアさん。僕のその願い、叶うものなのですか?
◇
ミリアは、半分閉じた目を再度しっかりと開き、理解を示す頷きを返した。曇っていたラスクの表情が、一気に晴れやかになる。
「…では、未知の世界へ行く準備をせねばな…。そうだ、貴方はこの世界へ帰って来るとき、どのようにした?」
ミリアが、ふと思い出したようにラスクに問いを投げた。安堵の溜息を付いてぼーっとしていたラスクは、心を見透かせると脅された時と同じように慌てふためいて
「えっ!?ど、どうやって!?そ、それが…自分でも憶えていないんです。あっちへ行った時と同じようにサイコパワーを使ったのか、あっちの世界に何か戻れる方法を見つけたのか、まったく…。すみません、準備不足で…。」
表情のころころ変わる奴だ、とため息をついたミリアは、「まぁ良い」と落ち着き払った様子で咳払いをした。
「そうだな。では、もしこちらの世界へ戻って来たい時は、この珠を強く握ってくれれば良い。そうすれば私に合図が送られたことになる。私のサイコパワーでお前たちをこの世界に導き出してやろう。」
そう言うと、ミリアは紫色をした、丁度彼女の使っている水晶玉の半分と同等の大きさの珠を手渡した。
ラスクは初め、それを興味深そうに見つめたり光に透かしてみたりしていたが、はっと我に返ったように頷くと
「じゃ、行って来ます。」
と今度は力強く頷いてみせた。うむ、と同様に頷いたミリアも、水晶を片手に何やら呪文を唱え始めた。
「上手くいくかはそなた次第だ。まぁ、せいぜいあちらの世界で思うだけ足掻くが良い…」
◇
あの後、ラスクの恋は実ったのか。ミリアは、合図を受け取る水晶が光るのをじっと見ていた。そして、意識を高めラスクと、彼女になるであろうキャンドルという名のネコを、この世界に導いた。
ピチュンッ
電源が切れたよう短い音が鳴った。その直後、光に包まれたラスクと、雌のニャオニクスが現れた。薄暗いテントの中に現れた2人は、ここがどこかを確認するように辺りを見渡し、ミリアの姿を確認すると、手を取って喜び合った。
「み、ミリアさん!ありがとうございました!僕、やっとキャンドルと恋仲になれることが出来ました!」
ラスクの声。
「もうっ!ラスクったらすぐはしゃいじゃって!初めましてミリアさん。へぇ、ここがポケモンの世界なんですね〜。自然が豊かそうで、来て良かったです。」
キャンドルの声。ミリアは、幸せそうな2人を見やると、「帰りは気を付けるのだぞ。」と無表情で言った。そんなミリアの言葉に背筋を伸ばした2人は、「はい!」と元気良く返事をし、何度も礼を言いながらテントを出て行った。
「…ふぅ。ポケモンの恋を叶えるというのも、楽ではないな…。」
ミリアはそう呟くと、何かを想うようにふふふと柔らかく笑った。
「叶ってよかったの。」と…。
2015.7.23 18:03:23 公開
2015.7.25 21:28:56 修正
■ コメント (6)
※ 色の付いたコメントは、作者自身によるものです。
15.7.26 09:52 - 不明(削除済) (YK1122) |
夢猫ちゃん!またの参加ありがとう!企画者としても読者としても夢猫ちゃんの短編投稿は嬉しいな! 今回はミステリアスなミリアさんの第三者視点からの恋話だね〜、占い師って設定がまたいいね。最初の所とか夜の街に佇む怪しい占い屋さんの雰囲気がすごく出てる!夢猫ちゃん、なんか最近、更に文章書くの上手くなったよね? 貴女、一体どれほどの能力を隠し持ってるの…! そしてエスパータイプならではの世界を跨いだ恋!一目惚れした彼女にもう一度会いたくて未知の世界に向かうラスク君の一途さが素敵。あっちの世界で一体どうやってキャンドルを落としたのか気になるところだけどそれを聞くのは野暮ってもんですね(笑) 最後は二人ともポケモンの世界で結ばれてハッピーエンドってなって良かった!そしてなんだかんだでそれを祝福してるミリアさん優しい…。 心温まる恋のお話ありがとう!目次の方に紹介文載せとくので確認よろしくです!この企画を気にかけてくれてありがとうね、これからもよろしくお願いします♪ P.S.オリポケコラボ絵なんだけど、もう少し待ってもらえますか(><)使うオリポケと構図はできてるんだけどそれを描く時間がなかなか取れなくて…近いうちに必ず描くので!こちらから言い出しといて遅くなってごめんね。 15.7.25 02:17 - 絢音 (absoul) |
ゆーちゃん、こちらにも来てくれてありがとう!なんだか元気が出てくるよ〜。 私もあっちの世界(人間界)での告白シーンとか色々考えてたんだけど、話がややこしくなると面倒臭いから、省略しました(笑)駄目だなぁ…。でもまぁ、元々この話はミリア目線で進む予定だったから省いたっていうのもあるけど。ミリアは人間界に行ってないから、どうなったか分からないっていう視点でね。 ミリアの口調や表情は冷たいイメージがあるけど、内面は優しい人なのです!裏設定では、ミリアは実は自分の占いの力に自信がなくて、叶うかどうかあやふやな自分を信じてやって来るポケモン達が怖いのね。だからわざと冷たく「成功するかは分からない」みたいに煽って、成功したらほっとしてるかなり可愛めの人であったりもします(笑)ここまで考える人はあまりいないと思うんだけど…(^^:) あっ、ゆーちゃん。良い所に気付いてくれた!ラスクが人間界に行ったときは、実は姿はニャオニクスのままなのです!だからキャンドルは「変わったネコ」としてラスクを捉えたんだよね。人間に見つからなかったことが奇跡のようだ…! なんだかいつも私の物語は恋愛度が曖昧だなぁって思うけど、これからも恋愛小説の勉強のためにもちょくちょく顔を出したいなと! でわ☆(=^・ω・^)にゃ〜 15.7.24 00:12 - 不明(削除済) (YK1122) |
何かひと悶着ありそう、、、とドキドキしながら読み進めたけれど、平和な結末になって何より。あと裏がありそうと勝手に勘ぐってたけど案外ミリアは親切な占い師だったんだね。 猫がポケモンになるというのも面白い、なるほど。もしかしてラスクが人間の世界に行っている間も、普通の猫になっていたかもしれないなあ。そんな不思議な物語でした。執筆お疲れ様です、むーちゃん! 15.7.23 23:48 - 夕暮本舗 (LoL417) |
せーくん、コメントありがと〜。むにゃです! この企画は絢音さんが主催者だよ!絢ちゃんは人気のノベラーさんだから、よく勉強させてもらってます(笑)この企画にも、もし機会があれば立ち寄ってみたらどうかな?きっと楽しいと思うよ! フロストケイブの最深部が人間界に繋がっているというよりは、ただラスクが力を発揮した場所がフロストケイブだったってだけなんだけどね…(笑)分かりづらくてごめんね! 二人前っていうのは、まだ一人前ですらないという意味だよ〜。だからラスクのお父さんは、その凍った岩を少しでも削れたらやっと一人前の手前まで来れたなって言ったんだ〜。 うーん…説明が難しいね〜。ラスクがキャンドル(猫)をニャルマーだと思ったのは、ポケモン界には猫なんていないからで、猫からしてみてもニャオニクスなんて人間界にはいないから「変わった猫」として捉えたってことなのね。で、ポケモン界に猫はいないので、キャンドルがポケモン界に来た時にニャオニクスに変化したっていうことだよ!本当に分かりづらくてごめんなさい! あと、感情の方にコメントくれてたね、ありがとう!今日中に還せるかな?という感じだけど、ちょっと待っててね! でわ☆(=^・ω・^)にゃ〜 15.7.23 20:36 - 不明(削除済) (YK1122) |
夢猫さん、こんにちは。 初めて百恋一首を読みました。 フロストケイブの最新部は、 人間の世界とつながっていたんですね。 岩を削れたら、父から二人前になれると 言われたそうですが、一人前のこと? 冗談で二人前っていったのかな? ところで…キャンドルって何でしょう? はじめはニャルマーだと思ったんですが、 自分では猫だと言っていて、最後には ラクスと同じニャオニクスになってて。 オスとメスで見た目が違いすぎて、 ラクスはニャルマーだと勘違いしたのかな? それとも、ポケモンの世界へ行く時に、 猫からニャオニクスに変換されたのかな? まあなんにせよ、別世界のあいだで 恋が叶うなんてすごいですね。 では。 15.7.23 18:51 - せせらぎ (Seseragi) |
今回占い師としてサーナイトを選んだのは、冷たいイメージが欲しかったからだよ〜。
最初の夜の雰囲気にはかなり時間を掛けたよ…!私がいつも表現力とか語彙を拾い集めてるのって、殆ど絢ちゃんとゆーちゃんだよ!めっちゃ勉強になってます!
そうだね。元々異世界へ行くっていう世界観と、ヒロインが恋をする相手もクールなイメージの猫ちゃんっていうのは決まってたんだけど。そこだけ考えれば、それこそ本当にニャルマーとかの方が猫らしくて良いんだけど、それじゃ異世界に行くこと自体に疑問が出ちゃうからね〜…。エスパー、猫、エスパー、猫…ってずっと迷ってました!その結果見つけたのがニャオニクス!あいつめっちゃ良い!
ミリアさん実は優しい説はゆーちゃんも気にしてくれたようで、何故最初とイメージが違うのかっていうのは、悪いけどゆーちゃんに返したコメントを見てくれ!字数が足りないんだ!
目次確認したよ!毎回素晴らしいあらすじおつです!
ちょっと字数が不安なのでコラボ絵についてはポケメするね!ごめんね〜っ!
でわ☆(=^・ω・^)にゃ〜