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【企画】百恋一首 〜百の短編恋物語〜

著編者 : 絢音 + 全てのライター

二十七番 大切なモノ

著 : 不明(削除済)

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 あぁ、春はすぐにいずこへと去ってしまう。
 ふと、この頃思うことがあった。手のひらにある桜の花びらも、満開に咲き誇る桜の木も、刹那でも目を離した隙に、消えてなくなってしまう。春は早足で私の元を去って行く。手を伸ばせど、掴める物は暑苦しい夏の日差しばかり。
 あぁ、ずっと春が続けば良いのに。

 ◇

「お待たせ〜。」
 私に手を振りながら、駆けてくるポケモン。私の彼氏の、オノンドだ。彼の名前は、騎士という意味のナイト。私の自慢の彼氏だ。
「ううん。私も今来たところ。」
 本当は、楽しみで楽しみで仕方なくて、30分も前から来ていたなんて、恥ずかしくて言えない。周りのポケモンからは、にやにやしている私を不審に思う者もあっただろう。
「うわぁ。今日のリボンもネックレスも可愛いね。僕の姉さんよりファッションセンスあるよ。」
「あ、ありがとう…!」
 ナイトに褒められると、自然と頬が緩んでにたにたした、気持ち悪い顔になってしまう。季節は春。麗らかな風が私達を包んで、幸せに誘う。待ち合わせをした桜の幹も、上を見上げれば、花見が出来そうなほどの花が咲き誇っている。
 私の名前は、大好きな春にちなんだサクラ。種族で言えばキルリアだけど、そんな種族名なんて要らない。私の大好きな花と人と、一緒にいられるだけで、私はいつだって幸せでいられる。だけど、それは一瞬の幸福。春は物凄い速さで私の前を通り過ぎ、灼熱の太陽と共に夏を運んでくる。夏は長い。すべてを溶かしそうな勢いで燃え盛る太陽に、私はうんざりした。
 長かった夏が終われば、次にやってくるのは秋。月が綺麗なその季節は、決して嫌いなわけではないが、別に好きでもない。早く春が来ないかな、と待っている間にいつの間にか通り過ぎている、そんな季節。
 中途半端な秋が終わると、すべてを凍てつかせそうな冬が襲う。寒いのが苦手な私には、この季節は最悪で、日々、マフラーと手袋、耳当てが外せない。
 無駄な季節3つを越えて、やっと春が訪れる。やっぱり、一年中春が良い。
「サクラ…?聞いてる?」
 ナイトの声で、ふと我に返る。そうだ。今はこれから行く場所を決めていたのだった。
「あ、ごめん!ちょっとぼーってしてた。で、どこ行こっか?今日は晴れてるし、遊園地でも行く?久しぶりにジェットコースターに乗りたいなぁ。」
 咄嗟に思いついたことを言ってしまったが、ジェットコースターにはしばらく乗っていない。久しぶりに乗りたいという気持ちは、嘘ではない。もちろん嘘だと思う筈がないナイトは、納得したように頷くと、
「おぉ。良いね。じゃ、早速行こうか。チケット売り場が混まない内に、な。」
 と朗らかな笑顔で言った。

 ◇

 ナイトと過ごす遊園地は、友達と過ごすよりも、もっとずっと楽しかった。ジェットコースターでは、スリル満点なスピードに、ナイトが半べそになっていたのが面白かった。コーヒーカップでは逆に、回転に強いナイトに主導権を握られ、目を回し通しだった。
 お昼が近づいて、太陽が天を仰ぐ頃。私達は、遊園地近くのハンバーガーショップに入った。
 どでかい照り焼きハンバーガーを片手に、ソースを口の周りに付けながら楽しげに話すナイトは、私が大好きな笑顔を浮かべている。
 (もし私の願いが一つだけ叶うのなら、この時を止めてしまいたい!)
 その瞬間。視界が急に白黒になった。
「え…?」
 驚いて、目を瞑る。恐る恐るゆっくりと目を開けた。しかし、ゆっくりと少しずつの筈が、途中からは、自分でも驚くスピードで目を見開いていた。
「なに、これ…。」
 前の席に座ったナイトの顔は、先ほどの笑顔のまま、右手にハンバーガー、左手にドリンクを持ったまま、微動だにしない。さらに私は目を疑った。ついさっき、テーブルから持ち上げられたばかりのドリンクが、まるで振動や重力がないかのように、ぐにゃりと歪んだ形を残したまま、コップに収まっているのである。
「時を止めてやったんだよ。さっき、お前が願ったろ?」
 知らない声が背後から聴こえて、私は瞬時に振り返った。そこにいたのは、時を司ると言われる伝説のポケモン、ディアルガだった。ただ、体が大きすぎるためか、異空間に通じていそうな歪みから、顔だけを出している。
「どういうこと!?時間を止めたって、なぜ!!?」
 湧き上がる感情を言葉にしてぶつける。当のディアルガは、悪びれる様子もなく、落ち着き払った声で言い返してくる。
「なんでって、言われてもな。お前が時を止めたいって願ったからだよ。叶ったろ?感謝の言葉の一つでも欲しいね。」
 私は腹が立ってしょうがなかった。
「それは!!私とナイト一緒に同じ空間にって意味!!私以外のポケモンじゃないっ!!」
 怒りに任せて怒鳴り散らす。しかし、そんなサクラに怯む様子などまったく見せず、憐れむような目をしてディアルガは言った。
「はぁ。お前、本当にそれで良いのか?お前、なんで時間を止めたいって願ったんだ?」
 突然の問いに、サクラは戸惑いを見せたが、きっと睨むと、こう続けた。
「そんなの。私は、ナイトとずっと春の中で遊びたいだけっ!」
 その返事を聞くなり、ディアルガはため息をつき、呆れるような口調で、
「どうして春にこだわるんだ?例えお前が好きじゃない季節が訪れたって、お前がナイトを好きな気持ちは変わらないんじゃないか?お前が大事にしたいのはなんだ。季節か?自分か?ナイトか?」
 と教え諭すように言い放った。サクラは思わず息を呑んだ。
「…ナイト。」
 ぼそっと答えたサクラの声に被せるように、ディアルガが口を開く。
「じゃあ、そいつと一緒にいられる時間を大切にするんだな。」
 そう言うと、ディアルガは歪みに紛れて消えてしまった。途端に、耳に店内の喧騒が入り込んできた。
「それでな。そいつが…」
 ナイトの愉快な話が、一時停止を解いたように聞こえて来た。

 ◇

「なんだよ。サクラは冬は遊ばないんじゃないのか?毎年冬と夏は遊ばなかったのに…。何かあったのか?」
 不思議な顔で訊いてくるナイトは、私がプレゼントしたマフラーを首に巻きつけている。
「ふふっ。内緒!」
「え〜。気になるじゃんか。」
 私は、自慢のマフラーと手袋、耳当てを身に着けて、冬の街を大切な人と歩いている。 

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2015.4.19  17:53:35    公開


■  コメント (3)

※ 色の付いたコメントは、作者自身によるものです。

》ましろちゃん
うわーーー!!!ごめんなさい!!!どんな間違えだよ!?馬鹿でねぇの私!!春が好きなキマワリって何だよって感じだよね(笑)いや、これは結構面白いネタかもしれない…?じゃなくて。
いや、本当に申し訳ない。読んでる時はちゃんとキルリアちゃんキタコレ←とか思ってたんだけど、文字打つ時に何を思ったかキマワリにしてました…いや確かにどっちもキから始まるけれども…大丈夫だろうか、私の頭…。
目次の方も訂正しておきましたので確認よろしくです〜。報告ありがとうね〜。
それじゃまたましろちゃんのインスピレーション(?)がほわ〜っと来るのを心待ちにしてるよ!これ読んで私も久しぶりに書きたいものが形作られて来たのでちょくちょく時間を見つけては書いていきたいと思います!(まだ投稿はだいぶ先になりそうですが…)
ではまた(*゚▽゚)ノ

15.4.23  07:45  -  絢音  (absoul)

 絢ちゃん、コメントありがとう!なんとなくほわ〜っと思い浮かんだのを書いちゃったんだけど、大丈夫だったかな?(笑)
 いやいやww私の恋愛物は全然きゅんってしないからwなんか、「あ〜」で終わってる気がしてる。
 思春期って聞いて思ったけど、この子達詳しい年齢というかなんかそういうの考えてなかった…(なんでだよ
 ナイトは、お人好しの男の子の設定のつもりです(笑)遊園地って、こういうイメージなんだよね、私の中で。だから、絶叫マシンに乗りまくってめっちゃ疲れて帰るって感じにしたかったのかも?うーん、自分のことなのによく分からないぞ…?
 上手く意表つけてました?なら嬉しいなっ。いや本当はね、キルリアってエスパータイプだから、強く願った瞬間に能力が目覚めて、自らの力で時間を止めてしまって、それをうざがった(笑)ディアルガ様が、「何勝手なことしてくれてんだよ」的な登場の予定だったんだけどね。サクラには、本当に大切な物は何かを分からせるために、早めにディアルガ様に出て頂きました(笑)
 うひゃー!またお褒めの言葉の流星群だーっ←?情景描写って入れまくると訳分かんなくなっちゃうから、控えめにしたんだけど、読みやすいって言ってくれて嬉しい!これからも頑張る!
 あ、それと。紹介文読んだけど、サクラはキマワリじゃなくてキルリアです〜。でも責めてる訳じゃないよ!?あまり気にせんといてね(何故にエセ関西弁
 またほわ〜っと来たら書きたいな!
 でわ☆(=^・ω・^)にゃ〜

15.4.22  19:33  -  不明(削除済)  (YK1122)

ましろちゃん!またの投稿ありがとう!何よりまたましろちゃんの恋愛物を読めるのがとても嬉しいです。
今回は思春期のカップルって感じが初々しくて可愛いね!ナイト君が真っ直ぐで可愛いなぁ。遊園地とかもデートの定番だけど、そこでの雰囲気を上手く書けてて楽しそうなのが伝わってきます。そこでまさかディアルガ様が現れるとは予想できなかったけど(笑)いい意表の付き方だったね(笑)
そして所々に入る情景描写が情緒的で綺麗な表現がされてて素敵です。それでいてややこしくなくて分かり易い。さすがましろちゃんだなぁ見習いたいです(^^)
春ってテーマと大切な人との時間を大切にする、という題材をうまく組み合わされた素敵なお話でした。大切な人といればなんでも素敵に思えるっていうのも恋愛の楽しい所だよね!
さて、では感想もこのあたりにして、目次の方に紹介文書いてきますね〜確認よろしくです(`・ω・´)ノ
それじゃあ参加ありがとう!また参加してくれたら嬉しいな!それではまたね〜(*゚▽゚)ノ

15.4.21  00:09  -  絢音  (absoul)

 
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