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【企画】百恋一首 〜百の短編恋物語〜
二十二番 きのみジュース
著 : 不明(削除済)
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数日前から、ツボツボが盛んである。大量のジュースを作るのである。
ツボツボは一年前に通販で買ったものだった。一家に一匹、ジュースを作ってくれるかわいいポケモンという触れ込みだった。確かにきのみを渡せばいつの間にか甲羅の中にジュースができていたし、味も、おいしいきのみを与えたときにはそれなりのものになった。しかしその都度の量が少なすぎて、飲んだという感じはしなかった。ジュースを作ることには最初から大した期待はしていなくて、だから私は普通にツボツボをかわいがっていた。
それがこのごろは、溢れんばかりにジュースを作るのである。というか溢れている。容器に移しても気がつくと湧いているし、こぷこぷと中身を浸しながら部屋中を歩き回るものだから、このところは毎日床を拭いている。其処彼処で、甘いにおいがしていた。
あるとき丸一日家に居られる日ができて、ツボツボを一日中見張ることにした。材料のきのみはベランダのプランターにできたものをあげていたが、ジュースが大量に作られるようになってからは育てていない。甲羅の中のストックはとっくに切れているはずだった。
お昼に甲羅を覗くと、たぷんたぷんとジュースが揺れていた。一体いつのきのみを発酵させたのだろうと思いながら、とりあえず飲んだ。変なえぐ味とかがあるわけでもなく、甘くておいしかった。
キッチンで自分の昼食を作っていると、べランダの戸を叩く音がした。ここは、地上七階である。不審に思いながらそちらを窺うと、ツボツボが嬉々としてジュースを撒き散らしながら駆けていくのが見えた。
物の陰から覗いていて、あっと思った。
ツボツボが戸を開けて、来客を招き入れた。好きなときに外へ出られるように、ベランダの戸には鍵をかけていない。当然、落下防止の網は施してあるけれど。
部屋に入ってきたのは、大きなきのみを持ったエイパムだった。確か、下の階の住人のポケモンだ。エイパムはきのみの殻を二つに割り、ツボツボがその殻にジュースを注ぐ。そうして、時間をかけてジュースを飲んだ。とても、仲のよさそうな感じだった。
ジュースを飲み終えると、エイパムがきのみの殻を片づけ、ツボツボは実を自分の甲羅に詰めた。最後に、軽く触れ合うだけのキスをして、エイパムは去っていった。
なんだ、こういうことだったのか。ツボツボのくせに、なかなかやるじゃないの。
このことを知ってから、床拭きはさほど苦ではなくなった。
2015.3.22 23:32:24 公開
■ コメント (2)
※ 色の付いたコメントは、作者自身によるものです。
15.3.25 00:24 - 不明(削除済) (jigux2) |
坑様、お久しぶりです。お元気でしたか?またの投稿ありがとうございます。企画主催者としても一読者としても、とても嬉しいです。 前回とはうって変わってほっこりニヤけてしまうお話ですね。地味にいろいろ私のツボもついていて思わず笑ってしまいました。ツボツボの通販とか何ですかそれは欲しいです。 坑様の飾らない書き方はとても馴染みやすく、感情移入がしやすいというか、場面に入り込みやすいので、見習いたいところです。 ちょっと困ったちゃんのツボツボかと思っていたら、実は彼氏が出来ていたとは…妬くのもためらう二匹の恋、思わず応援(という名の掃除ですかね?(笑))したくもなりますね(笑) さて、それでは前回同様目次の方に紹介文を書いておきますので、何か気になる事があればこちらにコメント下さい。お手数をおかけいたしますが宜しくお願いします。 2度目のご参加本当にありがとうございました!これからもいつでも何度でも募集中ですので、よかったらまた来てください、お待ちしております。それでは長文失礼しました。 15.3.23 23:17 - 絢音 (absoul) |
少し見ないうちに作品数が二十を超えていて驚きました! 一作ずつ、なるほどーと思ったり切ねぇ……と呟いたりニヤニヤしたりしながら読ませていただいています。
今度のこれは、いかに短く、且つ、闇とか暗い感じの要素を一切排除、というのを意識しながら書きました。
ツボツボの通販は私も欲しいです。甲羅に重曹入れたら炭酸ジュースもつくれるのかしら……
応援という名の掃除、ですか絢音さんうまい!w
毎度毎度、投稿作品をていねいに読んでコメント入れて目次に追加して、とスーパー主催者な絢音さん、素晴らしいです。ありがとうございますm(__)m
それではまた。