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アクロアイトの鳥籠

著編者 : 森羅

5‐4.むかしむかしの話をしよう

著 : 森羅

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sideエルグ

「『昔々あるところに、とても仲の良い夫婦が住んでおりました』」

 家具の類がほとんど見当たらない、薄暗い部屋に声が小さく反響する。本を広げ、直に床に座る彼の傍では狐に似た黒い獣が蹲り、うとうとと舟を漕いでいた。朗々と、しかし声とは相反した詰まらなさそうな顔でエルグはそこに書かれた文字を読み上げる。高く上った日の光が平屋の窓――明かりを取るために壁に穴を開けただけのもの――から入り込んでおり、それを明かりに青年は今にも崩れそうな頁を慎重に捲っていく。見たこともないような獣たちが描かれたそれは、『エルグ』がフェデレ家の部屋から持ち去った図鑑。

「『夫婦は子供にこそ恵まれなかったものの、信心深く、とても働きものでした。けれどある日、妻が重い病にかかって死んでしまいます。夫は妻の死を悲しみ、三日三晩の間泣き続けました。夫の悲しみの声は、山に響き、空にも届くほどでした』」

 ぱらり、ぱらりと頁を捲る音と朗読の声だけが場に響き、黒い獣はとろんとした目で欠伸を噛み締める。時折、ぱらぱらと頁の間に挟まっていた埃が床に落ちた。

「『そして四日目の朝、ずっと夫の嘆きの声を聴いていた、彼らの信じる神様は働き者で信心深かった彼らのために妻を蘇らせてくれました。夫はとても喜び、また妻も夫との再会に喜びました。そして、夫婦はそれからも仲良く暮らしたのでした。めでたしめでたし』」
《……つまんねー話》

 ぱたん、と本を閉じたエルグに舟を漕いでいた黒狐が身も蓋もない感想を述べる。俺苦労したんだけど、と続けて愚痴るゾロアークを琥珀色の瞳の青年はまあまあと宥めた。

「ごくろーさん。いやいや、結構な収穫やで。これがそのフェデレだかなんだかのおじょーさんの家にあったんやろ? これな、『エルグ』のお察しの通りいわゆる珍しい獣について逸話と合わせて書かれてるんやけどな。……いやー、珍(めっずら)しい話載ってるわ、この本。きっと、色んなとこで話集めたんやで。こっちでは誰も知らんような獣も書かれてるし」
《ああ、そうかよ。つーかそんだけ? 他にもあんだろ、それなりに頁あんぞ、その本》

 感服したように息を吐くエルグに、黒い狐は少し苛立った声で続きを読むように催促する。折角苦労して手に入れた“証拠材料になるかもしれないもの”なのだからもっと大切に扱え、ということらしい。けれど琥珀色の瞳は彼の蒼い瞳を見て笑った。

「一応他のもざっと読んだんやけどな。でも、この頁が特に損傷が激しいから、よっぽどこの話を読み込んだんやろうなあって。なに? 『エルグ』、もっと読み聞かせて欲しいん? 何がええ? 水の都の二匹の守り神の話とかも結構面白かったで」
《違ぇよ!!》

 がばぁと顔を上げて声を荒げる『エルグ』の様子に、本の表紙を軽く叩きながら彼はにやにやと楽しそうに笑う。意地の悪い片割れの様子にギリリと牙を噛み締めたゾロアークは、しかしその怒りを腹の中に沈めて、何か発見はあったのかよ、と言い捨てた。予想外の言葉だったのか青年は表情を一変、詰まらなさそうに唇を尖らせてそれに答える。

「うーん。特に落書きもないし、『誰か』の特定は不可能やね。ただ、これ本棚とは別の場所に置いてあったんやろ。んで、損傷も一際激しい。つまりよっぽど大切にしとったんやろ。父親から貰ったもんみたいやし」
《あ? 大切にしてたのはいいとして、なんで父親から貰ったってわかんだよ?》
「……ん? ああ。最後の頁や。ほら、お前も見たって言ってたやん、手書きの文字。あれな、“愛する娘へ。父より”って書いてあんねん。娘の名前を書いてないとこが辛いけどなー。まあ、それより気になるのは“なんでこの物語を特に好んでたのか”ってことや。つか、俺この話、知っとうし」
《まあな。……あ? 知ってんのかよ》

 目を丸くする化け狐に長い髪を弄りながら笑って首肯する。その時、彼の笑みが少しだけ寂しそうに歪んだことに片割れは気づき――しかしそれを見なかったことにした。平然と、いつもと変わらぬ口調で彼は続きを促す。唐茶色の髪の青年もまた、何事もないかのように言葉を続けた。

「てか、多分うちにもあるし、お前も知っとうはずやで? 俺、めっちゃ聞かせた話やもん」
《てめーが俺に聞かせた話で、御伽話みたいなんなもんなんざ…………あぁ? おい、話が変わってんぞ! あの話は大団円なんかじゃねぇだろ! つーかその話がなんで載ってんだ!?》

 エルグの言葉に何かの合点がいったらしく、獣は口を裂いて吼えた。そこから飛び出すのは悲鳴や、慟哭にも似た声。収縮した瞳が、一点に青年を見つめる。まるで怯えているようだ、と見つめられながら彼は思った。本来怯えるのは自分のはずなのに、と。心なしか冷たくなった指先を握り込み、射殺さんばかりにこちらを見る片割れに落ち着くよう言う。

「そう、元々は“ハッピーエンドやない”。話の筋もかなり変わっとうし、お前がわからんでもしゃーないよ。考えられるんは子供用に書き直してあるか、どっかで物語が捻じ曲がったか、やろ。なんで載ってるんかはわからん。けど、今は外つ国との商売も盛んやし、どこから入ってきてもおかしない。現にここに載っとうし、そこは考えてもしゃーない」
《ちっ。……じゃあまあ、そっちは良い。んで? あのルノアって子供とそのフェデレのお嬢様との接点は? “この本を何故大切にしてたか”とか“その話があの話だ”とかより本来重要なのはそっちだろうが。……論点がズレてんぞ。そっちで何も収穫がねぇなら、日記みたいなのも持って来てるだろ?》

 何も“良く”などなかったし、その言葉が強引に方向転換を図っていることに双方気づかないわけはなかった。けれどそれでも、エルグは『エルグ』の言葉にまあそうやね、と笑い脇に置いてあった日記を手に取る。ぱら、ぱら、と流し読みをするように頁を捲り、数分後に最後の頁で指が止まった。そして少し困ったようにぽりぽりと右手で頭を掻く。

「……うーん、とりあえず日記で合っとうみたいやね。ただ、ちゃんと読んでへんけど、これからは何もわからん」
《あ?》

 あからさまに怪訝な顔をする『エルグ』にエルグは淡々と追い打ちをかけた。

「一人娘やったらしいから、自分のものと兄弟のものを分ける必要がなかったんやろ、こっちも名前載ってへんし、ぱらぱらっと読んでみても書かれてんのは日常生活のことばっかりやし。ルノアちゃんとこのおじょーさんが同一人物かどうかの区別はこれじゃつけられん。ただ、日付見る限り日記の続きはあるんちゃうかな。まあ、『エルグ』は文字読めんのやからしゃーないけど」
《あーあー悪かった、悪かった。……で、まさか調べ直しかよ》

 ちらりと、それこそ先程の『エルグ』の叫びなどなかったかのように、冗談めかしてゾロアークを見やる青年に、赤毛の彼もまた心底嫌そうな、疲れ切った様子でその目線を振り払うように長い爪を動かした。それを横目にエルグはよいしょと立ち上がり、長時間座っていたせいで固まった体を解すように何度か伸びをする。唐茶色の『尻尾』が彼の動きにぷらぷらと揺れていた。

「んー、いや? 『エルグ』。後頼むわ」
《……あ?》

 くるりとこちらを振り返った片割れに、黒狐は獣の姿でも眉間に皺を作ることはできるのだと学んだ。嫌な、感じがする。顔を引きつらせる『エルグ』にエルグは図鑑と日記を抱え、にこやかに笑った。

「今度は俺が王都行ってくる。死亡台帳とか、そこらへんお前見てんやろ? ちょっと見てくる。ついでに何かあるかもしれんからもうちょっとフェデレ家の方も調べるし、これも返してくるわ。続きの日記があればそこに何か載ってるかもしれんし」

 嫌な予感が、当たった。今の時点でエルグが優先して調べたいのは『ルノア』ではない。勿論“ルノアを調べる”ことも結果的には目的に含まれているのだろうが、それだけならば俺に言えばいいのだから。それなのに自分で行くと言う理由は、
 眼を剥き、牙を剥き、毛並を逆立てて引き留める。
 行ってはいけないと。

《おい! てめっ……エルグ!! 違ぇだろ! それ、てめーが本当に調べたいのは『ルノア』の方じゃねぇだろ! 偶然に決まってんだろうが! エルグ! おい聞け!》
「いやいや、どのみちお前やったら字読めんやん。それにフェデレのおじょーさんが好きやったお話やろ? つまりフェデレのおじょーさんに繋がるかもやん? イコール、ルノアちゃんに繋がるかもやん? 心配せんでもちょっと確認するだけやって。なんかあるなんて逆に思ってへんよ。だいじょーぶだいじょーぶ」

 ――あの“図鑑に載っていた逸話”の方だ。
 エルグと同様に長らく座っていた体は思うように動かない。そのうえ、完徹の影響か、日々の疲れか、今日はなおさら体が重たかった。『エルグ』が一生懸命声を張り上げている間にも飄々とした笑顔は、彼に何の心も見せずにさっさと扉の向こうに消えて行く。クロちゃん、とクロバットを呼ぶ声とその羽ばたきの音が扉の向こうで遠ざかった。そしてぽかんと状況を眺めること数秒。

《エルグ!! てめっ、……あとで覚えとけよ……っ!!》

 大声で叫びたい心を抑え、牙の隙間から絞り出すように小さく、けれど確かに絶叫した。
 大丈夫、などではないのだと。

 sideエルグ(ゾロアーク)

「えるぐ」
「……ん? ああ、お帰りー」

 『エルグ』が発って暫く。がたん、と扉が開いて小さな少年がおずおずと中に入ってくる。エルグはそれを笑顔で迎え、その栗毛をわしゃわしゃと五本の指と掌で撫でた。くすぐったそうに、子供が首を竦ませる。

「水、助かったわー。良うできたな」
「……うん」
「じゃあ、ちょっと早いけど何か飯でも作ろか。何がええかなー。何か食べたいもんある?」
「……えるぐ」
「えっ、俺食べんの!?」

 きゃー、と怯えるポーズをしておどけるエルグに、しかし子供は表情を変えずにじっと彼を見たままだった。その様子に溜息を一つ、屈んで少年と目を合わせる。唐茶色のそれが床に付きそうな位置で踊った。

「どないしたん? 何か、言われたんか?」

 ふるふると首を振る。違うらしい。

「じゃあ、ほんまに俺を食べたいん?」

 否定二度目。冗談でもないらしい。
 他に特に思い浮かぶことがなかったので、静かに少年が話し始めるのを待つ。そして、部屋に入ってきた時のようにおずおずと、ようやく口を開いた子供に言ったらええよ、と優しく笑った。

「えるぐは、なにしてるの?」
「何をしてるって……何の話? 今日も昨日もずっと家に居(お)ったやろ?」

 ゆっくり、ゆっくり。急かせる必要などない。あくまで目の前の彼のペースに合わせ、待ってやる。自分から話し出すのを待って、言葉を反復し、少しでも安心して話せるようにして、

「たまに、えるぐは」
「ん? たまに、俺は?」

 たどたどしい声と言葉を丁寧に拾ってやるのだ。

「えるぐは、たまに、さみしそうだから」
「……そうかなあ? 俺、いっつも元気やで? ごめんなあ、心配させてしもうたんやな。大丈夫やで」

 子供の言葉は時に、確信を突く。エルグはへらへらと笑って嘘を吐き、心配そうに見つめる子供の頭を掻き回して髪の毛をぐちゃぐちゃにする。鳥の巣のようになってしまった髪に少年が小さく発する驚きの声。そのわずか一秒の声の間にエルグは勢いよく立ち上がり、くるりとその場で回って見せる。琥珀色の瞳を、笑みの形に歪めて。
 自分がすることは道化だと、分かっていた。

「なーんも心配することはないで! ほら! だいじょーぶだいじょーぶ。なーぁんもないから!」

 それでも未だ不安そうな目をする子供を抱き上げ、彼は右足を軸にぐるぐると回り、数周してから、子供を降ろす。そして最後に大げさに床に倒れ込んでみせるのだ。

「あー疲れたあ!」

 だいじょーぶだいじょーぶ。大丈夫、大丈夫。
 それは、自分にも言い聞かせた言葉だ。『エルグ』が、いつも自分に言い聞かせる『嘘』だ。
 大丈夫などではないくせに。

「おいでおいでー。床の方が冷たいし」

 けれど彼もまた、笑いながらそうやって“誤魔化し”た。
 『エルグ』の言葉に倣って。横に寝転ぶ少年に、心配などさせないように。
 そして青年の姿をした獣は心の中で吐き捨てる。

 だから、『エルグ』は阿呆なのだと。
 まるで、あの下らない昔話に取り憑かれてるようじゃないかと。

 死んでしまった人間のことなんて、忘れてしまえばいいのにと。

sideエルグ

 ここまで飛び続けたクロバットを見送り、とっぷりと闇に沈んだ王都でフェデレ家の屋敷に入り込む。鍵という存在は、彼にとっても無意味でしかない。広いエントランスホールをぐるりと見回し、鍵を確認。

「鍵、閉まっとうな。やっぱり誰もおらんのか……。まあ、明日ちょっと死亡台帳とか調べて、最悪墓碑銘虱潰しやな。問題は明かりやねんけど、俺は『エルグ』みたく目ぇ良くないしなあ」

 ぶつぶつと独りごちながら、エルグは目的の部屋に向かう。数分後辿り着いた埃まみれの勉強部屋は、やはり主のいないまま沈黙を守っていた。完璧なまでの黒と静寂。息をすることさえ躊躇われるその光景は、死者の都を想像させる。少し、ぞっとした。
 わざとらしく、それこそ沈黙から居場所を得るために、大きく息を吐き出してみる。そして手探りで勉強机に付属している椅子を見付けて座り込み、小脇に挟んだままだった図鑑と日記を広げた。

「さて、と……。まあ、あとは幽霊屋敷の噂が立たんことを願うしかないな……どーか見つかりませんよーに」

 ぱんぱんとその場で冗談めかして手を合わせ、ごそごそと火口箱(ほくちばこ)から道具を取り出す。焼け焦げを付けたり、火事などを起こさぬよう細心の注意を払って火を灯し、その柔らかい橙色の火に安堵の息を吐いた。手短な蝋燭台に明かりを移し、その光を頼りにボロボロになった日記の頁を捲ること数頁、幼い字で書かれたそれの目的の頁を探し当てる。
 実のところあの平屋で彼は『エルグ』に三つ、“嘘を吐いた”。

「……『お父様が本を下さって、それには不思議な生き物がたくさん描かれていたわ。それからね、その本を読みながら約束して下さったの。お父様は今まで嘘を吐いたことがないもの。ああ、楽しみだわ』。……貰ったんはこの図鑑、やろなあ。あー、やっぱりこれ、『エルグ』に言わんで良かったあ」

 一つ目は日記の内容。今頃あの平屋で悪態をついているだろう片割れには“日記からは何もわからない”と言ったが、実は流し読みしただけでも“なぜフェデレのお嬢様があの逸話を好んでいたのか”を含めこの日記の中には気になる頁がいくつかあった。だが、図鑑に書かれた逸話だけでもあの反応とあの見送り。日記を熟読すれば何かあるのではないかと疑いを持つだろうし、彼が流し読みをした中で見つけた“日記の中に書かれていること”と照らし合わせて“彼が気になっていること”を伝えれば『エルグ』の反応は『面倒』程度の表現では言葉が足りない。それでなくても“図鑑に載っていた物語の話”は彼らの……いや正確には『エルグ』の中ではタブーに近いのだから。勿論それは、あの獣が自分のことを心配してくれている結果だと言うことは十分に承知しているし、その『心配』よりもこちらを優先した自分が一番愚かだということも当然承知の上。難儀な性格やな、とエルグは自分を鼻で笑い、視線を文字に戻す。
 それに、付け加えるなら彼が考えていることは検証が十分ではなかったためにこちらできちんと日記を読み込んで、調べてからそれから伝えるなら伝えようと考えたのだ。余計な心配は――すでに十分かけているのだろうが――かけたくない。

「所々の文字拾っただけでじっくり読んでなかったからなあ。早とちりかも知れんし、そうしたら余計な心配させるし。……この記述。ええっと、俺が九歳か、十歳くらい? あ、じゃあ違うやん。ふーん、そのすぐ後くらいに父親も亡くなってるんか。……あー! ほんまに『エルグ』に言わんでよかった! もーエルグさんったらおちゃめなんやからぁっ! まあ、これでほぼありえんと思うけど万が一のこともあるし、安心するんはちょっと色々確認してからやな」

 内容の記述の年号に、彼はとりあえずほっと胸を撫で下ろす。“彼の考えていること”がもしも正しかったならこの記述はもっと最近のはずだったのだが、実際は八年ほど前の日記。ならば“彼の考えていたこと”は杞憂の可能性が高く、正しいという確率は非常に低い。件の逸話が図鑑に載っていたのは本当にただの偶然だったらしい。肩の力が抜け、自分が今まで強張っていたことに気づいた彼は失笑を漏らした。

「こんなんばれたら『エルグ』に怒られるなあ……。でも俺は、過去をやり直したいなんてこれっぽっちも思ってへんのよ。楽になったところで次行こ、次。……さて。ルノアちゃん、なあ」

 頁を捲り、半分より先を順番に読み飛ばしていく。彼の吐いた二つ目の嘘は、“あるはずだ”と言った日記の続きの存在。
 より端的に言うのであれば、この日記には“二冊目”は“存在しない”。日記は毎日書かれたものではなく、より記録したい部分だけを書き込んだのか、日付が飛んでいるのだ。さらに、続きが存在しないと断定できる理由は最後の三つ目の嘘に繋がる部分があるのだが。

 ――過去に戻る方法、とか?

 かつてルノアの台詞を躱した言葉を思い出し、彼は日記から目を離して底なし沼のような天井を仰ぐ。ぎしり、と椅子が軋んだ。そしてその音が暗闇に呑まれた後は紙の擦れる音と明かりの揺らめきが唯一の音源。背後で蠢く無言の闇に呑み込まれないように、独り言を再開する。そうしなければ、きっと彼は耐えられない。日記は最後の頁を示していた。

「日記、全部熟読して、それからエレコレ・ローチェ。彼を、尋ねなあかんな……」

 呟くように、囁くように、呻くように。吐息と共に言葉を吐き出す。橙色の火が炙り出すのは疲れ切ったような青年の笑顔。今にも泣き出しそうに歪んだそれは、失敗作の人形のようで。

「過去のことをやり直したいなんて思ってへんよ、俺は。……清算したいと思ってるだけや」

 三つ目の嘘は、『ルノア』と名乗った少女の正体。

***
エルグの使ってる火口箱とは、いわゆる火打石一式です。この時代にマッチはありません(マッチの発明は1800年代です)

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2014.8.13  23:22:32    公開
2014.8.14  21:49:50    修正


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