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アクロアイトの鳥籠

著編者 : 森羅

破損記憶W

著 : 森羅

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 昔々のお話です。
 あるところにいた『お嬢様』にあるとき人が訪れました。
 機嫌よく『子供』と遊んでいた『お嬢様』は訪れた男を見上げると、みるみる不機嫌になってしまいます。そっぽを向いて、頬を膨らませ、『お嬢様』は使用人たちに言いつけてその男を追い返してしまいました。
 けれど、男はそれでも『お嬢様』の顔を見に訪れるのです。『お嬢様』の嫌そうな顔などまるで見えていないと言わんばかりに笑い続けるのです。『お嬢様』はそのたびに剥れて怒って見せるのですが、それでも男はめげません。『子供』はそんな男の行動を不思議に思いましたが、それでもいつしか『お嬢様』に変化が訪れました。

「嫌いよ。大嫌い」

 『お嬢様』はそう言って、笑うようになりました。不機嫌な顔は、わざと剥れてみせているようでした。男は相変わらず笑ったままで、『お嬢様』はからかうように口を尖らせて見せるのです。『お嬢様』が男のことを口で何と言おうとも、それは心の底から嫌って出てくる言葉ではありませんでした。
 当然、『子供』はちっとも面白くありません。『お嬢様』が男と楽しそうに笑うのですから。『子供』を置いて、二人きりで知らない話をするのですから。『子供』がそれを楽しく思うはずがないのです。

 『子供』は、どうにもその男を好きにはなれませんでした。

   *

 昔々のお話です。
 あるところにいた『従者』は『子供』の下に人が訪れたことを知りました。
 『従者』は訪れた男の姿を認めて、その視線を逸らしました。幾度となく見た顔でしたが、『従者』は男が嫌いだったのです。けれど『子供』はもうすでに幾度となく訪れた男に気を許しているようでした。優しそうに目線を合わせて笑う男に、『子供』もまた笑います。そして時々、男に対して悪戯っぽく剥れても見せるのです。

「いってらっしゃい、ませ」

 扉の向こうに消える男と『従者』に手を振る『子供』と。それを見送り、『従者』は閉ざされた扉を見つめます。どうやってもその中は覗けないことを知っていましたが、『従者』は『子供』の傍を離れたくなどありませんでした。一人でいる時間は苦痛でしかありませんでしたから。そしてさらに、『子供』も男も中で何を話したのか『従者』に教えてくれないのです。扉が開いて『子供』が出てくるまで、『従者』はずっと、その前で待っているしかありませんでした。『従者』の頭にそれ以外の選択肢はなく、『従者』はいつもそうしていました。
 出てきた『子供』は『従者』の姿を見付けて駆け寄ります。これもいつものことでした。そして男もいつものように笑い、『子供』に一言声をかけて、その場を立ち去っていくのです。『子供』は『従者』と過ごすのとはまた少し違った男との時間を楽しく思っていました。

 『子供』は決してその男のことを嫌いではありませんでした。

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2014.3.7  03:05:36    公開


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