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アクロアイトの鳥籠

著編者 : 森羅

2‐1.透明宝石の名前

著 : 森羅

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sideラウファ

「そういえばアシェル、君、僕らに付いてきてよかったの?」

 肩の上の子猫に問いかけると、完璧に脱力状態だった彼女が顔を上げて言葉を返す。ルノアは今、ここにはいない。“自由気まま”や“自分本位”という言葉がよく似合う猫の様な彼女は街に着くなり落ち合う場所と時間だけ決めてさっさとどこかへ行ってしまった。

《構わにゃいのよ。あたしも別にすることはにゃいのよ》
「ならいいんだけど」

 改めてごろん、と力を抜く彼女の尻尾が背中に当たった。僕はそれに軽く息を吐いて、周りを見回す。煉瓦造りだった前の街とは違い、真っ白で四角い建物が立ち並ぶ海辺の街。海と空の青と建物の白がとても爽やかで、高低差があるせいか、細い路地は階段で繋がっている。窮屈気に詰め込まれた家と路地と階段はその街をまるで迷路のような状態にしていた。実際僕も今、自分がどの辺りを歩いているのかよくわかっていない。尤も沢山の帆船が泊まるこの街の港にまで下りてしまえばどうにでもなるので心配はしていないけれど。
 海に接したこの街もまた交易の重要な拠点となっているらしい。船が行き交い、海を渡ってきた商人たちが街には溢れている。港の方を見下ろすと色とりどりで形も様々な船たちが港に停泊し、細波に揺られていた。海面が光を反射して輝いている。前の時計塔の街とは違い、この街の交易はもっと広い範囲での“貿易”。様々な文化が入り混じり、触れ合い、そしてどこか遠くにまで運んで行く。そう考えるとなんだかとても素敵だ。もしかすると僕を知る人がいるかもしれない。潮風にひらひらと白布が棚引いた。

《あたし、潮風って好きにゃのよ》
「……アシェルは、ずっとあの街で暮らしていたわけじゃないの?」

 至極ご機嫌らしい彼女がきゅーっと目を細めて磯の香りのする風を吸い込む。背中に当たる彼女の尻尾がぴいんと延びた。そしてなぜか得意げな笑みで答えを寄越し、僕はそんな彼女の笑みの理由がわからず、曖昧に首を傾げた。

《あたし、結構いろんにゃところに行ったことあるのよ。『アシェル』って名前(にゃまえ)もその時貰ったのよ》
「そうなんだ、じゃあ君の方が僕より物知りかもしれないね」
《かもしれにゃいのよ》

 ふふふっ、と満足気なアシェルに釣られて僕も少し笑う。
 あれ、じゃあ彼女は何歳なのだろう。ふとそんな疑問が湧いたけれど取り立てて聞くことでもないかと口にはしなかった。特に行くあてのない僕は目に入った階段に足をかける。潮風にアシェルの大きな耳が揺れた。ところでアシェルが好きだと言った『潮風』。残念ながら僕はあまり好きではないみたいだ。磯の匂いがツンと鼻を突くたびに顔をしかめてしまう。そろそろ慣れて来たし、耐えられないほど嫌いなわけじゃないけれど。顔をしかめていたのが目に入ったのか、アシェルが小さく声を上げる。

《にゃ?あにゃたは、嫌いにゃのよ?》
「うーん。嫌いって程じゃないけどね。ちょっと苦手かもしれない。海を見るのは好きだよ。細波の音もいいなって思う」
《……ラウファ、あにゃた》
「どうかした、アシェル?」
《素で言ってるのよ?》
「何を?」

 顔を微かに引き攣らせたアシェルに僕は首を傾げる。おかしなことを言っただろうか。だけれどアシェルが僕の疑問に答えることはなく、ぷるぷると首を振った後気を取り直したように逆に尋ねてくる。アシェルの尻尾は何かを振り払う様にぶんぶん振られていた。

《海は初めてにゃのよ?》
「え?……多分。初めてだと思うよ?知ってはいるけどね」
《ああ、そう言えばあにゃたは記憶が無(にゃ)かったのよ。でも、あにゃたのその様子にゃら初めてじゃにゃいかって思うのよ》

 そんなに僕はぐったりして見えるだろうか。思わず苦笑いを浮かべる。まあ、確かにこの状態から考えて僕は海側で暮らしていた人間ではないだろう。……あくまで『だろう』の範疇を超えることはできないけれど。
 階段の最後の一段を一足飛びで飛び越えて、家の壁がまるで迷路の壁のようになっているこの街を歩く。市場は港の辺りに集結しているのでここにある建物はほぼ全て住居だ。昼時で皆市場の方に行っているのか、人気は少ない。うーん、と少し考えてから僕はアシェルに提案した。折角なのだから、外国から輸入された変わったものも見たいよね。

「アシェル、港の方に降りようか。賑わってて面白そうだよ」
《にゃー、好……にゃあ?》

 アシェルの間延びした声が途中で止まった。ついでに彼女の体全体が一点を見つめたまま固まる。アシェル、と呼びかけても返事をしない。一体どうしたのかと僕はアシェルの見つめている方向に視線を移した。すると彼女の目線の先、つまり僕の目の前には異国のものらしい服装に身を包んだ男の人が一人。この街には大通りと言えそうな通りはない。二人並ぶと狭いような細い路地が蜘蛛の巣のように張り巡らされているだけだ。ああ邪魔をしていたのかと思った僕は道の脇に寄る。けれどもその男の人は動かず、曖昧に笑ったまま僕を見ていた。……ええっと、何か僕に用?

「あんた、この街の人間かね?」

 外国語訛りのたどたどしい言葉が彼の口から洩れた。唐突な質問に僕は首を傾げる。アシェルは未だ固まったままだ。僕が答えないからか、彼は再び口を開いた。ずいっ、とこちらに近づきながら。

「外国人かね?船でこの街に来たのかね?……言葉が通じないのかね?」
「えっと……」

 ……この人、誰?僕を知ってる人?

《みゃう!》

 口を開きかけた僕の目の前を白い『何か』が泳ぐ。こめかみのあたりで布が擦れる感触がした。……え?

「アシェル!?」

 したん、と軽やかに路地に着地したアシェルは口に『何か』を咥えていた。白くて、長い布状の、よく見覚えのある……。細い目が、楽しそうに笑っている。ぱさり、と普段は落ちてこない髪が目に掛かった。

「それ、僕の!」
《にゃう!》
「にゃうじゃない!アシェル、それ返して!」

 アシェルを捕まえようと伸ばした手がするりと彼女をすり抜ける。布を咥えたまま短い脚がてけてけと僕の背後へ走り去っていく。桃色の尻尾が視界の端で揺れながら消えて行った。ああもう!前にバランスを崩しかけた体重を無理やり支えて、百八十度方向転換。アシェルを追いかける。男の人が何か叫んだ気もするけれど何を言っていたのかは全く聞こえなかった。というより彼女は話せるはずなのに。いきなりただの猫にならないで欲しい。

《にゃあ!》
「アシェル、待ってったら!」

 短い脚が唐突に左に曲がった。それを追いかけて僕も同じように左の路地へと曲がる。建物の影が顔に掛かり、ひやりと空気が変わる。軸にした右足が一瞬悲鳴を上げた。

《にゃっ》
「アシェ……!」
「あら、アシェル。どうしたの?」
「ルノア!?」

 ぴょん、と一足飛び。アシェルがルノアの細腕に収まる。知る声に急ブレーキをかけた両足がじいんと響いた。はあっ、と息を吐き出し吸い込む僕にアシェルを抱きかかえたままルノアはふわりと笑う。

「あら、どうしたの?ラウ。駄目よ、いくら静かでもこんな街中でアシェルと遊んでるなんて。迷惑極まりないわ」
「違、違……。じゃなくて、アシェル。それ、返して」

 急に走ったり急に止まったりで息切れを起こした僕は、ルノアの笑みにまともな答えが返せない。肩で息をしながら、僕はアシェルに手を伸ばす。桃色の子猫は僕とは違って白布を咥えたまま、息一つ切らしていなかった。本当に見えているのか不安になるほど細い目で不敵に笑っているだけだ。くすくすと、ルノアがそんな僕とアシェルを見比べて嫣然と笑った。……事情を知らないのにどうして彼女は笑うんだろう。

「ねえ、ラウ、アシェル。一体何があったのかわたしに教えて頂戴?アシェル、それはラウの頭に巻いてあったものでしょう?」
《にゃー》

 好奇心に満ちたルノアの言葉に甘えるようなアシェルの声。いや、だから、僕の。
 言葉にしようとして、上手く声が出ない。深呼吸を二度ほど繰り返してきちんと呼吸を整える。アシェルにそれを返してもらわなければ。それからどうしてこんなところにルノアがいるのかも是非知りたい。ふっ、と影が濃くなった気がした。

「アシェル、いい加減に」
「ところで、ラウ」
「はい?」

 僕の言葉を一切の躊躇いなく遮る澄んだ声に僕はつい返事を返す。違う、先に発言したのは僕のはずだ。なのにどうして僕がいつの間にか聞き手に回っているんだ。これはおかしいはずだ。……おかしいはずなのに、おかしいと思えない。良く通るソプラノとあまりの躊躇いの無さにルノアの発言こそが正しいものだと思わせられてしまう。おかしい。
 そして、そんなこと一切気にも留めない彼女は少し困ったように首を傾げて、アシェルを片腕で抱きかかえたまま僕の背後を指差した。

「そちらはどちら様かしら?」
「え?」

 くるりと振り返ると、さっきの男性。そういえばアシェルのことで頭がいっぱいになって失念していた。僕を追いかけてきたらしい彼はひどく息を切らしながらしかし困ったように視線を彷徨わせている。玉のような汗が彼の額に滲んでいた。

「ラウ、お知り合い?」

 小首を傾げたまま問うルノアに、しかし僕はどう答えれば良いのか困ってしまう。全く知らないといえば嘘になるし、知っているというのも嘘だ。だから僕はこう答えるしかない。

「うーん、さっき、突然話しかけられただけだよ」
「あら、そうなの。……道にでも迷われたのかしら?港に出たいなら、そこの階段を下って行けば着けますわ」

 にっこりと満面の笑みを広げて、ルノアは男性にそう告げる。有無を言わさないその笑みに何か言いたげに口を開いた男性はしかし結局軽く会釈をしてからルノアの言った方向に消えて行った。……ああ、彼、道が知りたかったのか。僕がそう納得しかけた瞬間、ルノアが口元に小さな笑みを作る。

「ラウ、アシェルにお礼を言っておきなさい」
「え?」

 寧ろ、僕は怒ってもいいんじゃ?
 当惑する僕にルノアは優しく微笑む。アシェルがルノアの腕から飛び降りた。

「もう少し気を付けないと、売られてしまうわ」
「売ら……?」
「ここは交易の街よ。色々な人間が行き交うのよ。気を付けないと、攫われても文句は言えないわ。あなたは毛色も珍しいし、値段が付きやすいんでしょう。言葉が通じなければ自分の状況がわからないからもっと高く売れるでしょうし」

 ルノアの言葉の意味を理解して固まる僕。ぞっ、と怖気が背中を走る。首元がぞわぞわする。ひやりとするのはここの路地が影になっているからだけじゃない。そんな僕を見てルノアはくすくす笑みを漏らす。とてもとても楽しそうに。全く笑える場面じゃないと思うのだけれど、やっぱりこれは彼女が異常だからだろうか。小さな三つ編みが彼女の動きに従って踊る。真っ白のルノアの腕が僕の頬に向かって伸びた。弾むような声が、彼女の口から零れ落ちる。

「競りに出されたら、買ってあげるわね」
「その前に助けてよ……」

 彼女の言葉が冗談か本気かわからないのが恐ろしい。いや、寧ろわからない方が良いのかもしれないけれど。僕の靴をアシェルが小頭突く。僕はアシェルを抱き上げ、右肩に乗せた。

《返すのよ》
「え、あ、うん。アシェル、ありがとう」
《どういたしましてにゃのよ》

 ひらり、とアシェルが離したそれを僕は掴む。アシェルとこれのおかげで助かったのは嬉しいしありがたい。……でもこれ、結び直すの大変なんだけど。
 掴んだ布を凝視しているとルノアがそれを覗き込んでくる。珊瑚色の髪がばさりと流れた。

「ラウ。わたしが結んであげた方がいいかしら?」
「……後で自分で結ぶよ」
「あら、残念」

 からかうようにヘーゼルの瞳が笑う。僕はそれに肩を竦め、アシェルから受け取ったそれをポケットに突っ込んだ。それからああと思い出して僕はルノアに尋ねる。

「それで、ルノア。どうして君がこんなところにいるのか教えて欲しいんだけど」

 僕の問いかけに少し目を大きくして驚くルノア。そしてそれから大輪の花のような笑みを浮かべる。口元のあたりで手を合わせ、とても嬉しそうに。

「あら、そうだったわ。わたし、あなたたちを探していたのよ。港の方に降りましょう。素敵なものが沢山あったの」
「ロクでもないものじゃなくて?」
「まあ。ひどいわ、ラウ。ただ市場を見に行くだけよ。付いてきてくれるでしょう?」

 零れんばかりのルノアの表情に僕はアシェルと顔を見合わせる。僕の肩でリラックスしきったアシェルは、どうでもいいと言わんばかりに喉を鳴らした。

《どのみち行くつもりだったんだからいいんじゃにゃいって思うのよ》
「それはまあ、そうなんだけど」

 視線をルノアへと戻す。確かに行こうとは思っていた、思っていたけど。楽しみで仕方がないといわんばかりのルノアが甘い声で僕に問う。

「行かないの?」
「行くよ。どっちみち行こうって言ってたし」

 ただ、どうも彼女の手の中で踊っているようで、少し引っかかる。抗う必要性を全く感じられないこともなんだか気に食わない。反論する余地も必要性も全く無いんだけど。

「そうなの?なら良かったわ」

 弾んだ声で。楽しそうに嬉しそうに。スキップしそうな足取りで彼女は路地から踊り出る。日の当たる道に出た彼女は眩しすぎるほど輝いて見えた。それはもう、見惚れるほどに。

「ほら、ラウ。早く行きましょう?」
《色ボケ》

 アシェルが囁いた言葉に心の中でだけ違うと反論した。

   *

「う、わあ」

 人だかりというか、もうぎゅうぎゅう詰めと言うべきか。閑散とした居住地区とは一変してこの賑わいは何なんだろう。売り子たちの声が混ざりに混ざってすでに奇声にしか聞こえない。やけに生臭いかと思えばこれでもかという量の魚が並べられていたり、色鮮やかだと思えば見たこともないような果物や野菜が平然と並んでいたり。あっちにはどこぞの国の民芸品だとか、こっちには有名な彫刻だとか。左を見て右を見て、また左を見ての繰り返し。はー、とつい感嘆の声が漏れるのも仕方がないと思う。そしてできるならもう少しじっくりと一つずつ見ていきたい。僕は先を行くルノアに声をかける。

「ルノア」
《聞こえにゃいと思うのよ》
「……みたいだね」

 先を行くルノアはこの人の山をものともせず、脇目もふらずに突き進んでいた。小さな体躯が人の間で見え隠れする。周りを見回しながらも僕はルノアを見失いそうで気が気ではなかった。

「ラウ、こっちよ」

 結局、人ごみをかき分けること十数分。ルノアに手招きされ、僕は彼女の傍に駆け寄る。比較的広く場所を取った屋台。競りをしているのか、人だかりから声がする。競りに参加しているのが比較的裕福そうな服装の人たちばかりだと思ったけれど、それもそのはず。売っているのは宝石だ。そういえば、少し前ルノアは盗賊の荷から水色をした宝石を探り当てていたような気がする。

「……好きなの?宝石」
「ええ。だって綺麗でしょう?」

 幸せそうな顔で彼女はそう微笑んだ。きらきらと輝く色とりどりの宝石。赤に青に緑に黄色、紫に黒、そして白。ただの石だと言ってしまえばそれまでだけれど、“ただの石”とは呼ばせない透明感と光沢がそれらにはある。そして “ただの石”には決して付かない値段で並んでいる。

《綺麗にゃのよ》
「アシェルも好きなの?」
《にゃ?嫌いって言うひとはにゃかにゃかいにゃいと思うのよ?ただ綺麗とは思っても欲しいとは思わにゃいのよ。あたしが持っても無用にゃのよ》

 したり顔でこちらを見るアシェルにそれもそうかと納得する。ルノアは楽しそうに、それでもやけに真面目な顔でその宝石たちを眺めていた。僕には宝石の良し悪しや値段なんてよくわからないから、ルノアを待つ間、これが綺麗だとかこの色が好きだとかアシェルと言い争って暇を潰す。そしてそれさえも双方が飽き始めた頃、ルノアが僕の腕を引いた。

「ねえ、ラウ。これ綺麗でしょう?」

 ルノアは口元を綻ばせて僕に言う。微かに上気した頬と口調。見せびらかしたくて仕方がない、という気持ちなんだろうなとは僕にもわかった。小さくて白い掌の上に置かれた宝石に目をやると、そこには少し予想外の宝石。アシェルもルノアの手の上にある宝石を覗き込む。

「アクロアイトよ」

 その石の色は無色。白ですらない無色透明の石。名前を聞いても全く思い当たらない。勿論綺麗なことは綺麗だ。派手な感じがなくて好みの部類に入るだろう。だけれど、なんだか彼女のイメージとは釣り合わない気がした。彼女は、もっと彩色豊かな宝石を好みそうだと思っていたのだけれど。首を捻る僕にルノアも少し首を傾げる。

「あら、気に入らないかしら?」
「あ、いや。綺麗だと思うよ。でもルノア、それでいいの?僕は構わないけど、ルノアだったらもっと色の付いた宝石が良いんじゃ?」

 思ったままを答える僕にルノアは目を丸くして数度瞬きをした。じっと僕を見つめて動かない彼女の顔からはいつも浮かべている笑みが消えていて、代わりに微かな驚きだけが表情を作っている。彼女のことならなんでも知っていると言えるほどの付き合いではないけれど、こんなルノアは見たことなかった。驚いてもその次の瞬間には微笑んでいるのが彼女の常だったのだから。けれど、いつもより長いそれは“いつもよりわずかに長い”だけであって時間に直してしまえばほんのわずかな時間。すぐにルノアは僕に向かって綺麗に微笑する。

「あら、そう?アシェル、あなたもそう思ったかしら?」
《にゃ?……あたしはそれも綺麗だと思ったのよぅ。あたしはあにゃたの好きにすればいいと思う、のよぉ》

 僕の肩の上で短足な子猫は眠たそうにその目をとろんとさせて答えた。ふわあとアシェルが大口を開けて欠伸をする。そんな様子のアシェルに小さくため息をついてルノアはまた僕に向き直った。

「ラウ、わたしにはそんなに似合わないかしら?綺麗だと思ったのだけれど」
「ルノア?え、いやそんなことは」

 少しばかり残念そうに、けれどどこか茶目っ気を含む潤んだ声で。僕の反応を見て楽しむ表情も声色も全てがいつも通り。先程のことなんて気にもならないほど、気のせいだったのだろうと思えるほどいつも通り。……尤も僕がルノアの感情をきちんと理解しているかどうか、わからないけれど。唇を尖らせて残念そうに彼女はその宝石を愛でる。アシェルが僕の肩の上で舟を漕ぎ始めた。

「折角、綺麗だと思ったのに。いいわ、ならやめましょう。ラウが買ってくれるなら考えるけれど」
「え……?あの、僕のお金ってほぼ君との共有財産じゃ!?」
「ええ、だからラウだけ外で野宿でもして頂戴?そのお金でこれを買うわ」
「……本気で、言ってる?」
「いいえ。勿論、嘘に決まっているでしょう?」

 くすくすと心底楽しそうに、からかうように。日の光を浴びて輝く宝石のように彼女は笑う。宝石を戻して、屋台を離れる彼女。その足取りは軽く、ドレスのひだが潮風を吸い込んで揺れる。珊瑚色の三つ編みが楽しそうに飛び跳ねる。白い壁の家々と青い色をした海と空は彼女の髪色を映えさせていた。

「ほら、ラウ。早く行きましょう?」
「宝石、いいの?好きなんじゃ」

 彼女に追いつきながら尋ねる僕に、ルノアは僕を振り返って上から下まで眺める。そして満足気に口元を緩ませ、三日月の形に。えっと……何?

「ええ、要らないわ。だって、無色宝石はあなたがいるもの」

 色とりどりの宝石にも劣らない極彩色の言葉。軽く、高い、独特の音。それが直撃した僕はもう何も言えない。……僕が、何だって?けれどルノアはもう何も言うことはなく、ただただ楽しそうに僕に向かって微笑むだけ。幸せそうに目を細めて。

 完全に昼寝体勢に入ったアシェルが肩からずり落ちて、僕は慌てて子猫を受け止めた。

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2013.2.2  16:07:02    公開


■  コメント (2)

※ 色の付いたコメントは、作者自身によるものです。

千助さん。

ごめんなさい、多分行き違いですД三Д12時過ぎくらいに送りました……!ちゃんと届いてます。悶絶しました。というかまだしてます心臓バクバクです。
文字数調整に時間がかかってしまいまして……(土下座)。全角千文字なんて少なすぎるわ!!(やっくんさんごめんなさい

文字ばっかりで読みづらいと思います。すみません、すみません……。届いてなかったら申し訳ないですが、もう一度ご連絡ください。

13.2.5  01:11  -  森羅  (tokeisou)

こんばんは!千助です
ポケメを送りましたが、届いていますでしょうか?
僕の記憶では送信したはずなのですが、もしできていなければお知らせください;

13.2.4  23:35  -  不明(削除済)  (1031fish)

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