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幻剣伝記

著編者 : 絢音

第四話

著 : 絢音

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 ブラッキーの高速の体当たりがスカタンクに届く前に、スカタンクの口から細長い火の柱が吐き出される。それはみるみる二人を包み、逃げ場を無くしてしまった。
 スカタンクの方へ向かった為に、ラックはほのおのうずの外野に取り残され主人を助けに行く事もままならない。おろおろと炎の前で二の足を踏むブラッキーは、後ろから近づく影に気づけず、急所を狙ったスカタンクのつじぎりで倒れてしまった。
「ラック!」
 相棒の悲鳴を聞き、クライは思わずその名を呼ぶが炎に遮られて姿を見る事は叶わない。
「くそっ」
 やけくそに地面を踏みつけた彼の横で、炎に照らされたあどけない少女の横顔に涙が流れた。もうどうしようもない、そんな諦観が彼女の中に現れていた。静かに涙を流すセリアを前に、クライはどうにもしてやれず悔しい思いで下唇を噛む。
 もう彼らのどちらにも『逃げる』という気力も希望も残っていなかった。ただ、一人だけ最悪の結果を免れる術を思いついた者がいた。

「クライ」

 ふと炎の揺らめく中で、凛としたソプラノの声が聞こえた。クライが床を睨みつけていた目線を上げると、そこにはこの地獄絵図にはあまりにも似つかわしくない女神の笑みがあった。先程まで恐怖で小さく震えていた少女とは思えない佇まいにクライは思わず彼女の名前を口にする。
「セリア……?」
「クライ、私は大丈夫だから」
 彼女の頬には涙の跡が残っていた。それでもセリアは優美に微笑む。相手を安心させるように。震える声をどうにか抑えつけてゆっくりと言葉を紡ぐ。
「だからクライ……貴方だけでも助かるのよ」
「何を」
 クライの疑問の声はここで止まってしまう。セリアが突然炎の先に向かって声を張り上げたからだ。
「お聞きなさい! この者とそのブラッキーを今すぐ逃がしなさい! さもなければ──私はこの火の中に身を投げます!
 よく考えなさい、私という商品を失ってまで、何の力もない少年とブラッキーの命を無駄にする価値はあるのか!」
「セリア、やめろ!」
 クライの声に彼女は聞く耳を持たず、じっと炎の向こうを見つめていた。少しの沈黙の後、耳障りな笑い声があちらこちらで沸き上がる。それでも彼女は怯むことなく、ずっと炎のその先を見据えていた。
 笑い声が徐々に収まる中、炎の壁の一ヶ所がすっと消えた。そこからスカタンクを連れた大男がにやついた表情で現れる。
「自分の価値をよく分かってるじゃねぇか、お嬢ちゃん。大事な商品だ、大人しくしてればちゃーあんと丁寧に扱ってやるからな」
 そう言いながら男はセリアの手に縄をかけようとした。彼女も大人しく両手を差し出す。それを見て少年が悲鳴にも近い叫び声を上げた。
「やめろ!」
「やめて、クライ」
 縄を持つ男に飛びつこうとしたクライを、セリアは声だけで制した。固まった彼にセリアは花のような微笑を向ける。こんな時まで美しい彼女が、卑しい盗賊に縄をかけられている事が彼にはどうにも許し難い事だった。それでも彼は動けなかった。助けようとしている本人に拒絶されてしまったのだから。そしてそれ以上どうする事もできない事実を受け入れつつある自分に腹が立った。しかし怒り狂った所で何もできない自分が悔しくて仕方なかった。
 クライが泣きそうになりながら見守る中、セリアは手を縛られ盗賊達の輪の中に引かれていく。ふと彼女が振り返った。血の気を失った頬に涙を流しながら彼女は無理矢理にでも微笑む。それが彼の為と彼女は信じて疑わなかった。だからこそ、自らを犠牲にしてでもこの願いを彼に託した。
「クライ、どうか、生きて」
 その言葉を最後に彼女の姿は消えた。炎の壁がまた現れたのだ。クライは動く事もできず、炎の渦の中立ち竦んでいた。

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2021.4.5  14:09:59    公開


■  コメント (3)

※ 色の付いたコメントは、作者自身によるものです。

>>せせらぎ様
いつもコメントありがとうございます、励みになります。
いろいろ考察して頂いているせせらぎ様の意表をつけたなら、私もいろいろ考えた甲斐がありました(笑)
前話までは怯えていただけのセリアでしたが、土壇場で本領発揮です。クライを助ける為に毅然とした態度でお嬢様をやっております。本当は怖くてたまらないはずなんですが、それでもクライを助けたい、という思いが伝われば幸いです。
せせらぎ様の考察は鋭い所をついてくるのでドキリとしてしまいます(笑)またそういう展開も面白いなと参考になります。
クライとラックが気になる所かと思いますが、次から暫くはセリア視点となります。なんだか読んでて気分が悪くなりそうな暗い展開が続きますが、なんとかお付き合い頂ければと思います…。
それではコメントありがとうございました!

21.4.7  10:56  -  絢音  (absoul)

(続き)

 最後に気になったのはラックの行方です。盗賊たちはラックを欲しがっていたので、もしかすると連れされているのでは…!? という悪い予感がします。その場合、炎の渦が消えた後、そのことに気づいたクライは再び悲嘆に暮れそうです。セリアとラックを助けたいが、ラックがいない以上、クライは自分の力で、自分の剣で戦うしかない…!!こうして、伝説の剣"幻剣"を求めるクライの旅は始まった…(勝手に話を進めるな)
 あっ、セリアがラックと一緒にいる場合、ふたりで協力して脱出するという展開もありえますね。どちらかというと【首刈三日月】はセリアが使うことになりそうですし、それを使って脱出する展開もありそうです。
 ラックが無事に残っている場合は、クライと共にセリアを助けにいくことになるのでしょうか。
(先の展開の予想ばかりになってしまいました^^;)
ではでは! 更新お疲れ様でした!

21.4.5  18:02  -  せせらぎ  (seseragi)

絢音様こんにちは!m(*_ _)m
 スカタンクの狙いが、まさかの人間の方だったとは!これは確かに予想外でした。ラックが二人のそばにいたならば、もっと抵抗できたでしょうに……もしもこれが敵の作戦のうちだとしたら、かなり手強い相手ということになりますね。
 そしてついに強さを見せたセリア…!! クライとラックを助けるため、自分を取引に利用するという発想は意外でした。セリアがクライをとても大切に思っていることがひしひしと伝わってきました;;

(続きます)

21.4.5  17:59  -  せせらぎ  (seseragi)

 
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