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「さーさー、初仕事だよ？こっちに居るよぉ。」
「はいはい…」
「ハイは一回。」
「…はい。」
「はぁ…」

僕の部屋に堅筮が入ってきた。
僕は渋々返事する。
それを見かねた暗雌はため息をついた。
僕だって好き好んで返事しているわけじゃないよ…？

「ではでは、後はヨロ。じゃあ、私はピリ辛ラーメンでも食べてこようかなぁ。」

いきなり説明もなく出るのか…
昨日の部屋に連れて来られたかと思えば、堅筮はそういって部屋を出て行ってしまった。
席には男性が座っていた。
…事情聴くべきだよね…？

「…あの…何か困っている事でも…？」
「！実は！！」

僕が尋ねるとさっきまでジッと座っていた男性は立ちあがった。

「実は！婚約指輪をコアルヒーに奪われたんですよぉ！！追いかけたんですが…全然取り返せなくてぇ…！！だから！取り返すのを手伝ってくださいませんかぁ！！お願いします！！」
「痛っ…わ、分かりましたから…」
「…なんだか勢いのある人ね…」

男性は僕にずんずんと寄ってきながら涙目で言った。
僕は壁に頭をぶつける。頭をさすりながら落ち着けと言わんばかりに表情で言った。
暗雌はため息交じりに言った。

「あ、申し遅れました。僕は堂慨（ドウガイ）といいます。」
「あ…夜侍雫です…」

いきなり落ち着きだしたんだけど…
堂慨は先ほどのあわてっぷりが嘘のように落ち着いて言った。
僕も名乗る。
そして、コアルヒーが逃げたと思われる森へと入って行った。

「すばしっこくって…」
「なら、私も素早いから。」
「そうだね？」

暗雌が名乗り出た。僕もそれには納得する。
…というか、暗雌しか居ないしね…
と、その時。
シュッ！

「！」

何かが僕の眼鏡を取って行った。
見るとコアルヒーが僕の眼鏡を持ってニヤニヤしている。
…焼いてみようか。

「あんたって何でそんなにも盗まれるんでしょう…ね！」
「グえっ！」

暗雌はそういいながらシャドーボールをコアルヒーにぶつけた。
いや…そんな事言われても困るんだけど…
コアルヒーはヨレヨレ〜と落ちる。
あ、割れるって！？

「…はぁ。ほら。」
「ありがとう。」

暗雌は素早く僕の眼鏡を取り、僕に渡した。
僕はお礼を言って眼鏡を掛けた。

「あぁ！！ありました！！」

突然堂慨の大声が聞こえた。
僕と暗雌は駆け寄った。
堂慨の手には婚約指輪。

「ありがとうございます！ありがとうございます！！」
「いや…あの…」

堂慨は五月蝿いほどお礼を言ってきた。
僕と暗雌は落ち着くように言う。
…帰った後、金を取るかと思いきや…「料金はタダなのさぁ？」
と、堅筮が言った。
堂慨は深くお礼をして帰って行った。
…何か、凄い簡単だった…

「上手く行ったみたいだねぇ？」
「まぁ・・・簡単だったし…」
「ほぉ〜、まーた眼鏡取られたみたいだねぇ？」

僕は味噌汁を啜りながら言った。
すると堅筮は如何にも辛そうな山椒の入った真っ赤なうどんを吸いながら言った。
一々心読むな…というか、絶対辛そう…

「私に嘘は付けないのさぁ？さあさあ、食べるか〜い？美味しいよ〜？」
「あっつ！？というか、辛っ！！？」

堅筮はうどんの麺を僕の口に押し込んだ。
予想以上に熱くて辛い。
堅筮の舌はどうなってるんだ！？
暗雌は隣で吹き出しそうになっていた。
はぁ…一刻も早くここから出たい…
僕はふとそう感じた。

…数日後、堂慨は無事結婚したらしい。
…堅筮の情報によるとだが。
彼にはもう悩み事が無いため、会う事は無いらしい。

何故か、彼の嬉しそうな表情が頭に残っていた―