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贖罪の手記‐大量殺人鬼の末路‐

著編者 : 青藍

第一章part2:百獣の王 -ANZERIKA-

著 : 青藍

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 夜が明けて静かに太陽は昇り始めた。東の空は淡い赤に染まり、空高くヤミカラスが西に飛んでいく。
 アンゼリカはどうしたら良いか迷っていた。最初の時点で彼女は寝ている人物が例の大量殺人犯のウインディだとは思ってもみなかった。確かにこの辺で数ヶ月前に見かけたとの情報があったが、最近ではもっと北の方で目撃されたと聞いていたからである。
 だが、彼はここにいたのだ、事実、身体は大きいし左目には大きな傷跡が残っている。さらに背中にはXの傷跡もある。完全に手配書と同じ人相だった。
そして、先程発した『誰も殺したくない』と言う言葉で本人と言う事実は確定するが、どうしようか。
 アンゼリカの心中では、このウインディがどうしても悪いポケモンには見えなくなっていた。最初の初撃でウインディはあたしの首元に牙を突き付けた、だがその後、妙なことに彼は躊躇っている。そして、さっきのあの言葉は『躊躇い』と直結する。
 だから、彼にあたしを殺すことは多分出来ない。それに、『百獣の王』と言う言葉に敏感に反応した彼、このまま『百獣の王』を演じ続ければもしかしたら彼はあたしの最強の盾となるかもしれないじゃない。この好機を逃してたまるもんですか!!
 ただ……あたしは、重要なところでドジするタイプらしいから、それだけは気を付けなきゃね。と決意を新たにウインディの頭を気付かずに踏んでいた。
「……………………」
 前足の間から、目を覚ましているウインディの右目が「何が起こっているんだ」とでも言いたそうな目でアンゼリカを見ている。
 「ふ、ぁ、我が介抱してやったのだ。挨拶の前に一言くらい礼を言え、神が貴様に対してお怒りになり、それを必死になって我は弁解してやったのだ」
 ウインディは昨夜のことを思い出して、アンゼリカの言った言葉を素直に受け止め。
 「そ、そうだったのか、ありがとう。だから、あの痛み……俺はまだまだ弱かったんだな。あ、それといきなり襲いかかってすみませんでした」
 「まぁ、今回は大目に見てあげるが……。お前には……自制心が足りん。……た、確かに我は……その、貴様の子を宿せる身体ではあるが」
 だんだんと恥ずかしくなってきて、アンゼリカの頬が紅潮してくる。
 「あ、いえ。そういうつもりでは無くて、貴女様――」
 「我のことはアンゼリカ様と呼べば良い」
 気取りながらウインディの発言を訂正する。
 「アンゼリカ様が音も立てずに近寄るので敵かと思い、飛びついて動きを封じようとしたのです。だから、疚しいことなど決して考えていた訳じゃございませんよ」
 ふふふ、あたしの術中に落ちてるわ、このまま彼をからかう様に上手を取ればあたしの物になる。
 「ほう……ならば我の身体は色気無しのつまらぬ物だった、雄を振り向かせることの出来ない容姿だと……我のことを馬鹿にしているのか?」
 前足に力を入れて顔を固定し、目を細め、軽く微笑しながらウインディに顔を近づける。
 数センチ先のウインディと目が合い、彼は顔を真っ赤にして右目を逸らす。
 こいつ、本当に殺人鬼なのか、と疑いたくなるくらい、アンゼリカはウインディの反応が可愛いと思った反面、自分が何をしているのかをきづいた途端に、かつて無いくらいの赤面が彼女の頬を襲った。
 「そ、そんなこと……」
 「ふふふ、まぁ良い。お前が我を襲う気など無いことは判っておったわ。先ほどのアレはお前をからかう為に言っただけだ気にすることではない。ほれほれ、互いの警戒も薄れたところで自己紹介をすることにしよう」
 ウインディの顔から手を離し、ウインディを立ち上がらせると、一度咳払いしてアンゼリカは語る。
 「我の名はアンゼリカ・ノアと申す。現代で自慢するべきことでは無いが、我は『百獣の王』と呼ばれている。よろしくな」
 言い終わると同時にウインディも喋り出す。
 「俺はウインディ、名前はありません。ですが野望はあります。俺はアンゼリカ様の様な百獣の王になりたいです」
 「今のままではお前が百獣の王になるのは難しいな」
 ボロを出さないように、慎重に安全策となる言葉を紡いでいく。
 「なんでですか!?」
 「お前の強さは他を傷つけることでしか発揮されない、お前は傷つける強さしか知らないんだ。百獣の王と言うのはその強さのベクトルが……ここから先は自分で見つけるしかない。かつての我も力が全てだと解釈していた、だが我は見つけた。強さの神髄と言うものを」
 この弁は、昔誰かが言っていた台詞をそのまま口にしただけである。
 故にアンゼリカの鼓動も自然と早く脈打ち、どうにか、自然な話題に持っていこうと思考を巡らせていた。
 「わかった。やはり、答えは自分で見つけるべきなのだな。今のままでは百獣の王になることは出来ないか。ありがとう、アンゼリカ様」
 「いやいや、未来の百獣の王に教えを説いておくのは重要な義務だからな」
 まぁ、全くの嘘だけど。
 「そういえばお前はこれからどこに行くつもりなんだ? 我はここから東にあるセントベルンの都に向かうのだが……」
 これで目的地が一緒なら都の中での安全は確保されるか……このウインディと一緒なら自警団相手にしても余裕で勝てそうだしね。
 「おぉ、俺も目的地はセントベルンですよ」
 「それならば道中は一緒だな。よろしく、ウインディ」
 
 
 その後、ウインディから朝食を分けてもらい、まだ朝霧が立ちこめる中、二匹は微かに太陽の見える東へと歩を進めた。
 「なぁウインディよ」
 「どうしました?」
 「種族名だと呼びにくいんだが、良かったら我が名前を付けてやろうか?」
 あたしはいつの間にかそんなことを口にしていた。特に意味は無いんだけれどもウインディと言う名前では呼びにくいことは事実だ。
 「え、良いんですか?」
 「あぁ、なんと言うか心の中に釈然としない物があってな。お前だって名前があった方がなにかしらと便利だろう?」
 名前を付けてやると言ったものの、頭の中には良い名前なんて浮かんでいなかった。
 「…………ウインディ……か」
 アンゼリカの脳裏に過去の記憶が浮かびあがる。
 幼少を共に過ごしたガルドーラと言う名前のウインディ、十年前のあの日に彼は死んだ。
 目の前にいるウインディに彼は似ていたが、彼ほどかっこ良くはない。
 ウインディは左目を閉じているので、アンゼリカが左からじーっと顔を見つめていることに気がつかない。 
 「ガル……」
 その横顔はどこか死んでしまった友人に似てるような、気がしただけだ。
 「ガル? アンゼリカ様……それは、名前じゃなくて愛称じゃないですか?」
 「あぁ、すまない。昔、我の幼馴染みにガルドーラと言う名前のウインディが居てな。彼のことを思い出しただけだ」
 「ガルドーラ……? どこかで聞いたような名前だけど、あぁあれはカルボナーラか。で、そのガルドーラってウインディに俺が似てたりするんですか?」
 「えぇ、見た目はね……。ただ、彼はもう居ないの」
 彼の焼死体をあの村で見つけた時の情景がフラッシュバックする。
 「あ、ごめんなさい。そんな悲しい顔しないでください」
 そうだ、ガルはあんたみたいな殺人鬼に殺されたんだ。なのになんであんたは大量殺人鬼のくせにあたしに同情するの?
 あたしを見るウインディの目は大罪を犯したポケモンのような血走った目ではなく、優しさが溢れるそんな目だった。
 「大切な友達が死ぬのは辛いってことは知ってます。短い間だったけど俺にもそんな友人が居ましたから……あ、もうすぐセントベルンに着くんで少し変装を……」
 そんなことを言いながら二匹はセントベルンの街の中へと入っていく
 彼は荷物の中から薄汚れたハートマークが入った白い眼帯と背中の傷を隠すようにマントを羽織った。
 大きな体にハート型の眼帯があまりにも不釣り合いだったので演技を忘れてアンゼリカは思い切り吹き出した。
 「ぷっ、あはははははっ。その眼帯は反則過ぎるよ」
 「わ、笑わないでくださいよ!! 大切なプレゼントなんですから!!」
 そう言ってウインディは頬を赤く染める。そんなウインディの姿を見て周りのポケモン達も笑っている。
 「あ、今アンゼリカ様、素で笑ってました?」
 「ふぅ、仕方がないだろう。我だって百獣の王である以前に普通のポケモンなのだから」
 「アンゼリカ様は普通にしてた方がいいんじゃないですか?」
 ウインディは大通りの隙間にある細い路地に入り、アンゼリカもそれに続く。
 「いや、我はこの喋り方に慣れているからな。それに威厳がある」
 路地は人気が少なく指名手配のウインディにとっても、何故か何者からか逃げているアンゼリカにとっても見慣れた場所だった。
 「そういえば、アンゼリカ様は何の目的でセントベルンに来たのですか?」
 二匹は何の迷いもなく路地を進んでいく。
 「そうだな、ちょいとここで約束しているポケモンが居てな。先日、前の街でたまたま出会って、この街の彼女の家で会おうと約束してたのだよ。お前は?」
 アンゼリカはこれ以上嘘で塗り固めるとボロがでると思い、とっさに本当のことを言ってなんとかやり過ごした。
 そうですねぇ、とウインディは立ち止まり、一瞬考えてから。
  
 「化け狐の化けの皮を剥ぐ為、とでも言っておこうかアンゼリカ?」
 
 「なにを言って――」
 「もう演技は止めようぜ、雌狐」
 その言葉はあまりにも唐突で、言葉の意図が掴めなかった。
 ただ、背中の部分に冷たい何かが流れる感触と、先ほどまでの友好的なムードを一瞬にしてぶち壊したのは紛れもない現実である。
 だから、アンゼリカは反応に遅れながらも駆けだした、が。目の前にはいつの間にか高い煉瓦の壁が行き止まりを示していた。
 この状況でアンゼリカには逃げ場が無い。
 「いつ……気がついたの?」
 おそる、おそる口を開くとウインディはその状況を楽しむかのようにあざ笑う。
 「いつって、そりゃ最初の『百獣の王』を自称した時からだ」
 だが、それだと確信にはだどり着かないはず。
 「もうすでに百獣の王の面子は割れているんだよ。その中にアンゼリカと言う名前のキュウコンは存在しない、それに」
 アンゼリカは息を飲む、目の前に居たウインディは音もなく消えた。
 ――し、死ぬ!!
 「百獣の王ってのはなぁ、伝説のポケモンじゃないといけないんだよォ!!」
 背筋に凄まじい熱風が吹き荒れる、炎タイプの技はあたしには効かないがそれでも威圧感で押し負けて足が竦む。
 「知識も無いくせに下手糞な茶番でこの俺を騙せると思ったのか?」
 動けなくなったところを蹴られて仰向けになり、上から押さえつけられる。殺人鬼の鋭い牙がギラリと殺気を放った。
 戦闘能力の差は歴然であり、戦いが行われる以前にアンゼリカの敗北は決定的だったが。
 「も、もうあなたは誰も殺したく無いんでしょ!!」
 身体が動くよりも先に叫んでいた。その言葉はこの戦況を覆す程の絶大なる精神的ダメージをウインディに食らわせた。
 凶器のような牙が寸前のところで止まり、ウインディは戸惑ってはいたがそれでもアンゼリカを解放することは無い。
 しばらく、長考した後にウインディは慌てることなく言葉を紡いだ。
 「……何故お前が俺の腹の内を知っているのかは知らないが、お前が俺を騙そうとしたことには変わりない。だが、この大量に命を奪ってきた俺に嘘を吐いて従わせようとした度胸に免じてお前に好機を与えてやる」
 それは地獄に垂らされた蜘蛛の糸のようだった。
 「ならば選択しろ。今ここで逃げて殺されるか――」
 「ど、どうか命だけは助けてください!!」
 それに縋るようにアンゼリカは泣きながら必死に命乞いをする。
 だが、蜘蛛の糸は細かった。
 「お前が俺の奴隷となり気分で生かされ気分で殺される。のどちらかだ」
 瞬間的に蜘蛛の糸はプツリと切れて、その場には口元を厭らしく歪めたウインディだけが残る。
 どちらを選んだとしても死と隣り合わせだ。前者で逃げきるのは神速のあるウインディ相手にはほぼ不可能。後者ならばウインディの機嫌さえ取っていれば死ぬリスクは無いが、その代わり自由が無くなるし、何をされるかわかったものではない。
 「さぁ、アンゼリカ。選べ」
 生きていれば逃げ出せる可能性はある。死んでしまっては元も子も無いから、自ずと答えは決まってくる。
 だけれども、アンゼリカは怖くて躊躇した。あまりにも将来に希望が見えなかったから。
 「あたしは……」
 その時に当初の目的を思い返す。
 そうだ、このウインディの側ならば鉄壁の盾になる。ほとんど自分に言い聞かせるように心の中で呟いた。
 「あたし、アンゼリカ・ノアは貴方の……奴隷になることを誓います」
 「ふ、賢明な判断だ」
 これが正しかったのかどうか、それは神さえも知らないことだ。だが、この出会いから世界の命運を賭けた戦いが始まるのである。

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2010.1.22  01:28:57    公開


■  コメント (2)

※ 色の付いたコメントは、作者自身によるものです。

どうも、雷無です。

ちょ、白金さん! 贖罪の手記‐大量殺人鬼の末路‐ !
大人気小説の欄に入ってますよ!?
お、おめでとうございます言わせてください!

おめでとうございます!!

ふー・・・ふー・・・(すでに息切れ)
で・・・ではっ・・・感想を述べさせていただきます(何お前上から目線)
アンゼリカ殿演技力凄いじゃないですか!雷無なら、絶対ボロが出てるぜ☆
ガル君(オィ)いったい何所でそんな情報をっ!?そしてその洞察力&演技力は、すでに達人並みっ!

ぜぇ・・・ぜぇ・・・すみめせん。何かいつもよりエクスクラメーションマークが、多くて。

ではっ!

10.1.23  02:22  -  R  (h8ika)

どうも初めまして! KaZuKiと申します!
作品読ませていただきました!
なんだか残虐表現などもあり、結構ここでは出しにくい感じの作品ですね。
内容はとっても面白いです!
まだ第一章ですし、どういう風に進むか私にはなんとも想像できませんが、楽しみに続き待っています!

10.1.22  11:04  -  不明(削除済)  (KaZuKiNa)

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